133話「立ちはだかる壁」
砂漠を少数精鋭で移動する私たちはまさしく格好の的だろう。遮るものはほとんどなくただただ平たい砂漠の大地だけが先にも後にも続くこの幅広い空間はある意味戦いを予感させるには十分なはずだった。
ドンっと砂柱が立ち上る爆発音が背後で連続的に起こった時、私たちは奇襲にあったとすぐさま理解した。各々が回避行動をとりながら進めるところまで前進し続ける、あらかじめそういう風に作戦を立てていたおかげで全員ここでも同様はしなかった。ただ目前から何かが音を掻き切って現れた時だけはその場の全員が各々防御回避行動をとっていた。
ドゥバァン!
私たちのいた地点に大きな爆発が巻き起こり、砂を吹き飛ばすと同時にその場所に爆炎を巻き起こした。何かの投擲であることはなんとなく読めたがそれがなんなのか気にするよりも先に刀に手を置いて二撃目を弾き飛ばす井合をしておく。
「!」
───ギギギッ!ダァン!
刀が投擲物を明確に切り伏せる金切り音が耳に聞こえ、二つに割れたその物体を後方へと送る。直撃に比べれば背後で起こる二つの小爆発など大したことではなく、周りに散会していた私の仲間達も送られてきた攻撃を難なくいなしていた。そして全員が足を止めたことが合図になって、私たちの進行は停止した。
「敵襲!!」
そう言った時には目の前には飛来してくる攻撃達、力任せの質量兵器の投擲、その先にいるのは言わずもがな魔人達であった、そこに魔暴は存在しない。今までのような数合わせの戦力ではなく、魔神族だけで構成された戦隊であった。
(敵もこっちのことをわかってやってきた!)
「総員!ある程度の距離を保ちつつ、一点突破!」
第二号令が私の口から発せられると、仲間達は一定の距離を確実に取りつつ目前から迫ってくる魔人族を葬りながら前進していく。進行速度は思ったより早い全員ここが全力を尽くす場所だとわかっているからだ。
「奴だ……あの人間を狙え!」
そう叫ぶのは全体の指揮をとっているであろうクランクドラインの命令だった。口元を得意に歪ませてこちらをまっすぐ見据えている。こと戦術式に特化した魔神族の一人であり、あのベルギクルゼを生み出した得意な力を持つ。その知識が引き出されたところで魔人族達の動き、そして目の色が変わった気がした、バラバラであった大群が私の方へと一斉に向けられる。
「!」
フィフィィ!!
緑の閃光が身構える私の背後から前面へと放たれる。枝分かれする矢はそれぞれが鋭い質量を用いて目の前の魔人族のウィークポイントである頭部を一撃で粉砕していく。そう圧倒されて振り返ると同時に両手と背に武器を備えた影が切り抜けていった。
「行け。」
「行けプラノード!」
「プラノード、ここは私とアルシュドとスワードが引き受けるから、行って!」
「わ、わかりました!」
パリス・アイネリア先輩とアルシュド・オルバルス先輩、そしてスワード・ワルツ先輩のアドリブ的な言葉であった。今はここを切り抜けて本陣へと突撃することが第一目標である以上、多少戦力を割いて突破することは合理的。そう理解すると残りの仲間を引き連れて私は二人の先輩達の援護を受けて大群を抜けることができた。
「!!」
次に待ち構えていたのは数十を超えるブレクトルコクーンであった。空中に滞留している悍ましい群れは鳥の群れでありながらその圧倒的に空を埋め尽くす大群は正直苦い顔が出てしまう。
「正面突───!!?」
ドゴアアアア!!!!
