144話「直接対面」
焼け朽ちた赤黒く熱された道を少しずつ前へと進む。目の前には扉越しに感じていた大量の邪気が溢れかえっていた、まるで火山から絶えず流れ続けている溶岩のような異様な粘り気と熱さ、そして決して人体とは相入れないような気色悪さをうかがえた。これほどの邪気を身に纏った存在が目の前にいる、それが何よりも私たちを戦慄させていたのだろうと思う。
「我一撃を耐え抜く、さすがは光の世界に寄生せし人類。と言ったところか。」
「………!」
その邪気の中に確かに赤く光る眼光が私たちを見ていた。縦に引き裂かれたような瞳孔は視線があっただけで身の毛のよだつ危機感を私の体へと埋め込んだ。特別な術の類ではないはずだというのにまるで体が本能に従って戦闘ではなく平伏を選んで動き始めてしまうほどに。
「魔人王……っですか。」
「かように不可思議なことよ、この世界に住むものでもない貴様たちが我を見て、そして感じ取り、その恐怖を体に染み込ませていたとしてもなおも立ってその反抗的な目を向け続けるのは。」
「お褒めに預かり光栄ですわ………ですが、あいにくと負けられない理由があるだけなのです。命をかけてまで、ね。」
クリスも強張った口調でそう語る。声からは恐怖の断片が同じように滲み出ていたがそれでも必死に耐えていつものような気丈な言葉を続けている。私はそこまでの精神性はない、父の神性のおかげでおそらくかなり軽減されてはいるが、内心は相手が次行う攻撃に身を備えているだけである。
「………フッ、貴様たちはなぜ我が侵略を開始したか知っているか?」
「ハ……?」
魔人王は玉座から立ち上がると姿勢を正しながら手を仰ぎそう口にした。真っ先に疑問と驚きをまぜらせた言葉を発したのはクリスであった。なぜ今、そんなことを言うのか、なぜ今そんなことを話し始めるのか理解ができないのだ。そしてそれは私も同じだった
「我ら魔人族はその昔に、神々によって封印された。此度から途方もない昔である。そしてこの暗黒の世界で絶え間ない内乱を繰り広げ続けた、何千、何億もの同胞が同胞の手によって殺された。その身に宿る殺気を抑えることもできずただただ世界の意のままに、戦闘本能のままに戦い続けたのだ。」
「それが………っ!?」
「それがなぜ自分たちに、思っただろう小娘。その通りだ、我々は貴様には、貴様たちにはなんの恨みも、復讐も考えてはいない。だが好みに宿っているのは果てしなき闘争だけだ。我がこの世界を平伏させ全ての魔人の王となりしばらくがたった、王とはなんなのか?王とはすなわち全てを従えるものである。ゆえに、貴様たちの世界をもらうと宣言した!」
「───それにしては、随分とお粗末な進行作戦でしたね!全くもって、戦略性がありませんでした!!」
「なぜ貴様たちを潰すのに本気にならねばならんのだ?」
(やっぱり本気じゃなかった……ッ!)
魔人王は余りある力を保有しているというのに、なぜこうも私たちが苦しむような戦い方ばかりするのか、それは心を折るような戦い方であり、それはまるでチェス盤の上の杞憂のような動きである、こちらの手を確かめるようにこちらの動きを確かめるように、そんな観測的な動きを常時感じ取っていた理由が今明らかになった。
「────傲慢な、考え方ですね…ッ」
「王は傲慢である。そしてこの世界の何人より自由な存在である。」
「まさか、私が知っている王は誰よりも傲慢でなく、誰よりも幸せではなく、誰よりも苦しんでいる者です。決して貴方のような全を統べる者ではありません。統べるだけならそれこそ力しか持たない怪物にでもできる芸当なのですよ!!」
「それは貴様たちの世界のルールだ。ゆえに貴様たちがこの世界に入り込み、我を打ち倒しこのこの世界に争いなき秩序という名の世界に反した混沌を作り出すというのなら、我は貴様たちを王として廃棄しなければならない。」
話が終わりがらりと雰囲気を変えた魔人王から邪気が溢れ出す。部屋の一部に滞留していた邪気はその全てが固有の石を手に入れたかのように部屋に広がり、空間をあっという間に支配した。
「なんたる邪気!!!」
「力、その全てを手にしたわが手の中で苦しみ朽ち果てるが良いッ!!」
(くるっ!)
