140話「最後と始まりの光」
「我が配下たちよ。よくぞ時間を稼いでくれたな。貴様達の栄光、貴様達の力の軌跡は───この魔人王がいただく!!」
天に浮かぶその球体には魔人王ナルバゴルドの力がこれでもかと集められた極光が積み重なっていた。光を放ちながらその色は黒く、この世にある存在を粒子レベルであっても消滅させる一撃である。勇王ナリタテンマが断ち切った極光、それの数百倍にも及ぶ力が加えられていた。魔人王はそれを残りの反抗勢力に向けて撃とうとしていた。
そもそも部下の命など彼は考えてはいない、王というのは力の象徴である、民の象徴ではない故に力を持ち、力を見せ、力を表すことにこそその意義が生まれるのだ。力無き者は王にあらず。すなわち力を示し力で全てをねじ伏せることが王の役割である。
魔人王はただそれを表すための器、魔人王は常勝不敗を表す冠。
「我の力の半分を持っていったことには感謝しよう。此度は数千年使わなかった力を使う、いい宴となった、だが────2度はない。もう貴様らのような価値のない存在にようは無くなった。」
道化は面白いうちが道化である。だが面白くなくなればそれはただのカカシも同然。そんなものをいつまでも見続けるなんて、それは余程の阿呆であるに違いないのだ。それ故に廃棄することを決めた、そしてナルバゴルドはその面白かった証に力の半分を使った一撃を放つのだ。
「この数千年で1番我を喜ばした。褒めて遣わすぞ────人類よ。」
魔人王の5本の指がゆっくりと握られる時、黒く光る極光はその空間を抉り取るような勢いで城から放たれた。それは巨大な吸引ボールが豪速球と共に放たれたように一瞬であった。
そしてその一瞬をすぐに察知したのはこの魔人族という生物に1番正反対の位置にいるゼルであった。
「!」
ゼルは魔人王が何をしでかそうとしているのかなんとなく予測していた。だがその予測はある意味行動までである、極光のサイズ、その力の大きさを確実に図る術はなかった。だから気づいた瞬間驚いたわけでもあり気づいた瞬間1番近くにいる大切な存在のためにすぐに上空へと飛び立った。
「お父様────」
娘の声が遠く感じつつもゼルは止まらなかった。向かってきている極光はクリスが砂漠にした一帯を丸々覆い尽くすほど強大であり当の着弾中心点にいたのなら空が急に暗くなったと思い夜の始まりかと錯覚してしまうほど大きく、ゼルが知っている言葉で表すのなら恒星級の攻撃と評される物であった。ブラックホールのような性質を併せ持ち、そして当たれば瞬間に拡散するエネルギーの塊、完璧な球体の隕石と言っても過言ではない。
そんなものが空気の壁を突き破って向かってくる。撃ってからの着弾には3秒もかからない、ラナが気づいて斬るという選択肢を考えつくまでにはそれは間に合わないはずだと理解したゼルは何がなんでもこれを防ぎ切らなければならなかった。
「!!!」
己に残った神性の残滓。神の魂、そして勇者の武器達に込められた神の力をフルに活用して一世一代の勝負に出た。体を金色の光に包み込み数本の神槍の複製体を最大出力まで上げて極光に迎え打った。
─────。
形容できない空間音がその世界に鳴り響いた。魔人王が放つ一撃は間違いなく劣化した神を圧倒し倒せるほどの力があった、けれども初速を乗せた一撃をゼルは確実に防いでいた。極光はいまだに凄まじい吸引性を持ちながらゼルを取り込もうとしていた。いくらゼルであっても吸い込まれて同化してしまえば対策のしようがない。肉体の末端から粒子状に肉体が削り取られる感覚を覚えながら真下にいる娘、そしてその仲間達の生存を第一に考える形で力を使い果たすつもりで挑んのだ。
数百のプラズマが激突の間に流れ、相反する力同士が反発を起こして空間を一時的に何度も歪め、その電波は地上の砂漠へと移った。まるで海の満ち引きが起こるかのように常に流体し続ける砂達、それを肌で感じるラナとその周りの仲間達は今目の前で起こっている超常現象に理解が追いつかなかった、ただラナだけは父が何をしでかそうとしているのか、その先にある自己犠牲に近いダメージを娘として感じ取っていた。
「お父様──────!!!」
叫びが届いたのか、届かなかったのか。空間断裂が今にも起きそうな歪みと軋みがそこらじゅうから聞こえる中、極光は1人の神を宿した男の全力を持って受け止められそして時間が止まったような波動と共に消失した。
