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第3章 異世界で何をする?――料理・生産・内政・農業・スローライフへの細分化

前回は、2012~2014年頃に「転生」「ゲーム的世界観」「チート」「スキル」など、現在のなろう系につながる基本的な文法が一気に揃っていった時代を振り返りました。


では、その次に何が起きたのか。


異世界へ行く。


転生する。


チートを貰う。


そこまでが読者にとって珍しくなくなってくると、次に重要になるのは、


「で、異世界へ行って何をするの?」


という部分だったのではないでしょうか。


今回は、そこから一気に広がっていった「異世界での生き方」について振り返ってみたいと思います。



この頃の主な作品


【2013年】


『マギクラフト・マイスター』

 異世界召喚/生産/魔法工学/ゴーレム/技術チート


【2014年】


『異世界料理道』

 異世界転移/料理/文化交流


『塔の管理をしてみよう』

 異世界移動/塔攻略/拠点経営/発展/ハーレム


『異世界食堂』

 異世界接続/料理/文化交流


『異世界居酒屋「のぶ」』

 異世界接続/料理/店舗経営


【2015~2016年頃】


『私、能力は平均値でって言ったよね!』

 異世界転生/女主人公/チート/コメディ


『アラフォー賢者の異世界生活日記』

 異世界転生系/おっさん/最強/ゲーム能力


『中堅サラリーマンのまったり異世界産業革命』

 異世界転移/内政/生活改善/生産/料理


『とんでもスキルで異世界放浪メシ』

 巻き込まれ召喚/ネットスーパー/料理/従魔


『異世界のんびり農家』

 異世界転生/農業/村造り/スローライフ


※今回も「この作品が元祖」という意味ではなく、当時の流れを見るうえで分かりやすい作品を例として挙げています。


魔王を倒さなくてもいいじゃない


前章までの異世界ものを振り返ると、


勇者として召喚される。


魔王を倒す。


ダンジョンを攻略する。


冒険者になる。


強敵と戦う。


という、「冒険すること」が物語の中心になっている作品が多くありました。


もちろん、それらがなくなったわけではありません。


ですが作品数が増えてくると、


「別に異世界へ行ったからって、毎回魔王を倒さなくてもいいんじゃない?」


という方向へどんどん広がっていきます。


料理をしてもいい。


物を作ってもいい。


商売してもいい。


農業してもいい。


街を作ってもいい。


店を開いてもいい。


そして極端な話、


何も大事件を起こさず、のんびり暮らしてもいい。


今では当たり前のように存在する「異世界スローライフ」という考え方も、異世界ものが大量に作られたからこそ生まれた枝分かれだったのではないかと思います。


『マギクラフト・マイスター』――強さではなく「作れること」がチート


前章でも少し触れましたが、『マギクラフト・マイスター』は、この変化を見るうえで非常に分かりやすい作品だと思います。


主人公の強みは、


「剣が最強」


でも、


「攻撃魔法が最強」


でもありません。


物を作る。


魔法工学を研究する。


ゴーレムを作る。


道具を改良する。


つまり、


「技術者として強い」


わけです。


これが面白い。


それまで「チート」というと、


圧倒的な魔力。


強力なスキル。


最強の剣術。


など、どうしても戦闘能力を想像しがちでした。


しかし、


何かを作れることも立派なチートになる。


しかも生産系の強みは、敵を倒すだけでは話が終わらないところにあります。


新しいものを作る。


改良する。


別の問題が出てくる。


さらに便利なものを作る。


と、いくらでも話を広げられる。


この辺りから、


戦闘以外の能力を主役にする


という方向が一気に広がっていったように思います。


『異世界料理道』――現代知識チートの代表格「料理」


そして私自身かなり印象に残っているのが、『異世界料理道』です。


主人公が持っている最大の武器は、


料理人としての経験。


剣でもない。


魔法でもない。


料理です。


これは現代知識チートとの相性が非常にいい。


現代日本には、


調理法。


調味料。


保存方法。


食材の組み合わせ。


衛生管理。


長い年月をかけて積み上げられた膨大な食文化があります。


それを異世界へ持ち込めば、十分に主人公の武器になる。


そして料理ものの面白いところは、


「強い敵を倒した!」


ではなく、


「美味い!」


でカタルシスを作れることです。


異世界人が主人公の料理を食べて驚く。


文化の違いから最初は受け入れられない。


それでも少しずつ認められていく。


料理を通して人間関係が変わる。


戦闘とはまったく違う形で、


主人公の能力が周囲から評価される


という、なろう系の気持ちよさを作ることができます。


これは後に、


料理。


酒場。


食堂。


屋台。


ネットスーパー。


異世界グルメ。


と、非常に大きなジャンルへ成長していきます。


ただし、現代知識チートには一つ問題がある


ここで少し、以前から私が感じていたことを書いてみます。


現代知識チートというのは面白いのですが、作品によっては一つ大きな疑問が出てきます。


