124話「超一撃」
「────」
激戦を繰り広げながら少しずつしかし着実に消耗させられていた私達、だが突然としてレギスレンの動きが硬直した、まるで嵐が突然その場から消え失せたような静寂だけがその場に渡っていく。
(大きな音が聞こえない。エルザードおばあちゃん達があの巨獣をやれたの!?)
このレギスレンという魔人族はあの巨獣とリンクしているような節があった息が合いすぎていた技の多くは一心同体そのものように感じられていた、それつまるところただ息があっているだけではないということを少し想定していた。その証拠となるかは不明ではあるものの今レギスレンは確かに動きを止めてその肉体から戦意を喪失している
「先輩!」
『!!!』
一斉に攻勢に転じる。たとえ打ち返されることを考慮しても今の一瞬が相手にとって大きな好きになっていることは間違いない。ここで深傷を負わせることができれば私たちの勝ちになるのだから。刀、拳、剣、大剣、矢、大盾、それぞれの武器がほぼ同時のタイミングでレギスレンに襲いかかる。
「───なんて、」
時間がゆっくり遅くなるような感覚が襲う。それが自分の思考力が加速したせいなのか、それとも時間がゆっくりになっているだけなのかどちらとも取れない、そんなかで自分たちがこのレギスレンが放つ異様な雰囲気によってこの空間が支配されていることがわかった。そしてその時には彼女の口元だけが平常と同じ動きで動いていた。
「なんてこと、私はあなた達を殺さなくてはいけなくなったわ!!」
パキッと鋭い音が空間に鳴り響いたと思ったら、気づいた時には肉体が空中に浮かされていた。
「な」
肉体が自然に落ちていく感覚がする。ふわっとしたかと思えば頭の方から押されるような重力が走ってまるで水に溺れるみたいなそんな複雑な気分になる。
「!」
しかし気配察知は異常によく働いたそのおかげで自分に向けられているレギスレンの刀に気付き背後からの致命傷を避けることができたのだから。私の刀と岩の刀が激突する鋭い音がいくつも火花を散らす、岩刀は独自の重力を得たように滑らかに空間を支配して空中で身動きが取れない私を無防備に地面に叩きつけようと変則的でありながら暴力的な攻撃が繰り返される。
「っそんな太刀筋では!」
いくら岩刀が鋭い太刀筋、強気な力があったとして、それは素人も同然だった、刀を両刃剣のように扱っては刀の最大的な鋭さを体現することができない、一方向に向けられた刃は技術をダイレクトに使い、岩をも切断できる。そして別に私は空中で身動きが取れないだけで、剣術が使えないわけではない。
「プラノード抜刀術、シンクウ!!」
空中の風は地上より制限がなくて扱いやすい、私の魔術神経に連動して刀身は茎中に漂う変哲のない風に方向性をつけ、身につける。弾き飛ばした岩刀は自由落下中の私を追尾するように追ってくる刀の一閃で私を面にき通すように、しかしそれゆえに動きは直線的だった。
刃先と刃先が激突しほと呼吸の静寂ののちに刃風が岩刀を一気にズタズタに切り裂き、ただの残骸へと変えた。
「────!!」
「死ぬがいいでしょう!」
束の間の休息すらなく、私の球は鷲掴みにされた聞こえてくる声はレギスレンのものだった、彼女の腕は乱暴で私の背中には空気の圧が何層も激突している気がしたおそらくはとんでもない即尾で落下しているのだ。このままでは地面に激突するからなんとか技をふるってやろうと思うのだが、体は金縛りにあったみたいに動かない。
「っああああぁ!!」
それどころが人並み外れた握力によって私の頭部は握り潰されようとしていた。頭蓋骨から聞こえるはずのない骨が擦れる音が聞こえてきた。同時に痛みとは違い死を想起させるような恐怖が襲ってくる。
「このまま潰して差し上げる───!」
ドォン、一瞬なんの音かわからないものが聞こえた。手に遮られた視界から見えるものは私を鷲掴みにしていたレギスレンの腕の接合部に大きな風穴が開いたことだった。
「っ!」
そして私がレギスレンから離れていくと彼女の周りには無数の光輪が取り囲んだ。動揺している暇もなくその光輪からは無数の攻撃が彼女の肉体に穴をあけようと光柱が絶え間なく飛んでいく。
「邪魔を!!」
「あいにくだけど、飛べたって逃げるわけじゃないのよ!」
アイネリア先輩が空中をステップしながらレギスレンに言い放つ。彼女の放った光の矢はすり減った光輪をさらにつけたし、レギスレンの動きを封じ込めようとする。変則的で、尚且つ意志がほとんどこもっていない四方八方からくる攻撃を捌き切ることができない彼女はその手達に武器を全て揃え、竜巻のように乱雑に回しながらまさかの力技でその包囲網を突破した。
「貴方はここで終わりなの!終幕よ!」
