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寄り道 8

従士達が現場に着くと、すぐにルシィが出迎える。

「出動頂きありがとうございます。マルグリット様の護衛隊隊長のルシィです。探査が上手くゆき、行方を突き止めましたものの、他領ゆえ突入を控えておりました」

「この隊を引いているエルヴェです。賢明なご判断です。後はお任せください」

「思った以上に、賊の数は多そうです。それに、マルグリット様のことも気になります。ご協力させて頂きたい」

「忠義の気持ち理解いたしました。協力をお願いします。ただし、私の指揮下に入って頂きます」

「承知しました。よろしくお願いいたします」

それから、現場の状況につてルシィが説明を始める。それを横に見て、ニコラがセリア達の下で状況を伝えはじめる。

「お疲れ様です。セリア様。アリスさん、カミーユもご苦労ぅす」

「あれ、敵の見張りは?」

「あぁ、従士が来るのが分かって、さっき隊長がサクッとな」

「了解、でもちょっと騒がしくない」

「何かお嬢、始めちゃった見たいだぜ」

「えっ、それ急がないと・・・あっ来た」

そこに、六名の騎士を連れたリュカが現れた。

「あなた方は」

「近衛のシモンです。王都より派遣されていたところ、親交のあるマルグリット様の護衛より、ご令嬢が難儀に会っていると知らせを受け、義によって馳せ参じた。既に、従士の方々が来られていたとは重畳。なに、手柄の横取りなどを致さぬゆえ、後詰なりなんなりご指示頂ければ従おう」

隊長のエルヴェは、貴族の身分である近衛と騎士から丁寧な対応をされ恐縮しつつも、現場での経験が豊富と見えてすぐさま対応に動いた。

「これは有難きお言葉を頂きました。それではお言葉に甘えさせて指揮をとらせて頂きます。皆の者、聞いての通りだ。思わぬ援軍を得た。これは好機であり直ちに突入する。突入口は正面玄関。ノーランは三名連れて裏の通用口を固めろ、近衛と騎士の方々には突入の同道をお願い致す。護衛隊の方々は周囲を固め、逃げるものを捉えて頂きたい。今回の第一目標は、ご令嬢の教出、第二目標は首謀者の逮捕、なお抵抗する者は切り捨てて構わん。一同よろしいな」

「「承知」」

「では、これより状況を開始する。通用口を固め次第突入する。全員配置に着け」

「「おう」」


「お断りします」

「お前の意見など聞いてへん。ほら手ぇ出しや」

恵の捕らえられている倉庫に、三人の男たちが入ってきて、その内の一人が手に短刀を持って、倉庫の隅に体育座りをしている恵の前に立ちはだかっていた。後ろの男たちはその様子を楽しむようにニヤついた顔で眺めている。

「嫌です。私の指ですから。私の意見で決めさせて頂きます」

「手間を取らせるな。指を送りつけりゃ、びっくらこいて助けに来るで。このままここにいたいんか」

「ご心配には及びません。指など送らなくとも助けは来ます。そうですわ、良いアイデアがあります。私は指を切りたくない。あなたは指を送りたい。では、あなたの指を切って送りましょう」

「そら、意味があらへん」

「ダメダメじゃないですか。何ですかその受け答え。そこは一旦”そらええ考えや”と受けてから”ちゃうやろ”と返すんですよ」

「おっおぉ。解ってるやないか」

「えへへ。こう見えて屋敷では突っ込み上手と言われてるんです」

「ほう、そうなんか・・・って、ちゃうやん」

「それですよ」

「・・・貴族のご令嬢ってのはこんなんなんか」

「おい、何時までぐだぐだ話してるだ。早くひん剥いて指を斬っちまえ。俺たちが旦那にどやされるぞ」

「お、おう」

「分かりました。では、抵抗させて頂きます。どっこいしょ」

手足を縛られ、床に座り込んでいた恵は、器用に立ち上がる。

(まったく。人の指を何だと思ってるの。でも、縛られているところを救出隊に見せなきゃだよね。めんどくさい。来てるんでしょ、早く突入してよ)

「悪いな嬢ちゃん。いくで」

男が、メグの腕を掴もうと触れた瞬間、バチバチと音がすると男が硬直して倒れた。

「何しやがった」

「だから抵抗すると・・・」

「魔法か!ミスリルのロープ使わんかったんか」

「いや、あれミスリルのロープ・・・」

「なんで、魔法が使ぇ・・・わっ」

縛られた足でぴょんと器用に飛んで男に近づき、縛られた両手を突き出して男の腹に手を添える。再びバチバチと音がして男が倒れる。

「どうなってやがる。何をした。何なんだお前は」

残った男は少しパニック気味に叫び散らし、床をドンドンと踏み鳴らす。さすがに恵には手を出すのを躊躇っているが、騒がしい。

(これ、大人の地団太かな)

