第6章 配信・掲示板・VTuber・芸能――「評価される快感」の大規模化
前回は、
異世界へ行く。
異世界から帰ってくる。
地球と異世界を往復する。
そしてついには、
現代日本そのものにダンジョンができる。
という流れを振り返りました。
舞台が現代へ戻ってくると、
当然ながら現代にしかないものが物語へ入ってきます。
スマートフォン。
SNS。
動画サイト。
掲示板。
そして、
配信。
主人公がすごいことをする。
それを仲間が見る。
ここまでは昔からありました。
しかし配信なら、
その活躍を何万人もの人間が同時に見ることができます。
そして、
「何だこいつ!?」
「強すぎる!」
「これ絶対普通じゃないだろ!」
と、
コメント欄が一斉に反応する。
今回は、
「主人公が活躍する」から「主人公の活躍を大勢に見てもらう」へ。
そんな変化について考えてみたいと思います。
この頃の主な作品
【2020年頃】
『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』
VTuber/配信事故/素の人格/バズ/人気上昇/コメント
【2022年頃】
『幼馴染のVTuber配信に出たら超神回で人生変わった』
VTuber/配信出演/ゲーム/バズ/人生逆転
『推しにささげるダンジョングルメ ~最強探索者VTuberになる~』
現代ダンジョン/最強探索者/VTuber/料理/推し活/配信
そして、この頃になると、
ダンジョン配信。
VTuber。
動画投稿。
掲示板。
SNS。
芸能界。
アイドル。
俳優。
といった要素を扱うWeb小説もかなり身近になってきます。
※今回も、これらが各ジャンルの元祖という意味ではありません。
個人的に流れを見るうえで分かりやすい作品として取り上げています。
主人公がすごいだけでは、まだ足りない?
ここまでの流れを少し振り返ります。
初期の異世界ものでは、
主人公が強敵を倒す。
それだけでも十分に主人公の強さを証明できました。
次に、
仲間から、
「すごい!」
と言われる。
ギルドで、
「なんだこの新人は!」
と驚かれる。
そして追放ものになると、
主人公を捨てた元仲間が、
「あいつ、実はすごかったんじゃ……」
と後悔する。
つまり、
少しずつ、
「主人公がすごい」
だけではなく、
「主人公がすごいことを、周囲が理解する」
部分が強くなっていきます。
そして配信ものでは、
この「周囲」が一気に増えます。
仲間数人。
街の人々。
ギルド。
元パーティー。
ではなく、
何万人もの視聴者。
主人公の活躍を、
大量の第三者が一斉に評価する。
ここが、
配信ものの大きな気持ちよさの一つなのではないかと思います。
掲示板回が妙に楽しい
配信ものの前段階として、
個人的に面白いと思うのが、
「掲示板回」
です。
本編では主人公が普通に行動している。
ところが時々、
匿名掲示板風の回が挟まる。
名無しの冒険者
「あの新人なんなの?」
名無しの冒険者
「昨日Aランクの魔物ソロで倒してたぞ」
名無しの冒険者
「嘘乙」
名無しの冒険者
「動画あるぞ」
名無しの冒険者
「マジじゃねーかwww」
みたいなやつです。
……これ、
なぜか楽しいんですよね。
主人公本人が、
「俺、強いだろ?」
と言うわけではない。
ヒロインが延々褒めるわけでもない。
主人公とは直接関係のない第三者たちが勝手に主人公のすごさを語っている。
その様子を読者が眺める。
これは追放ざまぁとは少し違います。
でも、
「ほら、この主人公ってやっぱりすごいでしょ?」
という確認をしてくれる役割はかなり近い。
言ってみれば、
掲示板にいる名無したちは、
物語の中に作られた観客席
なのかもしれません。
読者と一緒に驚いてくれる「観客」
これまでの物語にも、
観客役のキャラクターはいました。
武術大会で、
「な、なんだあの技は!」
と驚く観客。
冒険者ギルドで、
「あいつ一人で倒したのか!?」
とざわつく冒険者たち。
学園で、
「嘘だろ、あいつが首席?」
と驚く生徒たち。
これも基本的には同じです。
主人公の能力を、
周囲のリアクションによって強調する。
ただ、
掲示板や配信コメントになると、
この観客をいくらでも増やせます。
しかも、
名前すらいらない。
一言だけ、
「草」
「化け物で草」
「誰だよこいつ」
「新人???」
と書くだけでいい。
それだけで、
世間が主人公をどう見ているのか
を一瞬で表現できます。
これはWeb小説と非常に相性のいい表現方法だったのではないかと思います。
『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』
この「見られること」そのものを物語の中心にした作品として、
非常に分かりやすいのが、
『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』
です。
主人公はVTuber。
当初は「清楚系」として活動しています。
ところが、
配信を切り忘れる。
その結果、
配信中とは全く違う、
素の姿が視聴者にバレる。
普通なら、
大炎上。
で終わりそうな事故です。
ところが、
その素のキャラクターが、
めちゃくちゃウケる。
切り抜かれる。
話題になる。
バズる。
人気が上がる。
そして、
本人も開き直る。
面白いのは、
主人公が突然最強能力を手に入れたわけではないところです。
主人公が持っていたものは、
最初から本人の中にあった。
ただ、
それを視聴者が知らなかった。
これ、追放ものと似てない?
