120話「嵐の道化師」
「おらああぁぁ!!!」
「がグゥ!!?」
「はぁ、流石に、流石にって言っても何分経ったのやら、全く減ってねぇじゃん…!」
少し後方に下がっていいと王からの命令を受けた時は、このまま押し切れそうだったから何を考えているんだと心の中で爆発していたけど、確かにあのまま進んでいたら簡単に包囲されて目の前にいる大軍勢を四方八方から相手にしなくちゃいけなかった。王様の判断っていうのはやっぱり信じるべきだなと思いつつ。
(300はいるよな。さっきのおおよそ5倍、見てわかる一面地獄ってやつだ。)
目前に迫ってきている魔暴と魔人族達は優勢になったと理解しているのかとても満面の笑みで対応してくる。負ける時の声は散々に情けないのに勝ち戦じゃこれなんだから腹が立って仕方がない、見返したくなってくる。
(でもそれも限界に近い。ファルニアはさっきからずっと魔術かけっぱなしだし、あのバーサーカーことアルシュドのやつも息がやっと切れてきた。なんかムカつくけどピンチってことには変わりない。)
だが命令ではここでの死守は絶対となっている。あの王様が生半可な回答を出していないということはきっと何かいい作戦があるということ。
「なら、信じるしかないよなぁ!!」
『シネェ!!』
「死ぬか!!」
迫ってきた魔人族三人を相手の攻撃をほぼ数秒ズレの感覚でパリィして、押し返す、シールドバッシュによって吹き飛ばした一体をのぞいて二体の連携の取れていない隙をついて確実に仕留めていく。
「っ!」
髪の毛の数本が斬られたような鋭い感覚が頭上を通り過ぎていく。髪は大事って俺も周りも思っているからこそ少しのむかつきを覚えながら隙だらけのその横腹を切り裂き抜ける。
「髪切れるじゃねぇか!ふざけんな!!」
自己勝手な感想だが俺からしたら死活問題だ。この戦闘が終わったらツルッパゲなんてのは本当に勘弁したいのだから。
「狙うなら髪以外を狙えよ!」
そう言ってひたすらに終わらないような防衛戦に徹することになった。
<──|||──>
「っく!敵の数が一気に増えましたよね、これじゃ流石にきついって話よ!!」
「アングラス様、あんまり前に出ないでください!」
「プリエルちゃん!そうはいってもさ、俺の魔術はそんなにリンクが長くないんだよぉ!」
死霊魔術の難点の一つに操っている対象との距離感覚がある。距離が離れすぎていると魔術の使用距離が離れてしまいしっかり操れないことがある。そのため距離感覚にはかなり気を遣って行動しなければいけない、プリエルちゃんみたいに一度契約してしまえば絶対指示、召喚してからあとは基本的に自立行動のようにすごく楽には使えない。だからこそ前線に出なきゃいけない。
(俺だって出たくなけど、ここ前線維持者が少ないんだから!)