「いや、普通の現代人って、そんなに何でも知ってるか?」


という問題です。


農業。


製鉄。


石鹸。


火薬。


薬。


料理。


醸造。


建築。


上下水道。


場合によっては主人公が、


普通の高校生。


普通の大学生。


普通の会社員。


だったりします。


なのに、


「味噌はこうやって作る」


「醤油はこう作る」


「輪作をすればいい」


「石鹸はこの材料で作れる」


と、妙に詳しい。


もちろん趣味で知っている人もいるでしょう。


ですが、


知識として聞いたことがある


ことと、


何もないところから実際に再現できる


ことは全く別です。


私自身、


味噌が大豆からできていることは知っています。


では、


「今ここに大豆があるから味噌を作れ」


と言われて作れるか。


……無理です。


おそらく途中でスマホを取り出して検索します。


そして、この問題に対して後の作品は非常に面白い解決方法を出してくることになります。


異世界でもネット検索できるようにすればいい。


さらには、


ネット通販で完成品を買えばいい。


『とんでもスキルで異世界放浪メシ』の「ネットスーパー」などは、その代表的な例でしょう。


主人公自身が現代文明の知識を全部暗記している必要がない。


必要なものを、


現代文明そのものから取り寄せればいい。


これは後ほど「現代知識チートの変化」として、改めてじっくり考えてみたいテーマです。


『塔の管理をしてみよう』――冒険から「運営」へ


『塔の管理をしてみよう』も、私の中ではかなり印象に残っている作品です。


塔を攻略する。


ここまでは、ある意味普通のファンタジーです。


ところが、


攻略した後、その塔を自分で管理する。


ここが面白い。


ダンジョンや塔というものは、それまで基本的に、


「攻略する場所」


でした。


しかし、この作品では、


「どう運営するか」


「どう発展させるか」


が物語になっていきます。


つまり、


冒険ゲームから経営シミュレーションへ。


これもまた、異世界ものの大きな変化だと思います。


村。


街。


領地。


店。


国。


ダンジョン。


作品ごとに対象は違いますが、


「何かを運営して大きくしていく」


という楽しみが、なろう系の中でどんどん強くなっていきます。


主人公自身が強くなるのではなく、


主人公の持っているものが発展していく。


これもまた、成長物語の一つの形です。


異世界ものが「シミュレーションゲーム化」していく


ここまで来ると、少し面白い共通点が見えてきます。


前章では、


RPGのような、


レベル。


ステータス。


スキル。


職業。


が異世界へ入ってきたと書きました。


ところが、その次は、


経営シミュレーション。


街づくり。


農業ゲーム。


クラフトゲーム。


料理ゲーム。


のような楽しみまで異世界へ入ってくる。


つまり、


ゲーム世界そのものに行く作品が増えただけではなく、ゲームで楽しまれていた様々な遊び方が、異世界小説の物語構造として取り込まれていった


とも考えられるのではないでしょうか。


敵を倒してレベルアップする。


だけではなく、


畑を広げる。


村人を増やす。


生産設備を整える。


新しい料理を作る。


店を大きくする。


便利な道具を開発する。


読者も主人公と一緒に、


少しずつ環境が豊かになっていくのを楽しむ。


この感覚は、後のスローライフ系にもそのままつながっていきます。


『中堅サラリーマンのまったり異世界産業革命』――もう戦わなくてもいい


タイトルからして象徴的なのが、


『中堅サラリーマンのまったり異世界産業革命』


です。


サラリーマン。


まったり。


産業革命。


もう、


勇者も魔王もタイトルにいません。


主人公が異世界へ行って、


生活を改善する。


物を作る。


食文化を変える。


仕事をする。


周囲の人々と関わる。


つまり、異世界は「命がけで攻略する場所」から、


「第二の生活圏」


へ変わっていきます。


ここで転移・転生という設定が、かなり便利に働きます。


主人公には現代人としての感覚がある。


でも舞台は異世界。


だから読者も主人公と一緒に、


「この世界ではこれが普通なのか」


と驚ける。


そのうえで、


「だったらこうした方が便利じゃない?」


と現代的な発想を持ち込める。


異世界と現代の文化差そのものが、物語のネタになります。


『異世界のんびり農家』――ついに「のんびり」が目的になる


そして象徴的なのが、


『異世界のんびり農家』


です。


タイトルからして、


のんびり農業をします。


です。


魔王討伐ではありません。


世界救済でもありません。


農業です。


もちろん作品が進めば人が増えたり、村が大きくなったり、様々な事件も起きます。


ですが根本にあるのは、


「異世界で快適に暮らしたい」


という欲求です。


ここまで来ると、チート能力の意味もかなり変わってきます。


昔なら、


チート=敵を倒すための力


だった。


それが、


チート=異世界生活を快適にするための道具


になっていく。


