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横道① なろう以前にも異世界はあった――では何が「なろう系」で変わったのか

ここまで、「小説家になろう」を中心に異世界転移・転生ものの変遷を振り返ってきました。


ですが、ここで一度だけ時計を巻き戻してみたいと思います。


というのも、


異世界へ行く物語は、当然ながら「小説家になろう」が生み出したものではありません。


私自身も、なろうを読むずっと前から、


「現代人が異世界へ行く」


という物語を漫画やアニメ、小説で何度も見ていました。


では昔から異世界ものがあったのなら、


いったい何が「なろう系」で変わったのでしょうか?


今回は少し横道にそれて、その辺りを振り返ってみたいと思います。

1980年代には、すでに現代人が異世界へ召喚されていた


例えば1983年の『聖戦士ダンバイン』。


現代日本の若者ショウ・ザマが、異世界バイストン・ウェルへ召喚され、オーラバトラーと呼ばれる兵器に乗って戦う物語です。


サンライズ公式も、本作を「ヒロイックファンタジー風の異世界を舞台とする」作品として紹介しています。


これ、今風に乱暴に説明すると、


現代日本の青年が異世界召喚され、特殊な力を持つ戦士として活躍する話


です。


……かなり「なろうっぽい」。


もちろん中身は全然違います。


政治や戦争、人間関係も重く、決して気楽な異世界無双ではありません。


それでも、


「現代人が異世界へ召喚される」


という骨格そのものは、40年以上前からすでに存在していました。


『魔神英雄伝ワタル』なんて、設定だけ見ればかなり近い


1988年の『魔神英雄伝ワタル』も面白い例です。


主人公の戦部ワタルは、現代世界から異世界・神部界へ連れていかれ、


「救世主」


として、魔界の王ドアクダーに支配された世界を救う旅へ出ます。


これも現在の言葉で説明すると、


現代の少年が異世界へ転移。



救世主として選ばれる。



特殊な力を持つ。



仲間を集める。



世界を支配する悪を倒しに行く。


となります。


勇者召喚テンプレ、そのものに見えなくもありません。


ただし当時の私は、


「これは異世界転移テンプレだ」


なんて当然思っていません。


単純に、


「ワタルが異世界で冒険する話」


として見ていました。


ここが、今との大きな違いなのかもしれません。


1990年代には、少女漫画でも普通に異世界へ行っている


異世界転移は男性向け作品だけではありません。


『ふしぎ遊戯』では、主人公の女子中学生・夕城美朱が図書館で見つけた本の中へ吸い込まれ、古代中国に似た異世界へ飛ばされます。


そこで「朱雀の巫女」となり、使命を背負うことになる。TVアニメは1995年から放送されました。


現代人。


異世界転移。


特別な役割。


複数の魅力的な男性キャラクター。


恋愛。


使命。


これも後の女性向け異世界作品を考えると、かなり興味深い要素が揃っています。


つまり、


異世界へ行って特別な存在になる


という願望そのものは、なろう以前から男女問わず人気のある題材だったのでしょう。


『天空のエスカフローネ』も異世界召喚


1996年の『天空のエスカフローネ』も、現代日本の少女が異世界へ関わっていく作品です。


TVシリーズは1996年4月から放送され、異世界ガイアを舞台に、ファンタジーとロボット、戦争、恋愛などを組み合わせた作品でした。


劇場版の公式紹介でも、現代日本の女子高生ひとみが中世を思わせる異世界ガイアへ召喚される物語と説明されています。


この頃になると、


現代人+異世界+ロボット

だったり、


現代人+異世界+恋愛

だったり、


異世界転移そのものに様々なジャンルが組み合わされています。


そして『十二国記』


私が「なろう以前の異世界もの」を考える時に、外せないと思う作品の一つが『十二国記』です。


