107話「荒れ狂う戦場」
「!!」
一呼吸入れた次の瞬間、私に向けられてくるのは必死の刃。正しくは刃になった爪である。
「ひヒィっ!!」
少年の姿をした魔人族が動きが止まった私の背後に乗り出てその爪で一撃必殺を狙ってくる。そして頭部めがけて放たれるその一撃に対して即座に対応して刀を振るって切断、加えてプラノード抜刀術による追撃によって深傷を負わせる。
「まだ、マダァ!これからなんだヨォ!!」
「!?」
弾き飛ばした相手の口が大きく開き、私の手首から刀まで飲み込もうとするが素早く上下にパリィすることによって鋭い金属音と共に少年を引き剥がす。あと1秒でも遅れていれば終わっていたのは自分の手首だったと、少しついた鋭い歯の感触に痛みを覚える。
(次はどこからくる!)
もうこれの繰り返しで何十分、何百分と戦っている気がする。その上で確信したことは相手ははてしないほどのたいりょくを持ち、それは獣人の私や果てやワルツ先輩の持続力を大幅に超えているという点だ、戦い続ければいくら魔人族であっても消耗する。だがあの少年だけはそれがないというふうに見れられる、何度切っても何度潰しても何度やっても確実に殺し損ねてはこちらの意識をかき乱すように殺しにかかってくる。その執念の深さはただ純粋な快楽が的になっているのだろうと考えると余計に憤怒に心が染め上げられる感覚になる。
「左!!」
「大せいっかい────!!!」
刀と再生し切った爪が鍔迫り合いを起こしてガチガチと鋭い音と火花を照らす、私の腕はさっきから参ったような痛みを出し続けてかなり限界だ、だがそれでも攻撃の手、防御の手がやめられないのはこの少年のせいなのだ、シンプルすぎる戦闘スタイルがここまで厄介だと思ったは初めてだった。
「キリサメ!!」
「っぁぁう!ってヘ!!!」
爪が切られても足の爪があると言わんばかりにしなやかなムチのような特性になった足は先端に鋭い刃をつけて私の胴体を次の瞬間には輪切りにできる体制にあった。でも立てに戦い続けた私ではないこいつの次やることはなんとなくでわかる。だからこそ。
「雷光・タテミカヅチ!!!」
「っくぁ!?」
攻撃にガードで返すと同時に電撃の魔術を刀に流し込むことによってオートのカウンターを実現、純粋な物理攻撃でこの魔人族に傷をつけることができないのなら魔術の蓄積効果によって正気を見出す。
「ぁ、ああぁ、あぁああ!!?」
「プラノード抜刀術!」
相手も気づいたようだ。電撃の魔術はその発生の速さ、そして追加効果である生物を麻痺させる電撃を持つということを、そしてそれによって生まれた一瞬はおそらくは人間よりもはるかに短いはずだ。だがそんな短さでもプラノード抜刀術ならたたき伏せることができる。
落ち着いて、一瞬で納刀と抜刀をして相手の首から胴体を完全にバラバラにする。そう意識すると技はすぐに決まった。
「や、や!!!」
「真・クサナギ二式!!!!」
相手が動こうと体をもがかせてももう遅い。抜刀から攻撃までは確実にこちらが早い、完成や分裂、瞬間移動、どんな卑劣な手を使ったとしてもこっちの攻撃が相手の思考よりも早い、私の技がお前を殺す方が早いと確信する。
(とった────!)
だがここで変数が生まれてしまった。
私のまなこに映る少年の姿が一瞬揺れたように見えた、水鏡に映る自分の姿がたった一つの水滴によって揺れて本物ではないと発覚した時のそれにすごく似ていた。そしてそれが丸ごと現実に適用される。私は自分の直感の鋭さをつくづく後悔した。
「…」
刀が、少年をなったはずの刀が。今は何も切っていないような結果に戻された。私の意識は一瞬停止した、だがすぐに周りで戦っている仲間たちの気配がやけに遠くに行っているような感覚に違和感を抱いて、放心から警戒心へとすぐさま移行して現世を睨み見る。
「…は?」
そこは激戦だったはずだ。魔暴によって多くの兵士たちの亡骸が少し歩けば存在した世界、兵士たちが必死な顔をして今も戦い続ける世界、ワルツ先輩ができを吹き飛ばし数多の魔術が空を照らし、その中でもクリスの魔術は一級品に眩しい世界、ナリタテンマが放つ剣の軌跡が大地を抉り取り多くの敵を一頭両断するその世界は、時が止まったかのように遅く、そして鈍く、少し変化していた。
「……敵は?」
敵の数が圧倒的に少なかった。私と同じく戸惑いを見せるものも多かった。同じ現実にいて、同じ世界にいて、同じ時間にいるというのにほとんどの人間は必死でそれでも全員必死ではなくなっていた。なぜかそこらじゅうにいた魔暴の大半は失せていた、魔人族もだった。
「どういう……っ!?」
目を動かし戦況を確認しようと頭の中で無数の思考がまわるとき、私は特に目立った一つの存在を目にした。そしてその人物の足元にある奇怪な球体の存在を。
それは肉ダルマと言った方が正しい気がした。肉、肉、肉。あるとあらゆる生物の血肉、骨、内臓、爪、それらが集結したような、それでいて何かの生物に生誕しようとするような鼓動がドクンドクンとまるで生きた心臓のような音を静かに漂わせながら空中に浮かんでいた、赤、緑、黒、魔棒たちが持つ独特な血の色汁がびちゃびちゃと糸を作りながらゆっくりと下へと垂れ下がっている。しかしその鼓動を得た一つの生物はそんな自分の外側に起こっていることなど気に求めず、ただただ見に纏った服がほつれていくのを無視して、今そこから解き放たれるような狂気性があった。
「あ、あ、あ?」
あれはなんなのか、あれはどう言ったものなのか。それが理解できない、理解することを脳が拒んでいた。だが一つだけわかったことがある、あれは
「止めない、と。」




