11 男の子女の子
「ちょっと待った」
フラワーパラズマを探している最中のことだ。視界の先に見知った人影を捉えたモーリスは隣を歩いていたリュードの肩を引っ張り一緒に建物の陰に身を隠す。
無理やり動かされたリュードが「なんだ急に」と不満げな声を洩らしているのを脇に、モーリスは建物からそっと顔を出して人影を改めて確認した。
ゼイデンとアーチーだ。
彼らは通りの脇で立ち止まり、周囲の店を見渡しながら何かを話し込んでいる。
「チームメイトから隠れてどうするんだ?」
モーリスと同じように建物の陰から顔を出したリュードが二人を見つつ言った。モーリスがあの二人と一緒にいるのをリュードが見たのは以前ギルドの食堂ですれ違った時くらいだと思うが、よく覚えているものだと感心する。
「実を言うと」
ごつ、という金属の重い音がした。
顔を引っ込めたモーリスが建物に寄りかかろうとして、背中の盾が壁にぶつかってしまった音だ。
「避けてるんだよ、あいつらのことを。この前の任務で足を引っ張ったのもあるけど、正直それより前から何となく気が合わないっていうか」
ゼイデンとアーチーは子供の頃からの親友だ。親友だが、どうにも今は距離があるような気がしてならない。そう思い始めたのはこの街に来てギルドで活動を始めてからだ。
リュードはモーリスの話を腕を組みながら黙って聞いていたが、やがて口を開く。
「それで逃げ道として僕を手伝おうとしたわけだ」
「随分な言い方だなぁ」
「まあいい、どのみち僕のやることは変わらないからな。モーリスがどんな理由でついてこようが勝手だ」
リュードはそう言って視線を落とす。すると何かを見つけたようで「ふっ」と小さく鼻で笑った。疑問に思って彼が見ている方に目を向けると、路地の隅っこにいくつかの花が生えている箇所があるのが分かった。
「どうやら」
花壇や植木鉢などではない。建物と建物の隙間を埋めるように敷かれた石畳の上に不自然に咲く花を見てリュードが一言。
「こっちを選んで正解らしいぞ」
それは痕跡だった。
不自然な花の集まりは一か所だけでなく、二人が身を隠した路地の向こうにも点々としているのが確認できる。咲いている場所は建物の壁や屋根の上など様々で、これが地面に根を張り花開いたものでないことは一目瞭然である。
フラワーパラズマになった男はモーリスたちから逃げながらも己の衝動を抑えきれずに能力を使ってあちこちに花を咲かせていったのだろう。パラズマへの変身を解いて天気塔のセンサーに引っ掛からなくなっても力を使えるのは厄介だが、これは正直ありがたいかもしれない。
リュードと一緒に痕跡を辿っていく。
そして見つけた。
「……またお前たちか」
街の一角。近づいてくる二人を見るなりその男は心底うんざりした様子で顔を歪めた。この辺りは人通りが多く、いくらでもそれらに紛れ込んでしまえそうなものを、ここで隠し通せずにはいられない彼はパラズマには向いてないと言える。
獣のように男が唸る。青白い閃光が男の全身を駆け巡り、彼はフラワーパラズマへと姿を変えた。
魔針盤のアラームと人々の悲鳴が響く中、リュードは短剣を、モーリスは盾を構え目の前の敵と対峙する。
手に持った短剣をくるくると回しながらリュードが一言。
「天使が出てくる前にさっさと片付けてしまおう」
○
「と、いうわけだけど」
トトゥーナとフレイベルはジュンを連れてスクールの中庭に戻ってきた。そしてジュンの口から直接、自分が見た天使について説明させたのだ。女子生徒は自分たちの主張が正しかったと愉悦し、逆に男子生徒からは落胆の声が上がる。
「なんだよ女かよ」
言ったのは血の気が多いゴウだ。他の男子諸君の名誉のために言っておくと、露骨にこんなことを言ったのはこいつくらいだ。
かといって他の男子たちに何か配慮的なものがあるかというとそんなことはなく、
「ジュン、お前そんなのが好きなのかよ!」
「男のくせに恥ずかしいぜ」
……といった具合に彼らは彼らで異なる方向性でジュンをからかったりしているわけだが。
「最悪だ」
「恐れていたことが起きましたわね」
他人事のような二人であった。そもそもこんな事態になったのは彼女らが無理くり背中を押した結果でもあるのだが、今は責任の所在を明らかにしている場合ではない。
なぜならこの時。
「ジュンは天使様が女の人でも応援するのよね?」
他の男子たちに嘲笑され顔を赤くして俯いているジュンにそう訊ねたのは女子のリーダー的な存在であるハンナだ。彼女がジュンに近づくと、それだけで彼を囲んでいた男子たちが避けるように道を開ける。
うん、とジュンは頷く。
彼女が助け舟を出してくれたのかと思った。
全然そんなことはなかった。
「何よ! せっかく私たちが素直に推せる天使が出てきたと思ったのに、それまで男のあなたが奪わないで!」
えっ!? とジュンは驚愕で目を丸くした。
彼だけじゃない。子供たちの論争を遠巻きに見守っていた教官のマッツ、渦中の人のくせに一歩引いた場所にいる天使本人のフレイベル、いかにも子供らしい価値観でジュンを弄っていた男子たちまでもが彼女の主張に正直ドン引きしていた。
……ただ一人を除いて。
「おっ、そう来たか。盛り上がってきたな」
トトゥーナだけはなんか前のめりになっていた。




