134話「正義の介入」
スワードとアルシュドが前に出て敵を叩き潰している間に私はクランクドラインに向けて無数の矢を放つ。速射から強射まで変幻自在の速度と火力を打ち出すことができるのが私の強みであり、そこに風の魔法をつけることによってさらに変則的で追尾性の高い一撃になる。
「不快めっ」
一回の掃射ではなく段階的な複数の攻撃によって相手の思考をさらに埋めていく。こと全体を見通して指揮をしなければならないのであればこの方法が最も集中力を削ぐ行為だ。私の遠くまで見える目に映るクランクドラインの表情は明らかにイラついていた。
そしてその低下した指揮や隙のある戦術を砕くようにスワードとアルシュドは全面的な暴力で突破していく。クランクドラインが使役する魔人族はその精神的、肉体的バックアップがなければ幼ない子供のような幼稚な戦闘しかできない。やはりと思った通り、この混沌とした大地では戦闘能力が上下格差を生む、それゆえに力を持たないものはとことん持たないという上と下の差はかなりある。それを帳消しにできるのがクランクドラインなのだ。
だがこの戦場において彼の力は私が削いでいる。
(このまま押し切る!)
矢を強く引き絞った時だった。紫色の雷がピンポイントで私の真下へと落ちてきた、反応するも間も無く私の肉体は雷にやられて帯電を帯びながら高熱で焼かれた。
「っか……!?」
雷程度で完璧に打ちのめされたりしないが故に、痛みがダイレクトである。こればかりは即死しない装備の優秀さを呪うと同時にあまりの出来すぎた現象に膝をつきながら一息吐こうとした時。
「卑怯だな。後ろから撃っているだけなんてものは、だがそれは奴にも言える。だからこそ気に入らない!!」
「っ!!」
鋭い痛みが自分の脳を揺らした。瞬きの間で視界が一瞬くらくなるのと同じように私の目はパチパチと白黒が反転したように見えた、そして後からやってくる衝撃に体は引っ張られ肉体はそのまま地面へとダイブして転がる。
「ぁ……ッ」
刺客だ。今の雷は攻撃ではなく移動の一環で起こった現象。まんまと背後を取られた挙句頭にまずい一撃を喰らったと朦朧としかける意識の中で自己分析する。
「頑丈だな。それともまだ俺の力が完全ではないからか?まぁどちらにしても正義ではない貴様を殺すほかないッ!」
「!」
魔術秘宝の発動が間に合わないと理解した時には死を覚悟して目を瞑った。だが遅れてやってくる音は金属同士がぶつかり合い、驚きのため息を漏らす刺客の方だった。
「おまぇっ?」
「遅れて申し訳ない。謝罪の詫びに私と一戦交えていかないか?雷を操りし残骸よ!」
刺客の拳を弾き飛ばしたのはアルシュドであった。両手にアンバランスな武器を構えたまま、私を守るかのように間に立ち塞がっている、いつも何を言っているかわからない奴だと勝手に認識していたけれども今ばかりはこれほど心強いことはなかった。
「なんだお前?もしかして俺の波動を邪魔する、悪か?」
「悪?それは貴様たちの方である与えられた生命を戦いにしか使えず誰かを傷つけるためだけに存在する悪鬼羅刹、それが貴様たちである、それがあってはならない存在である。故に私から見れば貴様たちこそが世界の悪なのだ!外道!!」
アルシュドは楽しむように激昂し、その刺客へと迫っていく。対して刺客もそのアルシュドの言葉をなんとなく理解したのか、それとも求めていた答えを得られたのか、笑いながら拳を振るって2人の凶戦士達の戦いが始まった。体を魔法でなんとか治しながら立ち上がりつつ、私はアルシュドと刺客が繰り広げる戦いに介入できずにいた。
「いいぞ、高めろ!貴様は悪だ!俺が決めた!!」
「その頭蓋をいただくぞ、魔人族!!」
「────っスワード!」
私はいまだ戦うスワードの方を向いた。援護がないスワードはただ1人複数の敵から滅多うちにされつつ持ち前の超回復をフルに生かした脳筋的な戦い方をしていた。それはまさしく死なない巨獣が小人に囲まれても必死に暴れ回っているが如くであった。だが同時にそれはスワードの消耗が激しいことを表す。
「魔術秘宝───天撃射絶!!」
腕を一回指で滑らせ、固有名詞を唱えてスワードを囲む大群に標的を合わす。十分に引きつけた矢をまっすぐに放ち、その先にいるクランクドラインもを穿った。それを一瞬で理解したスワードはすぐに離脱する。
矢は進むほど速度を増して一つの光となって、一つの極光となってそして質量的な塊となった。触れれば全てを消し飛ばすほどの威力であり、同時に螺旋的な吸引力を生み出していた、近くにあるものを吸い寄せ先端はドリルのようになりどんな敵の肉体も削り穿つ矢となった。
「っ!?」
それを間近にしたクランクドラインは勢いに吸い込まれ肉体をバラバラにされた挙句そのドリルで頭部を無惨にも貫かれ死んだ。あっけないものではあるが、これが魔術秘宝の一撃必殺であることには変わりはなかった。
「よしっ!─────げほ、」
「パリス、無理をしすぎだ!」
「どっちが───早くそのボロボロの腕を直せばいいでしょう?」
「お前が先だ。」
スワードは肘から先をもぎ取られた腕を直しながら治癒魔術で私の肉体を癒し始めた。私たちの方はそこそこ重症だ。魔術秘宝を使った後の肉体へかかる負荷というのは予想していたよりも大きい。まさしく全身全霊の一撃だ、これを魔人王に撃てなかったことは悔やまれるけれども後ろを走る仲間に貢献できたのならまだいいと思う。
「離脱する。」
「アルシュドが、」
「奴なら勝つ。問題は次の戦いまでに私たちは可能な限り万全にしておくことだ。」
それはそうなのだがスワードの表情はすごく悔しそうである。彼女は治療が第一目標なので、魔人王討伐はいいとこ第二目標だ、だからこそここの戦場からいち早く離脱して回復に徹する。まさしく戦うものではなく名医の診断だったと思いながら肩を貸してもらい、大きくジャンプする。
「アルシュド、まけないでよね。」
仲間の身を案じる言葉を言いながら。




