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30: 除隊を前にして

除隊という言葉は、終わりではなく始まりの合図だ。

1年10ヶ月。スンフンはその時間を軍服の中で過ごしながら、一枚のメモを何度も広げた。証言だけがあって、証拠がない。その不完全さを抱えたまま、彼は正門を出る。

この話には派手な場面がない。電話が一本あり、メッセージが数通あり、バスが水原駅に止まる。それだけだ。しかしその静けさの中に、この物語のすべての重さが詰まっている。

ハン・ジョンスは孫が除隊したという報告を聞いて、何も言わなかった。ウイスキーのグラスを手に取って、置いた。その動作一つに、5年という時間への覚悟と恐れが同時に宿っている。

二人はまだ会っていない。しかし同じ夜に、それぞれの場所で目を閉じた。

第30話:除隊を前にして

2021年8月。

除隊一ヶ月前。

スンフンは内務班の寝台に座り、窓の外を眺めた。

海が見えた。海兵隊の部隊特有の風景だった。波の音が遠くから聞こえた。

一ヶ月。

その数字が静かに降り積もった。

1年10ヶ月。思ったより長く、思ったより短かった。

スンフンはロッカーを開けた。内側に折りたたまれた紙が一枚あった。

広げた。

1962年3月18日。チョンムン高校近辺。変死体。地域の有力者A。

同窓会長の証言:ハン・ジョンス。ハンという姓を持つ学生のうちの一人。

日本へ渡った学生。名前未確認。行方未確認。

軍に来る前にまとめておいたメモだった。1年10ヶ月の間、この紙を取り出して見たのは何度だっただろうか。

まだ足りなかった。証言だけがあった。証拠がなかった。

除隊したらまた始めなければ。

その考えが静かに浮かんだ。

ジェジュンはスンフンより二ヶ月早く除隊した。

除隊直後、ジェジュンからメッセージが届いた。

出た。ロースクールの準備始めるよ。お前が出たらすぐ連絡して。

スンフンはそのメッセージを読んで短く返した。

うん。待ってて。

除隊3週間前。

部隊の公衆電話の前に列が長かった。スンフンは順番を待ってから受話器を取った。

同窓会長に電話をかけた。

呼び出し音が何度か鳴った。出なかった。

もう一度かけた。今度はつながった。

「はい」

「こんにちは。ハン・スンフンです。以前お訪ねした」

しばらく沈黙が流れた。

「覚えていますよ。軍に行かれたと聞きました」

「はい。もうすぐ出ます。もう一度お伺いできますか」

「何のご用件で?」

「日本へ渡った学生の行方がまだ確認できていません。もし何か思い出されたことがあればお聞きしたくて」

老人はしばらく黙っていた。

「その話は……直接会って話した方がいいですね」

「ありがとうございます。除隊したらすぐご連絡します」

電話を切って、スンフンはしばらくそこに立っていた。

何かもっと知っている。

老人の話し方から、それが感じられた。

除隊2週間前。

アンナから短いメッセージが届いた。

準備ができたら連絡してください。

スンフンはそのメッセージをしばらく見つめた。

アンナ。第19話で「お久しぶりです」と囁いた人。第21話で「八幡の家を探してみてください」と言った人。そして第22話で「あなたが準備できているか確認しに来た」と言った人。

