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第2章 ゲーム世界・転生・チートの爆発――「なろう系」の基本形が揃い始めた頃

前回は、まだ「転生」よりも「異世界転移」や「召喚」が目立っていた2008~2011年頃を振り返りました。


今回は2012~2014年頃。


個人的には、この数年間が現在の「なろう系」を考えるうえで、とても重要な時期だったのではないかと思っています。


転生。


ゲーム世界。


レベル。


ステータス。


スキル。


人外転生。


クラス召喚。


俺TUEEE。


今では当たり前のように使われている様々な要素が、この頃に一気に組み合わされていきます。

この頃の主な作品


【2012年】


『オーバーロード』

 ゲーム世界的異世界/ゲームキャラクター化/人外/最強


『Re:ゼロから始める異世界生活』

 異世界転移/死に戻り/チート無し寄り/シリアス


『盾の勇者の成り上がり』

 勇者召喚/不遇/裏切り/成り上がり


『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』

 異世界転生/人生やり直し/成長


【2013年】


『転生したらスライムだった件』

 異世界転生/人外転生/進化/国造り/最強


『マギクラフト・マイスター』

 異世界召喚/生産/魔法工学/技術チート


『異世界はスマートフォンとともに。』

 異世界転生/神様チート/ハーレム/便利能力


『レジェンド』

 異世界転生系/最強/冒険者/従魔


『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』

 異世界転移/ゲーム的能力/最強/旅


『サモナーさんが行く』

 VRMMO/ステータス/スキル/ゲームプレイ


『ありふれた職業で世界最強』

 クラス召喚/不遇職/最弱から最強/ハーレム


【2014年頃】


『異世界料理道』

 異世界転移/料理/文化交流


『塔の管理をしてみよう』

 異世界移動/塔攻略/拠点経営/ハーレム


『境界迷宮と異界の魔術師』

 転生+ゲーム知識/迷宮/魔法


※例によって、これらが各ジャンルの「元祖」という意味ではありません。

当時の流れを振り返るうえで分かりやすい作品として挙げています。


なんか急に増えたぞ?