「なんだ、騒がしいぞ。小娘一人に・・・」

倉庫の扉が勢いよく開かれて男が入ってきたが、怒鳴り散らしている男と縛られたまま立ち上がっている恵、彼女の足元には二人の男が倒れている光景をみて声を失った。

「ああぁ、クルトの旦那。こいつ、魔法で抵抗しやがって」

怒鳴り散らしていた男は、クルトの顔を見ると正気にもっどた様子で、状況を説明し出した。

「・・・」

「クルトさんって言うの。私を攫った人だよね」

「ほう。ミスリルのロープで縛られたまま魔法を使ったの・・・」

クルトの身体がぶれたように見えた瞬間、恵を襲っていた。手にはいつの間にかショートソードが握られていた。

「話している途中で襲ってくるなんて、せっかちな方ですね」

「しっかり防いでいて良く言う」

見ると恵の手の前に現れた小さなシールドでショートソードが止められている。

「おっと」

男が距離を取ると、その場所でバチバチっと火花が散る。

「封じているのに平気で魔法を使い、しかも無詠唱と来たか」

男が再び襲いかかる、今度はフェイントも交えながら三段突きを仕掛ける。しかし、恵も三つのシールドを展開しこれを防ぐ。クルトはそれを想定していたように、突きを止められた体制から身を沈み込ませながら、腕を小さく回して下方から恵が延ばしている腕を狙って掬い上げるように剣を振るう。恵は腕を曲げて後方にぴょんと飛んで距離を取りこれを避ける。クルトは振り上げた剣を回転させ上段から切り下げようとする体制をかろうじて止める。彼の目の前でまた放電が起こった。

(背が低いので下段からの攻撃に慣れてないと思ったのね。さっきは話している途中で斬りかかるし、まったく厭らしい性格してる)

「危ない、危ない。今のも防ぐんだ。こりゃ、本気を出さないとね」

そう言って、左手にも短剣を出す。ショートソードと短剣の変則二刀流となった。

「あんた、本当に性格悪いね。目立つように二刀にしてるけど、私はその厚底の靴が気になるな」

「靴の仕込みばれてた?・・・って、おまえ、そのロープ自分で外せるんじゃないのか?」

「こっちにも事情があるのよ」

「わざと攫われたのか・・・くそ、嵌められた」

突然、部屋の外から大きな音がして、叫び声が上がる。男は、躊躇なく恵を無視して逃亡にかかる。

(やっと来た)

「で、あなたはどうするの?私の救援が来たみたいだけど」

取り残されて、唖然としている男に尋ねる。

「・・・降参します」

先程まで大騒ぎしていたが、今は憑き物が落ちたように大人しくなった。

「じゃ、私を可哀そうに思ったあなたが、この二人から私を守ったってことにしておいて」

「???」

そう言うと、周囲が騒然とする中、恵は元居た倉庫の隅に戻って体育座りをした。


「見張りは何をしていたんだ」

ファビアンはいらだった声を上げながら、通用口に向かい廊下を走る。

「従士隊である。おとなしく・・・うっ」

曲がり角で突入した従士と鉢合わせになるが、ファビアンは躊躇いなく切りかかる。

「手練れだ、注意しろ」

「遅い」

従士は脇腹に一太刀入れられ蹲る。ファビアンは止めを刺さず、逃亡に専念する構えだ。続く従士も肩を斬られ、蹴り倒させる。

「私が相手をしよう」

そこにシモンが続き、がっちりと相手の剣を止める。

「騎士か。厄介な」

さすがは近衛、シモンは屋内でも太刀筋をうまく確保し、ファビアンを圧倒する。

「ここは私に任せろ、皆は早くマルグリット様を」

賊の人数は二十名を超えていたが、帝国の工作員とみられる四名以外の腕は大したことは無かった。工作員は、近衛と騎士が相手をして、従士たちは他の賊を次々と取り押さえて行った。このため、従士達の怪我人は少なかった。もはや鎮圧は時間の問題である。

「そこ!一人窓から逃げたぞ」

混戦で数名が逃れようとするが、周りを固める恵の護衛が見逃すはずはない。しかし、それでもクルトはジョシュアのショットをうまく避けて包囲を抜けた。

「くそ、そっちは」

そこには、セリアと彼女を守るようにアリスがいた。

「あの時のメイド・・・」

「あなたの気配は覚えています」

クルトがすれ違いざま流れるような太刀筋でアリスに切りつける。しかしその瞬間、カチンと鍔鳴りがするとクルトの胴は深々と切り裂かれていた。彼は、勢いのまま倒れ転がる。

「・・・やはり・・・嵌められて・・・」

「メグ様を、攫ったのがいけないのです。向こうでしっかり反省なさい」

彼は、そのまま息を引き取った。


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