「ハハハ!それは貴様の方だろうなぁ!」
空中から大剣を上段斬りしながらオルバルス先輩が切り掛かってくる。アイネリア先輩に近づくレギスレンはその腕の剣達を使って自分の身をガードするしかなかった。
「この!なぜここまで!!」
「生憎な話!!不幸な話!貴様は弱くなっているのだ、虫けら!!」
「何をなんですかっ!?」
オルバルス先輩が言った通りに先ほどまでは手玉に取られていた先輩の大剣は力押し切れるほどだった。レギスレンは自分でも気付かないうちに弱くなっていることを自覚してか驚愕していた。
「これはいいことを知れたな!貴様とやつはペアだったのだ!」
「っ!!」
「図星だな虫けら!今殺してやる!!行くぞッ」
オルバルス先輩は背後にある武器ら全てを空中へと放り投げる。バラバラと広がっていく武器達はレギスレン含む私たちの周りへと落ちていく。一種の攻撃のように感じられるその行動はまさしく一撃必殺の足がかりだったのだ。
「空中にいたのが間違いだったな、その足、そのうで、その首を落としてご覧にいれる!!!」
オルバルス先輩が空中を蹴り、一番近くにあった剣を取り上げ、レギスレンの腕を切り付ける。そのスピードは落下速度も相まって魔人族のレギスレンでさえ反応できないほどだった。そしてそのまま落下すると思いきや先輩はその奥側にある槍を取り上げ、今度は斜めから上へと槍を放り投げる。空中で周り動くような異様な機動を見せながらレギスレンを翻弄しつつ360度の三次元的連続攻撃を見せていった。
「が、く、はぁ!?」
「トドメである!!!大刹斬!」
最後に手に取ったのは先輩が一番使っていた大剣であった、それらを大きく振り回して傷だらけのレギスレンへと押し付け落とすように叩き受けた。
「あああああぁぁ!!!!」
「死ねぇぇぇぇ!!」
レギスレンの叫び声と、先輩の絶叫がそのまま真っ逆様に落ちていく。空中で減速しつつ地面へと着地しようとする私やアイネリア先輩を置いていき、オルバルス先輩はそのまま大剣ごと大地へレギスレンを叩きつけた。瞬間大爆のような音が大地を揺らした。近くの平地はゴゴンっと音を立てて逆立ち、煙を焚き始めた。
「先輩!!」
「大丈夫よ、それよりも無茶するわアイツ!!」
私たちは地面へと可能な限り安全に着地して砂煙が巻き起こる大地へと近づいた。少しずつそれが晴れていく中で、大きなクレーターの中にはオルバルス先輩がレギスレンに致命傷を与えていた。
「先輩─────!」
そう言って私は重症の先輩に近づこうとした、しかしそれを遮ったのはレギスレンの手刀だった。彼女の手は刃物のように鋭くそれでいてオルバルス先輩の腹を大きく抉り取っていた。
「しくじった、、か。まさか、これほど硬いとは──!」
「効きましたよ、一歩足らずにね!!」
オルバルス先輩は別の腕で使われそのまま近くの坂へと放り投げられた。その体は力尽きたように項垂れている。
「先輩……っ!」
「オルバルスをやるなんてね!どうかしてやる!!」
弓を引きそこから光弾がいくつも放たれるまるで流星のような奇跡を描きレギスレンへと向かっていく。しかしそれらを腕だけで吹き飛ばし各地にはアイネリア先輩のやが突き刺さっていた。
「弾いた!!?」
「ぬるくなった、そう私はまだ求めるものがある。絶対的勝利を捧げるために!」
レギスレンが狂気的な笑みを浮かべながら瞬間移動したように近づいてきた。その手刀は空気が裂くような音を響かせながらアイネリア先輩を殺そうと迫ってきていた。
私よりもはるかに早い動き、脳が反応していても体が反応できない領域、すぐ隣にいる先輩を守る手が出ない。そのゆったりとした動きを私はただただ見ることしかできずにアイネリア先輩に近づく手を払えないと悟った。
「────ぬぅああ!」
「!?」
鐘を鈍く打ったような音が響いた。アイネリア先輩と手刀の間には頑強な大盾が挟み込まれ、その真っ直ぐ伸びた手を堰き止めていた。間一髪のところで攻撃を防ぎ切ったのはフォース先輩だった。
「ワルツ!」
「────ッ」
動きを止めたレギンスンにワルツ先輩のストレートが顔面へと打ち付けられる。一瞬陥没したかのように見えた顔面は体を引き連れたまま近くの坂へと激突し、いつぞやで見たオルバルス先輩のようになっていた。
「プラノード交代しろ、」
「はい!!」
私は動く体を認識してすぐに身を乗り出して走った。ワルツ先輩はオルバルス先輩の方へと、刀に手を置きながらいつ何時きてもおかしくない敵の攻撃に身構えていた。
「プラノード合わせてくれよ!」
「はいっ!」
並走するようにヤルド先輩がついてくる。それを確認したのち煙が立ち込める小クレーターへと向かう。
