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冴えないUXデザイナーが異世界転生して、『ペルソナ設計』で滅びかけの王国と姫様を救うことになりました  作者: もしものべりすと


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第十四章 司、追放さる

半月が過ぎた。


横田は奪ったノートを、宮廷魔術師団の祭典の演出に、惜しみなく、使った。


七歳の娘の話を、台本にして、若い魔術師に演じさせた。


流行病の女性の話を、悲劇の見せ物に、仕立てた。


彼はそれを「民の真実の声」と謳い、王の前で披露した。


王は、涙を流した。


派手な見せ物に、涙する王の姿は、誰の目にも奇妙に映った。


だが誰も口に出してそれを、指摘しなかった。


そして、宮廷魔術師団の予算はまた増額された。


俺はその間、地方の村を回っていた。


王女と二人で、村人たちに、頭を下げて回った。


「ヨコタ殿が、皆様の声を見せ物に変えております。これは私の責任です」


「ご許可、いただけるならば、皆様のお話を、改めて書き直させてください」


「もう誰にも、見せ物にされないように」


村人たちは、戸惑った顔で頷いてくれた。


中には横田の見せ物を、宮廷で見て自分の話だと気づき、傷ついていた人も、いた。


彼らに、俺は深く頭を下げた。


何度も頭を下げた。


膝を、ついた。




三週間が、過ぎた頃、宮廷会議がまた招集された。


緊急の議題と、伝令が走った。


だが、今回は、悪い予感が、した。


王女アリーシャの顔色が、これまでで、いちばん、悪かった。


謁見の間に、俺は、王女と、ベルカ翁、ガレウス、ニナと進み出た。


王の前に、横田が、すでに待ち構えていた。


彼の足元には、新しい羊皮紙の束が、置かれていた。


「司大臣!」


王の声がこれまでで、いちばん、厳しかった。


「貴殿は地方の村々で、私の宮廷魔術師団の活動を、貶める言動を、繰り返しているそうだな」


俺は息を呑んだ。


心臓がまた激しく、打ち始めた。


「陛下、それは誤解でございます」


「誤解ではない!」


横田が進み出た。


「私は、各地に、調査隊を派遣しておりました。設計師殿は村人たちに、私と陛下を悪く言うように、扇動していたのです」


横田は、羊皮紙を王の前に捧げた。


そこには、各地の村人の名前と、彼らが「設計師殿に扇動された」と告白したという、署名が並んでいた。


俺は息を止めた。


あの署名は、偽造に違いなかった。


横田が村人を脅して書かせたかあるいはまったく書いていない署名を、勝手に付けたか。


「陛下、それは」


俺は声を上げかけた。


「黙れ!」


王が立ち上がった。


玉座が、軋んだ。


「司大臣、貴殿の言動は、王権への、挑戦である」


王の声は、低く、震えていた。


「貴殿の役職を、剥奪する」


王女が玉座の前に進み出た。


「父上!お待ちください!司は、そんなことを、しておりません!」


「アリーシャ、退がれ!」


王が初めて、娘に向かって、怒鳴った。


「お前も、彼に、洗脳されているのではないのか!」


王女の顔が、青ざめた。


俺は王女に首を振った。


「アリーシャ様、大丈夫です」


だが彼女は引かなかった。


銀の睫毛が、震えていた。


「父上、それでは、王女の私の、判断を、否定なさるのですか」


ベルカ翁がゆっくり進み出た。


「陛下、儂、薬師ベルカも、設計師殿の人柄を、保証いたします」


ガレウスが片膝をついた。


「陛下、私、ガレウスも、設計師殿の誠実さを、命を懸けて保証いたします」


ニナが頭を下げた。


「陛下、商人ギルドの代理人として、設計師殿は、無実でございます」


王はしばらく、彼らを見ていた。


そして、玉座に座り直した。


「全員、不問とする」


彼の声は、震えていた。


「だが司大臣、貴殿だけは王都から、追放する。北の辺境、氷の村へ、向かえ。二度と、王都の地を、踏むことを、許さぬ」


宮廷の静けさが、深まった。


俺は、玉座の前で、両膝をついた。


両手を、地に置いた。


俺は、額を床につけた。


冷たい大理石の床が、額に、ひやりと触れた。


「謹んで、お受けいたします」


俺は立ち上がった。


振り返って王女を、見た。


彼女の頬に、涙が伝っていた。


銀の冠の下の、灰色の瞳がぼやけていた。


「アリーシャ様」


俺はささやいた。


「俺は、北で、待ちます。あなたが必要としてくださるなら」


「司!」


彼女は駆け寄ろうとした。


だが王の合図で、衛兵たちが、彼女の前に立ち塞がった。


俺は振り返らずに、謁見の間を、出た。


廊下の途中で、横田がまたすれ違いざまに、ささやいた。


「ご苦労さん、設計師殿」


彼の声は、勝ち誇っていた。


「ま、北の辺境で、ノートでも書いていろ。誰にも、見られずに、な」


俺は振り返らなかった。


だが、東京のオフィスの蛍光灯の音が、頭の中で、ジー、とまた鳴り始めていた。




