121話「女魔傑巨獣」
少しの地響きが体を揺らした後、この役割に慣れた兵士の一人がすぐに報告を始めた。
「報告いたします!敵軍、クリス様の開発した神力型迫撃砲の攻撃によりその大部分を撃破、残存兵力は数えるほどしかありません!」
「やった!」
この場に残っていた兵士の数人がそう口にする。俺としても気持ちは同じだった、だが口に出すほどの勢いも持たず結果安堵のため息だけに終わってしまった。この先にまだ何かあると警戒している自分がいるせいだ。
「………引き続き警戒を怠らず、戦況の変化を逐一報告するように!まだ敵はいる!」
「ハ!──!?ご、ご報告いたします!!?」
「なんだ!」
「敵軍の中に極めて高い生命反応!数は1、ブレクトルコクーン級です!正面からこちらに向かってきています!!」
安堵したのも束の間その報告が流れて部屋の中は一気にピリつき始める。しかし慌ててない自分はやはりと自分の間が当たったことにつくづく呆れる他ない。
「敵将か。プラノードの報告にあった奴か……他の部隊に連絡しろ。迫撃砲の第二射準備をしつつ、2部隊の残存兵力相当が終わり次第、砦正面に迎えと!」
「ハ!!」
兵士の一人は慌てず俺の言葉を受け取ったまま部屋を出ていった。俺は今すぐにでもここを出ていき戦場で戦う戦士たちの手伝いをしたい気持ちに駆られた、けれどもそれはできない。ここで俺が離れれば後にどんな被害が出るかわからないのだ。
(堪えてくれ…!)
<──|||──>
「フォース先輩、ワルツ先輩、気をつけてください!真正面からきます!!」
『!!!』
突然のことであった、地響きのようなものが連続してそれがようやく人為的に起こされた突進だと理解した時敵はすでに目の前に到達していた。クリスタルがバラバラに砕け散るもその破片は巨獣の足元にも及ばず、巨獣の上にまたがり高揚感に浸っている女戦士。
全てが唐突で判断する余裕はなかった、それでもすでに私の体はその攻撃を避けようと回避行動をとっていた。
先輩方も同じく真正面からの巨獣の突進を余裕で避け、私も直線的な攻撃コースから外れるところだった。
「!?」
だが相手の進路が私の方へとロックオンした。逃げる先を追いかけるように巨獣は足音を立ててその巨体からでは考えられない速度で私を追い抜いて轢き殺そうとしていた。足音と振動から感じる危険感に私は轢かれたらいくらなんでも死んでしまうと理解していた。だがこのままでは速度的に確実に追い抜かれる。やることは一つだけとなっていた。
「───プラノード抜刀術!」
受け切ることは不可能である。だが自分に降りかかるダメージを最低限にすることはできる、そのためのこの剣技である。刀と自分の能力を信じ切った賭けに出るのだ。
「───ヤマト!!!」
魔術神経と魔法を同時発動させ、強度を最大にするために刀へと送り込む。刀身は黒鋼へと変化し、純粋な物理攻撃であれば真正面で防ぎ切ることができる技、斬ることを専門にした刀の中で私が最後に唯一編み出した防御技である。
「ッ」
耳に最初に入ってきた音は衝突音ではなく、自分の両足で背後の地面が削れる音だった。踵にかかる負担は思った以上に大きく骨にヒビが入ったとすぐに理解した。それでもヤマトを解くことはそれ以上のダメージにつながるとわかっていたからこそ、私はどうしようもなく痛い声を食いしばりながら耐えきるのだ。
だった2秒も満たない時間であったが、私と衝突した巨獣は動きを鈍らせるものの全く怯みを知らずにまだまだ押し進む。踵から足へ、背中へと鋭い岩片が私の体に少しずつ突き刺さっていく。傷が完全につくほどではないものの装備の薄いところは確実に削れていっていると感覚でわかる。
(まずぃっ!)
「ハァァァアアアッ!!!」
限界を感じた私の耳に届くのは叫び声、ワルツ先輩が渾身の一撃を巨獣の側面から叩き込み、少しだけその山のような体を動かした。私の体が一瞬ふわっと楽になると同時に、ワルツ先輩の腕は粉々に裂け始めた。自分の肉体限界を顧みない究極の一撃だったせいか、その損傷は痛々しかった。
「─────まだっ」
巨獣は確かにワルツ先輩の一撃で1秒も満たない時間止まったものの、それでも突撃を止めようとはせず私の方へと突っ込んできた。その静物らしからぬ行動基準に潜在的恐怖が湧き上がってくる。自分は何を相手にしているのかと、だがそれでもワルツ先輩が稼いでくれた時間は無駄ではなく、私にもう一振りできる時間をくれていた。
「プラノード抜刀術、セツナ・キリサメ!!」
巨獣の脚を回るような形で放たれるその斬撃は私の体を移動させるとともに攻撃へと転用させる。しかし刃が足に触れた時の音はカンっとまるで鋼鉄を叩いているような音だった。
(───通らないっ!?)
それがわかった私は多少の体への被害を了承の上、刀が折れるよりも先に引いて防御体制になる。時間が動き始めたような感覚とともに巨獣の突進をなんとかがする程度に済ませることができる。私の体は勢いに吹き飛ばされ、致命傷ではないものの強く近くの岩山へと激突した。
「っかぁ……ッッ」
背骨の少しが折れたかも知れない感覚と、内臓が揺らされたことによって起こる眩暈と吐き気が私の頭に流れ込んできた。首を振ってもほどきずらい症状に苛立ちを覚えながら戦場と向き合う。
「きっと、まだくるはずっ!先輩たちを!!」
このくらいの損傷で根を上げていてはそれこそ次は死んでしまう。巨獣の足音は止んでいない。地面に転がっている小石が少し宙に浮いて落ちる様は、私に激戦の予感を走らせていた。




