115話「再撃」
1ヶ月と少しの時間が経過して、クリスはナリタテンマが要望していた通りの人類初オリジナルの神聖魔術の術式化に成功していた、数度にわたるテストにおいて、神聖魔術以外にも強力な純正魔法の力もなければ発動できない制約はあるものの、私や父のように魔法と魔術双方に適性がある者が扱うことができるため私たちはこれを使った反抗作戦に乗り出した。まずは撤退によって放棄したエリアC3の基地の確保から始めることとなった。
私と父を先頭に構成した二つの独立部隊によってクリスタルの排除をしつつ拠点の奪取へと乗り出ることとなった。
「術式起動。」
術式を起動させるとあらかじめ仕込まれてあった方陣と方程式が必要なマナと魔術神経の使用量をオートで定めてくれる。私の場合はどちらも平凡クラスなのでそれ相応の範囲域でしか発動することは叶わない、だがそれでも半径10メートルに位置していたクリスタルはまるで自然分解されるかのように光を放ちながら砕けなくなっていった。
「これはすごい、あの緑石が最も簡単に。」
「当たり前です。私が設計したのですから、特に低燃費での最大効果を目的としているのでそれこそ双方にかなりの適性がある方は50メートルを効果範囲にすることができます。」
「プラノード、体調は問題ないか?」
「はい。」
私の後ろにつくのは、フォース先輩、ワルツ先輩、そしてクリスの三人である。本当は大勢の兵を連れていきたいところであったが単純な奪還であればそれほどの兵力よりも、私たちの方のような一騎当千の力を持った将兵を送るのが正しいとナリタテンマからの伝えである。
クリスは私の心配だと口では言っていたが、実際は設計者としてリアルを観察したいという名目もあるのだろう。
そんな三人で私たちはクリスタルが棘場のように広がる大地を着々と進んでいった。この世界ではコンパスが役に立たないためクリスタルに埋もれながらも従来に使っていた道を探し出しながらのかなり手探りのやり方でエリアC3に向かわなければならないので時間はかかる。
長期戦になればなるほど私は消耗していくがその辺もクリスは対策済みである。
「10分ではありますが、こちらの装置に肩代わりさせることができますので休憩の際はこれを使いましょう。」
「ありがとう。」
クリスが装置を設置すると私の術式を解除してもそこから約7メートルと少し狭まってはいるが安全地帯が構築される。クリスタル除去術式はあくまで範囲内の除去と周囲からの感染を防ぐだけであるため、狭まった3メートルはすぐさまにもクリスタルを増殖させて穴を埋めてくる。それゆえに慎重に動かざるおえないのだ。
「これなく理解しでは、ワシらがエリアC3にたどり着いたところで意味がないのではないか?」
「もちろんです。ですがこちらも無策というわけではありません、私が背負っているこれこそが本命です。」
力持ちではないクリスが背負っているのは縦筒型の大型の装置である。一見すると巨大な魔道具に見える。
「それは?」
「今ここに置いてある装置の大型改良版です。量産には向きませんが、その代わりにこの小型版以上の出力、効果範囲を誇り5時間に一度の点検で周囲200メートルまでのクリスタルを除去することができます。」
「今回の作戦はそれの設置というわけか。」
「えぇ。」
「なら、その装置の防衛こそが最重要と見てもいいな。」
ワルツ先輩がジッと大型の筒を見ながらそう呟く。クリスは自信満々である。
「さて、そろそろ効果が切れるのでいきましょう。ラナさんお願いします。」
「まかせて。」
「クリス、そういうことならワシも手伝おう。」
私が術式を発動させると同時にフォース先輩が装置を持つ係になりクリスが小型装置を地面から取り外す、再び半径10メートル間隔の決壊が形成され私たちはエリアC3まで歩きだしたのであった。
歩いて数時間が経過した頃だった。こまめな休憩の中で私は自分の不安に近い疑問を会話の中で漏らした。」
「ここまでくるのに、魔暴が一匹もいませんでしたね。」
「…あのクリスタルは、魔暴であってもなんであった者飲み込んでいった。ある種敵味方の区別がないのかもしれない。」
「ですがだとしたら不自然ではありませんか?戦いに勝つと宣言する魔人族がどうして停戦状態のこれを作り出すでしょうか?」
