33: アンナの真実
タスマニアの小屋に現れたアンナ。向かい合った二人の間に流れる、60年分の沈黙。「1958年にあの子を追い払うべきではなかった」——韓鍾洙が初めて口にした言葉。そして承勲は弁護士試験に合格し、鄭成浩がまだ大阪で生きているという知らせを受ける。「真実を明らかにする。それが目的だ」——ノートに書かれたその一文が、いよいよ動き出す。
第33話
アンナの真実
2023年春。
タスマニア。
韓鍾洙は小屋の窓際に座っていた。
外に雨が降っていた。この人里離れた町に来てから数ヶ月が経っていた。国際刑事警察機構の追跡があることは知っていた。しかしまだここまでは来ていなかった。
スマートフォンは切ってあった。
ニュースは時々小さなラジオで聞いた。
韓鍾洙は窓の外を見た。
雨がガラス窓を叩いた。
終わりが来ている。
その考えが静かに浮かんだ。
その日の午後、扉の前にノックの音がした。
韓鍾洙はゆっくりと立ち上がった。
扉を開けた。
アンナだった。
白いシャツに黒いコート。歳月をかわしたような姿。長い間変わらない顔。
「どうやってここへ。」
アンナは無言で中に入った。
韓鍾洙は扉を閉めた。
二人は小さな卓の前に向かい合って座った。
しばらく沈黙が流れた。
韓鍾洙が先に言った。
「お前はいつも言っていた。裁きは真実に従って来ると。」
「そう。」
「それがもう来たってこと?」
アンナは答えなかった。
韓鍾洙は窓の外を見た。
雨は降り続けた。
「アンナ、一つだけ聞かせてくれ。」
韓鍾洙がゆっくりと口を開いた。
「1961年に青文高校にロシア語の教師として来たとき。あのとき既に知っていたのか?俺がどうなるか。」
アンナはしばらく考えてから言った。
「知らなかった。ただ見た。お前がどんな人間かを。」
「それで?」
「それで言った。正直に生きろと。裁きは真実に従って来ると。」
韓鍾洙はその言葉を長く見つめた。
「でも俺は聞かなかった。」
「そう。」
短い答えだった。しかしその中に込められたものが重かった。
韓鍾洙は目を閉じた。
1958年の冬。
その記憶が浮かんだ。
雪がたくさん降っていた夜だった。風が強かった。しかし窓を叩く音がした。
開けてみると幼い子供だった。痩せていて、着物が薄かった。雪に濡れていた。熱があるようだった。
「解熱剤ありますか?弟が具合悪いんです。」
その声が震えていた。
鍾洙はその子を追い払った。寒いのに窓を壊したという理由で。きつい言葉を言った。そして扉を閉めた。
翌日、その子が夜通し雪の中に倒れていたという話を聞いた。村の人が見つけて連れていったと言った。
その子の名前を知ったのは後だった。
趙東赫。
そして数年後、1962年の卒業式の夜。
その名前と再び向き合った。
韓鍾洙は目を開けた。
俺がやったんだ。
その考えが初めて、逃げずに正面から降り積もった。
「アンナ。」
「うん。」
「お前はどれくらい生きたんだ。」
アンナはしばらく黙ってから答えた。
「長い間。」
「200年を超えたよな?」
「そう。」
韓鍾洙は彼女を見た。
「なんで少しも老けないんだ。」
アンナは窓の外を見ながら言った。
「それは大切なことじゃない。」
「大切なことじゃないって?」
「私がどれくらい生きたかじゃなく、私が何を見てきたかが大切なんだ。」
韓鍾洙はその言葉を噛みしめた。
「じゃあお前は何を見てきたんだ。」
アンナはしばらく考えてから言った。
「人々が罪を犯して、隠して、逃げて、そして結局向き合うのを。その繰り返しを。」
「いつも向き合うことになるのか?」
「いつも。」
韓鍾洙は目を閉じた。
いつも。
その言葉が重く降り積もった。
しばらくして韓鍾洙が言った。
「承勲が弁護士になったら俺を探しに来るだろう。」
「そうだろうね。」
「あの子が法廷に立てようとしたら……」
アンナは彼の言葉を遮らなかった。ただ待った。
韓鍾洙は言葉を続けられなかった。
窓の外に雨がガラス窓を叩いた。
「あの子を初めて見たときからわかっていた。眼差しが違った。ただの孫じゃない気がした。」
