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寄り道 9

誤字情報ありがとうございます

昼前に、鎮圧は終了した。帝国の工作員のうち二人は殺さずに捕らえることが出来たが、縛り上げていたら毒の魔道具を使って自殺してしまった。その他の賊はツァンナの構成員と準構成員で合わせて二十三名となった。六名は戦闘で殺され、残りの十七名は逮捕された。

恵は無事助け出され、怪我をした従士もルシィがヒールにより回復させた。恵が貴族らしく従士達の素早く的確な対応を褒め称え感謝の意を伝え、近衛と騎士も同意したため、帝国工作員に手こずった従士も面目を保ち、意気揚々と帰投した。救出隊の皆に恵が個人的に謝礼をするとした事も、皆の顔色が明るい理由でもある。

従士の詰所に行くと、恵とセリアが身分を明かしステータスを見せたため、事情聴取も形ばかりとなった。一部、賊の証言で拘束された恵に倒されたと言う証言と、仲間を裏切った賊が恵を助けたという証言の矛盾が出たが、恵に好意的で伯爵令嬢に遠慮した従士たちは不問とした。

「メグ様、あの証言は無理があったんじゃないですか」

「いいよ。どうせこの街もすぐに出るし」

「メグ様って、そういうとこあるよね~」

(カミーユ、その言い方何とかならないの・・・ってセリアちゃんその目はなに)

その後で隣接する庁舎へ行き、今更ではあるが、この街の滞在許可を申請した。話は通っていた様子で直ぐに許可が降りる。貴族が居を構える街に、他領の貴族が訪れた場合、滞在の許可をもらうのが一般的だが、これは法規に則ったものでは無く、礼儀の延長線にある慣習でしかない。上位の貴族の頭首が訪れた場合は、逆に滞在先にその地の頭首が挨拶に行くし、お忍びとして互いに見なかったことにすることもある。中には、厳格にこの慣習を求める貴族もいるが、ラ・サンテーヌは貴族として最上位の公爵ではあったが、歓楽の街としての土地柄のため非常に緩い。

夕方には解放されて、そのまま護衛隊と一緒に夕食を取った。今度は気軽に入れる街の食堂となって、エギルとニコラが胸をなでおろした。賑やかな食事となり、なんだかんだ言って皆一段落した様子でほっとした顔だ。エステェは例外で、デザートも取らずに出て行ってしまった。

今日は、そのまま宿に引き上げ早めに休んだ。

翌朝は、すっきりと目覚め、朝食がおいしい。エギルとニコラは昨晩も飲みに行ったようでまだ寝ている。

「あの二人、結構気が合うみたいだね」

「まったく、図体の大きな子供が増えたようですよ」

「ルシィさんもご苦労様です。アリス姉もセリアちゃん護ってくれてありがとう」

「いえ、ちょうどメグ様を攫った男に意趣返しが出来ました」

「凄かったよ、あの時のアリスさん」

セリアがテンション高めに答える。

「セリアちゃんも有難う。凄く威厳のあるご令嬢だったって」

「お恥ずかしい限りです。少しでもお役にたるのが嬉しくて。そう言えば、身分明かしましたけどどうします。ここには、フェリックス様いるんですよね」

「冒険者で通していれば黙って通り過ぎるつもりだったけど。身分明かしたからここに来たことが知られるかな?」

「でもシャーリー様とはあれっきりですよね」

「セリアちゃん、シャーリー様と会ったら連絡すると言伝だけしておこうか」

「はい」

「結局、エステェ様は、帰ってこなかったね」

「忙しいと言うことは、結構進展があったのではないでしょうか。さあ、メグ様、今日は予定が立て込んでおります。早めに朝食はお済ませください」

「そうだった。身分明かすと事後処理が面倒で・・・」

「自業自得です」

今日は、各所を回らなければいけない。

午前中は、アリスとルシィを連れて従士団の詰所へ赴き、約束した謝礼を渡して、改めて謝意を示した。現場で、若い女性のルシィが隊長として的確に指示を出すばかりでなく、討伐後は怪我をした従士たちにヒールを掛けて回る姿が従士たちの評判になり、熱い視線を受けていた。

(さすがルシィさん、クールビューティーの見た目と、甲斐甲斐しくヒールを掛けるギャップに従士たちはメロメロじゃん。でも、好みはおっさんだよ)

庁舎では、セリアとの連名で、フェリックス宛てに面会に出向かなかった詫びと、シャーリーと話したら必ず報告すると伝言をお願いした。

午後は、リュカとジョシュアを加えて、騎士団の駐屯所に赴き、協力してくれたシモン達に挨拶し、謝礼を渡す。近衛や騎士が貴族令嬢を救うというのは、団内での評価を高める定番であり、謝礼の多寡でなく型式張って行うことに意味があった。出先なので正装では無いが、ルシィ、リュカ、ジョシュアも従士の隊服をきて護衛然として付き従っている。派遣されてきた、騎士団と宮廷魔術師の見守る中、恵は傅くシモンたちに伯爵令嬢の威厳を見せながら、働きを褒め称え、感謝の言葉をかける。

