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冴えないUXデザイナーが異世界転生して、『ペルソナ設計』で滅びかけの王国と姫様を救うことになりました  作者: もしものべりすと


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第二十章 センスと設計の決着

翌朝、俺は宮廷の客間棟の、奥の一室に向かった。


廊下を進むほど、宮殿の派手な装飾は、減っていった。


横田が軟禁されている部屋は、宮殿の中でも最も簡素なただの石壁の部屋だった。


皮肉な話だった。


派手を、極めた男が最後に、置かれたのは何の装飾もないただの部屋だった。


扉の前で、ガレウスが待っていた。


「司殿本当にお一人で、よろしいのですか」


「ええ」


俺は頷いた。


「これは俺と、彼の話です」


ガレウスは頷いた。


だが、念のためと、彼は扉の脇に立ち止まった。


俺はノートを抱えて、扉を開けた。


部屋の中は、薄暗かった。


窓は、ひとつ、高い場所にあるだけだった。


朝の光がその窓から、細く、差し込んでいた。


横田は簡素な木の椅子に、座っていた。


昨日の派手な上着はもう、脱がされていた。


代わりに、灰色の麻のシャツを、着せられていた。


首の金のチェーンも、外されていた。


その姿の彼を、見るのは、初めてだった。


五十二歳の、ただの痩せた中年男がそこに、座っていた。


「ヨコタさん」


俺は声をかけた。


横田は、顔を上げなかった。


床を、じっと見ていた。


俺は向かいの椅子に座った。


ノートを、机の上に置いた。


そして、彼の顔をしばらく見ていた。


東京で何度も、見上げた、あの顔。


酒の匂いをさせて、笑いながら、俺の資料を奪っていった、あの顔。


それがいまはすっかり、しぼんで、机の上の埃を見ているだけだった。


「俺は、あなたの、ペルソナを、書きました」


俺はぽつりと言った。


横田は答えなかった。


「読みますか?」


やはり、答えなかった。


俺はノートを開いた。


そして、彼のために書いたページをゆっくり、声に出して、読んだ。




「ヨコタ・タケシ・五十二歳。


元クリエイティブディレクター。


若き日、本気で、自分の絵を描こうとした男。


業界の流れに、置いていかれた。


取り残される恐怖から、他人の成果を奪い続けた。


本当に、欲しかったのは、誰かに評価されることではなく。


誰かと、一緒に、何かを作ることだった」




読み終えると、部屋の中が、しんと静まり返った。


横田はまだ、顔を上げなかった。


だが、彼の肩がわずかに、震えていた。


「ふざけるな」


彼は小さな声で、言った。


「お前に、俺の、何が、わかる」


「全部は、わかりません」


俺は答えた。


「でも、二十年、見てきました。あなたを」


横田はゆっくり、顔を上げた。


彼の目が赤かった。


泣いていたのか、眠れなかったのか、その両方なのか、わからなかった。


「俺は」


彼はぽつりと言った。


「三十年前、ポスターを、一枚、描いた」


「ポスター?」


「公園の、夏祭りの、ポスターだ。誰の依頼でもない。俺が住んでた町の子供たちのために、勝手に、描いた」


「ええ」


「町の人が喜んでくれた。子供たちが群がってきてポスターの前で、はしゃいだ」


俺は頷いて、聞いていた。


横田の声が徐々に、震え始めていた。


「あの夏がいちばん、楽しかった。だが業界に入って賞を取って肩書がついて、それからもう誰かのために、何かを描いた記憶がない」


「ヨコタさん」


「俺は、自分が何を、描きたかったのかわからなくなった。だから、お前の絵を、自分の絵だと、言い続けた。そうでもしないと、自分が何者かわからなくなりそうだった」


横田の頬に、涙が流れた。


東京の事務所では、見たことのない、涙だった。


「俺は、お前を踏みつけにした」


彼は頭を垂れた。


「すまない、司」


俺はしばらく彼の頭を見ていた。


胸の奥に複雑な感情が、渦を巻いていた。


怒り、悲しみ、憐れみ、そしてようやく、わずかに灯った許しの予感。


俺はペンを握った。


そしてノートを横田の前に、置いた。


「ヨコタさん、自分で、書いてみてください」


「書く?」


「あなたの、ペルソナを。あなた自身で」


「俺、には、書けない」


「書けます」


俺はペンを彼の手に、握らせた。


横田の指は、震えていた。


