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31: 審判の前夜

60年近く封筒の中に眠っていた手紙が、ついに開かれた。

目撃者の名前。そして、その手紙に直接書き記された一つの名前——ハン・ジョンス。噂が記録になった瞬間だ。証言が証拠の形を帯び始めた瞬間でもある。

この話でハン・ジョンスは初めて「負けるかもしれない」と思う。60年間、彼は恐れながらも揺らがなかった。しかし紙一枚が、その均衡を崩した。

逃げるという選択は、敗北ではない。しかし勝利でもない。それはただ、終わりを先送りにすることだ。

スンフンは怒りと悲しみの区別がつかないまま、引き出しに手紙をしまう。法廷で開く日のために。その静けさが、この話で最も重い。

第31話:審判の前夜

2021年9月。

スンフンが除隊して3週間が経った。

ジェジュンと喫茶店で向かい合って座った。窓の外から秋の陽射しが降り注いでいた。

ジェジュンが先に口を開いた。

「同窓会長に会った?」

「来週会うことにした」

「何かもっと覚えていることがあるって言ってたんだろ?」

「うん。電話でそんなニュアンスだった」

ジェジュンはコーヒーカップを置きながら言った。

「日本へ渡った学生の行方は?」

「まだ。名前もわからない状態だよ」

二人はしばらく沈黙の中に座っていた。

ジェジュンが言った。

「来年ロースクールの入試を受けるつもりだ。お前が復学して卒業するころには、俺はロースクール2年生になってる」

「じゃあタイミングが合うね」

「うん。お前が弁護士資格を取るとき、俺も取れると思う」

スンフンは頷いた。

同じ方向だとジェジュンが言っていた。

その言葉は今も有効だった。

翌週、同窓会長に会った。

ソウル・恩平区の小さな喫茶店だった。老人は今回は封筒を一つ持って現れた。

「長い間考えました。これをお見せすべきかどうか」

スンフンは黙って待った。

老人は封筒から古びた手紙を一枚取り出した。

「1975年に受け取ったものです。日本から」

スンフンの手が止まった。

「日本から?」

「あの一件の後、日本へ行った友人がいたんです。その友人が送った手紙です。当時は怖くて誰にも見せられなかった。でも、もう私もこの歳になったから……持っていても仕方ないと思って」

スンフンは慎重に手紙を受け取った。

色あせた和紙だった。文字はかすれていたが、読めた。

ジュンへ。

俺はあの夜、全部見ていた。路地で何があったか。お前もわかってると思うけど、俺はあのとき言えなかった。怖くて。今も怖い。だから日本に来た。もう二度と帰らないつもりだ。

