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138話「正義の傾き」





 戦わなければ生き残れない戦うことこそが自らの意義である。そう感じたのはいつからだっただろうか、私が物心ついた時には周りにいた男も女も皆戦っていた。それは文化的なものだそれは伝統的なものだ、それは法則的なものだ。その流れやその一部となっていた私にとってそれらに従うことはなんの疑問にもならなかった。それがたとえ仲間内で命を奪う行為であってもだ。

私が住んでいた村はよそからみらば特別だった、特殊ともいえよう。常に戦いの音が響き渡り実力主義の世界が広がっていた勝てば全てを手に入れ負ければ命を取られる。そんな小さな世界だというのにその村は確かな秩序で成り立っていた、繁栄していたのだ。

私の母親にあたる人物も戦いによって勝ち、そして番を手に入れて私を産んだ人物だった。私は母を優しいと感じていたがその裏にある闘争本能の高さというのは母が死んだ時に感じた。


母に勝ったものは私という存在とその母が抱えていた食料などの財産、全てを勝ち取った。そして母の命を奪った。命の奪取も、保存も全ては勝者が決めることができた。だからこそ、この村では生半可な優しさを抱いたものが負けるのではないのかと私は思っていた。


私の所有権が誰に当たったとしてもさほど関係はなかった。ただ私に愛を注いでくれた母の姿が余計に脳にチラついていたのか、私は母が殺されて自分の身分を奪われたその日に、その奪った人物を背後から刺殺した。

よほど油断していたのだろう、私の攻撃を背後から喰らった仇は狼狽えながらまるで子供のようにゆっくりとバタバタと動き始めついには静かにゆっくりと動かなくなった。


 『一度戦いに出ればその先はずっと戦わなければならない。奪ったのなら奪われる覚悟を持たなければならない。』


母がまだ何も知らない私に言ってくれたことを思い出した。そして私はその言葉を身をもって実感した、手に持った刃物と私の手についた仇血の妙に暖かく私も引き返せない世界へ誘ったことを何よりも証明していた。


そこから先のことは繰り返しだった。最年少で戦士となった私は手に持った武器がどれほど小さかろうが人を殺せる確率が低かろうが奪いにくるもの、それらを全員殺した。

母は私に敗者を生かしてほしい人になってほしかったようだが、私からすればそんな母の生き方をしていては同じように死んでしまうとわかっていた。だから村にいて私に挑戦してくる者、歯向かうものは全員殺した。奪うということは奪われる覚悟をしなければならない。


だが不思議だったのは私に殺される同胞たちの瞳は最後は怯えていたということだ。私はそのわけがよくわからなかった。


 私はいつしか村の全てを手に入れた。だが私に歯向かってくるものはいなくなった、今にして思えば私が神に見えたのだろう。神とは逆らっても敵わないもの、戦っても勝てないものだ。そういう存在と戦うくらいならまだ殺せる同胞を殺したほうがいい、そういう思考で私を除いた同胞達は互いに殺し合いを続けていた。

私の村にはリーダーという身分は存在しない、互いが同じ村というエリアにいるだけの全て赤の他人なのだ。


だから私もそれはどうということはないと放っておいた。勝って全てを手に入れた私は随分と暇な日々を送っていた退屈ではなかったがそれでも毎日同じ空を見ていることには少し嫌気がさしていた。


 そんな頃だった村に1人の男が訪ねてきた。私に挑戦したいというものだった。村の外ではこの村のルールはないそんなことを予め予想していたからか、その者は随分と戦いに飢えた者なのだろうと私は感じていた。

自らもルールの中に浸ってそうして生きてきたのにいつしか私はこれがおかしな文化だということになんとなく気付いていたからだ。


 「お前がこの村で1番強い奴か?」


 「その通りだ、外の者よ。ここへは何をしにきた?」


 「お前を打ち倒しにきた。お前を倒せばお前を奪えると知ってな。」


 「その通りだ。それこそがこの村のルールなのだから、貴様も立ち入ったからにはそれほどの覚悟があるように見える。」


その男は落ち着いていた。私と同じほどの歳くらいに見えた。私と異なった衣服を身に付け、その腰にかかった剣の鞘はまるで光のように輝いていた。


 「お前の名前は?」


 「名前などない。好きに呼ぶがいい。」


 「なら名無しだ。勝ったらもっといい名前をつけてやる。」


 「戦う前から勝つつもりとは……」


私は口ではそう言っても油断はしなかった。村の中でいちばんの強さでもおそらく村の外ではいちばんではないかもしれない。だから全身全霊を持って相手を討ち殺そうとそう覚悟をして戦いに挑んだのだ。


戦いは一瞬で勝負がついた。私が長年味合わなかった強者であった。私の攻撃をまるで一寸先を読むかのように、そのたった一つの剣で私が勝ち取ってきた武具を弾き飛ばし、そして勝負は決まった。丸腰となった私にある武器は拳と脚であるからして、それも使って抵抗もしてみせた。だがその四肢の骨はすぐさま折られ使い物にならなくなった、奴は剣を使っていたはずなのに峰打ちをするように折ったのだ。


 (格が違うのか…)


私は悟った。相手は無傷、こちらは重症。そもそも肉体的な差が違っていたのだ。技や武器に差はなくとも人に見えた相手はこの頃には何か別の生物のように私は見えていた。目の前には小人の巨人がいるかのようにも見えたのだ。