「小娘、小童、お主らは前に出るんじゃないぞ!とりゃー!!」
エルザードのおばあちゃんが目の前の魔暴たちに対してブレスを吐く目の前に広がるクリスタルモノとも焼き尽くすような青白い灼熱が放たれ、熱気がこちらまでやってくる。
「大掛かりだって…!」
「あなた達、少し避けて射線が取れない!」
パリスが弓をばかすか撃ちながら空から飛んでくる小型の魔暴を次々打ち落としていく、あんなに軽快にやってもらっているのにまだ文句が出るところは本人らしいけど今この混沌とした戦場でそれをいうのはどちらかというとなしだ。
「あのね!こっちは集団戦がメインなの、矢を打っている人は頭の中で座標撃ちやってもらわないと困るんだよー!!」
「あーわかったわよ!!」
「わかっているけどさ!みんな、ここは持ち堪えるだけでいいからね!俺言ったからね!!」
<──|||──>
「──────ハぁぁぁぁぁっ!!!!!」
ワルツ先輩の叫び声が響き渡る、先ほどの指令を受けた私たちは前線を大きく下げて先ほどの五倍ほどの敵と対峙している。戦い慣れたメンバー同士の連携で、全体の数を叩き潰してはいるもののそれ共数は減ったりしない、加えて。
「まだ動かないつもりなのか、奴は!」
フォース先輩が魔暴を盾で叩き潰したあと警戒心を向けた方向には巨獣に乗った魔人族の女性が張り付いた笑顔をこちらに向け続けている。それは不気味な笑顔で正直み続けているとイライラと不安が募ってくる。
「私たちを見て、楽しそうにしてますね。」
「全く気味が悪くて仕方がない!!」
「ダァァァァァ────!!!」
私たちの会話を遮るようにワルツ先輩が地面の一部分を持ち上げ目の前の魔暴の群れへと投げ込んだ。岩が砕ける音と共に魔暴たちは吹き飛ばされていった。
「動きがないなら放っておけ!今は敵を侵入させないことを頭に入れ続けろ!」
「わかっておるわ!」
「はい!」
<──|||──>
「見ているかしら、プラザイン戦いよ。この数千年間あなたに勝てる造物は存在しなかったというのに、素晴らしい。あの私たちの姿のような弱きもの達は知恵を絞り命をかけている。覚悟と犠牲、魔王様の一手すら生き残って、それも争い続けるなんてなんて美しいのでしょう。」
「─────。」
私は嵐の道化師レギスレン、そして私の夫は今私が乗っている巨獣、この世界のどんな魔暴よりも強く、魔王様を除くと最強の戦士と言われたもの、強く逞しく。そして誰よりも恐ろしい怪物。それが私の言葉に耳を傾けて、そして小さく唸り声を出す。戦いを間近にしたプラザインは少しの高揚感があるそれは武者震いと同じく戦士が誰しも感じる圧倒的な高揚感、長らく使っていなかった夫の体が少しずつ大きくなり戦闘体制に入ろうとしているのがわかる。
人の形を保って脳と心臓を持つ私には本能はかけらもない、ただ本能を刺激する痛みこそが私の全てなのである。
「あぁ、あのもの達は私たちに生命を与えてくれるのかしらね?」
「────」
「そう、あなたは満足しているの?長い間いるだけで?でも私はまだよ、貴方は好きでも私は今のままじゃダメよ、道化師は最後まで笑いながら死んでいくの。だから許してね。」
「────!!」
夫は私の意思を尊重してか、決意がこもった喉声を鳴らして激励してくれた。私はそんな勇姿と気持ちを見せてくれる夫にますます惚れ込んでいく。長い間進展も後退もない夫婦の熱が厚くなっていくのを感じていた。
「!」
思わず満足しそうな心に行きそうだった時、空から光が降り注いだ。あの大空の巨獣がハクブレスのような一線が特徴的な曲線を空に描きながら私たち夫婦の目の前へと落ちてきた。
光が広がって耳障りな岩の音が私を襲う。けれどもプラザインが身を屈めて私を守ってくれたことによって体には傷一つも残らなかった。けれど私が期待しているのはそこじゃなかった、もっと違った。あの爆発的な光はきっと私たちにさらなる可能性をもたらせてくれると。
「あぁ、ああぁぁ!!!!」
煙が晴れ魔王様が使わしてくれた、僕が一匹残らず朽ち果てて燃やされていた正面には神の嫌な気配が常に響いていた。私の夫はこの程度では動じない、戦いに出ればどんな死に方をしても構わないと知っているから、そして私は怒りでもなく、悲しみでもなく、
「素晴らしいわ!!!プラザイン見ている、ここが私たちの最後の舞台になるのよ!!」
私は夫の背に乗ってそして唯一繋がれた鎖を自分の腕へと巻き付ける。高揚感が体全身に広がっていく、何もしていないのに息が切れる自分は魔王様のためにお方のために楽しんで死ぬことができる。目の前に現れる奴らなら私を殺しに行っていける。
「さぁ!!久しぶりの戦いよ。全力を出して!ここにいる奴らに殺されないように走って蹴散らして叩き潰すの!!プラザイン、ほこり高き巨獣の勇志!私たちの王のために、その血を捧げるの!!!」
「───────ッ!!!!」




