118話「勇士戦士英傑」
耳がうるさくなるほどの鐘の音が鳴った。警報の合図である、なぜこんな原始的なのかといえばそれはこの基地が万全ではないという証拠だ、壁の所々にはまだ穴が空いていたりもするし、何より魔術的防御がかなり薄い、あるのは強化されたクリスタル除去用に特化した結界だ。物理攻撃でも食らって仕舞えばたちまち壊れてしまうほどの脆弱性、そんな中での襲撃であった。
それもただ正面からの襲撃ではない、3方向からの襲撃、エリアC3を最短距離で奪還した私たちに待っていたのはほぼ孤立無縁の陣営勢力である。正面と左右という二つのルートからの進行、しかも地の利は相手に来ている。
作戦会議もままならない中、ナリタテンマが下したのは戦力の分散、そして各個迎撃であった、作戦もなければ曖昧な作戦指示に戸惑うのは何も私たちだけではない、そもそもクリスが作り出した術式を使える人物が少ないというこの現実で、大勢対大勢の構図はほぼ不可能、よってこちらは前回の奪還と同じく私を含めた魔術秘宝を持つ仲間たちと共に少数精鋭の迎撃作戦だ。
「やれやれ、王の人使いの荒さには頭が痛い。」
「真面目にやれ、目の前に敵が来ている以上。私たちがやらなければ後ろの兵士が死ぬ。」
「わかっておるわい!」
フォース先輩とワルツ先輩が、何度目かの連続出撃の前に愚痴をこぼすのは今じゃだいぶなれてきた。二人のそういう会話が戦闘前の逼迫した雰囲気の中での唯一に近い癒しになろうとしていたからだ。
「今度もまたこのメンバーですね。」
「あぁ、何かとバランスが良いと思われておるんじゃろうが!!」
「……なれている戦闘スタイルでの行動は基本的にブレがない、遊撃、突破、壁役、バランスの取れた形態だ。」
「プラノードの負担が大きいことが、ワシとしてはネックなんだがなぁ。とはいえ最後の守りとしては機能はするつもりだ!」
「私の方こそ、先輩方の足を引っ張らないように頑張ります!」
「あぁ、期待している。」
<──|||──>
「とりゃーー!!」
目前の巨大な竜はその巨体から繰り出す尻尾の薙ぎ払いで広がっていたクリスタルを見に纏った魔暴たちを一気に蹴散らしていく、大胆でまるで怪獣を見ているような気分だがあれが仲間だと思うと心強いというよりも。
「ちょっとちょっとおばあちゃんさん!」
「なんじゃあ死霊使い!!」
「その呼び方やめてください!それより前出すぎですってばーー!!」
少し注意したくなる。年寄り特有なのか、この小隊の一時的な指令官というかリーダーを任されている俺の言葉も聞かず、まるで手柄を生き急ぐように前線に出てはその攻撃を一心に受けてそして反撃に出る戦い方、いくらなんでも出鱈目が過ぎる。
チームとしての闘い方を心得ていないのは、長命種では珍しいくらいなのでその場の俺は本気で面食らっていた。
「お主のやり方がちまちましすぎなんじゃよ!若造!!ついてくるのはお主たちじゃぞ!!」
そう口にして飛び立ったと思えば空から強力なブレスを撒き散らして魔暴たちをもれなく焼き尽くしていく、それどころか竜力と呼ばれる特殊な力を纏っているせいで大地はクリスタルの代わりに火の海へと変わっている。これでどうやって渡れというのだろうか。
「はぁ、まるで聞いてくれないよ!あれ、単独行動させておいた方がいいんじゃないの!?」
「そうはいけません。クリス様がエルザード様との連携を意識しろと命令されていましたから。」
少し後ろでそう苦言を呈すのはクリスのメイドのプリエルだ。幼い見た目に反して戦場を前にした時の非日常感は、こんな俺とは相性最悪でかなり言葉に差があるように見える。
「それってプリエルちゃんだけでしょう?」
相手に対して合わせるつもりもないのだが、それでもこう軽口を叩かないと戦場ではやっていけない性分の俺はどこまでいってもと思ってしまう。別にプリエル自体もコミュニケーションができないわけではないとわかっているのだがね。
「そうですが、あいにくアングラス様は単独で活躍できる場面が限られていますが?」
「な!」
とはいえこうも冷たいような返し方をされると少し怒りたくなるというものだ。小さくて戦場には不似合いなのにきちゃってと。
「いってくれるじゃあないのぉ!!俺だってやってみるさ、死霊使いとかいう、おたくの召喚魔法よりも立派な魔術がね!」
死霊魔術。死んだ存在の魂が大地へと還元されるよりも早く掴み取り、無理やり服従させるという聞いただけでは生命の冒涜に両足を突っ込んでいる魔術だ。けれどもこの魔術の何がいいかといえばそれはこういう化け物相手でも通用すること
「生きていれさえすればこっちのもんだ!」
魂を知覚して周囲一体の焼き尽くされた魔暴の魂達を掴み取りそれを無理やり魔術で器を作ってその中へと放り込む。魂の外書に自分との契約を押し付けて烙印のようにすることで魂依存の生命体は、擬似蘇生後は俺の言葉を聞かざる終えなくなる。
『やれ』
その言葉と共にご大満足の復活を遂げた魔暴たちはクリスタルを身に纏って元仲間へと攻撃していく。死がこの戦場で溢れれば溢れるほど、死が戦場を埋め尽くせば埋め尽くすほど俺の固有術式はさらに強さを増す。
(問題がクリスタル化でもされたら、取り戻せないんだよな……でもこういう何も考えず生きているだけの輩なら勝てる!)