だが彼はペンを、握り直した。


そして、白紙のページの上にゆっくり、ぎこちなく、書き始めた。




「ヨコタ・タケシ・五十二歳。


もう一度、夏祭りの、ポスターを描きたい男」




たった、一行だった。


だが、書き終えた瞬間ノートが温かな、橙色の光を放った。


それはペルソナ魔法の、自己発動の光だった。


彼自身が、自分のことを初めて自分の言葉で、書いたその光だった。


横田はノートを見つめていた。


頬の涙がまたひとすじ流れた。


彼の指の、ペンを握る力がゆっくり、緩んだ。


「司」


彼は消え入りそうな声で、言った。


「お前の、ペルソナを、書いてくれたことでこんな世界が見えるとは思わなかった」


「ヨコタさん」


「俺、向こうに、戻れるのか?」


「戻れます」


俺は頷いた。


「戻ったら、ポスターを、描いてください」


横田は、ノートの光を、両手で包み込んだ。


そしてゆっくり頷いた。




俺が部屋を、出るとガレウスが心配そうに振り返った。


「司殿、大事は、ありませんか」


「ええ」


俺は頷いた。


「彼は、自分のペルソナを、書きました。これで、彼も、いつかは元の世界に、戻れます」


ガレウスは何か、言いたそうな顔で、しかし黙って頷いた。


その日のうちに、宮廷では、王の宣言が出された。


ヨコタ・タケシは、宮廷から、追放された。


だが、処刑は、されなかった。


彼は、東の海辺の小さな町に、預けられた。


そこで、看板絵師として暮らすことになったと、後で聞いた。


俺は彼がいつか本当に、夏祭りのポスターを、もう一度、描く日が来ることを、心の中で願った。



横田と、向き合った日の夕方、俺は、宮殿のバルコニーに、出た。


王都の街並みが、夕日に染まっていた。


広場の黄金の大噴水はもう、止められていた。


派手な装飾の柱も、半分が撤去されていた。


代わりに、簡素なしかし、温かい市民の集会所が建てられ始めていた。


ベルカ翁が杖をついて、隣に立った。


「設計師よ、お前は、横田と、戦わなかったな」


「ええ」


「ただ、彼の、本当のページを、開かせた」


「俺は、書くことしか、できません」


ベルカ翁は笑った。


白い髭が、夕風に揺れた。


「五百年前、設計師たちも、最後の最後で、派手好きの首領を、書いた。だが書いた言葉が相手に、届かなかった。それで、設計師は滅びた」


「届かなかった?」


「相手が自分の言葉を、書く勇気を、持たなかったからだ」


翁は、夕日の方を向いた。


「お前は彼に、書かせた。自分自身を、書かせた。それがお前の勝ちだ」


「勝ち、ですか」


「いや、お前と、彼との、共通の、勝ちだ」


俺は頷いた。


胸の奥が温かくなった。


横田を、東京で恨んだ気持ちが消えたわけでは、なかった。


だが、彼を、ひとりの迷子の中年として見られるように、なっていた。


そしてその夜、王女が俺の客間を、訪れた。


彼女の顔は柔らかく、しかし少しだけ、寂しげだった。


「司、明日、設計師の儀式を、行います」


「儀式?」


「あなたを、元の世界へ、お戻しする、儀式です」


俺は息を止めた。


「ベルカ翁が、書庫の遺書を、再度、確認しました。設計師は王国を救った後、必ず、元の世界へ、戻る。それが、五百年前のリエンの遺言です」


王女の声は、穏やかだった。


だが彼女は視線を、合わせなかった。


俺の足元の、絨毯の縁を見ていた。


「アリーシャ様」


俺はささやいた。


「もう、決めたのですか」


「ええ。あなたが戻るべき場所に、戻れるように」


「俺が、ここに、残ると言ったら」


「いいえ、それはできません」


彼女はゆっくり、首を振った。


「あなたは東京で、待っている人が、いるはずです」


俺は口を閉じた。


宮原瑞希の顔が、浮かんだ。


あの会社の同期たち。


あの、ペルソナノートを、一緒に作ってきた、後輩たち。


彼らはたぶん、いまも、俺を探している。


「司、最後の夜です」


王女はようやく、こちらを見た。


銀の睫毛が、淡い橙の光の中で震えていた。


「明日が、別れの日です」


俺は頷いた。


言葉が、出てこなかった。


ただ、彼女の指先を軽く握った。


彼女もまた、握り返した。


ノートを開いた。


そして彼女が以前、頼んだ「最後のペルソナ」を、書く約束を果たすべき夜が来たことを、思い出した。

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