この頃を改めて年代順に並べてみて、最初に思ったこと。


「いや、2012~2013年、濃すぎない?」


でした。


『オーバーロード』

『Re:ゼロ』

『盾の勇者』

『無職転生』


が2012年。


翌2013年には、


『転スラ』

『デスマーチ』

『異世界スマホ』

『マギクラフト・マイスター』

『レジェンド』

『サモナーさん』

『ありふれ』


などが始まっています。


後にアニメ化や書籍化され、多くの人に知られることになる作品が、この短い期間にこれだけ並んでいる。


今振り返ると、


現在の「なろう系」を構成する基本パーツが、一気に出揃い始めた時期


だったのではないでしょうか。


「転移」から「転生」へ――ただし、単純な世代交代ではない


前回、


「初期は転移ものが多かった気がする」


と書きました。


そしてこの頃になると、確かに「転生」が一気に存在感を増してきます。


代表的なのが『無職転生』です。


主人公は一度死に、異世界の赤ん坊として生まれ直す。


前世の記憶はそのまま。


今度こそ人生をやり直そうと決意する。


今となっては非常に馴染み深い構造ですが、


「異世界転生=第二の人生」


という転生ものの魅力が、とても分かりやすい形で表れています。


転移の場合、主人公は基本的に「現代人の自分」のままです。


しかし転生なら、


赤ん坊から始められる。


異世界の言語を自然に覚えられる。


その世界の文化の中で育てられる。


幼い頃から魔法を鍛えることもできる。


そして何より、


人生そのものをもう一度やり直せる。


これは異世界転移とは似ているようで、かなり違う魅力だったのだと思います。


ただし、


「転移の時代が終わって転生の時代になった」


と単純に分けることはできません。


同じ2012年には『Re:ゼロ』や『盾の勇者』のような転移・召喚作品があります。


2013年にも『ありふれ』はクラス召喚ですし、『デスマーチ』も転移型です。


つまり、


転移・召喚が消えたのではなく、そこへ転生という強力な選択肢が加わった。


この辺りから「異世界へ行く方法」そのものが一気に多様化していったように思います。


ゲームの文法が、そのまま異世界の文法になっていく


そして、もう一つ大きな変化があります。


ゲーム的な世界観です。


前章では『ログ・ホライズン』を取り上げました。


あちらは、MMORPGをプレイしていた人々がゲームによく似た世界へ移動するという設定でした。


ところがこの頃になると、


別にゲームの中でなくても、異世界そのものにゲームのルールが存在する


という作品が増えてきます。


レベル。


経験値。


職業。


ステータス。


スキル。


称号。


アイテムボックス。


迷宮。


ドロップアイテム。


こうしたものが、


「これはゲームだから存在します」


ではなく、


「この異世界ではそういうものです」


で成立するようになっていきます。


これ、今考えると結構すごいことだと思うのです。


例えば、


「俺のレベルは25だ」


とファンタジー小説の登場人物が言っても、読者がほとんど説明を必要としない。


HP。


MP。


STR。


INT。


そんな略語まで、ゲームを遊んできた読者なら何となく意味が分かる。


作者側からすると、とても便利です。


何十行もかけて、


「この人はどれくらい強いのか」


を説明しなくても、


レベル50。


でだいたい伝わってしまう。


つまりゲーム文化そのものが、作者と読者の間で共有されている共通言語として利用され始めたわけです。


これは後に、「なろう系」の非常に大きな特徴になっていくと思います。


『サモナーさんが行く』――異世界へ行かなくてもいい


ここで少し面白い位置にいるのが『サモナーさんが行く』です。


これは異世界転生ものではありません。


VRMMOをプレイする作品です。


主人公はゲームをゲームとして楽しんでいる。


それでも、


ステータス。


スキル。


職業。


召喚。


レベル上げ。


装備。


攻略。


といった要素は、後の異世界ものと非常に近い。


この辺りを見ていると、


VRMMOものと異世界ものが、互いに影響しながら似た文法を作っていった


ように見えます。


「ゲームの中だからステータスがある」


から、


「異世界だけどステータスがある」


へ。


この境界がだんだん曖昧になっていく。


その結果、後には、


「ゲーム世界そのものに転生する」


「ゲームにそっくりな異世界へ行く」


「自分が育てたゲームキャラクターになる」


といった作品まで増えていくことになります。


『オーバーロード』――ゲームキャラクターのまま異世界へ


『オーバーロード』も、この流れを考えるうえで非常に分かりやすい作品です。


VRMMOのサービス終了を迎えた主人公が、ログアウトできなくなり、ゲームキャラクターの姿と能力を持ったまま未知の世界へ。


しかも主人公は人間ではなく、アンデッド。


さらに最初から非常に強い。


これは、


ゲーム世界

異世界転移

ゲームキャラクター化

人外主人公

最初から最強


という、後に何度も使われる要素の組み合わせです。


ただ『オーバーロード』の場合、


主人公が最強だから話が簡単に終わるわけではありません。


「同じようなプレイヤーが他にもいるのではないか?」


という主人公側の警戒がありますし、


ナザリックの部下たちとの認識のズレ、


主人公本人の思惑以上に話が大きくなっていく展開など、


最強主人公をどう物語として成立させるか


という問題に別の方向から答えている。


この、


「主人公が強すぎたら、どうやって話を面白くするのか?」


という問題についても、後ほど改めて取り上げたいテーマです。


『Re:ゼロ』――「チートを貰ったから楽勝」とは限らない


一方で、同じ異世界ものでも正反対の方向を向いた作品もあります。


『Re:ゼロから始める異世界生活』です。


主人公は異世界へ飛ばされますが、


剣術最強でもない。


魔法最強でもない。


莫大な魔力を持っているわけでもない。


便利なアイテムボックスもない。


与えられた大きな特殊能力は「死に戻り」。


確かに強力です。


しかし、


使うためには一度死ななければならない。