ここで私は、
第4章で扱った追放ものを思い出します。
追放ものでは、
主人公は最初から有能だった。
でも、
周囲がその価値を理解していなかった。
↓
別の場所へ行く。
↓
正しく評価される。
でした。
『配信切り忘れ』では、
主人公には最初から面白い個性があった。
でも、
清楚系というキャラクターに隠れていた。
↓
事故で素が出る。
↓
視聴者に見つかる。
↓
正しく評価される。
……構造としては、
意外と近いんですよね。
もちろん作品のジャンルも内容も違います。
ですが、
「自分自身が変わったから評価された」のではなく、「もともと持っていた価値を他人が発見した」
という点では、
かなり似ています。
「実は俺、すごかった」から「世間が俺を見つけた」へ
ここまでの変化を並べると、
さらに面白くなります。
昔の成長もの。
弱かった主人公が努力して強くなる。
↓
追放もの。
主人公は最初から有能だった。周囲が気づいていなかった。
↓
配信・芸能もの。
主人公には最初から才能があった。世間がまだ見つけていなかった。
となる。
つまり、
主人公が価値を獲得するまでの時間だけではなく、
主人公が自分の価値を証明するための手間
まで減っているように見えます。
何かすごいことをする。
↓
動画になる。
↓
バズる。
↓
一晩で有名人。
現代には、
この流れを成立させる装置が実際に存在しています。
だからこそ、
「突然大勢に評価される」
という展開にも説得力を持たせやすい。
SNSと配信は、
カタルシスを高速化する装置
として非常に便利なのだと思います。
『幼馴染のVTuber配信に出たら超神回で人生変わった』
タイトルからして、
もう何が起こるのか分かります。
主人公は、
人気VTuberである幼馴染の配信に出演する。
ゲームをする。
その腕前や掛け合いが視聴者にウケる。
配信が盛り上がる。
トレンド入りする。
そして、
人生まで変わっていく。
この構造で面白いのは、
主人公が有名になるまでの距離がものすごく短い
ところです。
芸能界ものなら、
オーディション。
下積み。
端役。
売れない時代。
少しずつファンが増える。
という流れも描けます。
でも配信なら、
一回の神回でバズればいい。
これもまた、
「カタルシスまでの距離が短くなった」
という流れの延長線上にあるように思います。
一夜にして人生が変わる
考えてみれば、
異世界転生そのものも、
かなり極端な人生逆転です。
普通の会社員。
↓
死亡。
↓
異世界転生。
↓
チート持ち。
という、
人生を一発で変える仕組みです。
追放ものなら、
無能扱い。
↓
追放。
↓
新しい場所では超有能。
そして配信ものなら、
無名。
↓
偶然配信に出る。
↓
バズる。
↓
人気者。
舞台は違いますが、
「昨日まで普通だった自分の価値が、一気に世界へ知られる」
という快感は共通しているように思います。
配信ものでは「リアクション」自体がご褒美になる
そして、
配信ものを読んでいて面白いのが、
主人公が何かをした後の、
コメント欄。
です。
主人公が強敵を倒す。
コメント欄が荒れる。
主人公が超絶技巧を見せる。
コメント欄が加速する。
主人公が何気なくすごいことを言う。
コメント欄が、
「???」
になる。
主人公本人は、
「これ普通じゃないの?」
と思っている。
視聴者は、
「普通じゃねえよ!」
と総ツッコミ。
この、
主人公と世間の認識のズレ
そのものが面白さになります。
そして読者は、
主人公側の事情も知っている。
視聴者側の反応も見られる。
両方を同時に楽しめる。
言ってみれば、
主人公の活躍と、その活躍に対する観客の反応がワンセットになった。
のです。
「無自覚最強」と配信は相性が良すぎる
これは、
昔からある「無自覚最強」とも非常に相性がいい。
主人公。
