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人間変数 ― MADE BY HUMAN ―  作者: 花房清澄


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15/17

第15話 測られる人間


 人間性指数、という言葉を見て、修一は朝食の箸を止めた。


 端末に出ていたのはニュースだった。


 「人間性指数」、採用・進学サービスへ拡大


「名前でかくない?」


 向かいでパンを食べていた悠真が顔を上げた。


「何が」


「人間性指数」


「それニュースがそう呼んでるだけでしょ」


「そうなの?」


「父さんが開いたんじゃん」


「まだ題名しか見てない」


 修一は記事を開いた。


 最初に出てきたのは政府の検討資料だった。


 組織向け意思決定多様性指標。


 企業や公共機関の意思決定が、似たモデルや似た判断履歴へ偏りすぎていないかを見るためのものらしい。


 修一は少し送った。


 その下から話が変わった。


 採用支援会社。


 大学向け選考サービス。


 保険。


 婚活。


 政府が検討している指標そのものではない。それぞれの会社が、似た考え方を使って別の評価を作り始めている。


 記事では、それらをまとめて人間性指数と呼んでいた。


「雑だな」


「何が?」


「全然違う数字をまとめて人間性指数って」


 悠真がパンをかじった。


「分かりやすいからじゃない?」


「人間性だぞ。もうちょっと慎重に名前付けろよ」


「ニュースに言えば」


 修一は下へ送った。


 個人向けサービスの広告が一つ入った。


 あなたの選択特性を可視化します。


 さらに下。


 予測安定型/探索変動型相性診断対応。


「婚活まである」


「前もあったじゃん」


「高変動型歓迎とかいうやつ?」


「覚えてるじゃん」


「変だったからな」


 ハルが修一の空いた皿を取った。


「現在、複数企業が異なる評価方式を提供しています」


「ハルも知ってるの?」


「公開情報です」


「どれが正しい?」


「用途が異なるため、単純比較できません」


 修一は記事を閉じた。


「じゃあ人間性指数じゃないじゃん」


「だから俗称なんでしょ」


 悠真はもう食べ終えていた。


「今日、出すから」


「何を?」


「出願」


 修一は一秒ほど遅れて思い出した。


「今日だっけ」


「昨日も言った」


「覚えてるよ。確認しただけ」


「忘れてたでしょ」


「親にそういう言い方するなよ」


 悠真は返事をせず、食器をハルへ渡した。


 そのまま二階へ上がっていった。


 修一は閉じたばかりの記事をもう一度開いた。


 進学。


 そこだけ少し見た。


*


 夜、悠真はリビングで出願画面を開いていた。


 修一が気づいた時には、かなり下まで進んでいる。


「もうやってる?」


「うん」


「呼べよ」


「何で」


「一応、親だろ」


「入力するの俺だけど」


「見るくらいいいじゃん」


 悠真は嫌がるでもなく、画面を少し大きくした。


 氏名。


 学校記録。


 研究活動。


 提出資料。


 大半はすでに連携されている。


 本人が確認して、必要な項目だけ追記する。


 第一志望には、前から聞いていた課程が入っていた。


 AI、材料、エネルギーを横断する先端研究課程。


 進学支援AI が以前から第一候補に出していたところだ。


「そこにするの?」


「うん」


「AI が一番って言ったから?」


「それもある」


「それも?」


「俺も行きたいから」


 悠真は画面を送った。


 修一は何となく黙った。


 次の欄には、志望理由が入っていた。


 文章は短い。


 修一が読もうとすると、悠真が画面を動かした。


「読ませろよ」


「あとで」


「何で」


「今確認してるから」


「親の確認も必要だろ」


「いらない」


「制度上じゃなくて」


「もっといらない」


 修一はソファへ座り直した。


「昔は願書って親も見るもんだったんだよ」


「昔っていつ」


「俺の頃」


「紙?」


「紙ではない」


「じゃあそんな昔でもないじゃん」


「年齢を細かく攻撃するなよ」


 悠真は少し笑った。


 入力確認が進む。


 学力。


 研究活動。


 共同課題。


 志望領域との適性。


 大きな問題はない。


 むしろ、どれも高かった。


 修一が見ても安心できる数字が並んでいる。


 その中に、前からある項目が出た。


 非モデル適応性:低


 修一の目が止まった。


「まだ低いんだ」


「見れば分かる」


「変わってない?」


「たぶん」


「何かやった?」


「何を」


「ほら、前に」


「百万円のやつは行ってない」


「それは知ってる」


「じゃあ何」


 修一は答えなかった。


 悠真自身が一度、改善方法を調べていたことを修一は知らない。


