36: 二つの分かれ道
鄭成浩の公証陳述書を手にするために、承勲と在俊は再び大阪へ向かう。しかしその前に、二人の間に初めて意見の食い違いが生まれた。「社会的圧力を使え」という在俊と、「同意なしには動けない」という承勲。どちらも正しかった。だからこそ重かった。「互いに違う方法があるから一緒に行く」——その言葉が、二人の関係のすべてを言い表していた。
# 第36話
**二つの分かれ道**
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2024年5月。
ソウル。
大阪から戻って二週間が経った。
承勲は事務所の机に座って書類を見ていた。
起訴意見書の草案。鄭成浩の陳述書。手紙の筆跡鑑定結果。
在俊が向かいに座ってノートパソコンを開きながら言った。
「起訴意見書はほぼできた。来週中に検討できると思う。」
「うん。」
「でも一つ問題がある。」
承勲は書類から目を上げた。
在俊が言った。
「韓鍾洙が現れなければ法廷で実質的な結果を出すのは難しい。欠席裁判は可能だけど、有罪判決まで行くにははるかに時間がかかる。」
「わかってる。」
「じゃあどうするの。」
承勲はしばらく考えた。
「行方の追跡を続けないといけない。インターポルの協力を強化して、日本の方も確認しないといけない。」
在俊はノートパソコンの画面を見ながら言った。
「承勲。」
「うん。」
「俺は別の考えがある。」
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在俊はノートパソコンを閉じながら言った。
「欠席裁判の準備をしながら同時に世論を動かした方がいいんじゃないか。鄭成浩さんの証言、手紙、これを公開的に活用すれば韓鍾洙への社会的圧力が大きくなる。そうすれば自主帰国の可能性も出てくるし。」
承勲はその言葉を聞きながらしばらく考えた。
「鄭成浩さんは公開的に出ることを望まないかもしれない。」
「同意を求めればいいじゃないか。」
「それが簡単じゃない。あの方は61年間隠れて生きてきた。八十二歳でまた世の前に出てくださいというのが正しいのかわからない。」
在俊はしばらく黙った。
「なら匿名で処理する方法もある。」
「匿名でもわかる人にはわかる。あの方を守ることが先だ。」
在俊の表情が固まった。
「承勲、法的手続きだけでは遅すぎる。韓鍾洙が海外にいる限り、手続きは何年もかかるかもしれない。その間にあの方が亡くなったらどうする?」
その言葉が静かに降り積もった。
承勲もその考えをしていなかったわけではなかった。
*鄭成浩さんは八十二歳だ。*
*呉美子さんは記者会見をされた。*
*時間がない。*
しかし同時に、目撃者を公開的に露出させることがあの方にどんな結果をもたらすかも知っていた。
承勲は言った。
「方法は正しいけど順序が違わないといけない。まず鄭成浩さんに聞かないといけない。同意なしに動くことはできない。」
「時間がないって言ってるんだ。」
「それでも。」
在俊はしばらく承勲を見つめた。
二人の間に初めて重い沈黙が流れた。
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その夜、采恩が訪ねてきた。
承勲の表情を見て聞いた。
「何かあった?」
「在俊と意見が違う。」
「どこで。」
「鄭成浩さんを公開的に使うことについて。」
采恩はしばらく黙ってから言った。
「在俊が間違ってるわけじゃないよね。時間がないというのは正しい話だよね。」
「わかってる。でもあの方の同意なしにはできない。」
「承勲。」
「うん。」
「お前が正しい方法だけで行こうとして機会を逃すこともあるよ。」
承勲は窓の外を見た。
*采恩が正しい。在俊も正しい。*
*しかし目撃者を守ることが先だ。*
「まず鄭成浩さんにご連絡してみる。同意していただければ在俊の言った方法も考えられる。」
采恩は頷いた。
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翌日。
在俊に連絡が来た。
*鄭成浩さんに先に聞くことにした。同意してくださったら在俊の言った方向も一緒に検討しよう。*
在俊はしばらく返信を送らなかったが言った。
*わかった。でも承勲、一つだけ言う。*
*この戦いは法廷だけでは終わらないかもしれない。社会的圧力、世論、メディア。それらを法的手続きと合わせて使わないといけない。お前はいつも法の中だけでやろうとするけど、それが時には足枷になるかもしれない。*
承勲はそのメッセージを長い間見つめた。
*足枷。*
在俊が間違ったことを言ったわけではなかった。しかしだからといって簡単に同意することもできなかった。
承勲は返信を送った。
*わかった。考えてみる。*
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その週の後半。
