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103話「大作戦会議」




 簡易的に建てられた作戦会議用テントには私を含め大勢の小隊長、大隊長たちが袋詰めのように集められた、密集空間内は炎の焼け香と汗などの生体的な臭いで充満していた。それでも全員この地獄の世界でしばらく活動しているせいか鼻が慣れてしまって気にしていないのだ。

私はというと鼻がどんな時でも少し敏感なので、父のすぐ隣で鼻に入ってくる臭いに耐え忍んでいた。


こう言っては何だがやはり血のつながった家族の匂いは安心する。


私たちがここに全員集合したのを確認してから、ちょうどこの前現着した。ペリー・クラスタ先輩が進行役として会議を始めた、ここ数ヶ月にわたって彼女が立案した作戦のほとんどで勝利を収めているからか、彼女を元から知っていても、彼女を元から知っていなくともこのテント内は安心と信頼の視線が常に飛び交っていた。


 「それでは、作戦会議を始めたいと思います。」


個人的にはまるで新兵を見ている気分になる。見える部分に汗をうかばせながら少し辿々しい口調で語る先輩の姿は危うさがある、だがそんな態度とは裏腹にナリタテンマが事前に予告した作戦と、それに合わせた配置の考えを出す際は誰よりも集中してそして私たちが納得する回答を出していた。


 「ナリタテンマからは本占領作戦に置いて大隊長を計五名配置するとのことです。パリス・アイネリア、アルシュド・オルバルス、ノーブル・フォース、ゼル・プラノード、ラナ・プラノード。以上五名を大隊長に任命いたします。」


目配せしながら語るクラスタ先輩。呼ばれた全員が少し頷いたりはたまた敬礼をしたり、その場で集まっている呼ばれなかった他の人たちはただ聞いているだけのようにも見えた。

そもそも現状に対する理解があるのならば拍手や嫌味の一言をもらそうものならその場で叱責を受けるであろう。


この場は今達人同士の睨み合いのような極度の緊張感が流れているのだから。


 「今後以上の順番で第一から第五までの大隊長といたします。続けます、」


ペリーはナリタテンマの手紙をそっと机のはじに置くと、テントの中央に建てられた大きなテーブルに簡単な指標を立て始め、作戦の解説を始めた。


 「本作戦は占領作戦でありますが、奇襲で敵軍に攻めに行く算段です。エリアC3から正面突破を図ろうと見せるナリタテンマ率いる大部隊が敵を惹きつけている間にこちらは一点突破する形で敵の側面に割り込む、そこから縦に割くような形で入り込んだ後はナリタテンマ率いる大部隊と合流し、総力戦となります。」


大胆な作戦でありながら、失敗したとしてもそのまま合流後、撤退が可能な二部隊編成である。魔人族軍はもし私たちを追撃するとなると部隊を二手に分かれさせて追撃しなければいけないため、最悪のケースである正面突破が不成功のまま軍を交代せざる負えない状況には至らない。


 「しかし敵の魔人族軍は推定、こちらの6倍の戦力差があります。」


 『………。』


誰も驚かないどころか声すら上げない。唸り声も舌打ちも聞こえなかった。この世界において敵軍のテリトリーに土足で踏み入っているのに枚数不利じゃなかったことなんてない、全員慣れっこだったのだ。一周回って呆れているとでも言える。


 「ナリタテンマからはエリアC3にはすでに防衛装置が設置されているとあります。同時に先達した通り、こちらのエリアにも最新式の防衛装置を配置済みです。」


 (先刻言い渡された、防衛装置。多分作戦がもし失敗した時の保険か、それともエリアD2が手薄になっている間に占領されないためか。)


 「また繰り返しになりますが本作戦は電撃作戦となっております。ナリタテンマ軍が正面からの敵の引きつけに成功し、ある程度の戦闘状態になった時我々が進軍する形になります。ですが、敵軍を惹きつけることが難しい場合はプランを変え、戦術兵器を使い敵軍の数を減らした上での攻撃に移ります。」


 「戦術兵器ですか?」


一人のちょいヒゲの小隊長が疑問の声を上げた。この空間でそんな素朴な疑問ができるのか?と言われたらできる。なぜならこの場の誰もが戦術兵器に関して知らなかったからだ。


 「ナリタテンマから大隊長に直々に渡されるものがあります。そを使っての突破を図ろうということです。ご安心ください、性能についてはすでに検証済みであり、うまく使えばブレクトルコクーン三体を相手取っても勝てます。」


 (それは言い過ぎなんじゃないのだろうか?)