 画面はそのまま次へ進んだ。


 選考資料連携。


 本人確認。


 外部参考情報。


 そこで別の評価表示が出た。


 D


 修一は身を乗り出した。


「何、そのD」


「知らない」


「知らないで出てるの?」


「今出たから」


「D って悪いよな」


「A よりは悪いんじゃない」


「そういうの平然と言うなよ」


「父さんが聞いたんじゃん」


 修一は画面を見た。


 学力は高い。


 課程との適性も高い。


 研究記録も悪くない。


 その中に一つだけD がある。


「これで不利になる?」


「なるかもしれない」


「何で」


「知らない」


「知らないばっかりだな」


「今出たんだから仕方ないじゃん」


 悠真は画面を閉じようとした。


「待って」


「何」


「これ、さっきの人間性指数とかいうやつ?」


「知らない」


「似たようなもんじゃないの?」


「だから、知らないって」


「学校で前に出たやつもあるし、今度はD だろ。何でも測りすぎなんだよ」


「父さんも測られてたじゃん」


「あれは仕事だよ」


「仕事ならいいの?」


「そういう話じゃない」


 修一はニュースを開いた。


 朝の記事がまだ履歴に残っていた。


「ほら。採用とか進学にまで持ってくるから変になるんだよ」


「別に」


「こんな指数なくした方がいい」


「別に」


「お前が不利なんだぞ」


 悠真が修一を見た。


「父さん、自分の数字が高かった時は何も言わなかったじゃん」


 修一は止まった。


 〇・〇七パーセント。


 最初に見せられた時は、意味が分からなかった。


 価値があると言われた。


 金も出た。


 テレビにも出た。


 契約もした。


 自分の判断が欲しいと言われて、悪い気はしなかった。


「あれは……」


 そこまで言って、続かなかった。


 悠真は勝った顔をしなかった。


 出願画面へ戻った。


「送るよ」


「もう?」


「確認終わったから」


「D のまま?」


「今から変わらないでしょ」


「いや、そうだけど」


「じゃあ送る」


 悠真が最終確認を押した。


 出願先。


 提出資料。


 本人確認。


 確認事項が並ぶ。


 悠真は上から見ていく。


 最後に、


 出願する


 が出た。


 指を置く。


 修一は横から見ていた。


「本当にそこなんだな」


「うん」


「ほかもあるだろ」


「あるよ」


「AI の第二候補とか」


「ある」


「第三は?」


「ある」


「なら」


 悠真が父親を見る。


「何」


「いや」


 修一は画面を見た。


 第一推奨。


 そして本人も第一志望。


「でも、お前AI の予測通りなんだぞ」


「だから?」


「……」


 悠真はまだ送信ボタンに指を置いていた。


「予測されたら、自分で選んだことにならないの?」


「そういう意味じゃ」


「父さんが焼き魚食べるの分かってても、父さんが食べたいなら魚でしょ」


 修一は黙った。


 焼き魚。


 一度は意地で外と言った。


 結局、魚を食べた。


 うまかった。


 悠真は修一の返事を待たずに言った。


「俺、変な人になりたいわけじゃないんだよ」


 リビングが少し静かになった。


 台所ではハルが食器を収納している。


 外を車が一台通った。


 悠真は出願画面へ視線を戻した。


 指を動かす。


 出願する


 押した。


 少し待つ。


 受理しました。


「終わった」


「終わったな」


「うん」


 悠真が画面を閉じた。


 修一はまださっきのD が気になっていた。


「本当に気にしてないの?」


「何を」


「D」


「別に」


「さっきから別に多くない?」


「別に」


「絶対気にしてるだろ」


 悠真は少し黙った。


 それからソファの背にもたれた。


「まあ、D 評価は普通にムカつくけど」


 修一は笑った。


 悠真も笑った。


「やっぱり気にしてんじゃん」


「ムカつくのと志望変えるのは別」


「そこは変えない?」


「変えない」


「落ちたら?」


「その時考える」


「AI に聞く?」


「聞くかも」


「聞くんだ」


「使えるなら使うでしょ」


「そういうところなんだよな」


「何が」


「いや」


 修一は笑ったまま首を振った。


 悠真は自分の端末へ戻った。


 もう出願画面ではなかった。


 友人から何か来たらしく、短く返信している。


 修一も自分の端末を開いた。


 朝のニュース。


 会社からの通知。


 家庭の電力予定。


 その下に、HV-TAKASE の表示があった。


 いつもの小さな通知だった。


 修一は開く。


 本日の高瀬修一の選択予測


 その下に結果表示のボタンがあった。


 修一は指を置いた。


「今はいいか」


 画面を閉じた。


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