「え? これくらい普通ですよね?」
視聴者。
普通じゃねえよ。
これだけで一つのネタになります。
異世界の辺境で師匠に育てられた。
異世界帰還者だった。
幼い頃から特殊な訓練を受けていた。
ダンジョンに潜りすぎて世間の基準を知らない。
理由はいくらでも作れます。
そして、
本人が自慢しないから、
嫌味になりにくい。
代わりに視聴者が、
「お前、自分がどれだけおかしいか分かってないだろ!」
と教えてくれる。
これも、
主人公を善良なまま、
俺TUEEEの快感を作れる非常に便利な構造です。
『推しにささげるダンジョングルメ』
そして私が、
「今のWeb小説ってこうなってるんだなあ」
と感じる作品の一つが、
『推しにささげるダンジョングルメ ~最強探索者VTuberになる~』
です。
まず、
主人公は最強クラスの探索者。
ここですでに、
現代ダンジョン+俺TUEEE。
さらに、
ダンジョンの魔物を食材にする。
グルメ。
そして主人公には、
好きなVTuberがいる。
推し活。
その推しに料理を食べてもらいたい。
そのために、
自分もVTuberになる。
配信。
……。
一作品の中に、
一体いくつのジャンルが入っているんだ。
と思います。
でも、
読んでみると普通に成立する。
ここが面白い。
テンプレが「合体」し始める
第2章あたりでは、
転生。
チート。
ステータス。
人外転生。
ゲーム世界。
といった、
新しい「なろう系の部品」が次々に増えていました。
ところが2020年代になると、
それまでに作られてきた部品が大量にあります。
現代ダンジョン。
最強主人公。
グルメ。
VTuber。
掲示板。
推し活。
スローライフ。
追放。
ざまぁ。
悪役令嬢。
クラフト。
だったら、
組み合わせればいい。
『推しにささげるダンジョングルメ』は、
この流れを考えるうえで非常に分かりやすい作品だと思います。
私は今のところ、
「2010年代は新しいテンプレが次々に生まれた時代で、2020年代は成熟したテンプレ同士を組み合わせる時代になってきた」
のではないか、
と考えています。
この辺りは後の章でもう少し掘り下げます。
そして「芸能」へ
この、
大勢から評価されること自体が気持ちいい
という構造を考えると、
VTuberだけでなく、
芸能ものが増えていくのも自然に思えます。
俳優。
子役。
アイドル。
歌手。
動画投稿者。
配信者。
主人公には、
前世の経験。
天才的な演技力。
圧倒的な歌唱力。
ゲーム能力。
容姿。
特殊な知識。
などがある。
それを使って、
オーディションで驚かれる。
共演者に認められる。
監督が驚く。
視聴者がファンになる。
SNSでバズる。
人気ランキングが上がる。
これって、
剣や魔法を使っていないだけで、
構造としては、
俺TUEEE
なんですよね。
ドラゴンを倒す代わりに、演技で圧倒する
異世界ものなら、
主人公がドラゴンを倒す。
周囲。
「なんだこの強さは……!」
芸能ものなら、
主人公が圧倒的な演技をする。
共演者。
「なんだこの子は……!」
やっていることは全く違います。
でも、
読者が受け取る快感には、
結構似たところがあります。
主人公が、
他の人にはできないことをする。
↓
周囲が驚く。
↓
主人公の価値が上がる。
↓
さらに大きな舞台へ進む。
これは、
レベルアップの数字が、
知名度や人気に置き換わった
とも考えられます。
「人気」が新しいステータスになる
RPG的ななろう系では、
レベル。
STR。
INT。
スキル。
冒険者ランク。
など、
主人公の成長を数字で表現できました。
配信・芸能ものでは、
それが、
登録者数。
同時接続数。
再生数。
フォロワー数。
ランキング。
トレンド。
などに変わります。
これらは、
主人公がどれだけ世間から評価されているのかを数字で見せてくれる。