準備ができたら連絡してください。

準備。その言葉が何を意味するのか、スンフンにはなんとなくわかる気がした。

法律を学び始めること。それが準備の始まりだ。

短く返信を送った。

除隊したら連絡します。

同じ時期、ソウル・江南の邸宅。

ハン・ジョンスはカン・ドユンとビデオ通話で向き合っていた。

「除隊はいつだと言っていましたか」

「今月末です」

ハン・ジョンスは頷いた。

「では復学までどのくらいかかる?」

「次の学期から復学が可能です。2022年3月になるでしょう」

「その次は?」

「卒業まで最低2年。ロースクール3年。弁護士資格取得まで早くて5年、遅ければ7年です」

ハン・ジョンスはその数字を頭に刻んだ。

5年から7年。

その間に準備を終えなければならなかった。弁護団は揃っていた。クリスティナ、フリードリヒ、カン・ドユン。しかしまだ足りないものがあった。

「日本側の話は?」

「八幡の家財団への接触を試みていますが、パンデミックのため直接の接触が難しい状況です」

「その財団に1962年関連の資料があるかもしれない」

「わかっています。方法を探しています」

ハン・ジョンスはしばらく窓の外を眺めた。

スンフンが八幡の家の箱を開けた。

その事実がいまだに引っかかっていた。箱の中に何があったのか正確にわからないことが、さらに不安だった。

「カン・ドユン」

「はい」

「同窓会長の方は?」

カン・ドユンはしばし沈黙した。

「その方がスンフンさんと連絡を取っている可能性があります」

「そうだろうな」

「接触が必要だとお考えですか」

ハン・ジョンスは答えなかった。

同窓会長は噂を話してくれただけだ。確定した証拠を持っているわけじゃない。

そう思いながらも、あの老人の記憶がいつかより具体的な形で表に出てくるかもしれないという可能性が、胸を締め付けた。

「とりあえず様子を見て」

「わかりました」

ビデオ通話が切れた。

ハン・ジョンスはしばらく空白の画面を見つめた。

スンフン。お前は除隊したらすぐ動き出すだろう。

その考えが恐ろしくもあり、不思議と待ち遠しくもあった。

相変わらずその二つの感情が同時にあった。

除隊前夜。

スンフンは寝台に横になり、天井を眺めた。

明日には出る。

1年10ヶ月。その中で学んだことがあった。

パク・セフンに初めて負けた。負けることも学びだと言われた。その言葉がまだ残っていた。

ジェジュンと夜明けに交わした会話たち。互いに何も言わずに座って、それぞれの考えを整理した時間たち。

そして軍服の中でも消えなかったもの。

1962年。チョ・ドンヒョク。ハン・ジョンス。

スンフンはメモ用紙を再び取り出した。軍隊で何度も広げて見たあの紙。

その下に一行を加えた。

同窓会長。日本へ渡った学生。必ず見つける。

そしてもう一行。

アンナに連絡する。

紙を折ってポケットに入れた。

目を閉じた。

波の音が聞こえた。風の音も。

明日にはこの音たちを聞けなくなる。

不思議と、その事実が少し名残惜しかった。

2021年8月末。

除隊。

スンフンは軍服を脱いで私服に着替えた。

部隊の正門を出る瞬間、外の空気が違った。

セヨンが正門の前に立っていた。

「来たね」

「うん」

セヨンはスンフンを上から下まで一度見てから言った。

「随分変わったね」

「そうか?」

「うん。いい方向に」

スンフンは短く笑った。

二人は並んで歩いた。

セヨンが先に口を開いた。

「ご飯から食べよう。お母さんが好きなもの買っておいたから」

「うん」

「その後は?」

スンフンはしばらく考えた。

「ジェジュンに会わないといけない。それと同窓会長に連絡しないといけないし」

セヨンは頷いた。

それ以上は聞かなかった。

それで十分だった。

同じ日。

ジェジュンからメッセージが届いた。

出たんだね。いつ会える?

スンフンが返した。

明日。水原で会おう。

わかった。話したいこと多い。

スンフンは携帯をポケットに入れた。

バスの窓の外を風景が流れていった。1年10ヶ月ぶりに見る水原の市内だった。

変わったものもあり、変わっていないものもあった。

スンフンは窓の外を眺めながら思った。

いよいよ始まりだ。

その言葉は初めてではなかった。軍に行く前にも、聞慶でも、訓練所でも同じ言葉を言った。

しかし今は少し違った。

本当の始まりだ。

法学部への復学。卒業。ロースクール。弁護士資格。そして1962年。

長い道だった。しかし方向は明らかだった。

バスが水原駅に止まった。

スンフンは席を立った。

その夜、ソウル・江南の邸宅。

秘書が報告した。

「お孫さんが本日除隊されました」

ハン・ジョンスは何も言わなかった。

窓の外にソウルの夜が広がっていた。

出たんだな。

その考えが静かに浮かんだ。

これからが本番だった。弁護団も、資料も、すべての準備がこれから意味を持つ。

ハン・ジョンスはウイスキーのグラスを手に取ってから置いた。

あの子が法律を学ぶのに最低5年かかる。

5年。長い時間だった。しかし自分の年齢を考えると、長い時間ではなかった。

その間に私は何ができるだろうか。

その問いが長く留まった。

窓の外で灯りたちが揺れていた。

ハン・ジョンスは目を閉じた。

この話で一番書きたかったのは、除隊の瞬間ではなく、その前夜だった。

スンフンが寝台に横になり、波の音を聞きながら「明日にはこの音たちを聞けなくなる」と思う場面。名残惜しいという感情は、軍隊が好きだったからではない。ある時間が終わることへの、人間が本能的に感じる寂しさだと思う。どんな場所でも、去る前には少し惜しくなる。それがスンフンらしくて、好きな場面だった。

セヨンの描写は意図的に短くした。「随分変わったね」「うん。いい方向に」——それだけで十分だと思った。姉弟の間では、多くを語らなくていい。

ハン・ジョンスが「待ち遠しい」と感じる場面を書くのは、毎回少し緊張する。加害者が被害者の孫の成長を待ち望む——その歪さを、しかし人間の真実として書かなければならない。彼は悪人であると同時に、一人の老人でもある。その両方を手放さずに書き続けることが、この物語の核心だと思っている。

次の話では、スンフンが動き始める。

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