113話「戦休のティータイム」
「それで、ずっと術式作りに忙しいんです。」
「うん。」
「お父様もそうですが、なんでも私を頼りすぎなんじゃないかと思いませんっ?私は確かに魔術のことに関しては一流の知識があると自負はしていますがそれでも厄介ごとを押し付けられる身にもなってくださいということ、不可能と可能の境界線を見定めてほしいと常々感じます。」
「うん。」
「プリエル。」
「はい、紅茶ですね。」
「それでですね──」
私は今クリスの愚痴に付き合っている。
小さな折りたたみ式のテーブルを広げてこの前哨基地の中で1番豪華なティーセット前にして豪華なコーヒーを啜りながら呆れた声とうちなるストレスを溜め込んだクリスの言葉を聞きに聞いている。
なぜこんなことをやっているのかと言えば私がひとえに彼女の友人をやっているからだろう。彼女は時にして先月、成田天馬から神聖魔術のオリジナルに近い性能の術式を作れとオーダーをいただき、そしてここ数十日ずっとその術式化を研究し、何回も試作している。
しかし従来の神聖魔術がグレードダウンバージョンなのを踏まえてそもそも神力と呼ばれる成田天馬や父などが使えるもはや個別の能力を一般的な術式に落とし込むのは相当に苦労しているそうで、今私はそんな苦労話を聞かされている。専門的な知識を抜きにして愚痴を話してくれるクリスに感謝しかないが、私はそれでも彼女の話にうんという他ないのだ。聞き上手ではないから。
「──私が得意なのは炎に関する魔術のはずです。それなのに別の分野をやらされるなど気にも乗りません、休憩はたまにはとっているものですがそれでも曖昧な概念を抽出して誰でも使えるようにするなんて、それは天才の所業ではなくて?」
「でもクリスは天才じゃない?」
「お世辞として受け取っておきますけどねラナさん。私は天才ではなく凡人です、ただ知識が他の人より多いだけの。」
クリスの謙虚そうで実はそうでない態度はいつものことだ。私が世辞の一つでも言えばとんがらせている唇を少し引っ込めてくれる、いい薬になっているといいのだが。
プリエルが持ってきた紅茶もこれで五杯目だ。まだ話し始めてから30分も経っていないのにこの喉の渇き方はクリスがずっと話続けている以外にもあるだろう、心の落ち着きがないのだ。だから少し人目につかないと頃で私にこんな愚痴盛りだくさんの話をする。
「────はぁ。」
「けど、進展があってよかったじゃないですか?そもそもの話、あのクリスタルを突破しない限りはもうどうしようもなかったけだし。」
「……そこはそうですね。屈辱のまま負けるなど、前線に立つ私たちがあってはならない事態です。特にお父様は国を守る人として民などにむざむざ惨敗報告をするのは、決して許されることではありません。」
「そういえば、本国の方にはそういう報告は行くの?」
「行きますわよ。それも一言一句残さず、今回の戦いで兵が大勢死んだことももう現世では知れ渡っている頃でしょう。」
「それってまずいんじゃ。」
「切実さという面と、ナリタテンマという過去の栄光がまだあるうちは大丈夫です。ただ流石に耳が痛くなってはきましたが。」
私が異界探査部隊に入って察したことの一つとして、外へ向けて発信する内容と実際の内容はかなり違うという点だ。過酷なミッションであることは公にしてはいるもののその実、被害に関しては全く公に晒されていない。その方が志願者を多く募りやすいという事情があるからだ。でもそれでは逆に信用を勝ち取れなかったりする。だから軍も同じ方法で情報統制をしているのか少し気になってクリスに聞いてみたが本人がこうなのであれば本当なのだろう。
「大丈夫なの?」
「いいえ、これが後半年も続けば私たちは確実に負けます。今の状態はなんとかバランスを保っているところ、それこそお母様が本国にいらっしゃるので当面貴族たちは私のように愚痴だけで済んでくれるでしょう。」
「どういう。」
「危惧しているのは確かに、国民たちの評判でもありますが、貴族の反乱も者ということです。」
「反乱!?」
「ええ、あの小汚いたぬき達はそれこそ隙さえあれば王座を狙いに行くでしょうね、甘ったれた温情で育った陰湿な植物が如く、自分が無敵だと思い込んで、伊達に家柄と権力はありますから。時間次第というやつです。」
「……大変だ。」
「ええ、まったく。そうしたら私たちは王族ではなくなってしまうかもしれませんね。」
「……それってクリスは、そのありがたい?」
「ええ!!」
「言うのね。」
「それはもちろん、王族になっていいこと何一つなかったですから。なんなら勝手に降ろされるくらいだったら要らない貴族を何人か葬ってからでも良いかなと、」
「物騒すぎないそれは。」
「いいんですよ、死ねば諸共道連れというやつです。」
意気揚々と言うクリスであるがそれは国民が困るというもの。そしてその展開の速さについていけない自信がある私も。
「……ラナさんのお父様が言うには、これが最後らしいですし。」
「それは、まだわからないって。」
「元神の言葉を疑うのは貴方だけですわ。」
「お父様は人間だから。」
「そうですわね。まあ、とりあえずのところ次の戦いからはもう慌てている暇はないですわね。生き残ることよりもどう命懸けで戦うかでしょう。」
「………それってやっぱりナリタテンマが今までセーブしていたと言うこと?」
「はぁ、嘘はつけませんから。お父様は過去に囚われた平和主義者なんです、だから戦争がもう半年も経とうとしているのですわ。」
ナリタテンマが命を大事に戦略を立てていることは兵士の中では有名な話だ。それは兵士たちにとっては嬉しいことなのかもしれないがこと短期決戦を掲げて勝ちを取りに行く姿勢としては悪手である。そしてその結果が大勢の兵士を一気に失うこの間の戦いにつながった。
保守的すぎて勝ちを取り逃がしたのである。
「……それもこの間の戦いで、」
「思い知ったでしょうね。ですから、ラナさん。お互いに生き残りましょうね。」
「うん。」
私たちの会話は矛盾しているかもしれない。ただこのクリスの言葉の裏に運が良かったらという意味が隠れていること、それを私はなんとなく察していた。




