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35: 大阪、そして影

大阪・住之江区。承勲と在俊がついに鄭成浩と向かい合う。「1962年3月18日、私はそこにいました」——61年間抱えてきた言葉が、ついに口から出た。「法廷で話します」というその一言が、この長い戦いに初めて法的な形を与えた。そして名古屋に身を潜める韓鍾洙は、孫がここまで来たことを知り、目を閉じた。

第35話

大阪、そして影


2024年4月。

大阪・住之江区。

承勲と在俊は飛行機から降りた。

空港を出ると春の陽光が降り注いでいた。大阪の空気はソウルと違った。見知らぬ感じがした。

在俊が言った。

「宿に先に行こう。今日の午後に会うんだよな?」

「うん。三時。」

二人はタクシーを捕まえた。

窓の外に大阪の市街地が過ぎていった。

承勲はカバンの中に入れていた封筒を確認した。

鄭成浩の手紙の写し。そして同窓会長からもらった原本。

今日この人に会う。

1962年、あの路地にいた人。怖くて日本へ逃げた人。1975年に手紙を書いて名前を残した人。

彼が今生きていて、会うと言ってくれた。


住之江区の小さなアパート。

インターホンを押した。

しばらくして扉が開いた。

八十二歳の老人が立っていた。腰が曲がっていて、目がかすんでいた。しかし承勲を見るその眼差しが揺れた。

「韓承勲さん?」

「はい。訪ねてきてすみません。」

老人はしばらく承勲を見てから言った。

「入ってください。」


小さな居間。

古い家具たちがあった。窓の外に狭い路地が見えた。静かだった。

老人はゆっくりと席につきながら言った。

「韓国からここまで来たんですね。」

「はい。」

「弁護士とおっしゃっていましたね。」

「はい。」

老人はしばらく黙ってから手を上げて古びた湯呑みを差し出した。

「お茶、どうぞ。」

承勲は湯呑みを受け取った。

在俊は隣に静かに座ってノートを取り出した。


鄭成浩はゆっくりと口を開いた。

「あの日のことです。」

その一言で部屋の中の空気が変わった。

「1962年3月18日。私はそこにいました。」

承勲は何も言わなかった。ただ聞いた。

「卒業式が終わって、私は遅くまで学校に残っていました。友達を待っていて、裏の路地の方へ行ったんですが。」

鄭成浩はしばらく言葉を止めた。

「あの子がそこにいました。趙東赫といって。同じクラスでした。」

承勲の手に力が入った。

「そして。」

「そして韓鍾洙もそこにいました。」

その名前が部屋の中に静かに落ちた。

「何があったか見ました。全部見ました。でも怖かった。韓鍾洙の家がその町内で力のある家だったんです。お父さんが地域の有力者でしたから。」

鄭成浩は目を閉じてから開いた。

「だから何も言えずに家へ帰りました。翌日、趙東赫が亡くなったという知らせが届いて。警察はすぐに事件を終わらせました。それがおかしかったけれど。誰も言わなかった。」

「それで日本へいらっしゃったんですか?」

「その年の秋に。怖くて。いつか私が見たということが知られてしまうかと思って。」

在俊が恐る恐る聞いた。

「1975年に手紙を書かれましたよね。同窓の方に。」

鄭成浩は頷いた。

「あのときも怖かった。でもニュースで韓鍾洙という名前が出てきたんです。道峰グループ。あの子がそんなに大きくなったということが。胸が重くて手紙を書いたんです。誰かは知らないといけないと思って。」

