123話「巨獣落ちる陣」
「どぉぉぉりやぁ!!!」
エルザードが今日中の体をなんとか持ち上げ、針山のように聳え立つクリスタルの群層へと放り投げた。大地が震撼する衝撃とともに叩きつけられた巨獣はゴロゴロと回転するものの、それはまるで人型が受け身をとるかのように鮮やかだった。そしてそのまま地面を蹴り上げまるで爆走するイノシシのような猛進でエルザードを真正面から打ち破って飛ばした。
「だがああああ!?!!」
「っエルザード様!!」
「おい、流石にありか!そんなの!?」
相手はただデカいだけの獣のはずだ。それこそ魔暴の延長線と言っていい、それに対してこっちは現世最強種の竜種のはずだ、相性に関しても竜力がクリスタルやこの世界の生物に対して確実な弱点になっているのはわかっている、それなのに押し切られる現実に動揺しかできない。
「ぬぅぉ!」
「アングラス様!」
「わかってはいるけどよ!」
自分たちには何もできない、あの怪獣たちの戦いの中に小石を投げたって何も変わらないように俺やプリエルちゃんの死霊や召喚魔法は結局のところ援護のえの字も付け加えられないんのだ。
残りの仲間が全員、あの魔人族の女と一斉に対峙している中、邪魔にならずかと言って集団戦が起こるわけでも無い俺たちはこうした傍観者になることしかできない、けれどもそれが今はもどかしすぎてたまらない。せめてあっちがこの巨獣のどちらかでも倒せば戦局は確実に変わるはずだと。
(なにか打開策が!)
「アングラス様、分かりました!」
「何がだよ!?」
「召喚魔法です!!」
「……まさか、屈服させるのか!?あれをか!!」
「はい!」
「無理だ!大きすぎる、消費マナだって馬鹿にならないはずだぞ!」
「それでも倒すよりよっぽど価値のある作戦です!どうか手伝ってください。」
「─────だぁ、もう!わかったよ!」
プリエルちゃんのいう通りその作戦しかないと理解したときにはすでに行動を開始していた。まずプリエルちゃんはあの巨獣を沈めるための大きな魔法陣を用意する必要がある、そのためにいくつもの召喚体を解き放って古典的な方法で陣を構成するのだ、その間、俺はあの巨獣をエルザードと押さえながらなんとかヘイトをこちらに向けさせるのが仕事だ。
「おばあちゃん、時間稼ぎを頼む!」
「!、やってやるぞ!!」
魔術神経をフル回転させ、俺もとっておきの死霊体を呼び出す。本来ならばこんなの冒涜的で使いたくもない、しかし死霊魔術だからできることを今俺がしなければここにある命が先に死んでしまう。そんなのごめんだ。
「怨念の集まりし偶像、人々がうなされる悪夢。その姿を今司ろう、ブレインケッドアナザーー!!」
白い霧の中から現れるのは人々が無意識下のうちに溜め込む感情の渦、そこから排出される悪霊の類である。人が信じることによって悪霊は力を増す、そしてその存在を確立させていく、俺はそういう魔術的ルーツの他にも人が無意識中に向ける認識的な作用も魔術に加えることによって、本来なら存在しないとてつもない怪物をこの世に呼び出すことができる。様々な動物と魔物の骨で構成された巨獣にも匹敵する亡霊は、ボロボロの白い布を纏いながら千を超える手を放ち巨獣の肉体を引き摺り下ろそうと張り付いていく。
「────!?」
「残念、それは幻だ。でもな、何より怖いのは目に見えないものが、手に触れられないものが自分を殺しに来ているときなんだよ!」
ブレインケッドアナザーに攻撃しようと大ぶりな腕を振り回す巨獣だが、亡霊にはそれが届かない、自分は触れられないのに相手がこちらに触れて殺しにかかる。そんな怖い体験は冗談じゃない。そう冗談じゃないのが、それこそ恐怖になる。この亡霊にはその要素ももちろん入っているため時間制限付きでの一方的な攻撃が可能だ。
「っぐぶ。」
もちろんそれに伴う負担も俺が兼任することになる。口元についた血を拭ってまだまだ魔術神経が続く限り亡霊の維持に力を回し続ける。
「エルザードおばあちゃんさん!こいつを跪かせてくれ!!」
「相わかった!!」
そろそろプリエルちゃんが魔法陣を完成させる頃合いだと読んでいた俺はあらかじめ指示を出す。そしてエルザードおばあちゃんは巨獣の背後に回り込み拳法を繰り出すかのように巨獣の肉体に打ち込みそして弱らせたところで体を放り投げた。
巨獣は先ほどと同じようにゴロゴロ転がって体制を直すと、ブレインケッドアナザーとエルザードに向けて突進を開始する。だがその直線的な動きの前には魔法陣が作動する。
「今です!!」
プリエルの声が響き渡ると、ブレインケッドアナザーは大地に腕の半分を掴まらせ、もう半分で巨獣を下へ通し出る。巨獣は自分が魔法陣へ吸い込まれていっていることを自覚すると一層暴れ始め、エルザードの肉体に明確な傷を負わせる。
「バカめ!遅いわ!!」
エルザードがそういうように巨獣の体の半分はすでに魔法陣の中へ吸い込まれていった。必死にもがく巨獣、余裕のない俺とプリエル、そして深傷を負い動きが少しずつ鈍くなるエルザードはあと一歩の巨獣を押し込めずにいた。だがそれも。
「とっとと中に入るんじゃあああ!!!」
「─────!!!!」
エルザードのブレスが巨獣の顔から皮膚をやけ落とす勢いで放たれる。巨獣はエルザードの喉元を掴んでアンカーにしようとすると数秒間による連続的なブレスの掃射を顔に直撃し続けてか、最後は腕を放ちブレインケッドアナザーに押し込まれるような形で魔法陣はと投げ込まれた。
ズゥンっと音が鳴り辺り一面が静寂になる。プリエルの作戦は成功したもののそれと引き換えにエルザードは深傷、プリエルはマナ切れ、俺は魔術神経がオーバーヒットとかなり苦戦勝だった、1秒でも続けば下手したら今後の魔術使用に支障が出るところだった。本当に危なかった。
「っこれ、で楽になるよな。」
そう思ってただただ地面に仰向けで倒れ込んで目をつぶって少し休むことにした。自分の仕事をやったのだ、向こうも自分の仕事をまっとうしてほしいと願いながら。