とてもじゃないが現実味のない話になってしまった。だが今のクラスタ先輩の話で戦術兵器に該当するものが何なのかは理解した。おそらく魔術秘宝だ。クラスタ先輩が誇張なしで言っているのなら本当に魔術秘宝にはそれだけの力があるということになる。


 (私は使っていないけど……もしかしてワルツ先輩は使っていたのだろうか?)


作戦で魔術秘宝が推奨されたことはない。ただナリタテンマからは私たちに、必要な時は使え、という言葉はもらっている。その意図から私はこの戦いまできっと魔術秘宝が壊れることはないのだろうというどことなくない確信があった。


 「…承知いたしました。かの王の考えなら。」


 (魔術秘宝を使え、とは公に言えない。)


質問をした小隊長がすこし不満げに食い下がった姿を見て、隠し事をしている自分を少し責めたくなった。戦場でしっかりとした回答が得られないのはポテンシャルにも影響する、一介の兵士として立場になってみれば気持ちは痛いほどわかる。


 「ありがとうございます。それでは次に配属される兵士たちの割合についてですが……」


 その後クラスタ先輩は登場時の不安を打ち破る形で作戦会議を迅速かつ丁寧に進め、兵士の割り当て人数から、配属先の兵士たちの装備状況まで頭からてっぺんまで何から何まで、事細かに丁寧に説明した。私も彼女の作戦会議を初めて見たが、とても見事なものだったと記憶している。なぜそんな曖昧なのかと言えば聞いている途中で集中力が切れかかっていたからだ。

最後までしっかりと聞けていたのは誰一人としていないんじゃないかと思うくらい。


 「ぅ。」


 「ラナ大丈夫か?」


 「はい……すみません、あの環境だと鼻が。」


 「あぁ、敏感だったか。」


まるで鼻が詰まったかのように奥の方ではあのテントの臭いがこびりついているような気がした。集中力が切れて五感が妙に鋭くなってしまえば、私の鼻は嫌でもそれを覚える形になる。最悪である。


 「私にできることはあるか?残念だが、香りのいい花を持つ魔術や魔法はあいにくだが。」


父が助けてやりたいけどできそうもない困った顔をして私に言ってくれた。少し立てば一人の戦士同士となるのにも関わらず、私を見るその目は穏やかで他ならなかった。


 「では、もう少しそばにいさせてください。お父様、家族の香りは少し落ち着くので。」


 「あぁ…」


私は父に少しもたれかかる形で、深呼吸を数回繰り返した。その間父は私の態度に何も言わず、そのまま優しい置物のように接してくれた。たまに頭を撫でてくれることがこの最悪な世界の中での癒しになる。


 「緊張するか?」


 「……私だけではないでしょう。」


 「そうだが、戦いに行くのに不安にならないという方がおかしい。」


 「それを言うならお父様だって。」


 「私は慣れが効いてしまっている。精神も、記憶も、若い時から無茶ばかりで平和だった頃はお前と一緒に過ごした時間だった。」


 「………。」


 「でもこの戦いが終われば、本当の意味での平和が訪れる。そんな気がする、だからお前とお母さんとあとはエルザード達とでまたピクニックに行こう。」


 「はい。楽しみです。」


父が語る夢物語は懐かしい匂いがした。息を吸って肺を満たすのは冷たくて重苦しい空気だというのに脳裏に浮かぶはあの昔練り歩いた花畑の香りだった。




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