背後から再び特徴ある攻撃が噴き出した。一直線に伸びたドラゴンブレスは空中に滞在するブレクトルコクーンの数体を地面へと墜落させる威力に足りていた。そして紛れもなくそれを放ったのは竜形態のエルザードおばあちゃんであった。
「竜もどき共を撃ち落とすのは我の役目じゃ。さっさと行け!」
「そういうんなら、もう少し戦力が足りないんじゃないか?俺も手伝うさ!」
エルザードおばあちゃんに便乗するようにそう名乗り出たのはアングラス・ベドート先輩だった。死霊魔術で鳥型の魔獣を操り出しながら攻撃をすでに開始していた。
「奴らのブレスは手強いはず。ワシが盾になるとしよう。
そう口にして前に立つのはノーブル・フォース先輩だった。大盾を構えたまま、その不動の立ち方は、攻撃を主体にしたエルザードおばあちゃんとベドート先輩を守るにたる存在感があった。
大軍を前にして三人の仲間が道を切り開くために立ち上がってくれている。危険な賭けかも知れない、それでもこの作戦を成功させるにはどうさても私たちは前に行かなくてはならなかった。
「……わかりました、三人とも、また後で!」
振り返らず進んでブレクトルコクーンの群れの下を通り抜けようとする。そうしている間にもブレスはとどめなく降り注ぐもそれを防ぎ切るのはフォース先輩であった。
「魔術秘宝───不落不屈!!!」
魔術秘宝が展開されると私たちの頭上に半透明な大盾が現れ、七色に広がり破壊の限りを尽くすブレスはその一粒子も逃さず防ぎ止められる。
「行け!」
「はい!!」
仲間を連れてブレクトルコクーンの大群下を突破し走り続ける。砂漠に吹く風がすこずつ強くなると同時に悪雲の空には紫色の雷がその光を表し始めていた。
「残念ですが──── ここから先は通すことはできません。」
砂を吸い集められるように1箇所にまとまるとそこから始めてみる魔人族に相対する。力の差は未知数であり、その身なりはどこか気品を感じつつもうちに隠れた怒りのようなものは明確に私たちを殺すものだとわかる。
「無理だな。逆に通す!」
「この進撃は絶対に防がせないから!」
「ファルニア!ヤルド先輩!」
ファルニア・カルゴーン、セルスス・ヤルド先輩の2人が魔人の前に立ち言葉を返す。その自信満々の言い方にさらに腹を立てたのか魔人の表情は明確な苛立ちへと変わった。
「人間風情が私の行おうとすることを遮るのですか?不愉快な。」
「なら、不愉快にさせてやるっ!!」
剣を引き抜き、盾を構えたヤルド先輩は間髪入れずに近接戦に持ち込み始め、同時にファルニアが強化魔術をかけ始める。
戦闘が目前で行われる中私たちは、それを横目に進むしかなかった。
私が引き連れているのは、もはや父とプリエルだけとなった。少数精鋭もここまでくると少し焦りも出てくる。戦力を疑っているわけではないが、まとめ上げるものとして戦力差を疑ってしまうのは割もないのだ。
「………ラナ様、ご安心ください。クリス様の命にかけて私が守りますから!」
「プリエル。」
私の顔色を窺っていたからか、プリエルがよく言ってくれた。私は自分よりも若い子にそういう割れるとは、っと内心自分の甘さに苦笑いしてしまうが。
「あぁ。私もいる。魔王と戦った時もナリタテンマと二人がかりだった。数による戦力差なんてそんなところだ。」
「お父様……。」
正直父の励ましだと思うのだが、私は魔王を倒した時の話の方が惹きつけられてしまうと思った。
そんな励ましを二人から預かった時だった。真正面に何かが空中からヒラしてきたような音と主に、目の前で砂が巻き上がる衝撃が起こった。
「なに!?」
「っあれは!」
そこには全身にクリスタルを纏い、狂気じみた笑顔を浮かべた見覚えのある魔人が現れた。大花がなくなっていながらその魔人族の肉体、もしくは針のように鋭い爪は緑色の光を纏い、異様な雰囲気を漂わせていた。そしてその爪先をこちらに向け、宝石のように反射する目玉をこちらへと見せつけた。
「が、が、見つけタァ!!」