アンナは何も言わなかった。
「趙東赫に似ていた。あの眼差しが。」
その言葉が部屋の中に静かに広がった。
韓鍾洙はしばらく黙ってから口を開いた。
「俺は間違いを犯した。」
その言葉が初めてだった。
誰にも言ったことのなかった言葉。
「1958年にあの子を追い払うべきではなかった。1962年にあんなことをすべきではなかった。その後に隠れるべきではなかった。」
韓鍾洙の声が低く震えた。
「遅すぎたな。」
アンナは彼を見た。
「遅くないことはない。」
「それはどういう意味だ。」
「まだ生きているなら、できることがあるということよ。」
韓鍾洙はその言葉を長く見つめた。
一方、ソウル。
2023年冬。
承勲は試験会場を出た。
弁護士試験。
最後の科目が終わった瞬間、承勲はしばらくその場に立っていた。
ソウルの冬の空が高く青かった。
ここまで来たんだ。
除隊後の復学。卒業。ロースクール。そして今日。
長い時間だった。
在俊が試験会場の外で待っていた。
「どうだった?」
「わからない。全部やった。」
「うまくいった?」
「やった。」
在俊はフッと笑った。
「お前の表情、悪くないぞ。」
二人は並んで歩いた。
在俊が言った。
「俺も今回受けた。結果一緒に待とう。」
「うん。」
結果発表日。
承勲は一人部屋で画面を開いた。
合格。
その言葉が画面に浮かんでいた。
長い間その言葉を見つめた。
弁護士。
2019年、聞慶でノートに書いたことが浮かんだ。
目的:真実。
趙東赫。韓鍾洙。1962年。
まだ終わっていない。
その文たちが一つずつ浮かんでから静かに沈んでいった。
スマートフォンが鳴った。
在俊だった。
「俺も合格した。」
「そうか。」
「それだけか?」
承勲はしばらく考えた。
「ありがとう。一緒にここまで来た。」
在俊はしばらく黙ってから言った。
「いよいよ本当の始まりだな。」
「うん。」
「鄭成浩さんを見つけた。大阪に住んでいらっしゃる。八十二歳で、お元気な方だって。」
承勲はその言葉を聞いてしばらく目を閉じた。
ご存命だ。
「いつ行ける?」
「お前が準備できたら。」
「来月。」
「わかった。」
世英に合格の知らせを伝えた。
世英は電話を受けてしばらく黙ってから言った。
「立派になったな。」
「うん。」
「ご飯は食べた?」
「うん。」
「よかったよ、承勲。」
短い言葉だった。しかしそれで十分だった。
その夜、英勲から連絡が来た。
メッセージだった。
弁護士になったと聞いた。お前がどんな道を行こうとも父はお前の味方だ。ただ一つだけお願いする。祖父を憎んでいい。でもその憎しみがお前を壊さないようにしてくれ。
承勲はそのメッセージを長い間見つめた。
祖父を憎んでいい。でもその憎しみがお前を壊さないようにしてくれ。
22話でアンナが言っていた言葉が浮かんだ。
目的が復讐の人と真実の人は、結局違う道を歩むことになる。
承勲は返信を送った。
わかってます。心配しないでください。
夜。
承勲は机の引き出しを開けた。
鄭成浩の手紙。
色あせた紙。かすれた文字。その中に書かれた名前。
韓鍾洙。
来月には大阪に行く。
鄭成浩に会う。
目撃者の声を直接聞く。
それがこの戦いの次の段階だった。
承勲は手紙を再び折って封筒に入れた。
ノートを広げた。
2023年冬。弁護士資格取得。
次の段階:大阪。鄭成浩。
その下に。
真実を明らかにする。それが目的だ。
ノートを閉じた。
窓の外にソウルの夜が広がっていた。
遠くで灯りたちが揺れていた。
趙東赫。
その名前が静かに、深く降り積もった。
まだ終わっていなかった。
しかしいよいよ、始めることができた。
第33話を読んでくださり、ありがとうございます。韓鍾洙がアンナの前で初めて「俺は間違いを犯した」と言う場面を書きました。60年以上かけてたどり着いた言葉。その重さをできるだけ丁寧に書きました。そして承勲の弁護士合格——長い道のりがここで一つの形になりました。次話では大阪へ向かいます。次話もよろしくお願いします。