クリスの言っていることは私が考えていたことと全く同じであった。魔人族はこちらを殲滅する気でいるのに、それなのに今の状況はそれこそ自分の手ではなく何者かの手によってあえて作り出された状況、自分たちで倒すという彼らなりの殺意と潔さが感じられない。
「ふむ。」
「……仮説として奴らがこの状況を作り出した側なのならば、相応の適応を成すことがあるだろう。」
「ワルツ先輩、どういう意味でしょうか?」
「この過酷な世界で生きる魔暴はクリスタルに適応するかもしれないという可能性を考えていた。」
「クリスタルに適応?!」
「ワルツ、冗談はよしたほうがよい。」
「冗談を言ったつもりはない。だが生物としての格を考えた時、私達、人間や獣人、エルフ、ドワーフに比べて魔人族や魔暴の方が遥かにそのスペックは高い、それぞれ特有の分かれ方や特徴がある時点で考えられるのは多様的な分裂による超速適応だ。」
「つまり、魔暴があれほどバラバラな特徴に分かれた個体が存在しているのは、適応の段階がかなり細かく、それによって種類が増えているからと言いたいのですか?ワルツ先輩。」
「あぁ。」
切り替わり段階が早ければ早いほど、その特徴の変化は現地に現れる。プロトタイプを10個作ったらそれぞれ変化はわかりやすくそして細かくなる。魔暴も同じように、もし1日おきのような細かい生物的適応があったとするのなら、口が大きい個体、目が大きい個体、弱い個体、大きい個体がかなり多種多様に分かれているのも頷けるだろう。
だがそうなるとワルツ先輩の仮説はかなり当たっていることとなる。
「……仮説の域は出ませんがあり得そうな話ですね。今後はもう少し注意すべきでしょう。なぜなら私たちももうすぐですC3にたどり着きます。ここまで音沙汰がないのは吉況ですが、クリスタルは前に比べて勢いを増しています。」
クリスの言うとおり、クリスタルの密集率は前哨基地を抜けた時よりもさらに激しくそして高くなっている。あの花に近づいてきている証拠でもある。
「あたりを魔力探知で警戒しつつ進んでいきましょう。」
そう言い私たちはまた出立した。そしてしばらく歩いたのちにエリアC3への到達を終えた。その頃には中腰くらいに迫っていたクリスタルももはや頭の位置を優に超えるタイプも確認できていた。正直この中を進むだけでも相当のプレッシャーがかかってくるのだ。
「頭の上、クリスタルが落ちてこないといいですね。」
「頭上にも効果はありますがドーム状ですし、勢いよく投げられでもしたら流石にどうにもできませんわ。」
「投げるか、消滅速度を超えたらということか?」
「ええ、この結界は外から侵入されやすいタイプです。内側に連続した効果を放っているので最悪クリスタルの密度がもうふた段階高くなっていれば────」
そうクリスがつぶやいた時だった。ワルツ先輩がすぐに私たちの前に出て片手を大きく広げた、それはまるで飛翔体打ち返すかのような腕の振り方である。
バリィィ!バギ。そして気づいた頃にはワルツ先輩の腕にはクリスタルがびっしりと張り付いており腕は一瞬のうちに針の山となり、肉と骨がズタボロになる音が後から聞こえてきた。
「ワルツ!!」
「!」
すぐさま自分の状況を把握したワルツ先輩は自らの腕にクリスタルがゆっくりと侵食しているのを確認して、腕を切り落とし、相手スペースに放り投げた。
「どこから!?」
今のはワルツ先輩が正面から来たクリスタルの投擲を片手で弾き受け止めたことによって生じた状況だ。詰まるところクリスタルを遠隔で投げる存在がいるということになる。そしてそれは私たちのすぐ目の前であった。
クリスタルの投擲は他の強度の弱いクリスタルを粉々に砕き、まるで大砲が通った後のように大きな空洞を目の前に作っていた。その先にいる人物は、まさかの魔人族でもなければ魔暴でもなかった。
「あ、れは?!」
「人!?」
なぜ遠目だというのにそう感じたのか、そう言ったのかは分からなかった。けれども全員がそのこちらに向けられている殺気というか、魔人族が向けてくるような気色悪い視線に気付いていた。すぐに戦闘態勢になろうにもその人物にどこか見覚えがあるのは全員だった。
「……バ、かな。グランドリア」
「バーゲルドライン……っ!?」
姿がたちは大きく変わってもその顔立ちと雰囲気は彼女のものと誤魔化せずにいた。




