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フレイミングフレイベル  作者: 風上 環
第4話 ヒマだった天使様 学校へ行こう!
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08 戦闘訓練

「トリャーッ!」

 訓練用の木剣を上段に構えた少年が威勢のいい声を発しながら突撃する。名前はダン。ギルドスクールに通う男子生徒のリーダー格のような存在で、子供たちの中では一番背が高い。

 相対するのは紅い髪をしたフレイベル・ベニーロである。彼女もまた同じ木剣を片手に持っているが特に構えのようなものをとることなく、自分のところに向かってくる少年をぼんやりと見ている。


 かんっ! という乾いた音が響いた。

 ダンの木剣をフレイベルが受け止めたのだ。


 訓練用の木剣といっても十歳前後の子供にとっては両手で扱わなければならないくらいの重量がある。ダンが両手を使って精一杯振り下ろしたそれを、しかしフレイベルは右手だけを使ってまるでその辺で拾った木の枝のように軽々しく振るってみせた。

 そのまま手首をスナップさせるだけで、ダンの木剣は弾かれてくるくると宙を舞った。


 わぁ、とその様子を見ていた他の子供たちから驚く声が上がる。


 ギルドスクールの敷地中央、実技演習場での出来事である。フレイベルのいまいちピンと来ない演説に痺れを切らした子供たちが一人ずつ彼女に挑む流れになった。戦いは普段から教わっているからまずはそのままかかってこい、ということだ。

 フレイベルはよそ者+さっきのアレで子供たちに相当舐められていた。特に男子。彼らのリーダー格ダンが先陣を切ってレグナンテス育ちの地元魂を見せつけようとしたが、結果は御覧の有様。みんなの士気と自信を大いに削いだ。


「彼女、やるな」

 残り三十人の生徒たちが一人ずつ順番に挑んでくるのをほとんど適当にあしらってみせるフレイベルの様子を遠巻きに眺めるマッツが感心していた。隣で一緒に見ていたトトゥーナは適当に、

「魔物相手にもあんなもんっすよ」

 と返す。


「にしても、君が『外』の人間と仲良くやってるなんて意外だな」

「意外ってほど?」

「そうだとも、こっちにいた頃の君は彼らに対する敵意で満ちていた……尖っていたのほうが近いかな?」

 そんなにか。でもそんなにだったような気もする。


「ギルドに入って変わったんだな」

 かもしれない。実際そうだとしてそれをこの人にしたり顔で指摘されるのはちょっと癪なのでトトゥーナは「まあ、はい」とぼやけた返事をした。めちゃめちゃ嫌いとかじゃないけど距離感がちょっとヤダ。


(まあ、変わったと言えば変わったかな)

 確かに前までの自分だったら同じ街の出身ではない者と一緒にギルドで活動しようとは思わなかっただろう。このスクールに連れてくるなんてもってのほかだ。


 きっかけがあるとしたら、それはやっぱりフレイベルとの出会いだ。トトゥーナはこれまで『街の外と内』という物差しでしか人間を見てこなかった。だが天使というスケールの存在が目の前に現れたことで、彼女は自分の価値観の矮小さを実感したのだ。

 思っていたより世界は大きくて広い。

 ただそれは、自分の中にあるコンプレックスが解消されたというよりは、気にするのが馬鹿らしくなったのが近い。


 だからレグナンテス出身というプライドはまだ残ってるし、リュードとかいう奴はまだいけ好かない。あれはシンプルに性格に難がある。


「とにかくだ!」

 マッツがいきなり大きな声を出したので、少し考え込んでいたトトゥーナは驚いて目を丸くする。彼は一年ちょっと会わなくなっただけでやけに老けているように見える顔を無駄に輝かせながら、

「俺は君が戻ってきてくれて本当に嬉しいぞ、トトゥーナ。君は我々スクールの希望だ!」

 そう言ってトトゥーナの肩をバシバシ無遠慮に叩くのだった。

(……やっぱりこの人苦手だ)


 トトゥーナが熱血教官の『陽』オーラに当てられてげんなりしていると、フレイベルの方は最後の一人の生徒を軽くあしらっていたところだった。彼女は彼女で子供を相手にするのは面倒くさいらしく、いよいよ木剣すら使うことなく相手が向かってきたのを半歩で避けて足払いをするだけで対処していた。

 舐めプだ。


「ちゃんと戦えよ!」

 普通にこけて顔から地面に突っ込んでいったその男子生徒が分かりやすく悔しさのこもった声で文句を言った。同じ屈辱を味わったであろう他の子どもたちも「そうだそうだ!」と合唱している。


「そういう訳にはいきません。これはあくまでも訓練」

 フレイベルはきっぱりと言う。トトゥーナが師事するマジョルジョに危険な魔法を教えてくれとしつこく頼んだ時もこのくらい感情がなかった気がする。


 まあフレイベルが本気を出したら子供が束になってかかっても敵いそうにないのだが。

(待てよ…? 全員でいけば流石に天使の力に頼るかも……?)

 ここにきてまさかの降臨チャンスの到来である。一番最初の目的を思い出したトトゥーナは下心を隠す気もなくこう提案した。


「別にいいんじゃない? いっそのこと全員同時に相手しちゃうとかさ! ベルは一本でも取られたら負けってルールでも大丈夫だと思うな~」


 子供たちがわっと盛り上がる。フレイベルはなんかニヤニヤしているルームメイトを見て不審そうに眉をひそめたが、やがて諦めたように溜息を吐く。


「仕方ありませんね。ではそうしましょう」

「よっしゃ!」


 言うが早いか、さっき転ばされた男の子が元気に跳ね起きて再びフレイベルに切りかかった。不意打ちである。しかしフレイベルは目の前に迫った木剣を素手で掴んでそのまま握りつぶした。


 メキャキャッ! というおよそ人間の手から出てきちゃいけないような音が鳴り、少年の木剣が刃の真ん中くらいでへし折られた。安全を考慮して木製のものを使っているだけで訓練自体は実戦のつもり、という前提は彼女には通用しないらしい。


「…………」

 開いたフレイベルの手からパラパラと木片が落ちていくのを見て、その場にいる彼女以外の全員が顔を青くした。

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