106話「魔人王の一手」
我らが魔人王の巨城では多くの同胞達がザワザワと今まで見せずにいた感情を露見させていた。その理由は言わずもがな、戦争相手先である人類の猛攻によって我が世界及び領地が着実に奪われていっているからだ。この争いのために打って出た我らは最初こそは人類を根絶やしにする勢いを手にしていたが、向こうも向こうで戦争というルールと言葉を理解してそして経験があるのか形成はいつのまにか逆転し、たった数十日の合間には巨城と向こうの世界の入り口との中間点を奪い合ってそこを激戦区とする様が繰り広げられていた。
この争いのために多くの同胞達が再びこの巨城へと募った。皆退屈な景色とは打って変わって人間達との戦いがどこか昂りを覚えるものだと直感しているからだ、けれどもこれは聞いていないと騒ぎ立てている。その様は実に哀れでそして醜くもあった、おそれを知らぬ魔人族、その種族が今や自分が死ぬという事実に誉でも、喜びでもなく恐怖を覚えている。
『どういうことだ、どういうことだ。』
『人間は、人類は恐るるに足らないのでは?』
『なぜ押される?なぜ負ける?』
『我々は強き種族、神々ですら恐れた種族である』
『なればなぜ負けるのか、なればなぜここまで負け続けるのか。』
「その理由は単純、あなた方は恐怖というつまらない知恵実を味わってしまったからである。」
小さく呟くつもりであってもこの巨城の廊下は恐ろしいほど響き渡る、外を見れば百を超える紫電が落ちているというのに私の耳はその怯えた小動物の不安声をこれでもかと聞き取っている。そして私が口を挟み彼ら一団に近づけば近づくほど、相手の顔色はみるみる悪くなっているのである。
「き、キサマは。ラングレ───『ェェ』───ッ???」
私が手を斜めに振るうと肩から腰にかけて名前があったはずの魔人族の体がズルッと斜めに落ちて地面に落下した。流れ出す血と内臓は我々魔人族の死の象徴たる灰へと生まれ変わりチリチリと音を立てながらそっと荒れ狂う紫電の風に飲まれていった。
「失礼、私に向かって貴様などとふざけたことを申し立てたため切り伏せてしまいました。」
「……そ、それはもちろん!」
「ひ、ぃ。」
一人は私の言葉に恐怖してもう一人は取り入ろうと苦しみの中で表情を作っていた。しかし私からすればこの二人に差なんてものは存在しない、あって感じるのはいいとこ戦闘技量と声色、そして頭の転換の速さくらいだ、しかしながら魔人族という種族に恐怖というデメリットある感情を持つものは例外なく処分する。
それが我々の暗黙の了解である、長き月日によって爪を研ぎ忘れたオオカミの始末方針である。
「さ、て。貴方達も次生まれ変わるを楽しみにしています。もっとも家畜(魔暴)たちの餌にもなりませんが。」
『───────』
頭を吹き飛ばして、由来する魂をこの手で薙ぎ払えば大抵の魔人族は命を落とすのだ。頭切り飛ばした私の腕には血が一滴もついていない、この世界では実に珍しい白の布を使った手袋ですらその潔白さを物語っている。同族殺しは別に問題ではない弱くて気に入らない者は強気ものに踏破されるのは当たり前。
だから私の通り過ぎた後には頭を吹き飛ばされてもう不安を口にすることすらできなくなった同胞の亡骸が二つ、直立したままゆっくりと灰へと変換していくのだ。
(最近は戦いを恐れる者が増えてきた。おそらくは自分より強い存在の到来に皆困惑しているのでしょう、私もその一人であるが。)
記録する者は必要なく、頭に全ての事項を詰め込んだ私は魔人族の中ではかなり弱い部類に入る。純粋な力においての話である、がそれを今までどうにか誤魔化してこの座に着いたのは紛れもなく愚かに隠れて過ごしてきたのではなく知恵といういにしえ敷かれてあるルールを解読した者だからであろう。
知恵があれば単純な力を持つ相手に対しても有利に立ち回れることがある。それを知ったのは魔人王と初めてあってそして首を捻り曲がらされたり時だった。
それ以降、私は王へは尊敬と信頼とそして弱者たる姿勢を見せながら頭ではその座をいつ転がすかどうかを考える卑怯な知恵ものになった。かの王が椅子に座っていく万年、世界が変わったことはなく魔人族たる私たちに残される娯楽というのは戦闘だけだった、ただ私はそうではなくできることなら考えてことを移すということに生きがいを感じている、だからこそこのような身分で今ここにということであろう。
(と、脱線してしまった。狂気性は魔人族という種族の表面構造、これを抑えられれば幾分か思考を論理的に回すことができるはずだが、感情を最端に優先したくなるのはもはやサガでしょうか?乗り越えられるでしょうかね。)
魔人族は自分より強い存在には潜在的な恐怖を抱く。それは魂、ないしはこの世界に追放された先祖代々からの呪いである。いにしえの神々が我々をこの世界に封じ込めたという敗戦の烙印が恐怖という形で体に残っている。
それゆえに恐怖を抱く魔人族は種族の痴れ者であり、誰にも受け入れられず死ぬ。それが大勢いるかなど関係なく、全ては王の采配に実を委ねるものとして、それはあまりにもダブルスタンダードという点だろう。
王に命を預けて戦いに赴いているのにも関わらず、いざとなったら自らの命を優先するという、ふざけすぎた思考ロジックは正直不条理性と潜在性を醸し出され、私からすれば意味不明だ。
(だが口に出るまでは真ではない。)
だからこそ口の奥へと逃さなければならないのだが、狡猾でも知恵者でもない彼らからしたら思ったことを口に出すのは何を間違える必要があるのか?などという考えなのだろう。
もっとも私は違うと心の底から感じている。
私は他の者より優秀であり、他の者より特別である。それは自分の身分、もっと言えば役職、さらに細分化して名称を与えれば「将軍」という立場をいま拝命しているからである。
魔人王の玉座の間に足を踏み入れる、本来は礼儀などという少し粗末なものを身につけてから入るべき場所なのであろう。私と言えども、道化師のようなことをしたくない性分だったので、この特別待遇には文句も出ない。
加えて王は玉座に映し出されたあるとあらゆる戦場を見渡す目を持って人類と同胞の戦いを除いている。だが顔を見ればわかるのだ、あれは退屈だ。
「王よ。」
「ラングレースリインドか…」
その顔は本当に退屈そうだった。もはや私との対話ですら途中から楽しみではなくうざったらしさというものを感じて、次しゃべれば殺すという単純すぎる考えをお持ちのようにすら思える。ゆえに少し溜飲が降るのだが、ずっと止まっているわけにもいかない。
「王よ、私は閃きました。次なる一手を打ちましょう、これによって我々の争いはもっと、面白くなるでしょう。」
「ほぅ。」
画面を見上げる視線がそっと私へと落とされる。期待はしていないが興味があるという目である。王の退屈さを私が理解しているという点を評価してくれたのかもしれないが、それで舞い上がっていては将軍ではなく私の存在そのものがつまらないの一言で消されかねないのだ。
王がつまらないと思っているのは、ただ一つ。
変革がないことである。
「王よ、私の考えを拝聴いただきたい。このつまらないと戦争をもっと面白いものにいたしましょう。魔人族も、人類も、そして、貴方も私も、苦しむほど楽しいものに!!!」
「………フ。」
王の話を聞こうという態度は口に現れた。一直線だった口形は孤を作り、いずれは半円を作っていった。




