136話「プレイコーズ」
その魔人族の動きは素早かった。風の音が聞こえるよりも先に鋭い爪が私の防御を崩そうと何重にも重なって見えた。薄いところと厚いところ、その差が前後感の唯一の証明でありそれを手掛かりにしなければ私の顔面はとっくにブロック状に切り刻まれていただろう。
「っ!」
動体視力が敵を追うよりも先に自分の肉体が反射を起こして対応する。何が起こっているかの把握ができない自分の頭では今のところ体が信頼できる相方だ。しかしそれでも限界が存在するのだから、私は押しのけられる。
「っあ!」
「ラナッ!!」
魔人族の背後を的確に追従していた父の槍達がのけぞいた私の隙を埋めるように敵の攻撃との間に差し込まれる。金属同士がぶち当たるするどい音が響くも相手の爪がその槍を粉砕する方が一瞬であった。
「サモンッ!」
そして槍が砕けた穴を埋めるように地面からプリエルが召喚したロックゴーレムが姿を現す。岩岩として分裂状態のゴーレムは魔人にまとわりつくような形で体全身を使って封印を施すと、それも一秒と持たずバラバラに細切れにされて脱出された。
空中は浮かぶも即座に勢いをつけて私にぶつかってくるその姿は奇妙で他ならなかった。肉体の輪郭はぼやけていて赤い瞳とそこから感じる明確な殺意だけが私を常ににらませる。
そしてそんなボヤけた残像にはいくら素早い攻撃も防御もカウンターも意味をなさない。
「真・ライキリ────!!」
雷を纏った刀身が確実に肉体に差し込まれたと錯覚した時には的は既に私の背後を取っていた。それもなんとなく予測できていた私は敵の攻撃が自分の頭に向いていると考え、すぐさま刀を逆手持ちに切り替えて背後を守る。
「ヤマト!!!」
手応えを感じて初めて発動可能な抜刀術、相手がこちらの刃に触れた瞬間肉体がほぼオートカウンターのように動いて相手が逃れるよりも早く切りつけられる。だがそれすらも相手はゆっくりと感じているのかこちらの攻撃よりも早く相手の残像は消え失せていた。倒した手応えがないことから、切りつけた残像はただの残像でしかないと理解する。
「っ!」
「ラナに集まれ!」
「はい!」
父が駆け寄ると同時にプリエルも私の背後に回る。三人が別々の方向を見ながら敵がいつ仕掛けてくるかに集中力と神経を使っている、見えずそして相手は私の最速技よりも速い。当然それなら父とプリエルが確実に捉えられるわけもなく、私たちはこの魔人に苦戦を強いられていた。
(プレイコーズ、あの時とは違う。速さと力が上がっている!)
何回かに分けて戦ったプレイコーズは紛れもなく神速であり、その爪の鋭さはどんなものにも負けぬほどであった。だが今はその存在自体が、その存在のものが違うように見えて仕方がない。言ってしまえば神にでもなったつもりなのだろうかと、訝しんでしまうほどだ。
「速いな。今まで戦ったどんな敵よりもだ。」
「罠やおびき寄せにも効果はありませんでした。おそらく動きの次元が違いすぎてこちらの動き一つ一つを理解して動いているのでしょう。」
「速度を完全に扱い切っているってことか。厄介だな。」
プレイコーズの気配を感じることはできなくはないが、頭の中で具体的な位置を想像するとなるとそれはダメである。魔術探知は相手の明確な座標まで脳に乗せることができるがプレイコーズがあまりの速度で動き回るのならそれは頭の座標でとんでもない速度で赤い点が動き回っていることなので脳に情報処理的な負荷をかけかねない。そしてプレイコーズは間違いなくその隙をつぶしにかかってくるだろう。
「感覚ですか。」
「あぁ、だがこっちも考えがないわけじゃない。プレイコーズを上回る速度で確実に捉えればいいだけだ。時間稼ぎを頼む。」
そう言うと父は片手に持っていた槍を形状変化させ長銃の形へと変える。今まで見たことのない父の行動に呆然としていながら私はプレイコーズがそんな父に攻撃できないように気配で敵の位置をなんとなく感じ取り続ける。
「ジャッジ───パイルショット!!」
銃声と同時に黒い弾丸が正面へと打ち出される。そしてその弾丸はあろうことか途中で急速的な方向転換を交えて、斜めの方向へと飛んだ。そして弾丸の先を見てみれば姿を消していたプレイコーズの残像が確かに見え始めた。
「必中の弾丸だ。今の奴はただ速いだけになっている。ラナ!!」
「はいッ!」
場所がわかって速いだけならなんとでもなる。それが神速だろうとそれが光速だろうと決して関係ない。一度とらえることができたのならあとは真正面から切り伏せる。
「プラノード抜刀術────」
敵と刀がどれだけ離れていても関係はない。相手に必ず当たる技。それが
「───フツノミタマ!!」
残像とモヤによって消して捉えることができなかった。プレイコーズの肉体を裂く音が聞こえる。残像として何重にも重なって見えていたプレイコーズは自身の肉体が傷つけられたと知ると動きが一瞬硬直した、どんな生物もそんな敵も、意熱海があるその体にやい場が突き刺さったとなれば動きを止める。私のやるべきことはここまでだ、決して致命傷につながらなくても後ろをついてまわる凶弾が確実に奴の魂を奪う。
「が────っ!?!!!」
心臓部分が撃ち抜かれたプレイコーズはそのまま続くように動きが止まる。そこへプリエルの召喚獣が襲いかかる。鋭い爪を持った狼型の魔獣がプレイコーズの首を跳ね飛ばすほどの鋭い一撃を放つ。
神速とも感じられるほど早い魔人の命は慢心と油断によって刈り取られた。




