金魚の実家の大ピンチー「職場の大池」
2025年秋から冬にかけての話です。
さて今日は少々趣向を変えまして、私の職場のお話です。
うちの10匹たちは、もうそこ、実家には帰りたくないだろうって思っていいよね? ね?
庭園というところは、冬には訪問者が激減します。
英国の有名庭園は、10月末から3月頭まで閉園にするところも多いくらい。
こちらの冬は雨が多いので、芝生がぐちゅぐちゅになり、そこを歩く人も嫌だし、歩かれると芝が傷むので庭師も嫌なのです。
しかし、困ったことに、うちの庭園の周囲には動物園やサファリがあり、入園口は同じ、庭園と動物園を遮る柵もありません。
ここのサファリは自家用車乗り入れではなく、開放的な大型トラック乗り合い型なので、雨風が横から当たり雨合羽着てても役に立たなくて寒い!
冬にサファリしたい人なんて少ないんですが、それでも伝統的に漫然と、クリスマス当日以外は開園してたんです。
夏は1日3000人程度の人々が訪れてくださって、庭園内で汗と泥まみれの庭師姿を隠せませんが、冬は本当に寂しいものです。
ということで、経営陣は、冬でも収入が欲しい!さもないと維持費がもたない、動物たちのお世話ができない~とやっと気が付き。
それなら、と、既に他の動物園や庭園も期間限定で行っている、「イルミネーション!」をすることになりました。
日本では「ライトアップ」という言い方のほうが多いでしょうか?
冬は3時半には暗くなってしまう英国です、動物が見えないなら「光の競演(?)を見せることにしよう」って。
そのニュースを聞いた時、庭園部門一同、休憩室で、
「園内のどこをどうライトアップするのよ?」
と固まりました。
香港の派手なイルミネーションを夫と一緒に見たことのある私は、なんかとっても小規模でみすぼらしくなっちゃいそうな気がして。
その上、ライトや音響システムを隠すのに、花壇が踏み荒らされるじゃないですか。
動物の飼育係からキャリアチェンジした同僚は、「動物のストレスになる!」と憤慨してました。
極めつけは、うちの金魚の実家、16メートル四方の池を使って、大噴水の光のディスプレイをする!という恐ろしい話が。
水中に、強力なポンプと22基の噴水口!を投入するというのです。
渦巻き2つ、時間差で垂直に上がるのが20、それらがLEDのマルチカラーに彩られる!
「魚が吸い上げられたらどうすんだよ?!」
「可哀想じゃないか」
「小さい魚が飛んで来たりして、、、」
毎年冬の間、鯉や金魚たちは、水深2メートルの底にじっと沈んで冬をやり過ごします。
イルミネーションの期間は11月末から年明け早々まで、ポンプで水を掻きまわしてしまい、水中の酸素濃度は上がるにしても、水は底の底までぐっと冷たくなってしまうでしょう。
開催が近づくにつれて、大池の周りにライトや音響システム、銃弾でも飛び出してきそうなおどろおどろしい水鉄砲マシンが並びました。
ついでに、庭の一番低いところにある広い芝生エリアには簡易の床が敷き詰められ、屋外ディスコ場に早変わり。
私たちの心配をよそに、ウェブサイト上での予約は上々、2時間ごとのスロットに区切って入場制限してもの珍しさも相まって、初日前に完売。
11月末とうとう開催時期に入って、私たちは午後4時まで仕事なんですが、3時半には暗くなり、音響機器からヘンなミュージックが流れ。
花壇のあちこちがピンクや青や黄緑の光で照らされ。
オレンジ色に光る実物大のサイやトラも生気を帯びて見えました。
大噴水は、「ラスベカスでカジノのお金を盗む映画のラストシーン」(これで通じるのか?クルーニーやブラピが出ていてドビュッシーの『月の光』が流れる)のコンパクト版、色付き。
さて、私は12月末から日本に帰国していて、このイルミネーション企画の成功度合を知らなかったのですが、英国に戻り次第「庭や金魚たちは無事だったのか」話を聞いたところ、いろんなことが出てきました。
まずビジネスとしては客入りは上々、満足度も高く大成功、だそうです。
しかし。
観客みんなが寄りかかったり子供を載せたりしたものだから、大池を見下ろすバルコニーの石造りの欄干にひびがいった!!
早く直さなきゃ、崩れ落ちるかも!
ディスコになっていた芝生が床の下敷きになって黄変、半分以上枯死。
芝生張り替えだぞぉ。
そして一番心配だった魚たちは。
金魚が1匹水面で死んでいるのが発見されました。
可哀想だけれど、それだけで済んでよかった。
と、ホッとしたのもつかの間、経営陣がまた愚かなことを言い出しまして。
「魚が可哀想だから、次回はイルミネーションの前にみんなを他の池に移動しよう!!」
ですって。
庭師全員で「はぁ????」
と言い合いました。
どこに移すのよ。
池の中に何万匹の魚がいると思ってるの?
鯉の成魚だけでも5、60匹、20センチ程度の若鯉はもっとたくさんいる。
金魚は数えきれない。
水面が真っ黒だった頃から大きくなるにつれ、数自体はどんどん減ってはいるだろうけれど。
その分みんな大きくなってるんだよ?
誰が掬うの?
(庭師部門になるんだけどさ)
16メートル四方2メートルの深さだよ?
数百トンの水排水してからじゃないと魚も捕まらないんだよ?
追いかけ回されるストレスのほうが可哀想じゃない?
寒さに向かう頃に知らない池に移動させられるんだよ?
そしてみんなを入れられる池なんて、これから掘らないと無いんだから。
大出力噴水をマルチカラーイルミネーションで照らすのだから、魚にはよくない、確かによくない。
水を吸い込み吸い上げるから魚たちも安心して冬眠できない。
冬でもある程度温度を保ってくれる池の水が冷えてしまう。
だとしても、
魚が噴水を詰まらせてイベントを台無しにしたわけじゃない。
噴水から魚が飛び出たわけでもない。
魚たちは大きいのも小さいのも、底に沈んでわざわいが過ぎ去るのを1か月間我慢してくれた。
イルミネーションを続けるなら、年に数匹金魚が死んでしまっても、それは仕方のないことかもしれない。
弱い魚は夏でも鷺や烏に食べられる。
数が減ったらその分、残った魚たちが大きくなる。
それが大池で起こっている自然淘汰。
数がもっと減ったら、また稚魚たちが生き延びるのかもしれない。
そこに愚かな人工淘汰が加わってしまうのは残念だけれど、「経営難を乗り越えるため」と言われてしまえば、「潰れるよりはマシ」ということになってしまう。
お魚さんたち、不甲斐ない経営陣とお世話係(庭師)でごめんなさい。
その分、うちに来てくれた10匹には幸せをあげるんだ!!