鄭成浩に国際電話をかけた。
「こんにちは。韓承勲です。」
「あ、はい。」
「お聞きしたいことがあって。大阪でお話しいただいた内容を、もう少し広い形で活用したいんですが。メディアや公開的な方法ではなく、法的手続きの中で正式な陳述として受けたいんです。」
鄭成浩はしばらく黙った。
「法廷で証言する以外に、ということですか?」
「はい。正式な陳述書を作成して公証を受けるものです。法廷に出てこなくても証拠として活用できる方法です。」
また沈黙が流れた。
「どれくらいかかりますか?」
「一日二日あれば大丈夫です。大阪の現地公証機関で処理できます。」
鄭成浩はしばらく考えてから言った。
「そうしましょう。いつ来られますか?」
承勲はカレンダーを見た。
「来週また行ってもいいですか?」
「ええ。来てください。」
電話を切って承勲は在俊に連絡した。
*鄭成浩さんの同意を得た。来週また大阪に行って公証陳述書をもらってくる。*
在俊が答えた。
*一緒に行こう。*
*うん。*
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大阪、二度目の訪問。
鄭成浩は陳述書を作成した。
1962年3月18日。現場にいたということ。韓鍾洙という名前を直接見たということ。
公証人が確認の印を押した。
承勲はその書類を受け取った。
*法的に使える証拠。*
鄭成浩が言った。
「これで何かになりますか?」
承勲はしばらく考えてから言った。
「なります。時間はかかるでしょうけど。」
鄭成浩は頷いた。
「あの子が悔しくないようにしてください。趙東赫。」
承勲はその言葉を聞いてしばらく目を閉じた。
「はい。そうします。」
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帰り道。
大阪空港で飛行機を待ちながら二人が並んで座った。
在俊が先に言った。
「承勲。」
「うん。」
「一つ言ってもいい?」
「うん。」
「この戦いが終わったら、俺は判事をやりたい。」
承勲は彼を見た。
「弁護士じゃなくて?」
「うん。判事。法廷の中で判断する人になりたい。今回のことをやりながら思ったんだ。法を執行する人じゃなく、法で判断する人になりたいって。」
承勲はその言葉を長く見つめた。
「じゃあ俺たちが法廷で向き合うこともあるかもしれないな。」
在俊はフッと笑った。
「そのときはお前を客観的に見るよ。」
「わかってる。」
二人はしばらく沈黙の中に座っていた。
承勲が言った。
「在俊。」
「うん。」
「さっきお前が言ったこと。足枷の話。」
「うん。」
「正しいよ。俺が法の中だけでやろうとするのが時には遅い方法だ。でもそれが俺のやり方だ。趙東赫という人のために戦いながら、間違った方法を使いたくない。」
在俊はその言葉を聞きながら窓の外を見た。
「わかってる。」
「だからお前が別の方向を見せてくれるとき、それが助けになる。俺が見落としているものをお前が見てくれるから。」
在俊はしばらく黙ってから言った。
「そうだな。互いに違う方法があるから一緒に行くってことだろうな。」
「うん。」
飛行機への搭乗案内放送が聞こえた。
二人は席を立った。
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ソウル。
空港を出ながら在俊が言った。
「次の段階は何だ。」
「起訴意見書を完成させて検察に提出。それとインターポルの協力で韓鍾洙の行方を引き続き追跡。」
「日本の可能性は?」
「カン・ドユンが日本側の弁護士団と繋がっている。そこで何か掴めるかもしれない。」
「名古屋の方?」
承勲はその言葉を聞きながら止まった。
「なぜ名古屋を言うんだ。」
在俊はしばらく考えてから言った。
「ハチマンの家の財団が神戸にあるじゃないか。そして韓鍾洙が日本に古い繋がりがあるなら、名古屋の可能性がある。あそこにドイツ系移民の村があるんだよ。古い人脈があるかもしれない。」
承勲はその言葉を聞きながらしばらく考えた。
*名古屋。*
「確認しないといけない。」
「うん。俺が調べる。」
二人は空港の出口を出た。
ソウルの夕方が広がっていた。
承勲は空を一度見上げた。
まだ終わっていなかった。
しかし今、手に握ったものが生まれた。
鄭成浩の公証陳述書。手紙の原本。起訴意見書。
そして在俊という仲間。
違う方法を持つ、同じ方向の人。
*一緒に行くんだ。*
その考えが静かに、深く降り積もった。
第36話を読んでくださり、ありがとうございます。承勲と在俊が初めて真正面からぶつかる場面を書きました。正しさの形が違う二人。どちらかが間違っているわけではない。その緊張感の中に、この二人の関係の深さがあると思います。「足枷」という言葉と、「だからお前が必要だ」という承勲の答えに、この話のすべてを込めました。次話もよろしくお願いします。