こんなに嫌なチートもなかなかありません。


これが面白いのは、


この頃にはすでに、


「異世界に行ったらチート能力を貰う」


という発想が読者側にも認識され始めていたからこそ、


「チートらしいチートを与えない」


という方向も作品の個性になっていることです。


後々、


「異世界転生したのにチートがない!」


と主人公自身が文句を言う作品まで出てくるようになりますが、その萌芽はかなり早い段階からあったのかもしれません。


『盾の勇者』と『ありふれ』――最初から気持ちよく無双させない


そして、


『盾の勇者の成り上がり』


『ありふれた職業で世界最強』


のような作品も登場します。


どちらも最初から、


「はい、最強能力をあげます。無双してください」


ではありません。


『盾の勇者』では、勇者として召喚されたにもかかわらず裏切られ、信用も金も失います。


『ありふれ』では、クラスメイトが強力な職業を得る中、主人公は戦闘向きではない「錬成師」。


さらに奈落へ落とされ、そこから這い上がっていく。


つまり、


不遇

苦難

成長

逆転


というカタルシスです。


この流れは、後に大流行する


追放

ざまぁ

不遇職

ハズレスキル


にもつながっていくように思います。


ただ、この頃はまだ、


「追放された瞬間、実は主人公が世界最強でした」


というところまで短縮されていない。


主人公が実際に苦しみ、


そこから強くなって、


ようやく周囲を見返す。


後年の作品と比べると、


カタルシスまでの距離がまだ長い


というのも面白いところです。


そして『転スラ』――人間である必要すらなくなった


2013年。


『転生したらスライムだった件』が始まります。


タイトル通り、


主人公はスライムに転生します。


異世界転生。


だけど人間ではない。


当時これを読んで、


「そう来たか」


と思った方も多かったのではないでしょうか。


主人公が異世界で、


人間の勇者になる。


貴族になる。


魔法使いになる。


だけではなく、


魔物になってもいい。


ここから人外転生という方向も一気に広がっていきます。


蜘蛛。


ドラゴン。


剣。


魔物。


果ては人間ですらない様々なものへ。


「何に転生するのか?」


そのものが作品の売りになる。


そして『転スラ』の場合はさらに、


能力獲得。


進化。


仲間。


街づくり。


国造り。


と、後の人気要素まで大量に入っています。


転生そのものが目的ではなく、


転生後にどう成長し、何を作り上げていくのか


へ物語の重心が移っていきます。


チートもどんどん分かりやすくなる


この頃から、「チート」という言葉も作品を説明するうえで非常に分かりやすいものになっていきます。


『異世界はスマートフォンとともに。』では、


神様の手違いで死亡。


異世界へ転生。


能力を底上げしてもらう。


スマートフォンまで異世界で使用可能。


今なら、


「ああ、神様転生+チートね」


で説明できてしまいます。


でも、この「説明できてしまう」ということ自体が重要なのではないでしょうか。


同じような設定の作品が増えたことで、


読者の中に、


「このパターンなら、こういう話だろう」


という共通認識が生まれ始めた。


つまり、


テンプレートが形成され始めた。


私はここが、現在のなろう系につながる大きな転換点だったように思います。


戦う以外のチートも出てくる


一方で、『マギクラフト・マイスター』のような作品もあります。


主人公が得意なのは、単純な戦闘だけではありません。


工作。


工芸。


魔法工学。


ゴーレム。


ものづくり。


つまり、


「チート=戦闘力」


である必要もなくなってきます。


現代知識。


生産能力。


専門技術。


こうしたものでも主人公は活躍できる。


そして2014年頃になると、


『異世界料理道』の料理、


『塔の管理をしてみよう』の拠点経営、


など、


「異世界へ行って何をするか」


がさらに細分化していきます。


この流れは次の時代に一気に花開きます。


今振り返ると、この二年間くらいでほとんど揃っている


2012~2013年の作品を並べてみると、


改めて驚きます。


転移。


召喚。


転生。


人外転生。


ゲームキャラクター化。


VRMMO。


クラス召喚。


ステータス。


レベル。


スキル。


俺TUEEE。


不遇からの成り上がり。


現代知識。


生産チート。


ハーレム。


国造り。


……。


だいたいある。


後のなろう系で繰り返し使われる要素の多くが、この時点ですでに存在しています。


だから私は、


「この頃から異世界転生が流行った」


だけではなく、


「この頃に、なろう系を構成する基本的な文法が一気に共有され始めた」


と考えた方が面白いのではないかと思っています。


作者も、


読者も、


「レベルとは何か」


「スキルとは何か」


「異世界転生とは何か」


を毎回一から説明しなくても分かるようになる。


すると次に必要になるのは、


その共通の文法を使って、何をするのか。


です。


戦うのか。


料理するのか。


農業するのか。


物を作るのか。


商売するのか。


国を作るのか。


のんびり暮らすのか。


異世界へ行く方法から、


異世界での生き方へ。


次回は、


「異世界で何をする?――料理・生産・内政・農業・スローライフへの細分化」


この辺りを中心に振り返っていきたいと思います。



2012~2014年頃を並べてみると、後に大ヒットする作品があまりにも多くて、書いているこちらも驚きました。


「あれもこの頃だったのか!」


という作品が本当に多い時代です。


この頃に読んでいた作品や、


「これを入れずにこの時代は語れない!」


という作品がありましたら、ぜひ感想欄で教えてください。


また、


「最初に読んだ異世界転生ものはこれだった」


という思い出も聞いてみたいところです。


次回は、異世界転生そのものが珍しくなくなり、


「じゃあ異世界で何をする?」


へと作品が枝分かれしていく時代を振り返ります。

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