03 友人関係
「モーリス! いいところに来た」
寮を出ようと一階の共有スペースを通りかかったところを呼び止められて、モーリス・ゴドラクは立ち止まった。小さなテーブルを囲う形で配置されたソファに腰かける五人の男たち。そのうちの一人がこちらを認めて手招きしている。
友人のゼイデンだ。モーリスと同じ生まれつきの白い肌に、刈り上げた金髪。鋭い目つきは子供の頃からだが、成長に伴って顔の輪郭が定まってくるにつれて馴染んできたように思える。
彼と一緒に二人掛けのソファに座っているのがアーチーだ。モーリスは彼らとチームを組み三人でギルドで活動している。
魔物退治はバスターとしての重要な仕事だが、毎日のように任務を振られるわけではない。今日のように討伐の任務もなく戦闘の訓練をするわけでもない日は一日中のんびりしていることが多い。
「ゼイデン、こいつは?」
五人の残り、知らない三人組のリーダー格っぽい男が近寄るモーリスを一目見て言った。たぶんゼイデンの友人なのだろう。人見知りしがちなモーリスと違ってゼイデンはモーリスの知らないところでもいつの間にか交友関係を広げていたりする。
「モーリスだよ、前に話したろ」
ゼイデンが投げやりに紹介して、リーダーの男は「ああ」と一人で納得する。
興味なさげだ。
「ああそうだ、お前フレイベルってやつ知ってるか?」ゼイデンが本題に入ったようだ。
「名前はね、でも会ったことはないよ」
フレイベル・ベニーロ。最近ギルドに入った新人だが面識はない。
「顔ぐらい見たことあんだろ」
「ないって、大体見たことあってもその人かどうか分からないじゃない」
反論するとアーチーが「そりゃそうか」と小さく笑った。他の三人もつられて笑い、ゼイデンが面白くなさそうに顔をしかめる。
「確かにな、それに変身した後しか見てないってパターンもある」
「変身ってなんだよ」
「知らないのか?」リーダー格の男が言った。「なんでも魔物と戦う時に魔法か何かで一瞬で鎧を着て戦うんだと、それこそ天使みたいに!」
「へぇ凄い、本物の天使だったりして」
「女の天使なんているのか?」
首をかしげるゼイデンに周囲から突っ込みが入った。
「いないってことないだろ。絵には出てこないだけだ」「まあ確かに女の天使って聞かないよな」
絵画や伝承に登場する天使は基本的に男だ。彼らが住むとされる天界にはいるのだろうが地上に降りてきたと言う記録や物語は聞いたことがない。
「でもメチャクチャ強えって噂だし、案外マジで天使かもな」
ソファの背もたれに深く寄りかかりながらゼイデンが言った。
アーチーと一緒に頷くモーリス。ギルドの新人と言うとルームメイトのリュードが勧誘したという誰かを思い浮かべるが、それが噂のフレイベルなのだとしたら彼はなかなかの逸材を連れてきたものだ……とモーリスはリュードの方をひとり感心する。
噂話で盛り上がり、なんとなく和気藹々とした空気を感じていたところ、ふと三人組のリーダーがこんなことを口走った。
「だがなぁ、顔が隠れるのは減点だよなぁ」
分かる、と彼の仲間も口々に賛同する。
「顔が見えないのはもったいねえよな」
なあ? とこちらに振ってきた。
「いやあ、戦うんだったら頭も防いだ方がよくないか?」モーリスは素直に反論してみる。
「顔見えてたほうがいいって思うだろ?」
「俺はそうは思わないかなぁ」
「なんだよ、つまんねえ」
吐き捨てるような言い方だった。
空気が悪くなる。居づらくなってしまったモーリスはその場から離れようとしたがゼイデンに「どこ行くんだよ」と止められてしまう。
「そういえば朝食がまだだったなって」
その場しのぎの嘘みたいだがお腹が空いているのは本当だ。ゼイデンは興味を失くしたように視線を逸らす。
モーリスはほとんど逃げるようにして寮を出た。




