141話「大召喚」
お父様を連れて後方まで戻った私はそこでクリスと合流した。プリエルが先んじて召喚獣でクリスにことの事態を説明してくれていたらしい、おかげでクリスも万全な心持ちで私たちを待ち構えてくれていた。
「ラナさん!お父様の容体は?!」
「かなり疲弊している!断続的に回復魔術をかけない限りは!」
再会の喜びをする暇なくことを伝える私とクリス、共にこれからどうするべきかの相談を織り交ぜようとしている時、父は無理な体でゆっくりと体を起こし始めた。
「お父様、無理をしないでください!」
「いいや、しないといけない。このままじゃ負ける……」
ひとまず体を地面へと横たわらせていた父はそのまま立ち上がり、私の助けを不要とそっと手を出した。本人なりの意地に近いその行動は私から見たら心配で仕方なかったが父の言葉を信じる他には何もなかった、父の言うようにこの戦いは負ける可能性が高いのだから。
「だがまだチャンスはある。そのためにプリエルが必要だったんだ。」
「うちのプリエルがですか?」
指名されたプリエルは困惑していた。もちろんそれはクリスもだ。父は何かまだ隠し手を持っているのだと私はそれとなく察したのだがそれにしてもなんだか嫌な予感がずっと脳で響いてくるような違和感があった。
「彼女の召喚魔法は触媒とマナさえあれば、なんでも呼べる?そうだろう?」
「それは、はい!」
プリエルが自信満々に答え、それを聞いた父は安堵しながら目を目を細めて次の言葉をグッと口にした。
「なら私の勇者の武器を使ってかつての担い手を召喚しろ。」
「え?」
「お父様、それは!?」
何も理解が追いつかない中私はそれが父の身をさらに追い込むこととわかっていた。だからこそ口を出さずにはいられなかった、今の父はおそらく残りの神性でなんとか"致命傷"ではない状態にいるだけなのだ、そこからさらに神性を抜き取った場合どうなるかなど火を見るより明らかだった。
「賭けになるだろうな……」
「そうではありません!なぜそんなことを!」
「今戦場には戦力が足りていない。私のようにもうフルで力を使える人が残っていない。なら一途の望みにかけることは決して変じゃない。」
「ですが、賭けというのは!召喚できないこともあるのでしょう!?」
「やってみなければわからないさ。だがこのまま私のために他の人が犠牲になるなんてことは自分自身が許さないだけだ。」
「─────」
立ち上がった父を見てその決意は変えられないものだと理解する。そうとなれば私が書ける言葉もう何も残っていないのだ。
「プリエル、準備をしなさない。命令です。」
「わ、わかりました!!」
クリスの言葉を聞いてプリエルは慌てて大型の召喚陣を描き始める。そしてクリスは最後の意思確認をするかのように父に近づき、真っ当な顔でこういった。
「お父様に遺言は?」
「ない。そもそも死ぬつもりなんてない……致命傷でも万が一で助かるのが世の中の不思議っていうものだからな。」
「ラナさん…には?」
「………ラナ。」
「!」
「必ず帰ってくる。だからそう悲しそうな顔をするな、私はせめて君たちの目の前で死ねることを少しは嬉しく思っているんだ。誰も看取ってくれないなんてのは悲しいからな。」
「本当に、本当に帰ってくるんですよね!」
「帰ってくる。だからこれは、、その証だ。」
父の手が私の肩にそっと乗せられるとそこから金色の光を宿した力が流れ始める。父の中にある何かがなくなり私に宿った時私の服装はより1段階、神性を纏ったものに変わる。そして父から渡されたそれがなんなのかをすぐに理解した。
「お父様の、神性!」
「成人祝いも渡していなかったんだ。持っていきなさい、これで自分のなすべきことを。」
私の背には父がいつも構えていた槍達が従うように寄り添っている。そして自らの力を手渡した父はゆっくりとその手を離していき、再び地面に仰向けで倒れそうになった。しかしそれをクリスが受け止めて私に合図を送った。
「お父様のことはお任せください。ラナさん、貴方は託されたのです。ならそれに見合うように動かなければなりません──それが、決意というものです!」
「………わかった。お父様、ラナ・プラノード行ってきます。」
「あぁ、無事に帰ってきなさい。」
私は三人に背を向けて新たな力をその背に宿して飛び立った。父がいつもやっているみたいに、数回空中を蹴飛ばしただけですぐに飛べるようになった、体がふわっと軽くなると同時に真っ直ぐ造られる空気の流れ道に肉体が乗るようなそんな感覚だった。父が私の背を押してくれるように私も使い始めた力をまるで最初からあったかのように使える。