小野不由美先生による、中国風の異世界を舞台にしたファンタジー。


公式紹介では、我々の世界と異世界が「虚海」に隔てられ、「蝕」と呼ばれる現象によって行き来が起こる世界として説明されています。


主人公の陽子は、突然異世界へ連れていかれます。


ですが、


「異世界へ来た! チートだ! 無双だ!」


とはなりません。


言葉。


文化。


価値観。


政治。


身分。


異世界人との違い。


そうした「異世界であること」そのものが大きな壁になります。


ここは、今の異世界ものと比べるとかなり面白いところです。


昔の異世界ものは、「異世界そのもの」が大事件だった


昔の作品を見ていると、


異世界へ行くこと自体がものすごい事件


なんですよね。


知らない世界へ行く。


帰れるか分からない。


言葉が通じない。


世界の常識が分からない。


自分が何者なのかも分からない。


戦争に巻き込まれる。


使命を押し付けられる。


その世界に適応すること自体が物語になる。


もちろん作品によって違いますが、


「異世界とは未知の場所である」


という感覚が、比較的強かったように思います。


では、何が「なろう系」で変わったのか


ここからが今回一番考えてみたかったところです。


異世界転移は昔からある。


勇者召喚も昔からある。


主人公が特別な力を持つ作品もある。


複数の異性に囲まれる作品もある。


では、


何が「なろう系」なのか?


私なりに考えてみると、


「新しい要素を発明した」


というより、


それまで別々の作品に存在していた要素が、組み合わせ可能な「部品」になった


ことが大きいのではないでしょうか。


例えば、


異世界転移。


転生。


勇者召喚。


魔王。


レベル。


ステータス。


スキル。


鑑定。


アイテムボックス。


冒険者ギルド。


チート。


ハーレム。


奴隷。


現代知識。


これらを並べただけで、


なろう系を読んできた人なら、


だいたいどんな世界なのか想像できる。


これがすごい。


昔は作品ごとに説明していたものが、説明不要になった


例えば『十二国記』なら、


その世界の制度。


文化。


国家。


生き物。


言葉。


宗教。


政治。


といったものを、作品の中で一つずつ理解していきます。


『ダンバイン』なら、


バイストン・ウェルとは何なのか。


オーラ力とは何なのか。


オーラバトラーとは何なのか。


作品独自の世界設定を覚えていく必要があります。


しかし、なろう系で、


「冒険者ギルド」


と出てきた場合。


詳しい説明がなくても、


「ああ、冒険者登録して、依頼を受けて、ランクがあるんだろうな」


と想像できます。


「アイテムボックス」


と書いてあれば、


「ああ、容量無視か時間停止か、その辺の便利収納ね」


となる。


「鑑定」


と書いてあれば、


「物や人物の情報を見る能力ね」


となる。


作者が説明していない部分を、


読者が過去に読んだ作品の記憶で補ってしまう。


これは、かなり特殊な状態だと思います。


「共有文法」ができた


私はこれを、


「共有文法」


と呼んでみたいと思います。


作者と読者の間に、


「この言葉を出せばだいたい伝わる」


という共通理解が生まれた。


ゲームを遊んできた人なら、


レベル。


HP。


MP。


スキル。


ステータス。


と書くだけで理解できます。


同じように、なろう系を何本も読んできた人なら、


冒険者ギルド。


鑑定。


収納。


追放。


ハズレスキル。


悪役令嬢。


などの単語を見ただけで、


背景にある大量の「お約束」まで理解できる。


これは作者にとって非常に便利です。


一から世界を説明しなくていい。


そして読者にとっても、


話が早い。


なろう系は「異世界ものを発明した」のではなく、「規格化した」?


