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129話「石棺の正義者」




 「……っチ。忌まわしき人類どもめ。」


何度頭を冷静にしようかと考えたことか。しかしそれらの試みはほとんど無駄となり今の私にあるのは種族的な激情をひきずってでの苛立ちだった。そんな理性的ではない自分自身にまた嫌気がさしながら城の奥深くへとその足を進めていた。外の落雷の音がだんだんと遠くなっているということは自分が目的地の場所に向かっているという証拠だった。


 私が考えた策がたった1人の人間によって阻止され、そのおかげか私は尻拭いのように自らの足を動かし魔人王様の命令に従っている、かのお方を裏で操るのはまだしも直接的な命令をされれば立場上、そうしなければならない。だが今の苛立ちを抱えた私に取っては毎秒ため息が出るような心底くわない気持ちなのだ。


 (それにしても、ジャスティリオスですか……)


ジャスティリオス、魔人族の中でかつて魔人王をもっとも追い詰めた存在としてここで名が知れ渡っている。と言ってもその出来事が最後に起こって以降から数千年が経過している、若い魔人族はおおよそ伝説的な噂しか知らないものだから、合理主義な私ももっとも信じてはいなかった。だが魔人王曰くこの城の最下層に眠っているということを聞けばそれは与太話ではない。


 (ジャスティリオスを目覚めさせる?私からすれば随分と小物な策ではあるが。)


今のは魔人王に対しての愚痴である。誰にも聞こえていないのなら言っても言わなくても意味がないように、これは戯言に過ぎないのだろう。だが魔人王が自らを追い詰めたとされた人物を呼び出すというのは戦力的に不安があるという見え方もできる、もっともかのお方が愉悦に生きていらっしゃるのなら判別はつかないが、完全勝利にそのスパイスはいささか度が過ぎていると思うのが今の私だ。だからこそ、なぜそんな反骨的な人物をわざわざ呼び起こそうとしているのか理解ができない。

理解ができないことは反吐が出るのだ。


 「命であれば聞けぬというわけですか。」


上下関係という忌まわしいことが私のこと身を動かしていると考えるだけでさらに苛立ちが募る。だが最下層に行くにつれて私の身には若干のプレッシャーがかかるのだ。それはジャスティリオスは伝説的な存在であるが、それは同時に魔人王を追い詰めるほどの強者であるということ、私を殺す道理も十分である。


 (目覚めがてら殺されないと、いいのですがね。)


保険はない。だがそれでもやれと言われたことをやらなければどちらにしても意味がない。この命を長引かせなければそもそも上に立つことはできない。命がなければ何もできないのであれば、1秒後に死ぬより、10秒後に死ぬのが私なのだ。


 そうして最下層への階段を下り続けて幾時、目的の場所へと到着した。最下層の長く続く廊下の先にジャスティリオスがいるはずである。その道中にはなんとも禍々しいといっていいオブジェクトが数個並んでいた。一定間隔に、それは装飾とも見て取れなくはないがそれにしてはどこか石棺を彷彿とさせるような人が入れる意匠が凝らされていた。


 (考えるまでもなく、何かをここに閉じ込めていたわけですが。ここまでの間に何を?)


気にすることでもないが気になる。だがいくら考えたところで答えに辿り着けなければそれはまだ開かずの扉だという証拠、私は歩く退屈潰しに考えながらついには何も終わらず廊下の果てへと辿り着いた。


そこに置いてあったのは鎖で何重にも巻かれた石棺であった。これまでの石棺よりも新しいということは軽く見るだけでもわかる、築年数が新しいのだ。


 「……これをでしたか。」


自分の衣服から取り出したのは、黒い球体だった。ツヤがこれでもかと削ぎ落とされた球体はただの石のように使い潰されていて正直これがなんのために必要なのかこの石棺を目前にするまで何も分からなかった。だが石棺の中心部にこれを入れてくださいと言わんばかりの穴を見つければ直観的にわかるものなのだ。

それと同時に自分の程の良さというのを知ることができるのだからまだまだ怒りが募ったりする。賢いものがするのがこれだというんだから。


 「ジャスティリオス、ご対面ですか。なんだか、殺されないといいんですがね。」


そう口にして黒球を石棺へと押し込めると、鎖は力をなくしたように地面へと朽落ちていった。そして石棺はガタゴトと音を立てながらゆっくりと蓋を砂状へと変換した。まるで私たち魔人族が死んだ時に砂に戻るように。


 中に眠っていたのは黒の髪に金色の鎖を両手につけた魔人族だった。これがジャスティリオスである。その鎖は装飾というよりも、その力の一端を封じ込めるための道具のように感じられ、私は冷静に少し後ろへと下がった。


 「─────?─────?」


ジャスティリオスは瞼を開け眼球はぎょろぎょろと動き始め、私を見据えた。そして同時に石棺に押し込められていた肉体をまるで石化する体を逃れるようにバキバキと音を立てながら前へと前進した。肉体が再構築されるようにジャスティリオスの内臓は新しく作り替えられているように見える。


 「誰だ、貴様は?」


 「私の名前は─── ラングレースリインド。魔人王の参謀です。」


 「さん、ぼう?ハァハァ……そうか、奴の頭係というわけか!」


ジャスティリオスは自分の力を確かめるように手をパッパと開いて閉じてを繰り返す。その戦闘狂的な姿勢にこちらは警戒しながら言葉を続ける。


 「魔人王様が。」


 「お前、魔人王って心の中で思ってんだろ?」


 「!?」


 「ならそれでもいい。お前、相当な野心があるじゃないか。気に入っているぜ、」


 「ど、どうも。(心が読める?いやそういう類ではない、おそらくは相当に直感がいい。"見ただけですぐにわかる"タイプか。)」


 「力がないから殺そうと思ったが、面白そうだ。それにアイツのオモチャをチャチャチャしたら───いや、それもいいかもな。」


 「お言葉ですが、魔人王様がお呼びですから、あなたを目覚めさせたのです。」


 「………っち、なるほど道案内かよ。なーんでこんなところにいるか見当もつかねぇし。まぁ、俺を出したということはそれ以上の何かがあるってことなんだろうなぁ?」


 「もちろんです。」


 「……よし、殺さないでおくよ、お前。代わりに道案内頼む。俺はこの城のぶっ壊してから何千年?何百万年?たってるんだろ?なら頼むぜ!」


 「えぇ。こちらです。」


魔人王の名前をこう口に出しても関係のないように振る舞う。間違いなくジャスティリオスで間違いないと私は背中から出てくる恐怖を感じながら、道案内をした。




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