余程魂が強いやつでもない限り一方的に従えることができる。山から降りてきた俺はこの能力に目をつけられて異界探索部隊へと入った。ほぼ一方的だけれどももう親族も、村の仲間も誰もいない俺にとって人との関わりが唯一得られる場所はもうここ以外にないのだから。
「アングラス様、私の分も残しておいてください。これでもクリス様のために日々精進しなければならないので、」
「はいはい。ほら、あれとかどうだ?」
俺の向ける視線の先にいるのはかなり大型の魔暴、初めて見るタイプでもあり背中にはいくつものクリスタルの塊が載っておりファーストインパクトはハリネズミそのものだ。
「いいですね、それでは……」
(プリエルちゃんの召喚魔法…!)
使っているところは見たことあるけど今からやるのはその初歩も初歩。契約である。俺の死霊魔術と違い召喚魔法の契約は2パターンある、一つは相手との対話を行なって以後プリエルの召喚生物として生きること、もう一つは話の通じない生物向けの、拘束してからの屈服方法だ。プリエルちゃんが契約を発動させて発生する魔法陣の中に対象生物を引き込めれば自動的に完了になる。
それでも、自由に生きる生物からしたらプリエルのペットになるなんて言語道断だからもちろん抵抗が出てくる。しかしこれのいいところはなんといっても人であっても動物であっても魔物であっても、魔暴出会っても問答無用で引き込めれば召喚生物として成立するところだ。俺の殺してから使えるのと違ってそれこそ相手が抵抗しなければ誰でも従えることができる。
あのナリタテンマでさえも。
それが今目の前で起ころうとしている時だった。薄い光を纏った緑色の矢が俺たちの合間を突き抜けて先にいたハリネズミの魔暴を滅多うちにした。急所である頭部も含めてかなり集中的に穿たれたせいであっという間に魔暴は力尽きて死んでしまった。
「こらこら、二人とも。言い争ってないで仕事しなきゃダメでしょうがね。」
「パリス・アイネリア!半殺しの手加減もできないのかよ!!」
後ろから聞こえてくる声に思いっきり反発する。目の前にある食事を邪魔された時のような怒りを俺は抱いているというものだ、それがプリエルちゃんが今にもやろうとしていることなら尚更。
「なんで、あなたが言うの?」
パリス・アイネリア。俺と同期で元異界探査部隊の一人、魔法が得意なエルフの中でもさらに得意で加えて弓の腕は超一流、典型的にも程がある経歴とその美貌は、なぜだか美しいという圧巻的な感想よりも少しウザいという感想が漏れる。それもこれもかなりのタイミングの悪さを持っているからだ、今みたいに。
「パリス様、もう少し手加減してくれないと困ります。あまり打ち込まないでください。」
「えぇ、私が悪いの!?でもそっか、貴方達二人はチャンスがあるものね……でも狙いすぎて死ぬのは───」
そう弓を引いて弾き飛ばすかのような空音を奏でながら矢は俺たちを再び通り過ぎて高く上がって攻撃しようとしていた魔暴の頭へとまたもクリーンヒットした。声は届く距離でも頭を的確に狙うのは容易ではない、けれども百発百中が似合うようなそんな腕前を2度も見させられたらなんか怒りたくもなる。
「もう何百回も見慣れた死に方よ────!!!」
「そうヘマする俺でもないんだよ!」
「クリス様より早く倒れるわけにはいきません!」
<──|||──>
対魔人の戦闘において最も気をつけなければならないことはそれはタイミングである。奴らは獣人ですは到達できないレベルの高速戦闘を得意として、その一撃はこちらの致命傷以外の何者にもなりえない、だからこそタイミングが悪ければいくら達人でも一瞬にしてやられてしまう、全てがタイミングでできている、時計の針がカチカチ音が鳴るのと同じように、時間と共にその綻びが生まれて、そして俺にもチャンスが回ってくる。
「ハァァ!!」
「っキ!?キサマ、この!」