二日後。


俺は雪深い北の辺境への、旅に出ていた。


馬車は、簡素な、罪人を運ぶための車だった。


革のクッションは、すり減って、骨に響いた。


護送の兵が、二人、御者の隣に座っていた。


彼らは、口を開かなかった。


俺の名前を、呼ばなかった。


窓の外を、見覚えのない雪原が延々と、流れていた。


針葉樹の森が、白く、霜に覆われていた。


木々の枝から、ぱさり、ぱさりと雪が落ちていた。


俺の膝の上には、たった一冊の新しいノートが、置かれていた。


横田が奪わなかった、最後の白紙のノートだった。


俺はペンを取った。


ノートを開いた。


新しい一ページ目に、書いた。


「高梨司・二十八歳・元ペルソナ大臣・追放された・もう誰にも、必要とされない」


書き終えると、ノートは淡く光らなかった。


それは俺が自分のペルソナをまだ、認めきれていないからだった。


馬車がまた揺れた。


雪原の向こうに、低い灰色の山並みが、見えてきた。


氷の村と、王が呼んだ場所が、そこにあった。


俺は目を閉じた。


窓の冷気が、頬を刺した。


東京で、ベランダから星空を、見上げていたあの夜と、今は何が違うのだろう。


あの時も、俺はひとりだった。


今も、俺はひとりだった。


ただ、違うのは。


あの時の俺は、誰にも知られていなかった。


今の俺は王女にベルカ翁に、ガレウスに、ニナに知られていた。


知られていることがこんなに辛いとは、思わなかった。


雪がまた降り始めていた。



馬車の中の、罪人を運ぶ革張りの座席に、俺はもたれかかった。


身体が、芯から、冷えていた。


着ているのは、王女が贈ってくれた、藍色の正装の一着だけだった。


肩に、薄い毛布が、一枚、かけられていた。


それも、護送兵が、無造作に投げ与えたものだった。


馬車がまた揺れた。


ノートが、膝から、滑り落ちかけた。


俺は慌てて、それを抱きしめた。


このノートだけは、奪われていなかった。


横田は、白紙のノートには、興味がなかった。


彼にとって、白紙は、価値のないものだった。


だが俺にとっては、白紙のノートこそが最後の、希望だった。


馬車が、停車した。


護送兵の一人が、扉を、外から、叩いた。


「降りろ。氷の村に、着いた」


俺はノートを抱えて、馬車から、降りた。


膝が、震えていた。


雪が、足元で、ぐしゃりと軋んだ。


目の前に、低い、石造りの家々が、並んでいた。


家の屋根には、つららが、何本も下がっていた。


煙突から、白い煙が、まばらに立ち上っていた。


村の入口には、誰も、迎えに来ていなかった。


護送兵が、低い建物を指差した。


「あれが、お前の住まいだ。村長に、後で挨拶しろ」


それだけ言って、彼らは、馬車に戻った。


車輪の音が、雪原の向こうに、こつこつと消えていった。


俺は、ひとりで立ち尽くしていた。


凍えた風が頬を、ぴしりと打った。


村の家々の、窓のいくつかに、明かりが灯っていた。


誰かが、窓越しに、こちらを見ているのがわかった。


彼らの目には宮廷から、追放されてきた罪人が映っているだろう。


俺は、雪を踏んで指示された建物に、向かった。


扉を、開けると暗くて寒い土間が広がっていた。


中央に、簡素な囲炉裏があった。


壁には、何も掛かっていなかった。


家具は、机と、椅子と、寝台が、一つずつ。


俺は扉を閉めた。


鍵は、外から、かけるものだった。


中からは、かけられなかった。


囲炉裏の傍に、薪が、少し、積まれていた。


火打ち石も、置かれていた。


誰かが、最低限の、用意をしてくれていたらしい。


俺は、火を起こした。


手が震えて何度も、火打ち石を落とした。


ようやく、薪に、火が点いた。


小さな揺らぐ炎が、土間を淡く照らした。


寝台に、毛布が、一枚、置かれていた。


それを、肩から、かけて、囲炉裏の傍に座った。


ノートを、膝の上に開いた。


何も、書けなかった。


東京のベランダで、俺はもう一度、ゼロからやり直したいと、呟いた。


そして本当に、ゼロから、やり直すことに、なった。


だがゼロからやり直したその先の先でまたゼロに、戻ってしまった。


俺は目を閉じた。


炎の熱が、頬に当たっていた。


「アリーシャ様」


俺はささやいた。


銀色の少女の顔が、瞼の裏に浮かんだ。


彼女が雨の日の窓辺で笑った、あの顔。


俺はペンを握った。


震える手でノートに書いた。


「アリーシャ・第三王女・宮殿の窓辺で、私を待っている」


書き終えた瞬間ノートがほんの、わずかに、青く、光った。


それは王都にいた頃の、強い光ではなかった。


だが確かに光った。


俺はノートを抱きしめた。


そしてしばらくのあいだ誰も、見ていない場所で、肩を震わせていた。


泣いたのは、いつぶりだろう。


東京で、横田にノートを奪われたあの夜にも、泣かなかった。


雪が、外でまた、降り続けていた。

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