止まった時間が流れ出すようにまるで激流の絵画のごとく止まっていた流砂は音が後からやってくるようにゆっくりと重力を正しくましたへと流れていった。サラサラと音を鳴らしながら砂が地面に流れる音が聞こえた時、真っ先に状況を把握して飛び出したのはラナだった。
誰もが事象に注目していた中、彼女だけは自らの力を限界まで行使してその結果ボロボロで空から落ちてくる父の姿を見つけていたのである。自由落下で、真っ逆さまに落ちていく父をすぐにでも両手で受け止めるようにラナは自身の脚力を全開に高く跳躍して父の落下速度との相対速度を直感で合わせきり、その御体を丁寧に受け止めた。
「お父様────…」
ラナの息が詰まったその瞬間、ゼルは小さく咳払いをして目を覚ました。全身の至る所は焼けこげているかのように赤黒くなっており奪われた皮膚と血肉からは鉄分の匂いが絶え間なく漂っていた。
「大丈夫だ。──言っただろう?」
「っはい!」
ラナは目尻に涙粒を浮かばせながら、地上へと着地した。その後すぐに駆け寄ってきたのはプリエルである、状況が飲み込めない彼女であっても目の前のところどころに大怪我をしたゼルをすぐに治療すべく、医療道具を持って駆け寄っていた。
「お父様───すぐに!!?」
ラナが父の手当てを今すぐ始めようとプリエルの手伝いに回った時だった。目の前の砂丘に大量の魔暴が姿を現した。一眼見ただけでわかる大軍勢である。
「っ抜け目のないプランをッ」
あれだけの攻撃を放った後のなのだから流石に出し惜しむかと考えたゼルであったが、その逆ですでに消耗した残党を確実に倒せるだけの戦力が目の前には用意されていた。魔人王の抜け目のなさ、いやもしかしたらゼルの奇跡にさらに高揚を高めた詫びなのかもしれない、その場にいる全員はそうとしか感じられなかった。
「プラノード、父上を連れて撤退しろ!」
「!」
そう言い飛び出したのは万全の肉体を持ったスワード・ワルツであった。その後に続くようにまだ余裕がありながら戦える仲間達が続々と全線を押し支えるように前へと出る。
「先輩!!」
しかしラナはわかっていた。全員確かに戦えはするが目の前の物量を殲滅するほどの余力は残っていない。それどころか圧倒的物量の前に回復の隙すら与えられないだろうとラナはわかっていた。けれどもそんなことは向こうもわかっているのである、その上で自分たちの命を救ってくれたラナの父であるゼルに少しでも恩返しをしたかった。
「────王剣!!!」
純粋な魔術回路を通してでのエネルギー放射を剣に乗せた一撃が遥か後方から放たれた。その一撃は目の前の魔暴の軍勢のその数百体を葬り去ることに成功したが、魔暴の勢いは止まるところを知らず数は一向に減らなかった。
「!!───おまえは、」
「心配をかけたな、もう前みたいに神聖を使ってでの攻撃はできない。でも気休め程度の戦力にはなるはずだろ!」
そこに現れたのは軽装のナリタテンマだった。その装束は今まで見た中で1番の派手さはなく、王というよりかは1人の戦士を彷彿とさせていた。
ナリタテンマを筆頭に仲間達は目の前の軍勢へと突撃を開始した。できるだけラナ達を逃すために派手な攻撃を多用していたがその実ガス欠からの足掻きのようにも見て取れる。ラナは自分の置かれている状況的にこのまま前線へ出るべきなのだろうと考えていた、けれども父を置いていけるほど戦士として完璧でもないのだ。
「すみませんっ!」
ラナは父を抱えてその場を撤退し始めた。策があるわけではない、ただ仲間達が己の肉体を費やして戦っている今の状態を放っておく方が何倍もそれは失礼だと感じたゆえの行動だった。
「……プリエル、すまない。ついてきてくれないか?」
「私ですか!?」
「あぁ、これからに、必要だ。」
ゼルが絶え絶えの息でプリエルに願うとプリエルは参戦しようとする気持ちを抑えてそのまま2人についていくことにした。この戦いはもはや負け戦に近い、魔術秘宝を温存している仲間は全員疲弊状態、敵の数は一向に減る気配はなくその戦力差はまさしく1対100の割合である。とてもじゃないが魔人王へと切り込める兆しさえない。だがそんな絶望的な状況でも彼らの目からは炎が消えた瞬間はないのだ。