魔人王が手を再び掲げると邪気が覆った地面から槍のような鋭い針が下から次出てきた。その塊は紛れもなく魔人王の邪気によって生み出された代物であり神性を纏った刀で切り伏せるたびにその感触は独特なもので削ったような気持ちはなかった。
(千分の一しか削れていないようなッ!)
空中で方向を転換させ、真っ直ぐ近接戦に持っていくように魔人王へと接近する。安全地帯から後方で攻撃を飛ばすよりもはるかに近接に持って行ったほうが良いと、自分の直感を信じることにした。
「フ!!」
「ッ剣を!!?」
魔人王は一瞬のうちに剣を邪気によって作り出しそれで私の刀の一撃を最も簡単に弾き返す。近接戦を仕掛けておきながら、それを最も簡単に弾き返される現実を飲み込みつつその場で連撃を繰り出すも、それすらも最小限の動きで弾き返される。
「それが貴様の得意か、ハ!!」
次はこちらの番と言わんばかりにもう一振りの大剣を取り出し二刀流にして前へ前へとそれを軽々と振り回しながら私の攻めを一転して防御へと変わらせた。邪気を纏った二振りは絶え間なく私の刀へを襲い続ける。重い一撃を感じるあと間も無く次の一撃が飛んでくる、そんなことを続けられて仕舞えば私の防御は確実に剥ぎ落とされていく。
「っまず!」
防御から防御に切り替わる隙を狙われた弾き飛ばして私の剣筋は天へと向けられた。胴体の部分が明らかにガラ空きになったのだ。そしてそこへ魔人王の大剣がゆっくり突き進んでくる、
「させません!!」
しかしその間に割り込んだのは超高密度の魔術式によって編まれた防御魔術であった。魔人王の攻撃を一秒でも防ぎ切ることができたその攻撃に助けられた私は逆に防御魔術によって挟まれた魔人王の剣を真正面から突きで弾き飛ばす。
(純粋なパワー負けをしていたとして、こっちにも分がある!!)
「ほうっ。」
「多重術式─────爵炎不死鳥ッ!!!」
クリスの火の弓から放てられた不死鳥を模った炎の矢は真っ直ぐ道中の邪気を葬り去りながら魔人王へと突き進んでいた。
「かようはな炎では我衣を履き払うことすら能わずッ!!!」
魔人王は邪気の渦巻きを手のひらから作り出しクリスの渾身の魔術を一瞬にして取り込むと同時に無効化させた。そして代わりにもう片方の手にはクリスの不死鳥に邪気を存分に纏わせ汚染させた大鳥が顕現しており、それを代わってこちらに向けて放った。
紫電と紫炎を纏った怪鳥が全てを飲み込みながら突き進む中、私はそっと刀を鞘にしまい抜刀術の構えに切り替わる。
「─────ヤタノカガミ!!!」
燃え盛る豪炎の核を撫でるように狙い穿ち、同じ事象を持つものをそのままそっくり魔人王へと跳ね返す。
「!」
魔人王はただの一振りでそれをやられたことに心底驚いたのか、防御する意図守るなく私の跳ね返した自身の攻撃に真正面からくらい紫色の雷、そして炎が全身の衣服へと広がっていった。
「ラナさん今のは!」
「まぐれだけどね、手数は隠しておくに限るから!」
「味方から騙すとは、さすがですね!」
「─────フッ」
魔人王が手を振り広げると炎は従うように消失していった。魔人王の邪気の衣は炎によってその大部分が焼き落ちはしたものの、その身は決して傷つきはしていない、万全を語るかのように手を開いて閉じてを繰り返すとじっと私の方を見つめてきた。
「神の残滓を受け継ぎ者、それだけではあるまいよな……貴様のようなものは初めてみた。だからこそ、興が乗る!!」