相手は俺との戦闘が余程気持ち悪かったのか消極的にも次で決めようとしている。けれどもこっちにノリが来ていることは音でわかる、空気を切る音、打ち合いの時に揺れる刃の音、自分の体全身から出る心臓の音、周囲で巻き起こる戦闘の音、それらが全て俺の手を貸してくれる。
「シネェ!!!」
「!!」
相手と自分が交差する。決着は音が伝えてくれる。俺の刃が一歩先に相手の心臓を切り抜け、相手が血のような何かを流しながらそっと倒れる。まるで暗殺をしているような気分になるけど、そうじゃない、タイミングの勝利だ。
「悪いな、答え合わせはこっちが上手い!!」
自分の自信として糧としてそう口にしたのをすぐに後悔した。俺の声に惹きつけられたのかあたりいる魔人は逃げるようにこっちへと向かってくる。
さっきから魔人の数がまるで減らないのはどういうことなのかと問いただしたい。なぜなら俺たちが担当しているここ以外の場所じゃほとんどが魔暴だっていうんだから、ここまで魔人族が集結しているのはどう考えたっておかしい。
「っ、流石にキツイぞ。なんでこっちばっかり魔人が多いんだよ!」
「簡単だろう!!」
俺以上に大きな声を出して突き進む戦車が一人、俺へと向かってきた魔人族を一瞬にしてバラバラに切り刻みその凶戦士的戦い方はいつみても豪快でスワード以上に恐怖を感じる。
「私たち相手に」
5体。
「強さを求める相手が!」
20体。
「迫ってきているんだよぉ!ハハハハハ!!」
30体。アルシュド・オルバルスと呼ばれる俺の同期が扱う武器、剣、斧、槍、その他大勢が合体した合体剣と呼ばれる武装を時期に合わせて使いこなし目の前に広がる魔人族を一瞬にして蹴散らす。その手際の良さに思わず唖然としたくなるけれども俺は現実逃避からか、奴を扱えない暴走列車だと思っている。人と列車を比べてはいけないんだ。
「……だめだ、アルシュドのやつ、ちっともわかってない。今回の指揮権限渡されてんのは俺だっていうのに、なんで隊長の言葉一つ聞けないんだからっ!!」
「仕方ないでしょう?近接格闘がメインな二人を守るのは私の仕事なんだから!」
そう嘆きに愚痴を重ねたのは。ファルニア・カルゴーンだった。彼女は暴れ回るアルシュドに対して絶えず付与魔術をかけ続けている。彼女は付与術式の延長線でクリスタル除去用術式を個人でさらに改良し、武器強化と侵食保護を一個人につけられるようになった。
そのおかげでこの場にはヒーラーも例の神力術式使用者もいない中で戦い続けることができる。
「それはご迷惑おかけしてますっと!!」
そう言いつつ向かってくる魔人相手にクリティカルヒットの一撃を放つ。無鉄砲に向かってくる相手ならばこうした一撃で倒せるところはまだマシなのだ。問題はその読めない行動で時間をかける相手、それならばアルシュド一人で事足りる。でもそれじゃあファルニアを守れないっていう話だ。
「わかっているんだよな!アルシュド!!ファルニアを守らないと俺たち詰むぞ!!」
「わかっている、わかっているからこそ全てを殲滅してやる!」
話しながらまた魔人族の首根っこを掴んで地面へと叩き込む、すぐさま合体剣のなかから一太刀引き抜き容赦のない追撃で頭部を何度も叩き潰す、その以上な光景にあの奇怪的な思考回路を持つ魔人たちですら動揺している。
「この忌まわしき緑の塊!」
付与術式によってアルシュドの武器、そして体は神力がついて回っている。彼の放つ拳と槍は容易にクリスタルを砕き。
「忌まわしき人の形をとった怪物!」
動揺し止まっていた魔人族を轢き殺し。
「さぁかかってこい!!私が全員皆殺しにしてやる!!!」
雄叫びを上げたまま真のバーサーカーとして目の前にある障害物全てを破壊しに向かっていった。その姿に同胞として頭が痛くなる。
「……わかってんならいいけど、ファルニア、ちょっと進むぞ!あのまま突撃していったらいつ付与切れになって死んでいるかわからないっ!」
「もちろん!!!」




