126話「未熟と覚悟」
ナリタテンマが巨星を打ち砕いた後、私たちは全員エリアC3拠点へと戻ることとなった。先ほどの戦いでは大きな犠牲者は出なかったものの私を含む大勢消耗していた。この中で唯一肉体的に万全なワルツ先輩も精神的乱れが出ているのか、いつもより余裕のない声が出ていた。
「いつ敵が攻めてくるかもしれないんだ、早くしろ!」
『ハ!!』
ナリタテンマがダウンしたことによって実質的な指揮系統はクリスへと委ねられているもののこの場に集まっている一般兵士たちはそもそもナリタテンマが倒れたことで混乱状態なのである。私たちだって混乱したい気持ちではあるものの、それでは誰がこの拠点を支えなければならないのか。そうした心意気の中では休める自分を許すことはできない。
そして忙しなくワルツ先輩が、回復魔術と魔法を絶え間なく使っている時、拠点内に声が響き渡った。
『隊長クラスの者は司令室に集結してください。これは命令です。』
クリスの言葉だった。拡声魔術によってその声は広まっているためいやでも私の耳には入ってくるしこれにはワルツ先輩も手を止めざる終えなかった。怪我人を前にしている以上、手を止めないのが彼女であるがそれ以上に軍人気質でもあるため、命令の二文字には従わざる終えないのだ。
「ワルツ先輩、行きましょう。」
「あぁ……」
大きく息を吸って落ち着いたように見せる彼女を連れて私は司令室へと向かった。そこにはクリスの声によって駆けつけた先輩方と父とクリスが待っていた。最後に駆け付けたのは私だということだ。
「全員集まったので始めましょうか。みなさん時間はあまり取らせたくないようですしね。」
クリスの言葉に沈黙と頷きが返される。私はともかくとしてここにいるほとんどの人は余裕がない。プリエルはオルバルス先輩とベドート先輩はこの中でも1番傷ついていたボロボロである。だが怪我のことは今は置いておく他ない、心配する暇もここでは惜しいという見えない声が響いているのだから。
「ナリタテンマは現在休眠状態になりました。ただ眠っているだけです、まぁほとんど1ヶ月くらい寝ていなかったので今更ですけど復活には時間がかかります。そこで指揮官が必要となります。」
「それをこの中から決めるという話だ。」
クリスの説明に付け足したのは父の言葉だった。2人の説明に全員異論はないようだが、互いに見合うように、誰がリーダーになるかという視線を交わし続けている。それは私も同じである。
「一ついいか?」
そう手を上げたのは、セルスス先輩だった。
「どうぞ。」
「クリス、お前の言い方だとナリタテンマはもう戦線に立たない、もしくは指揮官にはならないと言っているように聞こえるんだが?」
「そうですわ。」
「なに?なんで言った?」
「ナリタテンマは力のほとんどを使い果たしました。その身に宿る勇者の力はもうありません、ですのでそれになり変わるニューリーダーが必要です。」
「それは本当なのか!クリス!!」
私たちの間で動揺が走る。なんとなくそれとなく感じていたことだが、ナリタテンマが倒れたのは何も疲れていたからではない勇者の力を全身全霊で使った代償なのだ、おそらくは今までのように3日や1日程度で復活できる速度ではない。そのことをよく考えるのならクリスの言っている言葉は合理的だ。だがそれがこの場の全員受け入れられるかは定かではない。
「本当です。真実です。だからこそ新たな星が私たちには必要なのです。」
「ならクリス、お前がリーダーになればいいだろう!」
「それは無理というものです。私には貴方達から信頼を得ていません、前任のナリタテンマはその器、その歴史、その信頼があったからこそここの指揮官をしていました。今あなた方が私に向けている感情は怒りです、そんなものを買うものはリーダーにふさわしくありません。この先さらに戦いが苛烈になるのなら尚更。」
「……なら、誰が適任だという!」
「ラナさん。」
「!」
突然自分の名前を呼ばれて驚く私、そして秒も立たずしてクリスは再び口を開く。
「ラナ・プラノード。私は彼女のことを推薦いたします。」
「っ……。」
突然言い渡された言葉に唖然とする私、周りの仲間たちは私の方を向くや否や不安そうな顔を一時見せるものの、次には覚悟を決めたような瞳へと変わる。
「私は、プラノードなら問題ない。彼女は優秀な隊長だ。」
「ワシも文句はない。」
「クリス様の推薦。断る理由はありません。」
「勇気ある戦うものには正当なる席だ。」
「そう言われたらプラノードに譲るしかないな。」
「いいわ。それなら納得。」
「順当かな、ここにいるの一つも二つもクセつよなもんだから。」
「ラナなら、私も賛成するよ。」
「わ、私も賛成です!」
ワルツ先輩、フォース先輩、プリエル、オルバルス先輩、セルスス先輩、アイネリア先輩、ベドート先輩、ペリー。そして父とクリスも全員同じような視線を私に向けてきてくれていた。
でも私は正直困っていた。
(私には、その席は。)
そんな席をもらえるなんて勿体無いように思えたからだ。友達の言葉、仲間の言葉を素直に受け止めてあげたい、けれどもそれ以上に私はただ戦うことしかできない1人の人なのだ。戦う理由もなんとなくで全てを守り切ろうだなんて大義はない。だからこそ、だから。
「…………ごめんなさい。」
私はみんなの顔すら見ることなく外へと飛び出していった。ただ頷けばいいこと、それだけでそこから先はもしかしたら苦じゃないのかもしれない。そう何度も思ったけれども、どうしても私はそれができなかった、覚悟がないわけじゃない、資格がないわけじゃないのに、ただ自分の中で何かが足りないとそう感じただけで。




