128話「決意と未熟をその身に宿して」
拠点へと戻った私は、仲間達の前で心配をかけたと謝罪し望まれた通り新しい立場、この前線の最高指揮権限を受け取った。私が戻って来るや否や、先輩達は優しい言葉で心配してくれていて覚悟を決めて戻ったのにも関わらずなんだかホッと安心してしまった。けれども私の決意は揺るぎなく、先輩達の心配を全て押し切りクリスから提案された立場をなんの躊躇いもなく受け取った。それを1番心配していたのは紛れもなくクリスの方であることはなんとなく予測できていた。
「ラナさん。」
「クリス、寝てなくていいの?」
「平気ですわよ。それより……ラナさんは?」
やはり罪悪感を感じていたのかクリスはいつもの自信をどこかに置いてきたようにそう口にした。私が今まで見てきた彼女の姿とはだいぶ打って変わっていたので内心少し驚いた。
でもそんなダイレクトな感情だからか、私も安心して話せる体勢になった、特別何か行動をこの立場になって起こしたわけではないもののそれでもどこかプレッシャーを感じていたのは確かだったからだ。
「私は……うん。ちょっと緊張してる。」
「──すみません。私には務まらないと思いましたので、ラナさんに投げました。」
クリスは怒られる覚悟だったのかそう口にした。自分の言葉が私の心のトドメになったことをかなり悔いている様子だった、ただでさえあった罪悪感の上に乗っかったソレはクリスにとってはかなり重たく感じた。
「わかってるよ。クリスはもう働きっぱなしなんだから、逆に自分の容量がわかっていてもくれたから、私も──何か力になれないかって引き受けたんだから。」
「……かないませんね。ラナさんは人の心を読むようなことを言いますから。」
「そんな、私は神様なんかじゃないよ。うぅん。神様だって人の心を読めたりなんてしない、私はクリスの親友だから、だからなんとなくそうかなって思って言って当たっただけなんだよ。」
「全く……そういうところですよ。」
クリスは顔を逸らし、私に見せないようにしている。私は何かクリスに対して変なことを言ってしまったのかと内心慌てているが、クリスの面持ちが意外に早く戻ったためあまり考えないようにした。
「ラナさん、これから先は私たちだけの戦いになります。前任者がいない、勝ったことの知らない私たちの戦いです。」
「そうだね。」
「ですから、どうか気をつけて。」
「クリスもね。」
「それはもちろん、ですので……その。」
「?」
真面目な顔から一変してクリスは珍しい照れ顔を見せる。目は泳いでいるし、なんだか堂々とした態度よりも珍しすぎるからか私は何かを予感して少し身構えてしまった。
「あの、ハグとかよろしいですか?」
帰ってきた言葉は身構えていた私の心を唖然とさせた。クリスの表情を再び見ると顔が真っ赤であった、それが怒りなどではなく恥ずかしさから来るものであると知れば受け取る側もどこか息を呑むような気持ちになる。
「……う、うん?いいよ。」
「───ありがとうございます!!」
「わっ!?」
私の返事を聞いたクリスの行動は電光のように早く、私を押し倒すかのような勢いでぶつかってきた。それを慌てながら受け取るとクリスは嬉しそうな喉声を猫のように鳴らしていた、ゴロゴロとなっていたわけではなく鼻歌のような軽快さが特に響いていた。
「─────私、ずっと我慢していたのですよ。ラナさんは真面目ですから、こういうことを許してくださらないのだと思っていましたから。」
「それは………うーん。」
自分のことながら自分がどのような対応に出るか想定できなかった。クリスの願いを受けるのか受けないのか、しかし余裕のない自分では限りなく受け入れないという選択肢を取った可能性もあるだろう。そう考えれば、クリスが我慢していたのは紛れもない事実だ。
「でも、ラナさんが……とっても近く感じます。」
「近いよ?」
「そうではありません。心の距離というものです。貴方はどこまでもまっすぐで、その生き方を常に厳しくし続けていましたから……だからとっても近くでそんなラナさんのことが嬉しいのです。」
「───変だね。私はそんなこと思いもしなかった。」
「自分を見つめ直すことでさえ、固いとそうなりますから。ですからラナさん。私の前くらいはどうか甘えてください、どうか人の近くにいてください。」
「……うん。」
そのあとしばらく私たちは互いの温もりを感じる距離を保ち続けた。親友とのハグは安心感を感じるとともにどこかドキドキもしていた気がする、それはクリスの鼓動がそのまま伝達したのかそれともクリスがかなり力を決めて腕を回していたからなのかはわからない。それでもいずれは悪い気分にはならなかった。
「っはぁ。満足満タンです。ラナさんのおかげで充電できました!」
「……それは、良かったよ。」
何か充電されたのだろうか?と少し疑問を浮かべつつも揚々と離れるクリスにどこか体は寂しさを感じていた気がする。
「さて、ラナさん!この続きはどうか勝利の後にしましょう……私は、絶対に負けなど認めませんから!!」
「うん、私もみんなのために……絶対に負けないよ!」




