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ある日、俺は死後の世界で君を知った  作者: 為世 斐文


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第2話「同時」

 結局、俺はまた死ねなかった。

 もう何回か試しているのに、一度も死ねていない。なんなんだろうか。

 俺は死ねない呪いでもついてるのだろうか。

 もういいって……

 本当にこの世界は嫌になる。

 何とか残った四肢で動けていることには感謝している。でも、そんな自由があったって、この世界を変えられる力があるわけじゃない。

 かといってここで飛び降りたとて、病院なんだからすぐに治療が入ってしまう。生き残る確率が高い。

 だから仕方なく、今は日々を過ごしているが、今度は確実性の高い死に方をしよう。

 でも、あんな山奥で一人居たところを一体誰が見つけたというのだ。凍死の方法も、誰にも見つからない方法として精一杯考えた結果だった。

 これ以上にあるのだろうか。

 気持ちを消化させようと、病院に付属しているテラスみたいな場所にやってきた。

 ここなら外気を浴びれて、冷たい風も浴びられる。いい案が思いつくかもしれない。

 またあの人いるのか……

「こんにちは」

「あ、こんにちは」

 俺がこの病院に来てからというもの、奥の病室にいる白髪の女性と少しだけ仲良くなった。

 まあ、軽く挨拶をして世間話をするだけの、ただの入院仲間みたいなものだ。

 ただ、この女性の隣にいると心が休まる。

 この女性からはどこか実家にいるときのような安心感みたいなものを感じる。この顔を見て、この声を聞いていると、どこかで一度会ったような気分がする。

 それにしても、どこ出身の人なんだか……顔立ちは日本人っぽいんだけどな

「今日も冷えますね」

「ああ、そうですね」

 女性と鼻を啜るタイミングが被った。

「風邪ひきますよ」

 いや……

「あなたもですよ」

「そうでした」

 だめだ。なんか、死ぬってとこにリソース裂けねぇ……

 どうもこの女性が近くにいると調子が狂う。何か特別な周波数とかでも出してるんじゃないだろうか。

「それじゃあ私はこれで」

「はい」

 そんなことはないだろうけど、本当に不思議な人だ。


 二週間もすれば、病院を退院できた。

 さてこれからどうしたものか。

 行く当てもないし、帰る場所もない。

 まあ……いつも通り、ネカフェに止まるか


「お、奏斗さん久しぶり」

「うっす」

 いつも通りのネカフェに寄ると、いつも通りの店員に出会った。

「空いてる?」

「いつもの場所、空いてますよ」

「じゃ、そこで」

「あいー。あ、これ預かってたやつね。もう来ないのかと思って捨てるとこだったよ」

「ああ、失礼」

 もうこの人とは敬語なんてものはほぼ存在しない。

 二、三か月はここに来ているんじゃないだろうか。

「てか奏斗さん、ギター持ってきてないんすか?」

 あー……山か

「いや、ちょっと修理に出してて」

「あー、なんか大変そうっすもんね楽器って」

 後で取りに行くか……


 ギターを持ち帰るためにまた、前の山にやってきた。

 もう一回、ここで死んだら気づかれんのかな。流石に警備の目、回ってるわな……

 すぐにギターを見つけて、俺はネカフェに戻った。


「あの……困ります」

 ん……?

 ネカフェに入ったとき、妙に長い白髪の女性が身長の高い人に手を握られていた。

 でも、その後ろ姿に少し俺は見覚えがあった。

 あれって……

 素通りしようかとも思ったが、もし奥の病室にいたあの女性ならご縁もあったことだし、さすがに放ってはおけない。

 俺は近づいて、後ろから女性の手を取った。

「なんだてめぇ?」

「俺の彼女なんで」

 振り向いた女性は、奥の病室の女性ではなかった。

 あ……めんどくせー

「なんだよ。彼氏持ちなら早く言えって、めんどっちいな……」

 そう悪態をつきながら男性は去っていった。

 女性は目を輝かせて、深く頭を下げた。

「助かりました……」

「あ、いや。うるさくするのも迷惑なんで。向かいの通りに女性専用のフロアがあるネカフェあるんで、そっち行った方がいいっすよ」

 それだけ伝えて俺は部屋に入ってすぐに鍵をかけた。

 お礼とか言われるだけ面倒くさい。

 自殺方法……あとは、溺死とか? でも確実性ならやっぱ飛び降りか……


 死ねそうな場所をピックアップして、風呂に入ろうと部屋の外に出た。

 すると、また白髪の人が目に映った。

 忠告してやったのに……馬鹿な人だな

 横目に見ながら、ドアの施錠をしていると、白髪の人の横顔がちらっと見えた。

 ん……?

