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ある日、俺は死後の世界で君を知った  作者: 為世 斐文


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第1話「同死」

 一面白銀の世界が広がる静かな山奥。

 俺はそこで横たわっていた。

 凍結が楽だって聞いてたのに……まったく楽じゃないな

 ただひたすらに寒いだけで、雪に触れる部分はかじかんで痛みを感じる。

 今更これを終える考えは持ち合わせてないが、もっと他にいい死に方があるというなら喜んでお受けしよう。

 長い……

 予想ではすぐにぱったりと逝けると思っていたが、数十分経ってもまだ逝けない。

 最悪だ……

 もっと死にやすくしようと、俺は服を全て脱いだ。

 さっきよりも直に雪の冷たさが伝わってくる。

 筋肉が収縮して、肌が固まって、吐く息が真っ白で、頭がキーンッと痛くなる。

 これならちょっとは早く逝けそうだな……

 静寂を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。



「ねえ、起きたでしょ? ねえ、聞こえてるでしょー。ねえってばー」

 誰かに体を揺さぶられて目を覚ました。

 飛び込んでくる世界は白銀とかなんかじゃない。本当に真っ白で何もない空間だった。

 ん……なにここ。てか、生きてんの俺

 気だるく動きずらい体を何とか起こす。

 目の前には怒り顔を浮かべた少女が立っていた。

「やっと起きた……もう、何回目だよ!」

 少女は随分と怒っているようで、小さい頬をぷっくりと膨らまして、両手を組み足踏みをしながら俺を睨んでいる。

「俺を助けたのか?」

 そう聞くと、少女はそっぽを向いて黙りこくった。

 子供が拗ねているのと同じような感じだ。

 というか実際に子供っぽくはある。

 腹の中心ほどまで伸びた黒い髪に、透き通った青い目。綺麗な白い肌に、小さい身長。顔つきも幼いのに、どこか知性を感じる鋭い瞳。

 色々と鑑みて、どこからどう見ても子供だ。

 こいつ誰で、どこなんだ。ここ……

 目の前の少女が何も喋ってくれないから情報が得られない。

「俺は死んだでいいんだよな」

 そう聞いても少女は後ろを見るくらい首を横に向ける。意地でも無言を貫き通そうという意思を感じる。

 まいったな……死後がこんなだなんて

 少しずつ解凍でもされたんだろう。俺の体は最初よりも融通が利くようになっていた。

 少し、歩くか……

 どうせ何も喋ってくれないなら、話すだけ時間の無駄だ。

 俺はその辺に死んだ別の人もいないかと、あたりを見渡した。

 ん……?

 背後の遠くの方で、人影らしきものが横たわっているのが目に入った。

 行ってみるか……

 怒り散らかしている少女を放置して、俺は足早に横たわっているものの確認に向かった。

 それにしても……なんなんだここ

 俺や少女以外に、色という色がない。

 どこを見渡しても白一色で、壁と床と空の境界線も分からないし、どこまで広がっている何なのかも分からない。

 踏めているから何かの物体だとは思うのだが、床も未知の感覚がする。

 冷たいようで温かくて、固いようで吸い込まれそうなくらい柔らかい。

 だがひとつ確かなのは、こんな良くわからない空間にいるということは〝死ねた〟ということで間違いないだろう。

 その事実に浮かれた足取りになる。

 やっとゴミみたいな世界から抜け出せたのだ。これが嬉しいと感じる以外なんになる。

「んー……」

 横たわる何かに近づくと、それは女性のようだった。

 同年代くらいか……? 同じ自殺者なんかな

 俺は少女にされたみたく、横たわる女性の肩を持って体を揺らした。

 てか、なんで俺ら裸なんだ……? 魂の概念だからかな……

 色んな疑問を消化できないで、ただひたすらに女性の体を揺らす。

 起きないな……

 少し強めに揺らし始めたとき、俺の視界はなぞのパチンッという音とともに横にずれた。

「な、何裸見てんの!」

 声の主は少女だった。

「いや、起こそうと思ってただけで、別に裸とかどうでもいいんだけど」

 そういうと少女は訝しい顔で俺の下半身を覗いた。

「確かに興味はなさそうだけど……」

 お前の方が変態じゃないか……

 心の中で嫌悪を抱くと、横から声が聞こえた。少女とは別の声だ。

 横を向くと女性がちょうど目を擦って起き上がったところだった。が、俺の視界は再度ずらされた。

「何も殴る必要はないだろ……!」

「あ、あるわい! 何で勝手に見れんの?」

「いや、普通に起き上がったから気になっただけだろ?」

「けだものめ……ペッ」

「うわ、きたな……」

 少女は俺の体めがけてつばを吐き捨ててきやがった。

「さっさと失せろ。この馬鹿な自殺者め」

「ああ、そうですか」

 睨んでくる少女を横目に俺は距離を取るために離れた。

 あいつ絶対ろくな大人にならないだろうな……って、もうあいつも死んでんのか

 滑稽で、相応しい死因を沢山思い浮かべていると、死因から連想されて少女の言った言葉を思い出した。

「この馬鹿な自殺者め」って言ったよな。あいつ……

 俺は自殺したなんて一言も言っていない。

 確かに俺の考えでも横たわる女性に対して、同じ自殺者なのかと考えたけど、それは単に俺がそうであったから、同じなのかどうかを考えただけで、別に確定した考えのもとではなかった。

 それなのに少女はそれが当たり前だと言わんばかりに、俺を自殺者だと決めつけた。

 ただの皮肉なのか、それともまた違った意味を持つのだろうか。

 気になってしまった俺は、やることもないので後ろを振り向いた。

 すると、誰かのおでこが顎付近にぶつかった。

 いて……

 目を開けてよくみると、それはさっき横たわっていた女性だった。

 距離感おかしいだろ……

 一歩下がると、女性は一歩前進してきた。

「あの、なんか用ですか」

 そう問いながら後ろに退くと、女性は無言で俺の方へ向かってくる。

 ここの住人って、俺に対してなんでこうも無言になる確率が高いんだよ……

「やっぱり……知ってます」

 女性はそう言って立ち止まった。

「どこかで見ました。あなたの顔……でも頭を打ったみたいで思い出せない……私の好きだったもの……なはずなんですけど……」

 涙を浮かべて、首を傾けた。

 好きだったもの……?