一つだけ言う。あの夜、その場にいた人間が、後に道峰グループという大きな会社を作ったとニュースで見た。名前は覚えてる。ハン・ジョンス。

この手紙は誰にも見せるな。お前だけが知っていればいい。

スンフンは手紙を読み、しばらくそれを見つめた。

ハン・ジョンス。名前が直接書かれている。

噂ではなかった。目撃者が直接残した記録だった。

「この手紙を書いた人は誰ですか」

老人は言った。

「名前はチョン・ソンホといいます。その友人、1962年に日本へ行ったんです。大阪の方に落ち着いたと聞いたけど、その後は連絡が途絶えた」

「生きているかご存知ですか」

「わかりません。この手紙が1975年のものだから、今なら八十を超えているでしょう。生きていれば」

スンフンは手紙をもう一度見つめた。

「この手紙、いただいてもいいですか」

老人はしばらく迷ってから頷いた。

「持って行きなさい。私が持っていても今さら何の役にも立たない。生きているうちにこれを使うべきときが来たら、使いなさい」

スンフンは両手で手紙を受け取った。

「ありがとうございます」

喫茶店を出ながら、スンフンは封筒をカバンの中に慎重にしまった。

チョン・ソンホ。大阪。

その名前が頭の中に深く刻まれた。

同じ日の夜。

スンフンはジェジュンに電話をかけた。

「証人がいる」

受話器の向こうでジェジュンがしばらく黙った。

「直接の目撃者?」

「目撃者が残した手紙だ。名前まで書いてある。ハン・ジョンス」

「……本当に?」

「うん。1975年に日本から送った手紙だ。目撃者の名前はチョン・ソンホ。大阪に落ち着いたというけど、生死不明だ」

ジェジュンはゆっくりと口を開いた。

「手紙自体は証拠になれる。筆跡鑑定が可能だし、発信記録が残っていればさらに確実になる」

「わかってる。でも目撃者本人が生きていれば証言ができる」

「大阪か」

「うん」

二人はしばらく沈黙した。

ジェジュンが言った。

「パンデミックが終わったら日本に行かないといけないな」

「うん。それまでにできることからやらないといけない。手紙の保存処理をして、法的に証拠能力があるか確認しないといけない」

「俺が調べる。法的手続きの方は」

「ありがとう」

ソウル・江南の邸宅。

ハン・ジョンスは窓際に座っていた。

秘書が報告した。

「お孫さんが同窓会長にお会いになってきました」

「知ってる」

「あの老人が何かを渡したようです」

ハン・ジョンスはしばらく黙っていた。

何かを渡した。

その言葉が重かった。

同窓会長は噂を知っている人物だった。噂以上のものを持っているとしたら。目撃者が残した記録のようなものがあるとしたら。

チョン・ソンホ。

その名前が突然浮かんだ。

1962年、あの路地にいた人間。日本へ逃げた人間。ハン・ジョンスはその存在をずっと前から知っていた。その人物が口を開かないだろうと信じていた。怖くて逃げた人間だから。