 どうやら、さっきの男性に絡まれていた人ではなく、奥の病室にいた女性のようだった。

 いや、こっちが本物かよ……

 話しかけなければ、フラグは発生しない。つまり、別に傍に寄らなければ挨拶をする必要はない。

 女性が部屋の角で見えなくなるまで視線で追って、俺はシャワールームの方へ向かって歩いた。

 今女性が歩いて行った通路とは逆の方向にシャワールームはある。ぐるっと回っても着くが、それならこっち側に向かってきていた方が早く着く。

 ということは今シャワールームに向かえば、ばったりエンカウントするなんてことは発生しないのだ。

 計算通り……

 廊下の先にも白髪の女性はいない。無駄に勝ち誇った気持ちでシャワーを浴びた。

 はぁー……明日にでも逝くか

 そんなことを考えていると、隣の個室にも誰かが入ってきた音がした。

 こんな夕方になる前あたりに風呂に入る人なんて、俺以外にいるんだな……

 どうでもいいことを考えながらシャワーを切って洗顔に入ると、隣の壁からノックされた。

 は……?

 意味が分からな過ぎて、きっと腕がぶつかったとかだろうと考えていたが、またノックの音が聞こえた。

 だから……誰で、何の用だよ……

 俺もノックをし返すと、隣から笑い声が聞こえた。その笑い声は女性の声質だった。

 いや、まさかな……

 俺は嫌な予感がして、洗顔の手を止めた。

「昨日ぶりですね」

 おいまじか……もうちょっと早く入ってればよかった……

 声の主は、完全に奥の病室にいた女性の声だった。

「どうも。奇遇ですね」

 別に話しはしたっていい。でも、それで関係を結ぶのは嫌なのだ。

 どうせ俺は死ぬ人なんだから、誰も俺と情を結んでも何も得することはない。

「もうお体は大丈夫なんですか?」

「まあ、そうですね。そちらもですか」

「はい。小指だけ、切断しちゃったんですけど、それ以外はなんとも」

 この人とは妙に話が合う。まるで、同じ人生を送ってきたかのように。

 俺が病院に居たのは低体温症の状態を発見されたことと、体の末端の細胞が死にかけていたから治療と経過観察のためのものだった。

 この女性もなぜか、全く同じような内容だった。変わっているのは自殺じゃなくて、遭難で雪山にいたということだけ。

 俺よりも若干早めに病院に運ばれたようだけど、それも五時間くらいの時間しか変わりがない。

 そして同じ病院、今は同じタイミングでの退院から、同じネカフェに泊って、同タイミングでのシャワー。

 これは偶然なんだろうか。何か必然的な運命というか、何かを感じざるを得ない。

「でも一人で遭難って、よく生きられましたね」

「なんとか踏ん張って、ぎりぎり、でした」

 この地域で雪山となると限られてくる。しかも遭難ということは、登山かスキーとかかだろう。

 でも確か、近くに登山もスキーもできそうな山はないはずだ。きっと少し遠くで一人旅していて、遭難でもしたんだろう。心苦しかったはずだ。

 って違う……寄り添ってしまったら壊れるのは俺だ……

 化粧水を肌に浸透させるフリをしながら、少し強めに頬を叩いた。

「遭難されたんですか?」

 あー……

 まずい。この質問について何も考えていなかった。

 俺は今の会話ぶり的に、もう遭難しましたなんて嘘は吐けなくなっている。

 何と言って言い訳をしようか。

「遭難ではー、ないです」

「それじゃあ……」

 彼女は訝しげな声を出した。

 まずい……非常にまずい……

 必死に頭を回す。こんなに焦っているのは久しぶりだ。

 確か……地元の近くに神社につながる道あったよな……地元で雪、雪かき……これだ

「あー、実家が田舎の方で、雪かきの手伝いしてたんですけど、若いからって山奥の神社につながる道の方まで頼まれて、転げちゃったんですよ」

「あ、そうだったんですか。それは災難で」

「いえ、遭難に比べたら、こっちは両親がいますから」

 我ながらにして、嘘をつくのは得意だ。こんな言葉もすらすらと出てくる。

「あ、邪魔してすみません。私もいい加減、シャワー入りますね」

「あー、はい」

 そうして会話は終わった。

 これで縁が切れてくれればいいのだが、世界とは実に嫌な奴だ。

 ネカフェにいる以上、また出会う可能性はゼロと言い切れない。

 困ったな……

 杞憂の心で、俺はシャワールームを出た。


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