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フレイミングフレイベル  作者: 風上 環
第4話 ヒマだった天使様 学校へ行こう!
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02 仕事をあげるよ

 トトゥーナ・エホマールは往生際が悪かった。何が何でもフレイベル・ベニーロを危機に陥れて絶対に降臨させてやろうと誓っていた。


 トトゥーナは朝から『センパスチル』の手伝いでフレイベルといつも一緒というわけではない。そういう時、彼女は大抵ギルドの食堂で朝食を摂っている。わざわざ隣のエリアまで行く必要があるのか疑問だが、どうやらあそこが一番量が多いらしい。

 この街に来て一ヶ月も経たないうちに随分慣れてきたものだ。


 ギルドはぐるりと円を描く壁に囲まれた旧市街の中心にある。トトゥーナは女子寮のあるエリアから旧市街に繋がる西門の真上でフレイベルを待ち構えていた。

 バトンを構えるトトゥーナの前には透明な球体がフヨフヨ浮かんでいた。フレイベルは炎の天使だから水に弱いはず、そんな訳で大量の水を魔法で操り通りがかった彼女の頭上に落っことしてやろうというのがトトゥーナの作戦だ。


「今だっ」

 門をくぐってフレイベルが出てきたタイミングで魔法を解き水の塊を落っことす。上から見ると真っ赤な毛玉みたいになっている天使目掛けて大量の水が襲いかかった。頭上に迫る脅威に対応するべく虚空から剣を取り出すところまでは良かったのだが、なんと剣先が触れただけで水があっという間に沸騰、トトゥーナは立ち上る水蒸気を顔面に浴びる羽目になった。

 門の上で茹でダコみたいになっている少女に目もくれず、フレイベルは剣を消して旧市街の中心へと歩を進める。


 まだまだ諦めない。

 トトゥーナが次に目を付けたのは走り鳥(ランドル)。フレイベルがあの鳥だかトカゲだか分からない原生獣を苦手としているのは本人の口から聞いていたので利用させてもらう。同業者に連れられてその辺を歩いていた走り鳥に、トトゥーナはすれ違いがてら小瓶に詰めた紫色の魔法薬の匂いを嗅がせた。液体の発する特定の香りに脳を刺激された走り鳥が突如暴れ出し、フレイベルに狙いをつけてその名の通り走り出す。が、フレイベルに突っ込んでいった走り鳥は彼女に触れることなく宙を舞った。彼女が背中から生やした翼で弾いたのだと気づいた時には鳥の巨体がトトゥーナの立っていた場所にまで飛んできて危うく下敷きになるところだった。


「こ、今度こそ……」

 いよいよフレイベルがギルドの食堂に到着する。適当に選んだ席で料理を待つフレイベルのもとにウェイトレスに扮したトトゥーナがモーニングセット(中身は様々)を運びつつ忍び寄る。トトゥーナは料理の乗った皿を彼女の前に置いて立ち去る……と見せかけて隠し持ったフォークで襲い掛かった。


「お命ちょうだい!」

 降臨せざるを得ない状況に追い込むという目的を忘れてほとんど暗殺めいているが、しかしトトゥーナのフォークが天使の後頭部に突き刺さることはない。


 なぜならこの時。

「あ」

 フレイベルが食べていたワッフルを盾にしてフォークを防いでいたからだ。さくっ、と出来立ての生地に食器の先端が刺さる音が聞こえた時には、すでにトトゥーナの身体は空中で百八十度回転していた。


 ワッフル一つで人間の身体を容易く捻り上げてしまうとはこの天使侮れない……フレイベルの技術に感嘆しながらちっぽけな人間の少女は食堂の床に背中を打った。


「いい加減にしてください」

 自分の足元でひっくり返って悶絶しているトトゥーナを尻目にフレイベルは朝食に手をつける。

「だって、見たいじゃん……」

 トトゥーナは床に正座になって言い訳がましく口を尖らせた。


「見世物ではないと言ったはずですわ」

「いいじゃんか減るもんじゃないし」

「いいですか、トトゥーナちゃん」フレイベルが食べる手を止める。「天使の力とは、振るべき時に振るうもの。魔物やパラズマを前にしているでもなく使ってしまうのは……」

「それだ!」


 フレイベルの言葉を遮ってぴょこんと立ち上がるトトゥーナ。彼女は人差し指を突き立てて自信ありげに宣言する。

「魔物と戦いに行けばいいんだよ! なんだ最初っからそうするべきじゃん、よっしゃエミリーに仕事もらいに行こう!」


 だが。


「ないよ」

 食事中のフレイベルを引き連れてギルドのエントランスに駆け付けたトトゥーナに対し、受付嬢エミリー・ブルームが告げたのは無慈悲な一言だった。


「えぇ……」

 いつになくやる気に満ちていたトトゥーナのテンションが露骨に落ちる。

「ないって。魔物だよ? 一匹くらい出てきてるでしょ?」

「ない」

「じゃあパラズマは?」

「いない」

「捜査中のやつとかさぁ」

「魔物いない、パラズマもいない、全部ない」

 もういい? と会話そのものを断ち切ろうとするエミリー。完全に投げやりだ。


「魔物がいないなんてそんなことある? いつもだったらぽこじゃか湧いてくるでしょ」

「そういう日もあるじゃんね」

「平和なのはいいことですわ」

「いいもんか! これはおかしい、二人はここの出身じゃないから分かんないだろうけど、この街はパラズマが毎日出るようなとこであるべきだ」


 実は本当にたまたま何も出てこないだけなのだが、地元を愛するトトゥーナ・エホマールには耐えられない平穏さであった。ちなみに生まれてこのかた街から出て行ったことのない彼女は知る由もないが、レグナンテスは世界でも特にパラズマの出現件数が多いことで知られている(ギルド調べ)。


「せっかく任務に行ってやろうって気持ちになってたのに、どうしてこういう日に限って平和なんだか」

 呆れたように腰に片手を当てるトトゥーナ。そんな彼女を見てエミリーは「そうだ」と何かを閃いて受付のテーブルに身を乗り出す。


「あんたらさ、暇だったらちょっとやってほしいことがあるんだけど」


 トトゥーナとフレイベルは顔を見合わせた。

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