「けぇぇぇぇアアア!!!」
「パリィ!」
レギンスンが鋭い指先でこちらを抉り取ろうと爆発的な速度で襲ってくる。が、それを前にセルスス先輩が出て相手の手刀をまさしく神がかり的なタイミングで逸らし打ち返した。
「!?」
「残烈斬!!」
振り下ろされた片手剣の軌跡を辿るようにレギンスンの胸から縦に血が出てくる。そのタイミングを逃さないように私は軽く跳躍し、レギンスンの頭上を取る。
「真・ライキリ!!」
抜刀術は両手で一度受け止められはしたものの、その後に続く電流がさらなる切れ味の相乗効果となり、強固な魔人族の皮膚を突き抜けて手のひらを真っ二つに切ることに成功した。
「このっ!」
「ロックダウト!」
セルスス先輩が魔術語を話すと、先ほど傷つけたレギンスンの胸から鋭い岩岩が飛び出るように露出した。それは傷跡をより深くし、同時にまた1秒の遅延へと繋げた。
「プラノード抜刀術!!」
「そんな子供騙しで────!!」
レギンスンの手が私の喉元へと伸びていく。1秒、次の1秒後には私の喉が掻っ切られて、動脈が切断され、死ぬだろう。だが死ぬ戦いというのをここまでしてきた私からすれば理解が追いつかない事態よりも死への覚悟の方がよっぽどできている。相手を殺すのならこちらは死ぬ覚悟を持って戦わなければいけない、常勝不敗なんて言葉は夢物語である。ゆえに。
「セツナ─────」
刀が空気の壁を破って無空の空間へと侵入する、それと同時に私の動き、私の形、私の刀を模倣した存在が私を中心に少しずつズレが生じていく、やがてそれは側から見れば分身しているように見える幻像となるのだ。だがその実態を持った幻像とは間違いなく私であり、この刃である。
「センケン────!!」
刃が肉体を通り抜けるのに苦労は要らなかった。極限まで研ぎ澄まされた感覚と技術、そこに最優の刀が乗っかりさえすればまるで紙を切るかのようなそんなあっけない勢いで突き通すことができるのだ。
体が千分単位でズレが生じて、魔人族の肉体を通り抜け終わる頃には私のブレていた刀も一つの姿へと戻っていた。
「─────。」
音はしなかった。まるで空間ごと削り通したような残骸だけが私の背後にはあった。腹部を中心にいくつもの巨大弾頭が通った様に、上半身の半分はちぎれちぎれとなり地面へと落下した。
「………プラノードっ!」
「討ちました。」
確信があった、魔人族であっても脳か心臓が穿たれているのならば流石に再生が追いつくわけもなく死ぬ。刀をそっと鞘にしまう頃には黙ってわけもわからずにしていた顔は動き始めていた。
「こ、れが。はあぁぁ、」
「……。」
「これが、貴方様の真実なのですね。」
「………!?」
レギンスンが頭上を見ながら恍惚に浸り始めたことに体が一瞬にして振り返った。向いている方向は空のほうだった、異様に目の前が暗くなったと錯覚した時、私は自分たちがすでに逃げられない状況にいることを理解したのだった。
「な、なんだよ!!?」
セルスス先輩が驚きと混じった様な声を捻り出す。正直まともに口に出すことすらできない光景だった、口に出せば事実が確定するという話がある様に口に出せば私の中の私自身が絶望に打ちひしがれると無意識の中で感じ取った。それほどまでに空に浮かぶ黒い光は強大であった。
そらを覆い尽くすほどの光が溢れている。その光の一つ一つはこちらの身をやけ焦がすほどの圧力と、それに比例するだけの光量を持っている。もし神の光が金色ならば闇の光はドス黒く、全てを飲み込むほどの熱を持っているに違いない、暖かな光ではなく体を全て焼却する光。それが頭上を埋め尽くしているのだ。
「あぁあぁ、素晴らしい。私は最後まで魔人王様、貴方に道化─────を」
その言葉を最後にレギンスンはチリとなって消えた。それが勝利のはずだが、掴み取った勝利の裏に隠れている狡猾な獲物の考えを読み解けなかった。そのせいで私たちは後数秒後にはあの光に飲まれ完全に暗黒の世界へと葬られるのだ。
「これは、断てる……?」
自分自身に問いかける。目の前に現るは今まで見た中で最強、いやもはや勝てるとかそういう部類ではない魔人王の攻撃、神の光を飲み込み人が決して太刀打ちできないまさしく狂星なのだ。それを自分は切れるのか?
「………」
返事は返ってこなかった。自分がいつもできると信じている答えがこの存在の前ではちっぽけでくだらないものだと思ってしまうのだ。できない、できない、できない、大切な人を守ることさえ、仲間を守ることさえ、この逆境を跳ね返すことができる力さえないのだ。無力である。
私はまだ、これを乗り越えられないのだと。自覚し、自分の死がどれほど近づいてきているのかをただただ漠然と肌で感じていた。