そんな恩恵を感じながら体を真っ直ぐ空を飛び仲間達が戦う激戦区域へと全速力で駆け出した。
<──|||──>
「さて、私たちもやりましょうか。」
「悪いな。」
「いいえ、ラナさんのお父様は私のお父様より何倍も凄いお方ですから。」
「それは、過大評価って奴なのでは?」
「まさか、他ならぬお父様からそう言われていましたので。」
「…………。」
ラナさんのお父様はそう私が口にすると全くやれやれみたいな顔をしていました。私のお父様が案外気に入ってくださっていることを知らなかったように。私は肩を貸してあげて召喚陣の中心へと横たわらせてあげました。
「ありがとう……」
「いいえ、それより勇者の武器は体の中にあるといっていましたが、使えるのですか?」
「一時的にな。もっともようやく最近ってところだ、使ってみて彼らがどれほど難しいことをやっていたのかわかったつもりだ。」
「彼らというのは、前任の?」
「あぁ、天馬はその辺り話さなかったか?」
「えぇまぁ。」
「そうだろうな、だが私も今更死者の墓荒らしをしたい気持ちもない。本人達はあの戦争で戦ってそして何も悲惨な死に方をした。」
「……呼びかけに応じてくれますかね?」
「くれるさ。だからわざわざ意思まで少し残しておいたんだ……未練がましいだけだっのがこんなところで役立つとは。」
「────そんなことをしていたのですか!?」
「おかげで使えそうだ。全く見知らぬの勇者じゃなくてあいつらなら。」
「クリス様!」
プリエルが準備をできたという声をかけてくれました。いよいよというところで私はなんとなく覚悟ができておらず、ラナさんのお父様と何か一つだけ会話をしようと思いました。
「ラナさんのためにも、抜き取ったあとのカバーリングはお任せください。」
「あぁ、でももし召喚されてきたやつがその代わりを務まるのなら君はラナのところに行ったほうがいい。私以上にラナは大切な人ができたようだしな。」
「なっ!?」
不意に見透かされるような言葉が飛んできてしまい珍しく私は驚いてしまった。何よりラナさんのお父様からそう言われてしまいましたのでなんというかすごく複雑な気持ちでした。
「………その、いつから?」
「なんとなくだ。きっと天馬も気づいている。」
それはもっと複雑だと私は思いました。相手方の父親に知られるならまだしも自分の恋心を父親に知られるのはもっとも反応に困るのです。
「────あの、変だとか思われないのですか?」
「…珍しいくらいだ。ラナだって君の気持ちを受け止めてくれるはずだ。だから──そうだな、母親の方はわからないけど父親の私としては、ラナを頼む。」
「……はい!お任せください!!ラナさんは必ず!」
「時間だ。プリエルの手伝いを頼む。」
そういってラナさんのお父様は目を瞑りました。同時にプリエルの召喚陣が眩く光り始める。大量の神性をその身に宿した存在の一部を触媒に使うのだから召喚陣も呼応するようにそのクラスのものへと引き上げられる。プリエルは困惑しつつも自分にできることを精一杯やるように、両手で陣に触れて必要分のマナを注ぎ続ける。
「っぐぅ……ぁ!!」
「プリエル!」
プリエルの顔色が一気に青ざめたことを見て私も自身の術式を発動する。プリエルにマナ切れが起こった時ように私の魔術回路から出されるエネルギーをマナに変換する術式である。
そして私もその負担を肩代わりするように両手を地面につけると、肉体、もしくは魂ごと引っ張られるようなものすごい感覚に陥る。
「こ、れは………!」
両方に重い金属をのしかけられている時のような重圧が私を襲った。貧血で倒れそうになっていた時の視界が歪む感じ体の血流の一つに至るまでが鈍って止まっていく感じ、すぐに頭痛が止まらない感じに切り替わっていく。はっきりいって気持ち悪い。けれども私は自分自身の意地としてこれを行わなければならない。
「はあああぁぁぁぁ!!!」
自分の肉体から気力と多くの力が奪われていく時間が数分にわたって続き、そして頭が朦朧とする中で私は意識だけを目覚めさせた。
(しょ、うかんは?)
疲弊しきった私に誰かが近づいてくるような気がした。その人がそっと何かを口ずさむと体の重さは一気に消えてなくなった意識もハッキリとして、私はすぐに状況を確認しようと立ちあがろうとするもの。
「今は起きなくて大丈夫。しばらくそのままでいて、」
「貴方───いえ、貴方達は?」
「………ら、ゼルの友達、かな。」