 「勝負アリだな。なんなら口で抵抗してきてもいい、だがそれだとお前と話せなくなる。」


 「………負けを認めよう。」


私は完敗した。

これほどの強者がまだいたのなら私は村を出るべきだったのかもしれない、あの途方もなく空を眺めている時間が果てし無く無駄のように感じた。だがそれもここまでだ、この者は私の凶暴さを理解したはずだこのような獣を御せると思うのならばそれこそまともな理性を持ち合わせてはいない、私はいついかなる時も自分に油断している相手を背後から刺す心得があるのだから。


 「それじゃあ、折られた腕を治すか。」


 「なに?」


男は私に近づき複雑に自ら折った腕を完璧なまでに治した。目の前で起こっている光景に理解が追いつかなかった、なぜこんなことができるのか、なぜこんなことをしたのか、疑問が後をたたなかった。


 「さて、これでお前は俺の物になったわけだけど、物って言い方もなんだし友にするか。」


 「友?それは、なんだ?」


 「知らないのか?互いに競い合って傷つけあって、離れて、寄っての仲間だ!!」


その男、ナリタテンマはそう言って私を村から連れ出した。私はその日から村の外に出た戦いに明け暮れていた人生はこうして幕を終え、そして私は戦うこと以外にも大切な物を思い出した、初めはそうだった。だがいつのまにか忘れていた、母が私に託していた願いは優しい人間になることではなかったのだ、自分そして自分が抱えている大切なものをどんな脅威からも守り切る人間になれることだった。


 そして私は今同胞のために武器を奮って悪鬼と戦っている。鋭い拳がなん度も頬を掠め皮膚の一部を抉り取っていく、神速の一撃は風の刃を纏い、電気を帯び私の肉体を少しずつ蝕んでいた。擦り傷と焼け傷が少しずつ増えていった。


 「どうした!!動きが鈍くなっているぞ!!先ほどの口数はどうした強者!!」


 「言われるまでもなくここからが本番よ!!」


戦っている間血に飢えた敵の姿を見るたびに昔の自分を思い出す。昔の自分もこうだったのかと、ただ武力を奮って最後に勝てば何も問題はなく、この者が言う通り勝つことが全て勝つことが正義の人生を送っていたのかと、そう思うと決して負けられないと思ってしまう。


自分を証明したいなど、村を出て初めて感じた感情だった。誰にも求められず誰にも戦いに終われない人生は自由ではあったがやはり私は戦場という舞台がいちばん似合っているのだと思う。文学に励み、敵を圧する技術と言葉を学んでも私は平和に染まらないただ1人の男であった。


 「魔術秘宝───千武常勝」


 「くるかっ!!」


魔人が腕を固め、紫電をこれでもかと溢れさせる。空から落ちる落雷の大きな一つがその腕に込められると同時に真っ黒な光がその拳の先から放たれる。私は背中に背負っていた武器の数々を見えない手で持ち、必殺の二刀をその腕で構えた。あのナリタテンマが行ったことを今の私にならばできるはずだった。


 「「いざッ!!」」


魔術、特殊な神力も持ち得ない。ただ自らの技量が形となった力、それをオーラという。

私があの村で培った力、その唯一のものであるもっとも神力ほど強くなく魔術ほど万能ではない。純粋な生命力をそのまま力として引き出す。


常人がやれば消費に体が追いつかない。だがこの戦いで培われてきた肉体はその全てを理解している。だからあの真っ黒な光に向かって突き進む。


 「オォオオオオオオオオ────!!!!」


黒雷はその一つ一つが繊維のように細くそしてそれらが針のように鋭い近づいてすぐに気づいた。それらを全て切り伏せる。体が多少犠牲になろうとも構わなかった。ただ自らの過去の自分を打ち砕くが如く私は突き進んでいった。


 「!!」


見えない手に握られた武器は全て消失した。けれども両手に握られた二振りの武器はいまだに健在で、黒雷を超えて魔人へと目前に近づけた。


 「────見事だぁぁぁぁぁぁ!!!!」


そう叫びながら魔人族は満足そうにその身を私に切り刻まれた。その鍛え抜かれ戦いのために用意された洗礼された肉体は私の刃によって血に落ちたのだ。残るのは醜い肉の塊だった。


 「がっ。ハハハ、、見事だ強者貴様が正義だ。正義なのだ。」


 「残念だが、私は正義ではない。勝つことが私の正義ではないからだ。」


 「ハ、ッ………勝ってなお吐き捨てるかぁ。それは、なん度も惜しいな……俺もそこに──。」


魔人族は満足そうな声で散っていった。風がそこにある全てを持っていったのだ、そこには私の過去のような力と奪うことが全ての精神を持った生物はいなかった。どこにもいなくなったのだ。


 (……少し休むとするか。オーラはよく消費する)


二振りを地面に落とし地面へと座り込んだ。この戦場ではまだ敵がいる、それらを殲滅しなければいけないのだが。


 「怪我人は動くなか。そういうだろうな、スワードは」


そう言って私は周囲を警戒しながら迎えがくるのを待った。待つことにはなれている。


 「今宵の大空は随分と退屈だな。」




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