農業するため。


料理するため。


家を建てるため。


移動するため。


商売するため。


安全に暮らすため。


チートはもう、


物語の目的ではなく、快適に物語を進めるためのインフラ


になってきます。


私はここが、なろう系の変化を考えるうえでかなり重要だと思っています。


「苦労すること」そのものが必要なくなっていく


ここで少し踏み込んで考えてみます。


昔の異世界転移なら、


食料がない。


お金がない。


言葉が通じない。


泊まる場所がない。


魔物が怖い。


というところから始めることができました。


ところが、


アイテムボックス。


鑑定。


自動翻訳。


ネットスーパー。


強力な護衛。


万能な生産能力。


などが揃ってくると、


そうした苦労は簡単に飛ばせます。


これは悪いことではありません。


むしろ、


読者が見たい部分へすぐ行ける


という大きな利点があります。


農業ものを読みたいのに、


最初の50話ずっと主人公が飢えていたら、


「早く農業してくれ」


となるかもしれません。


料理ものなら、


早く料理してほしい。


スローライフなら、


早くのんびりしてほしい。


だから、


物語の本題ではない苦労を便利能力で省略する


というのは、とても合理的です。


この「ストレスを減らし、本題へ早く入る」という考え方は、後のなろう系でさらに強くなっていくように思います。


そして「世界側を下げすぎる」問題も出てくる


ただし、現代知識チートにはもう一つ問題があります。


主人公を賢く見せるため、


異世界側を必要以上に無知にしてしまう


場合があることです。


例えば料理なら、


現地にない調味料。


知られていない日本料理。


文化の違い。


この程度なら何もおかしくありません。


でも、


「煮るという調理法を誰も思いつかなかった」


「長い歴史があるのに基本的な保存方法すらない」


「職人が何世代もいるのに、主人公だけが簡単な改善方法を思いつく」


となってくると、


私は少し引っかかります。


「主人公がすごい」のではなく、「周囲を必要以上に無能にしているだけでは?」


と感じてしまう。


もちろん、どこまで許容できるかは完全に個人差です。


私自身、ご都合主義はかなり好きです。


主人公最強も好きです。


チートも好きです。


「そんな簡単にいくか?」


と思いながら笑って読める作品も大好きです。


ですが、


世界そのものがどうやって今まで成立していたのか分からなくなる


ところまで行くと、少し違ってくる。


この、


「気持ちのいいご都合主義」と「世界設定への違和感」の境界線


についても、後の章で一度考えてみたいと思っています。


異世界が「冒険の場所」から「好きなことをする場所」へ


こうしてこの時代を振り返ってみると、


異世界ものに起きていた変化がかなり見えてきます。


最初は、


異世界へ行く。


それだけで物語になった。


次に、


異世界で強くなる。


が増えた。


そしてこの頃から、


異世界で好きなことをする。


へと広がっていった。


料理。


ものづくり。


商売。


内政。


農業。


街づくり。


経営。


スローライフ。


言ってしまえば、


異世界という巨大な箱庭の中で、主人公に何をさせてもよくなった。


のだと思います。


そしてこの自由度が、なろう系を爆発的に多様化させていった理由の一つではないでしょうか。


そして次に起こること


しかし、作品が増えれば増えるほど、


当然ながら読者も慣れていきます。


転生?


知ってる。


チート?


知ってる。


冒険者ギルド?


知ってる。


鑑定?


ありますよね。


アイテムボックス?


はいはい便利便利。


そして、


「実は主人公の能力はすごかった!」


という展開にも、だんだん読者は慣れていきます。


そうなると次に必要になるのは、


もっと早く、もっと分かりやすく、主人公を気持ちよく活躍させる方法。


そこで存在感を増してくるのが、


不遇職。


ハズレスキル。


追放。


ざまぁ。


もう遅い。


といった、


「周囲に評価されなかった主人公が、その価値を証明する」


タイプの作品です。


次回は、


「追放・ざまぁ――主人公が評価されるまでの距離が短くなっていく」


という流れを中心に考えてみたいと思います。

今回は、異世界ものが「冒険する話」から「異世界で好きなことをする話」へと広がっていった時期を振り返ってみました。


料理。


農業。


生産。


内政。


店。


街づくり。


スローライフ。


この辺りは、私自身かなり長く読んできたジャンルでもあります。


皆さんにも、


「戦闘よりこっちの方が好きだった」


というジャンルはあるでしょうか。


また、


「この作品こそ生産系の代表だ」


「この頃これをずっと読んでいた」


という作品がありましたら、ぜひ教えてください。


次回は、主人公を取り巻く物語の作り方がさらに変わっていく、


「追放」「ざまぁ」「不遇職」


などの流れを追ってみたいと思います。

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