102話「竜の心情」
エリアC2とか呼ばれている、この場所で我とエルフル、そしてミィーナは次の大作戦前の待機をしておった。そこら中にいる兵士たち、そしてそれとは別の一風変わった見た目の腕利きの冒険者たちが自分の武器を手入れしていたりはたまた忙しなく動き回っていたりとなんとも戦とは呆れるものにほかなかった。
それは10年前のあの時とはちょっと違った。余裕があるようでない、戦場の中の安息。言葉がとても変に聞こえるのは単純に我の感じ取り方が達観しすぎているのだろうなと一蹴する。
「ふーー。」
「ん、おい嬢ちゃん、こんなところで何してんだ?」
いかにも退屈そうに体を仰向けにしていたところを喋りかけられていた。こんな晴れ晴れとしない天気と対比されているように声の持ち主は随分と陽気な雰囲気を纏っていた。
「……嬢ちゃんじゃと?我はそんな歳じゃないぞ。」
「……!なんだ、おばあちゃんってのかよ?!」
「ん。」
そうだとでも言いたげに返してやると、驚いた相手の顔を少し見てやる。若造だとわかると口が自然とへの字になる、同時に胸の内も厄介なものに絡まれた時と同じように不愉快だった。
「それは、悪い。いや悪かったです」
言葉と次に随分と整った身なりをしていると見て見ていて分かったので少し興味が湧いた我は話を聞く気になりながら質問した。
「……お主、冒険者じゃないのか。」
「俺は、これですよ。」
得意げな表情でありながら少し自慢げにもかけないそんな顔をする青年は胸から何やらジャラジャラとした勲章のようなものを取り出した。我にはそれが何なのか皆目見当もつかないが見覚えはあった。
「国旗の、そうか。ナリタテンマのやつじゃな。」
「えぇ、アングラス・ベドートっていいます。貴方は?」
「エルザード。」
「エルザード、なんですか?」
「ただのエルザードじゃよ。」
「!?」
「そうか、珍しいんじゃったな。」
口元を押さえながら、自分の常識はずれさに少し恥ずかしさを覚えた。老人に恥ずかしさなんてものはほとんどないが、一般的なことも知っていないと流石に何だかやってしまった感はある。
今時苗字を持たない人なんてのは珍しい。まぁとはいえ我は苗字を持つ方が逆に変な気もするがなという。
「……そのツノ、もしかしなくて竜なんですか?」
急に真剣な態度に出る相手にそうだと適当に言ってやると。すごくしまった顔をし始めて何だかめんどくさく感じた時だった。
「失礼しました!まさか、竜種の方だったとは、となれば。」
「言うな。我は自慢大会に出たわけでもそれを見せびらかすつもりはないんじゃよ。」
呆れつつも、自分の一部名声の広さに苦笑いが出る。最後の竜種などと偉い人間は認知しているなぞ、我にとっては心底不名誉に他ならない、我の目的を知れば誰もが笑うともうが。
実際に我は自分以外の竜種がまだいるんじゃないかと期待している。
「それは、すみません。」
「分かったのならもう構うな。ホレシッシ、どこかへ行け。」
「ぁ、はい。」
何だか少し落ち込んで帰る若造の姿を見ていると懐かしいような気持ちになる。ま、世間知らずというよりかは少しばかりめんどくさい若者に絡まれた気分だったわけでちーっとも嬉しくもなかった。
「エルザードおばあちゃん!」
「……エルフル。手伝いとやらは終わったか?」
「うん!!みんな親切にしてくれたよ、」
「そうか、そうかそれはよかったの。」
「…ぁ、でもみんななんか大変そうだった。」
「戦争はそうじゃろうな。」
戦争経験者でもないのに、そういう口ぶりをできる点は老人ではとてもいいと思っている。長生きしていれば人生の危機とやらに数回は出会しているから、それが戦争だったと考えればあながち間違いでもない世界の終わりのようなものも何回も出会してきた。悲鳴さえ上げられずに一斉に真っ赤に染まる世界に比べればこれはまだ生やさしい。
「……ミィーナの様子でも見に行くか?」
「うん!」
屈託のない笑顔を向けるエルフル。体力の消耗を最低限にするためにこやつは数日前からスライム状態での活動をしている。この地獄のような世界じゃスライムがいるなんて考えないからか、とって食おうとする輩もだいぶ少ない。
そう思う余裕がないのだなと、考えつつミィーナがいる場所へと向かった。
「……ふ、ハァ!!」
ミィーナは相も変わらず開いた時間のほとんどは自己鍛錬に費やしていた。腕立てなどの初歩的なトレーニング、仮想的をイメージしてでの双短剣の連撃練習、とてもじゃないが一時の母とは思えないほどの軽快な動き、これがつい数ヶ月前までベットにふせって動けなかった人とは我も思えなかった。
「また自己鍛錬か。」
「……っ、エルザードと、エルフル。」
水を軽く飲んで、汗を拭くその姿は昔と遜色ない。何だか気のせいか少し若返っているような気までする。
「お主、少し前まで病人だったこと忘れたのか?」
「そうは言っても戦場に出てきたならそれはもう戦士だから。」
「……。」
呆れるしかない。自分の身を顧みないところは本当に昔通りだ。弱気であっても他人を気遣うまでの余裕を見せる、何だかラナの心配性というかこやつの心配性というか、それが我に移った気がした。
「それに、この戦場のどこかであの子も頑張ってるから。」
「それは、無謀になっていい理由にはならんぞ。」
「そうだよ!何かあったらエルザードおばあちゃんに何とかして貰えばいいんだから!」
「………まぁ、そうじゃな。」
エルフルの言い分はもっともでも我も今戦っている相手がそう易々と倒れてくれる存在ではないことを知っている。竜種という種族的なアドバンテージがあったとしても、ナリタテンマ然り、この世には人という小さな身でとんでもない化け物がうろちょろしている。それを考えるとまぁ嫌でも油断なんてできなくなる。
「とにかく、お主もゼルもラナも働きすぎじゃ。責任感が強いところばっかり似ておるせいで心配する身にもなってみよ。」
「………そうだね、ありがとう。」
「お主たち一族が、途絶えるその時まで面倒を見てやる気なんじゃから、こんな戦争で勝手に死ぬんじゃないぞ。いいな!」




