117話「カウンターバトルズ」
エリアC3の基地を奪還した私たちはすぐに後方のB3に滞在している本部隊に向かって、作戦成功の連絡を行き渡らせた。プリエルが使わした狼型の召喚獣がその連絡役である、その姿はこの世界でもそれなりの隠蔽率を誇れる黒色で水色の美しい瞳が特徴的な子だった。
「よろしくお願いしますね。」
クリスが狼の頭を少し撫でて送り出す。プリエルの召喚獣はマナの維持をしていればコンパクトに影や自分の体のどこかへ収納できるほど小型が可能である。今回もクリスの服のどこかに隠れておりすぐに大人くらいの大きさになって報告書とクリスタル除去用の小型装置を身につけてトゲ山の世界を走っていった。
そうして連絡が無事行き通り、プリエルの召喚獣が再び帰ってきた時クリスの仕事はそれだけでは終わらなかった。
「新しい術式の開発?」
彼女がため息と共にその指令を受け取り次第、頭を抱えながらC3基地の元研究室に困り始めたのは間も無くのことだ。その間私たちは土木要員でもないものの、基地の修繕と設備復旧に力を入れていた。本部隊が全員到着するまでの暇つぶしとも言える行為だった。
「プラノード、ワシらが魔術と魔法が得意でないばっかりに苦労をかける。」
「いえ、純粋な力仕事でも私は半端なので、ワルツ先輩とフォース先輩には助かっています。」
二人ともどちらかといえば力仕事向きではあるため、魔術と魔法による再建築以外にはクリスタルによって無造作に破壊された基地の穴埋めなどを行ってもらっていた。誰も知らない土地、誰かがいた土地を自分たちの手で一から作り直しているようで不思議な感じをしながら私たちは本部隊の到着をしばらく待っていた。
ナリタテンマ率いる大部隊と、別働隊として他の地点を制圧に向かっていた父の部隊が合流して簡易的ではあるものの私たちは元の勢力バランスを元に戻そうとしていた。幸いなことにあれ以降クリスタル・レディと名乗った怪物も、魔暴の群も襲って来なかったからか以外にも平和な時間がそこそこ続いていた。
だがこの時間もプレッシャーが抜けきらないことは続いていた。父が報告をまとめて帰ってきた時だった、別働隊として動いていた父は私と違って別エリアの基地の奪還へと向かっていた。が、そこで少しトラブルが起きたようだった。
「クリスタルを纏った魔暴が襲ってきた。」
簡略化されていながらインパクトのある言葉だった。私たちはクリスタル・レディと交戦した際に、かつての仲間でありながら魔人となりクリスタルをみに纏った知人という一件説明が難しい相手を敵に回してはいたが、それよりもはるかに父が遭遇した敵の方がわかりやすくそしてより強烈にインパクトがあるのだ。
クリスタルによる無差別攻撃で先の大戦では両陣営被害を負ったと推測していたこちらはそのクリスタルをまさかの戦力として投入して魔暴に貼り付けるなどという戦略に未知の変数を感じざる終えなかった。
「つまり敵はクリスタルをもう軍事転用したと?」
「そうみてもいいだろう。確かなまでの統率はされずにどちらかといえば、適応進化した野良個体のように感じられたが、野良にできて魔人軍にできない通りはない、ナリタテンマの予測が当たったというところだ。」
クリスタルなら適応した魔暴。それの戦闘力上昇は報告書にすでに書かれていた、父は何食わぬ顔で語るがそれでも表情の奥にある疲れというのは存分に出ていたと思う。そもそも私たちより肉体的アドバンテージが少ない父はあまり無理をしてはいけないのだが。
「お疲れ様です。でもそうなるとこれからはクリスタルとの戦いになりそうですね。」
いっときの自然災害ではなく、それこそ新たな変数を交えた不安との戦いだ純粋な暴力で押し切ることができないのは戦争の早期終結を願うこちらとしてはかなりまずい。
「あぁ、だからクリスにナリタテンマが指示を出したんだろう。」
「新しい術式ですか?」
「正確には兵器転用ができる術式だ。今まで原始的な大砲やら迫撃砲なんかは時間と共に再現できたが、それもクリスタルの登場で効かないとなるとそれにあった専用兵器が必要になる。この基地を照らすクリスタル除去装置のようなな。」
そう父と話して数日後、クリスがまた新たな術式を完成させた。体感的にクリスタル除去用の術式完成よりもスパンが早かったなという気持ちがあったりする、そもそも前線の研究者など彼女しかいないのだからほとんどワンオペでたまに歩いて彼女と出会うたびにその目の下のクマは増えていた気がする。
クリスが完成させた術式を織り込んだ従来の戦闘兵器ははるか遠くにあるクリスタルに向けて数回の試射を行いその確かな性能を兵士たちに見せびらかしていた。立ち往生して怯えながらコソコソと動くしかなかったこの数日間とのギャップに兵士たちは目の前の兵器に希望を見出しているようだった。
しかしそんな兵士たちとは裏腹に私たちを含む先輩たちや父、こう言ってはなんだがかつての戦争を体験している人たちからしたらまだ不安要素がなくなったわけではなかった。未知の相手に対する臆病くらいの不安、そしてそれと同じくらいの慎重な姿勢、それが当たり前となっていた。
そんな私たちの不安を煽るように、基地の少し先の地点で見張りを行っていた兵士たちから魔暴の群がこちらに向かってきているという伝令が響いた。加えてその先頭で指揮を行っているのは巨大な怪物に乗った魔人族だということも。