「そのとき名前を直接書かれました。」

「そうです。怖かったけれど、それでも名前は残さないといけないと思いました。私が嘘をついているわけではないということを。」


承勲は封筒を取り出した。

「この手紙、確認していただけますか。」

鄭成浩は手紙を受け取った。

読んだ。

「私が書いたもので間違いありません。」

その言葉が部屋の中に静かに響いた。

「法廷でもこのことをお話しいただけますか。」

鄭成浩はしばらく黙っていた。

窓の外から春の陽光が静かに入ってきていた。

「もう私の年が八十二になりました。あとどれくらい生きられるかわかりません。」

「はい。」

「61年をここで生きました。怖くて。あの記憶を抱えながら。」

承勲は何も言わなかった。

鄭成浩はゆっくりと言葉を続けた。

「あの子、趙東赫。あの子は何の罪もなかった。ただ貧しくて、一生懸命生きていた子でした。それが悔しかった。61年間ずっと。」

「はい。」

「法廷で話します。」

その言葉が部屋の中に重く降り積もった。

承勲は目を閉じてから開いた。

「ありがとうございます。」


帰り道。

二人は大阪の川沿いを歩いた。

春の夕方だった。川の水が光を反射していた。

在俊が先に言った。

「できた。」

「うん。」

「目撃者確保。手紙確認。法廷証言の意思まで。」

「うん。」

在俊はしばらく歩いてから言った。

「これで韓鍾洙を召喚できる。法的に。」

「そのためには彼がどこにいるかを知らないといけない。」

「インターポルに指名手配の要請はもう出てるだろ。」

「うん。でもまだ行方が不明だ。」

二人は川沿いのベンチに座った。

在俊が言った。

「最後に確認された場所はどこだ。」

「オーストラリア。タスマニア。でもそこからも消えた。」

「その次は?」

「わからない。偽造旅券を使っているという情報がある。どこへ行ったか追跡中だ。」

在俊はしばらく考えてから言った。

「日本の可能性は?」

承勲はその言葉を聞きながらしばらく止まった。

日本。

「なぜそう思う?」

「古い繋がりがあると思って。ハチマンの家の財団が神戸にあるだろ。それに日本は逃走先としてよく使われる国だから。」

承勲は川を見つめた。

日本。

その可能性が静かに浮かんだ。


ホテルに戻って承勲はノートを広げた。

鄭成浩。大阪。証言確保。

手紙の原本。筆跡鑑定完了。

法廷証言の意思確認。

韓鍾洙の行方:タスマニア以降未確認。偽造旅券使用の可能性。

次の段階:行方追跡。日本の可能性検討。

在俊が向かいに座って言った。

「弁護士として今できることを整理しよう。」

「うん。」

「国内裁判所への公訴提起の準備。鄭成浩の証言を基に起訴意見書の作成。そしてインターポルの協力強化。」

「韓鍾洙が現れなければ欠席裁判も可能か?」

「可能だよ。でも実際の有罪判決のためには本人の出席か追加証拠が必要だ。」

承勲は頷いた。

鄭成浩の証言だけでは足りないかもしれない。

しかし始めることはできる。

「とりあえず国内に戻って起訴意見書の作成から始めよう。」

「うん。」


その頃。

韓鍾洙はすでに大阪にはいなかった。

偽造旅券を使った彼は名古屋郊外の小さな町に隠れていた。

カン・ドユンから連絡が来た。

「承勲さんが大阪にいます。鄭成浩という方に会いました。」

韓鍾洙はその言葉を聞いてしばらく黙っていた。

鄭成浩。

その名前をずっと前に忘れたと思っていた。しかし忘れていたわけではなかった。

あの人が話したんだ。

韓鍾洙は窓の外を見た。

名古屋の春の空が高く青かった。

もう本当に狭くなってきた。

その考えが鮮明に来た。

カン・ドユンが言った。

「法的手続きが始まりそうです。対応の準備が必要です。」

「わかった。」

「クリスティナとフリードリヒにも連絡しました。準備はできています。」

韓鍾洙は答えなかった。

電話を切って長い間窓の外を見つめた。

承勲。

その名前が静かに浮かんだ。

お前はここまで来たんだな。

怖くもあった。しかし不思議と、それだけではなかった。

趙東赫が転生したなら、あの子に違いない。

その考えが初めて、逃げずに降り積もった。

韓鍾洙は目を閉じた。


ソウルへ帰る飛行機の中。

承勲は窓の外を見つめた。

大阪が遠ざかった。

ノートを取り出した。

鄭成浩さんが言った。「あの子は何の罪もなかった」。

61年。

呉美子が61年待った。鄭成浩が61年怖がった。

その重みが今、自分の手の中にあった。

承勲はノートを閉じた。

在俊が隣で言った。

「ソウルに着いたらすぐ始めよう。」

「うん。」

「起訴意見書、証拠リスト、鄭成浩の陳述書の公証。」

「わかった。」

「それと韓鍾洙の行方。」

「うん。日本の方も確認しないといけない。」

二人はしばらく沈黙の中に座っていた。

在俊が言った。

「ここまで来た。」

承勲はその言葉を聞きながら窓の外を見た。

雲が流れていた。

ここまで来た。

2019年、聞慶で初めてハチマンの家の扉を開けた日が浮かんだ。ノートに「俺は逃げない」と書いた日。除隊しながらソウル駅のバスで目を閉じた日。

そのすべてが今この場所へと繋がった。

まだ終わっていなかった。

しかし今、法廷で戦えるものが生まれた。

承勲は目を閉じた。

飛行機が雲の上を飛んでいた。


第35話を読んでくださり、ありがとうございます。鄭成浩との対面を書きました。「あの子は何の罪もなかった」——その言葉を書きながら、この物語のすべてがここに向かっていたと感じました。61年間怖がり続けた人間が、最後に話すことを選んだ。その重さを丁寧に書きたかったです。いよいよ法廷への道が開きます。次話もよろしくお願いします。


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