「過分なお褒めを頂き光栄の至りです。か弱き者を助けるのは騎士の本分です。今後も騎士道に邁進いたします」

「このことは、父サイモンを通じ、正式に国にご報告を差し上げたく存じます」

事情を知る近衛の三人は茶番と分かってはいるが、同行した騎士の晴れがましい顔に嘘は無かった。この様な報告は騎士たちの加点に繋がるが、王族と親交が深いスフォルレアン家が正式に報告するのは大きかった。騎士もそれが分かっている様子だ。

式が終わり帰り支度をしていると、ジョシュアの下にあの昔の同僚のヤニックが現れ、”そうか、お前は伯爵家に仕えていたのか”と挨拶をよこしてきた。この時点では、恵の護衛をしていることがどういうことか、公になっていないので、昔の同僚の反応は薄かった。彼らが、驚き悔しがるのはまだ先のことだ。

夜は、モレッティに晩餐に呼ばれていた。ここには、アリス、ルシィ、セリアにエギルを伴っていた。

「本当の貴族のご令嬢だったんだな。けどどうして盗賊やってったお前が従士なんかになってんだ。どんな魔法使った」

従士姿で護衛として出向き、晩餐の間待機しているエギルにガルニエが寄ってきて声を掛ける。

「俺が頭をやっていた盗賊団がお嬢様に叩き潰されてな」

「それで配下になったってのか。強ぇ奴が弱いもんを吸収しちまうのはよくあるが、それって俺たちとやってること変わんねえじゃねえか」

「うちのお嬢様は、もっとやばい」

「あぁ。ステファノの旦那から聞いたぜ。ケンカ売ってた先は、ツァンナじゃなくて帝国だったて言うじゃねえか。そんなところいて、おめぇ大丈夫か?」

「いや、もう抜けらんねえんだ」

「うちの一家よりやべえんじゃねえか?命は大事にしろよ」

晩餐の席上では、モレッティは機嫌よく話し、恵の武勇伝を聞きたがった。

「モレッティ様。これ以上は、ご勘弁願います。武勇伝など慎みの無い娘と思われてしまいます」

「いや、すまねぇ。今日はガルドノール伯爵令嬢としていらしているんだったな」

「メグは本当に貴族のお嬢様だったんだね。しかも年上で、既にアカデミーに通っていたんだ」

「申し訳ございません、ピエトロ様。騙すつもりはありませんでしたが、謀はどこから漏れるとも分かりませんでしたので」

「それはいいんだ。メグは僕を守ろうとしてくれていたんだよね。僕がメグを守りたかったんだけど・・・」

「お気になさらないでください。これは私が進んで始めたことです。彼らにはちょっと言いたいことがあったのです。でも、ダメですねこんなガサツなやり方しかできませんでした。私のお姉様ならきっと包み込むように相手を説得してしまったかもしれません。私は、力押しばかりで」

「そんなことは無いよ。僕の剣術の先生がいつも言っている。力を持つ者はその力をどう使うべき考え続けなければならないって。メグは正しい事のために使っているって信じている」

「お優しいお言葉有難うございます」

「ピエトロ。良いこと言うじゃねえか。とにかく、メグのお譲様はモレッティを救ってくれた・・・いや、いや分かってる。マフィアのためにやったんじゃねえってことはよ。それでも、救ってくれたことは違えねぇんだ。なんか礼がしたい。何でも言ってくれ」

「いえ、そんな。お気持ちだけで」

「そう言わずによぉ」

「では・・・。正直なところ私はモレッティ様の生業については快く思わないこともあります。ですが、娼館など悪所を無くすと、陰に隠れより非道なことが行われることも承知しておりますし、それで殿方が助かっていることも理解しているつもりです。モレッティ様には、その中でか弱くも強かに生きる女性に目を掛けて頂きたく存じます」

「おい。メグお嬢様よ。女を食いもんにするような、そんなに安い男と思ったのか」

モレッティの声のトーンが下がる。

「これは余計なことを申し上げました。モレッティ様のお心は分かっていたつもりです。ですが、組織が大きくなると何かと目の届かぬところもあるかと、浅はかにも考えてしまいました。申し訳ございません」

