147話「終息:銃音」
「終わったね。」
「うん。」
戦場で互いの背中を守り合いながら常に気配りを続けていた2人の幻像は互いに表情を柔らかくしながらそう口にした。2人の身には今は時間が近づいてきている、始まりがあれば終わりがあるように、長らく意識体で暮らしていた2人にとって肉体を持つ時間というのはさほど長くない。そもそも死者をほぼ蘇らせるに等しい行為を勇者の武器を触媒に担わせていたのだから限界なのだ。ゼルが長い時間人と生きることに比例するように勇者の武器の力も弱まっていた、だから彼の中に戻った力というのは基本的にだんだんと衰えて最後はこのように消えて無くなるのだ。
足元から光が湧き出しそれが自分を模っていたものと知るのは至極真っ当で当然であり、当人たちは恐怖すらしないのだ。
「なんだか短かったような、長かったね。」
「うん。でも人より少し長生きできた気がする。」
「それもそっか。」
「音風さん。」
「なに?」
「ごめん、許されることじゃない。僕は君の全てを最後に捻じ曲げた。」
「………私も、許せはしないかな。でも、それでも内村君のことを仲間だって思ってるから、それ以上には行けなくても、でも。」
「─────あぁ、ごめん。もう十分だよ。」
「そう。」
青年は涙した。少女が言った言葉で彼にとっては十分だった。あの誰にも余裕がなく、それでも慈愛のように万人を愛し続けていた少女はこんな自分であっても、こんな滞在人であっても昔と変わらず平等に接してくれるのだと。それがたまらなく嬉しかった、何かを求めて続けて、その果てに人にならざることになった青年からしてみれば必然的に今ある日常というものの大事さは死後身に締めるものだった。
「僕は、ようやく解放された。もうこれで変なことを思わないでいられる。」
「……ねぇ内村君は、なんの曲が好き?」
少女は青年に尋ねた。
青年は少しも考えずに次のように言葉にした。
「君の奏でる歌、君の奏でる曲なら、なんでも。」
「じゃあ、アレにするね。」
少女は楽器を手に取ってゆっくりと演奏を始めた。それは生前彼女がよく弾いていた曲だった、なぜ少女がそれを弾き続けているのかなぜ少女が勇者になってもその曲を弾いていたのか、もはや誰にも分からず憶測の域を出ない。だが青年はそれが彼女に取って運命を決めるほどの大切なものであるということをなんとなくわかっていた。
そして2人はその音に包まれながら荒れ果てた大地の中でそっと姿を消した。その空間はかつての戦線で奏でられていた安らぎの曲だった。誰かが死んだ時ではなく、疲れ果てた戦士達の心を癒す心地の良い曲であった。
そして最後の戦士は銃を持っていたただ1人の人間であった。




