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ある日、俺は死後の世界で君を知った  作者: 為世 斐文


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第12話「冬那の日記」

 早朝、俺は目が覚めた。

 ああ……あのまま寝てしまったのか

 机には酒缶と空のさきいかの袋がまだ置いてある。

 捨てるの忘れてたな……んん……

 寝起きが悪い。何か嫌な夢を見ていた気がする。

 頭冷やそう……

 早朝ともあって周りがとても静かだ。

 こういうのでいいんだよな……

 目を擦りながらシャワールームを開けると、先客がいた。

「あ」

 またか……

 どうやら白髪の女性が化粧中だったみたいだ。

「おはようございます」

「おはようございます」

 当たり障りのない会話。まるで隣人に挨拶をするかのような感覚。

 特段話すこともなく、俺はそのままシャワーを浴びた。

 彼氏とかかな……

 なんて適当に解釈をしながら。


 昼頃、俺は少ない残高を見ては虚無を見ていた。

 もう残りも二千円程度か……

 この金額は俺の余命だ。なくなったら俺が亡くなるとき。

 どうせ家族も恋人も、友達だっていやしない。金が残ったらこの国の政府にでも渡るんだろう。

 それは少しムカつく。

「はぁー……」

 溜息をつくばかりで、何の気力も湧かない。

 感情はネガティブなものばかり。頭に浮かぶ情景もネガティブなものばかり。

 明るい存在が欲しい……

 そう願っても、俺が動いていないのに現れるわけもなく。ただただ時間だけが過ぎていく。

 やることもなく、なんとなくで音楽制作ソフトを立ち上げて、ギターを触って過ごした日だった。


 翌日、俺はまたシャワールームで白髪の女性と出会った。

 ほんとよく会うよな……

 また化粧をしている女性を横目にシャワールームに入ろうとすると、女性から声をかけられた。

「今日、寒いですね」

 ただの日常会話。

 でもそれは、俺にとっていらない行動。

「そうですね」

 何も言わない。何か言われたら肯定か否定だけを述べて、話題を作らない。それが人間関係を築かないための秘策だ。

 人と言う生き物は、そういう人に億劫な気持ちを抱きやすい。

「これからお仕事なんですけど、外出たくないです」

 そう言って笑う。

 それも今の内だ。

 その笑みに返すように、俺は鼻で笑った。

「お仕事って何されてるんですか?」

 疑問形か……

「とくには」

「フリーターってことですか?」

「まあ、はい」

 疑問形は苦手だ。意地でも何かの話をしなければならないから、したくなくとも相手との情を築いてしまいかねない。

「前、ギター持ってるの見ました。バンドとかやってるんですか?」

「いや、趣味で」

「すごいですね。憧れます」

 目を輝かせては手慣れた手つきで、淡々と化粧を進める。

 俺にとってはそっちの方がすごいと思えることだが、人間はばかな生き物だ。褒められてしまうと、どんな状況下でも嬉しいという気持ちは芽生えてしまう。

「私も昔はギター触ろうと思ったことがあったんです」

「そうなんですか」

「はい。でも、指が届かなくて、難しくてやめちゃいました」

 いい加減にシャワーに入りたい……

「私も会社辞めてギター触ってみようかな……」

 小声でそんなことを言う女性に、少しの嫌悪感が生まれていた。

 会社に雇われて、日々を過ごせているくせに、わざわざこちらの世界にやってくる必要はないし、そこでぬかされたりでもしたら、俺は居場所を完全に失ってしまうからだ。

「ギターってどのくらいやってるんですか?」

「六年ほど」

「え、六年? 私、そんなに続けられる勇気ないです。やっぱりすごいですね」

 はぁ……

「時間大丈夫ですか」

「問題ないですよ。あ……」

 そこまで言って女性は何かに気づいたかのようにこちらを向いた。

「すみません、長々と喋ってしまって……」

「いえ、仕事頑張ってくださいね」

「あ……はい。ありがとうございます」

 やっと終わった……

 解放された俺は、やっとシャワーを浴びることが出来た。


 その夜、俺はまたギターを触っていた。

 別に褒められたのが嬉しかったわけでも、負けたくないという闘争心が湧いたわけでもない。

 多分、ただの暇つぶしで、特にこれと言って理由はない。

 再生数は伸びず、いいねも押されないし、収益も少ない……

 溜息だけが友達だ。

 そんなバカみたいなことを考えていると、ドアがノックされた。

 ん……?

 まだ動けるほどの気力が残っていた俺はゆっくりとドアを開けた。

「あ」

 そこには白髪の女性が立っていた。

 その手には何かノートのような物が握られていた。

「どうされました」

「えっと……ちょっと長話になるんですけど、いいですか」

 非常に困る。

「なんの話ですか」

「えっと……不思議な事が多すぎて……えっと、あ、そうだ」

 女性は何かを思いついたように顔を上げた。

「夜船 奏斗さんですよね」

「……は?」

 思わず俺は一歩後ろに下がった。

「えっと……日記にそう書いてありまして……私もよく分かってないんですけど」

 日記……?

 意味が分からず、俺は一度部屋の中に入れた。

 立って喋っていても、多分頭に入ってこない。

「いきなりですみません……」

 そう言って彼女は礼儀欲頭を下げる。

「いや……それよりも、なんで名前を知ってるのかのほうが気になるんですけど……」

「そうなんです……私もよく分かんなくて……」

 いや、それだと困るんだけど……

 その言葉は言う寸前で飲み込んで、とりあえず彼女の話を聞くことにした。

「えっと、まず特徴が書いてありまして、病院で会って、ここのネカフェで会って、たまに話をする間柄の彼『夜船 奏斗さん』は大事な人。とても、優しくてかっこよくて、温かい人って書かれてまして……」

「はあ……」

「外見の特徴も、全てがあなたそっくりなんです」

 日記の内容を見ると、確かに俺そっくりの情報が綴られていた。

「まあ……俺で間違いないと思います」

「そうですよね」

「まあ……はい」

 問題は、なぜこの情報が日記に書かれていたかだな……

 名前の問題が一番不可思議だ。

 その他の情報は、この女性がなんと思っているのか、また外見の様子を書いているだけで、そんなに気になる点はない。

 だが、名前だけはどうやっても免れない、情を築くか、犯罪を起こすかの二択でしか得られないような情報だ。

 情を築いているわけがないし、この女性もそう思っているだろうから、自ずと答えは後者の犯罪行為につながる。

 だが、その場合ならもうすでに俺はこの女性に何らかの形で襲われているはずだ。

「どこで知ったんですか」

 そう聞いても女性も「分からない」と首を傾げて訝しげに日記を見つめる。

「私たち、あの病院よりも前にあったりしてませんよね」

「はい」

 日記が書かれた日付は昨日だ。

 特段、この女性と何か接点があった日とも言えない。いつもと何ら変わりのない日だった。

「でも、それより気になる一文があるんです」

 そう言って女性は次のページを開いた。

「ここです」

 そう言って指さされた一文には目を疑うようなことが書かれていた。


 ――私たちは、何らかの影響で死んでは生き返らされている


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