少し極端な言い方をすれば、


なろう系がやったことは、


異世界転移を発明することではなく、異世界ものの構成要素を規格化することだった


のかもしれません。


昔の異世界ものは、


作品ごとに独自の異世界を作る。


なろう系では、


ある程度共通するパーツを使って、


その上に作品独自の特徴を載せる。


もちろん、これは良し悪しの話ではありません。


共通の土台があるからこそ、


説明を短くして、


料理。


農業。


生産。


商売。


配信。


といった「その作品で本当にやりたいこと」へ早く入れる。


前章で書いた、


異世界で何をするかの細分化


とも、ここでつながります。


そして、「テンプレ」という言葉が成立する


共通する型が増えれば、


当然、


「テンプレ」


が生まれます。


転生した。



神様に会う。



チートを貰う。



異世界へ。



鑑定。



冒険者ギルド。



絡んでくるチンピラ。



主人公が圧勝。



「なんだ、あいつは……!」


という流れを何度も読めば、


次に何が起きるか予想できます。


そして作者側も、


読者が予想していることを知っている。


ここから、


「はいはい、テンプレね」


と主人公自身に言わせたり、


テンプレ通りに見せかけて外したり、


すでに先輩転生者が全部やっていたり、


というメタ的な作品が成立するようになります。


つまり、


テンプレがあるから、テンプレ破りも成立する。


これはジャンルが長く続き、成熟した証拠でもあると思います。


昔の作品を今の言葉で説明すると面白い


こうして昔の作品を振り返ると、


ちょっと面白い遊びができます。


『魔神英雄伝ワタル』


現代小学生が異世界召喚され、救世主としてロボットに乗って魔王を倒しに行く。


『ふしぎ遊戯』


女子中学生が異世界転移し、巫女としてイケメン集団に囲まれながら世界を救う。


『聖戦士ダンバイン』


現代日本人が異世界召喚され、現地兵器を与えられて特殊能力を使い戦争無双……


……と書くと、


急にそれっぽく見える。


でも実際に作品を見れば、


現在のなろう系とはかなり違います。


つまり、


設定だけを抜き出せば昔から似たものはある。


しかし、


その設定の使い方と、読者が期待するものが変わった。


私はそこに、なろう系の特徴があるように思います。


「未知の異世界」から「知っている異世界」へ


そして、ここまで考えて一つ気づきました。


昔の異世界ものでは、


主人公にとっても読者にとっても、


異世界は「知らない世界」


でした。


しかし、なろう系が成熟すると、


主人公は初めて異世界へ来たはずなのに、


読者は、


「冒険者ギルドがあるだろう」


「ステータスがあるだろう」


「鑑定を使うだろう」


と予想できる。


つまり読者にとっては、


知らないはずの異世界なのに、なぜか知っている。


これこそ、


長い年月をかけて「なろう系」という共有された世界観が作られた結果なのかもしれません。


なろう以前からあった。だからこそ、なろう系の変化が面白い


異世界転移も、


勇者召喚も、


特別な主人公も、


なろうが生み出したわけではありません。


ですが、


それまで漫画、アニメ、小説、ゲームなど様々な場所に存在していた要素が、


Web小説の中で大量に作られ、


混ざり、


繰り返され、


読者と作者の間で共有され、


一つの「文法」になった。


私は今のところ、これが「なろう系」を考えるうえで非常に重要な変化だったのではないかと思っています。


そして、一度テンプレが共有されると、


今度は作者と読者の間で、


「次に何が起こると思う?」


という読み合いが始まります。


ただ、その話へ進む前に。


本編では次に、なろう系がさらに煮詰まった結果として大きく流行する、


「追放」「ざまぁ」「不遇職」


の時代へ戻りたいと思います。

今回は少し横道にそれて、「なろう以前の異世界もの」を振り返ってみました。


『ダンバイン』

『ワタル』

『ふしぎ遊戯』

『エスカフローネ』

『十二国記』


など、改めて並べてみると、


「異世界へ行く」という発想自体は、ずっと昔から身近にあったのだと感じます。


皆さんにとって、


「最初に見た・読んだ異世界転移もの」


は何だったでしょうか?


「いや、もっと前にこんな作品がある」


「自分にとってはこれが原点だった」


という作品がありましたら、ぜひ教えてください。


次回は本編に戻って、


「追放・ざまぁ――主人公が評価されるまでの距離が短くなっていく」


という流れを追っていきたいと思います。

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