「ハハハハ・・・。こりゃ参った」

威嚇するように言ったかと思ったとたん、モレッティは声を上げて笑い出した。

「???」

「一家がもっと小さかった頃。若いときは、俺も結構荒れていてよ。死んじまった連れ合いのばあさんに良く諫められてな。おれが文句を返すと、すぐに出過ぎたことを言ったと謝るんだが、次の日にはケロッと忘れて、また同じことを言いやがる。五月蠅ぇもんだから、ちょっとその通りしてやると、スゲーいい顔しやがるんだ。メグのお嬢様みたいに別嬪じゃねえんだが、また見たいって顔なんだ。そうしていたら何時の間にか周りの連中や街のもんが俺を持ち上げてくれてな。いつの間にかこんだけの所帯になっていた。なんだか若けぇ頃を思い出しちまったぜ。ばあさんが嫌がったもんで、女は泣かさなねぇようにしてきたつもりだが、いいぜ、もう一度、ここで請け合てやろう」

「ありがとう存じいます」

恵はいい笑顔をモレッティに返した。


「参りましたね。かなりの貴族がこちらの動きを知ってしまったようですね」

王妃ルイーズは美しい眉根を寄せる。

「派閥再編の件で、地の節季だと言うのに多くの貴族が王都に来ていますから、噂を広げるのは容易であったようです」

「やはりリークしているのは、ユリスか」

国王のジャンはベッドで体を起こして話に加わっている。恵の調整したポーションで体への負荷はずいぶん軽くなってはいるが、あくまでも対処療法であり病自身が治癒に向かっている訳ではない。ベッドで過ごす時間が次第に増えてくるのは仕方のないことかもしれない。ここは、ジャンの執務室を急遽改築し隣室をジャンがいつでも仮眠できるようした部屋である。部屋には、ジャンとルイーズそれにサイモンがいる。護衛とメイドは入り口まで下がらせて待機させている。

「おそらくは」

ユリスは、恵を娶ったアクセルが辺境伯として臣籍降下することで、強硬派勢力が更に削がれることを危惧し、王妃が進めている計画を貴族たちにリークし、二人の娘を王族に嫁がせるスフォルレアン家が突出することへの不安を醸成しようとしている。

「強硬派では、既にブロール伯爵のご令嬢を婚約者候補とする準備を始めていると聞いています」

「不安を煽るだけ煽ったところで、対抗馬を提示して一気に貴族の世論を形成するつもりでしょう。彼らしい仕掛けだこと。しかし、歳の合う上級貴族がいなかったのでしょうが、立てた候補がスザンヌ嬢と言うのが解せません。彼女はマルグリットと今旅に出ているセリア嬢を虐めていたと言う子でしょう。アクセルが猛反発していますよ」

「アクセル殿下がですか。私はスザンヌ嬢が自ら候補に名乗り出たと聞いていたのですが」

「あらあら、そうだったの。オクシーヌ領で盗賊と結託した執事を派遣したときといい、ユリスは寄子から頼まれると甘いところは全然直っていませんね。せっかくの策が台無しですね」

「まあ、その身内への甘さが慕われているところでもあるのだが。しかし、あの穏やかなアクセルが反発しておるのか」

「あなたもしっかり子供たちと話し合ってくださいな。あの子、マルグリットには相当思い入れが強いですよ。そのうちマルグリットを迎えられるなら、辺境伯領などいらないと言い出しますよ」

「それは、困るな。また強硬派が勢い付きかねん」

「私はそれでもいいと思っております」

「なにを言い出すのだ。ルイーズ」

「あら、私とブロンシュの目的は、アクセルとマルグリットの婚儀です。別の手立てで生活の基盤が築けるなら、辺境伯領に固執しませんよ」

「いや、それでは派閥間を均衡させる目論見が潰えるではないか」

「それは、殿方のお仕事ですよ」

「余はともかく、アレクシスが困るのだぞ」

「その程度で音を上げるような育て方はしていません。この国を率いてゆけるだけの力を付けさせねばオリヴィエ様に申し訳が立ちません」

「サイモン、お前からは何かないのか」

「とにかく、ヴォロンテヂュール侯爵も落としどころを考えているはずですので、その辺りを見極めます。それと、それとなくアクセル殿下のお気持ちをリークさせてください。セリア嬢を虐めた結果がルアール男爵の穏健派への移籍に繋がったのです。クロエ王女殿下が無かったことにしたものを蒸し返した件もありますので、強硬派の中にもスザンヌ嬢を候補とすることに疑問を持つ者が現れるでしょう。彼らの足並みを崩せば、局面も変わるのではないかと」

「それでは、私のときと同じように、次善策として中立派から候補を立てるでしょう。今度の場合、ミュールエスト領のお話ですから、元中道派は受け入れやすいので、そちらの方が厄介になりますよ。兎に角、私としては、アクセルとマルグリットの婚儀については譲る気はございません。あなたにも、サイモン殿にも、今回の一件の始まりとなったマヤ様のことをもう一度思い起こしてくださいませ」


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