 俺はこの女性を知らないし、会ったこともない。となると、もしかしたらもしかするかもしれない。

「一応は顔出しもしてた作曲者なんだけど、それじゃない?」

 俺がそういうと、女性は「うーん」と言ってまた首を傾けた。

 綺麗な人だな……

 さっきは髪と変態少女が邪魔でよく見えなかったけど、ちゃんと面と向かってみると凄く美しい顔をしている。

 黄金比というやつだろうか。目、鼻、口の形や高さ、距離などいろんな物が全てシンメトリーで、男性ながら憧れる。

 長いまつげ、クリアな唇、綺麗でまるで雪のような白い肌、透き通った翠色の瞳、白くさらさらとした髪。

 全体を見て頭にパーフェクトな採点をつけていると、女性は俺の手を取った。

 ん……?

「冷たいですね。凍死ですか?」

 そういう女性の手も俺と同じくらい冷たかった。

 でもそれより、なぜ俺の死因をあてられたのだろう。

「うん。凍死で死んだ」

「そっか……同じなんですね」

「え」

 どうりで冷たいわけだ。

「服着てたら長くなりましたよね」

「え、そうそう。だから――」

「服脱いだ」

「服脱ぎましたよね」

 言葉が重なって二人ともに笑みがこぼれた。

 同じ苦痛を味わって、同じ決断をして、同じように死んでいった人がいることに驚いた。

 でも、外見からして日本人ではなさそうにも見えるが、顔立ちは日本人らしい。どこの人なんだろうか。

「出身は?」

「あ、この見た目でも純日本人なんですよ」

「あ、そうなんだ」

 へー……日本にこんな綺麗な人が生きてたんだな

 女性と意気投合した俺は、時間いっぱいに話しをした。

 試してきた自殺の数々。世界の嫌な点。この空間の事。どんな暮らしをしていたのか。それはもう様々なことを語り合った。


「はぁー、もっと早くに出会っていたかったです」

「俺もそう思った」

 二人して笑いながら、溜息を吐いた。

「じゃあ、そうしてやろうか?」

 後ろから忘れかけていた存在が話しかけてきた。

 もう怒ってはいない様子の変態少女だ。

「そうしてやるってどういうことだよ」

 ただし、俺が話しかけるとまだ苛立つようで、そそくさと女性の隣に移動した。

「私はな、自殺した人じゃない。神様なんだ」

「神……様?」

「信じられんのも無理はないけど、これでも立派に神様してるんだ。毎日毎日、お前らみたな自殺者をここに放り込まれて、後の手続きよろしくー、ってなめとんのかエンマの野郎!!」

 どうやら怒っているのはほぼパッシブみたいなものらしい。

「だから仕返しがしたいの。わかるよね?」

「うーん……ちょっとだけ」

「ね! だから、〝二人とも生き返らせたら効率いいの〟」

 俺たちの有無を聞かずに、少女は俺と女性の真ん中に立った。

「さあ、やるよー」

「いや、俺たちはまだ」

「付き合ってもいいんじゃないですか?」

「え……」

 女性はにこやかに笑った。

「もしまた無理になったら、ここに戻ってきたらいいんですし」

 まあ……それもそうか

 別にも、還ってここに残っても、結果はあまり変わらない。

 確かに嫌だけど、還ってからこの女性を探すのもいいのかもしれない。

「まあ、じゃあうん。やりな」

 俺がオーケーサインを出すと、少女は初めて不敵な笑みを浮かべた。

「仕返しの始まり……!」

「また、逢いましょうね。私、一番に探します」

「俺も――」

 言いかけた言葉は何も届かなかった。


 ――必ず見つけるよ




「あ、奏斗(かなと)さん。起きられましたか……?」

 おい……なんで死ねてないんだよ

 真っ白な空間。嫌に無臭で、全てが綺麗で、全てが憎らしい。

 死なせてくれよ……!! なんでだよ!!

 俺は、あれだけ寒くて、痛い思いをしたのに、死ねないというのだろうか。

「少し待っていてくださいね」

 看護師だろう人は病室を抜けて歩いて行った。

 俺の体には無数の管が繋がっている。

 こんなもの要らない……!!

 俺は全て引き抜いて、何とかベッドから降りた。

 だが足が動かず、腕もどこか力が入らず、すぐに動けなくなった。

 視界がどんどん暗くなっていく。

 くそっ……窓に、窓から下に……!!

 最後の力で何とか壁伝いに立ち上がれたが、窓の外も見えず、奥の部屋の白い髪の患者が反射して見えただけで、情けなく地面に崩れ落ちた。

 その時、俺は力尽きて意識を失った。


※この作品は他サイトでも掲載しています。

こちらは投稿頻度が遅くなる可能性が高いです。

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