しかし手紙があるとしたら。

ハン・ジョンスは目を閉じた。

同窓会長が持っていたのか。

胸の一角に重いものが降り積もった。

カン・ドユンに電話をかけた。

「同窓会長がスンフンに何かを渡した。確認してくれ」

「わかりました」

電話を切って、ハン・ジョンスは長い間窓の外を眺めた。

ソウルの夜が広がっていた。

いよいよ本当に危なくなった。

その考えが初めて鮮明に浮かんだ。

今まで噂だった。同窓会長の記憶だった。法廷で使いにくいものだった。

しかし目撃者の記録があるとしたら。そして目撃者本人が生きているとしたら。

法廷で負けるかもしれない。

その考えが初めて浮かんだ。

ハン・ジョンスは引き出しを開けた。古いパスポートがあった。数年前に更新しておいたものだった。

翌朝。

カン・ドユンから連絡が来た。

「手紙があるようです。1970年代に日本から送られた手紙で、当時の目撃者が作成したものと推定されます。名前が記されているとのことです」

ハン・ジョンスはしばらく黙っていた。

「名前は何というんだ」

「会長のお名前です」

静寂が流れた。

ハン・ジョンスはゆっくりと電話を切った。

部屋の中に一人で座っていた。

ハン・ジョンス。

目撃者が直接名前を書き残していた。

1962年から今まで60年近く隠してきたことが、今や紙一枚として残っていた。

彼は長い間座っていた。

選択肢を整理した。

ここにいれば捜査が始まるだろう。手紙があり、同窓会長の証言があり、スンフンという孫が法律を学び始める。

法廷で戦うこともできた。弁護団がいた。しかし今や物的証拠に近いものが出てきた。

法廷で負けたらどうなるか。

その考えが続いた。

80を前にした年齢で法廷に立つこと。その結末が何であるか。

ハン・ジョンスは目を閉じた。

逃げよう。

その考えが初めて浮かんだ。

逃げることが卑怯だとわかっていた。しかし今残された時間がどのくらいあるかわからなかった。

生きている間だけでも法廷に立たないこと。

それが今の自分にできる唯一のことだった。

3日後。

ハン・ジョンスは道峰グループに自主辞任を発表した。

理由は健康上の理由だった。心臓手術後の回復が必要だということ。財産の一部を社会に寄付するという発表も同時に出た。

メディアは老財閥の美しい退場と報道した。

その日の午後、ハン・ジョンスは静かに仁川空港へ向かった。

家族には療養のためにしばらく出かけると言った。

ヨンフンが空港まで付いてきた。

「お父さん、どこへ行くんですか」

「少し休まないといけない。体の調子が良くない」

「いつ帰ってきますか」

ハン・ジョンスは答えなかった。

ヨンフンの顔に何かを察した様子が過ぎった。

「お父さん」

「うん」

「大丈夫ですか。本当に」

ハン・ジョンスは息子を見つめた。

この子は何も知らない。1962年を。チョ・ドンヒョクを。チョン・ソンホを。

「大丈夫だ」

その言葉が嘘だとヨンフンもわかっているだろう。しかしそれ以上は聞かなかった。

ハン・ジョンスは搭乗口へ歩いていった。

振り返らなかった。

終わりが来ている。

その考えが静かに、鮮明に浮かんだ。

警察庁。

刑事が一人、古い事件ファイルを広げていた。

58年前、聞慶チョンムン高校近辺の変死事件。加害者不明で終結した事件。

最近インターネットに関連する情報提供が上がり、それが再び水面に浮かんだ。道峰グループと繋がりうるという情報提供だった。

刑事は当時の容疑者名簿を検討した。

名前を一つひとつ確認した。大半はすでに亡くなった人々だった。

しかし一つの名前が目に止まった。

ハン・ジョンス。

道峰グループ前名誉会長。数日前に自主辞任して出国したというニュースを見ていた。

刑事は出国記録を照会した。

オーストラリア経由。カナダ。

出国日が辞任発表当日だった。

刑事はしばらくその記録を眺めた。

「……まさか」

その一言が部屋の中に静かに広がった。

同じ時刻、水原。

スンフンは家で手紙を再び広げた。

ハン・ジョンス。

その名前が記された手紙。

ジェジュンからメッセージが来た。

法的証拠能力確認した。手紙自体は証拠として使える。筆跡鑑定が可能で発信情報があればさらに確実になる。目撃者本人の生死確認が先決だ。

スンフンは返信を送った。

大阪。チョン・ソンホ。見つけないといけない。

わかった。パンデミックの状況を見ながら準備しよう。

スンフンは携帯を置いて手紙をもう一度眺めた。

60年近く封筒の中にあった紙。

その中に込められた一人の恐怖と、一人の名前。

祖父が逃げた。

カン・ドユンから連絡が来たのはその日の夜だった。

ハン・ジョンス名誉会長が出国されました。カナダへ向かったものと思われます。

スンフンはそのメッセージをしばらく見つめた。

逃げた。

怒りなのか、悲しみなのか、あるいはその両方が入り混じった何かなのかわからなかった。

ただ一つだけは明らかだった。

これは終わったんじゃない。今が始まりだ。

スンフンは手紙を慎重に折って封筒に入れた。

そして机の引き出しに入れた。

いつか法廷で取り出す日が来るだろう。

その日のために、今から準備しなければならなかった。

この話を書きながら、一番時間がかかったのはハン・ジョンスが「逃げよう」と思う場面だった。

60年間、彼はずっと準備してきた。変護団を組み、証拠を封じ、あらゆる可能性を想定した。それでも「逃げよう」という言葉が出てくるとき、それは準備の失敗ではなく、人間としての限界だと思って書いた。80を前にした老人が、法廷ではなく残された時間を選ぶこと。それを卑怯とだけ呼ぶことが、私にはできなかった。

空港でのヨンフンとの場面は短いが、この物語の中で最も静かな別れだと思っている。ヨンフンは何も知らない。それでも何かを察している。その「察しているが聞かない」という距離感が、親子というものの一つの形だと思った。

警察庁の刑事が登場するのはこの話が初めてだ。「……まさか」という一言だけで終わらせたのは、この流れをまだ動かし始めたばかりだから。大きな歯車が、静かに回り始めた。

次の話では、時間が進む。スンフンは法律を学び始める。

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