考えてみれば、
ものすごく「なろう系」と相性がいい。
レベル10。
↓
レベル50。
と同じように、
登録者1,000人。
↓
10万人。
↓
100万人。
と、
成長が目に見える。
言ってしまえば、
フォロワー数は現代版ステータス画面
なのかもしれません。
評価する人数が増え続けている
ここまでの流れを、
人数で考えてみると面白いです。
最初は、
ヒロイン一人が、
「あなたはすごい」
と言ってくれる。
次に、
パーティー全員が認める。
村全体が認める。
国王が認める。
追放ものでは、
元パーティーが後悔する。
そして掲示板では、
知らない人が何十人も主人公について語る。
配信では、
何万人ものコメントが流れる。
SNSでは、
もっと大勢の人間に拡散される。
つまり、
主人公を評価する人間の数がどんどん増えている。
と見ることもできます。
主人公は、
世界最強になるだけではない。
世界中から「すごい」と言われる。
そこまでが、
一つのカタルシスになってきた。
そんな気がします。
「主人公が特別」から「特別だと認識される」まで
ここまで書いてきて、
この連載全体を通して一つの流れが見えてきました。
最初は、
主人公が特別である。
それだけでよかった。
強い。
チートがある。
知識がある。
次に、
その特別さを周囲が認識する。
そして、
主人公を認めなかった人間が後悔する。
さらに、
大量の第三者が主人公の特別さを目撃する。
私は、
この、
主人公が特別
↓
その特別さが周囲に認識される
↓
読者がその評価を一緒に楽しむ
という構造が、
なろう系を考えるうえでかなり重要なのではないか、
と思うようになりました。
そして、ついには「何もしなくても価値がある」へ?
では、
この「評価されるまでの距離」を、
もっともっと短くするとどうなるでしょう。
努力する必要もない。
強敵を倒す必要もない。
配信で神プレイをする必要すらない。
主人公が、
そこにいるだけで希少価値がある。
例えば、
男女比が極端に偏った世界。
男が圧倒的に少ない。
そこへ普通の男性主人公がいる。
すると、
男である。
それだけで、
周囲から猛烈に注目される。
昔なら、
主人公が活躍した。
↓
モテた。
だった。
それが、
主人公が男である。
↓
希少。
↓
モテる。
となる。
第4章で、
「カタルシスまでの距離が短くなった」
と書きましたが、
ここまで来ると、
距離はほぼゼロ。
です。
そしてこの流れを考えるには、
そもそも、
「なろう系のハーレムはどこから来たのか?」
を一度振り返ってみたくなります。
次回は本編から少し横道にそれて、
「ハーレムはどこから来た?――ギャルゲー・ラノベから異世界ハーレム、男女比ものへ」
を考えてみたいと思います。
今回は、
掲示板。
配信。
VTuber。
芸能。
と、
「主人公の活躍を大勢の人が見る」物語について考えてみました。
個人的には、
主人公がとんでもないことをした後に、
掲示板回やコメント欄回が入る作品、
かなり好きです。
本人は普通にしているのに、
裏で、
「誰だよあいつ」
「いやマジでおかしい」
「動画見たけど人間じゃねえ」
みたいに騒がれている。
あれ、
なんだか妙に気持ちいいんですよね。
今回改めて考えてみて、
その理由が、
「主人公のすごさを、大量の第三者が代わりに証明してくれるから」
なのかもしれない、
と少し納得しました。
皆さんは、
掲示板回。
配信コメント回。
SNSでバズる回。
好きでしょうか?
また、
「この作品の掲示板回が好きだった」
「この配信ものが面白い」
という作品がありましたら、
ぜひ教えてください。
次回は横道にそれて、
異世界ハーレム以前から存在していた「モテる主人公」の歴史
を少し振り返ってみたいと思います。




