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第7章 テンプレが煮詰まった――「はいはい異世界転生ね」の時代

ここまで、


異世界転移。


異世界転生。


チート。


ステータス。


料理。


農業。


追放。


ざまぁ。


現代ダンジョン。


配信。


ハーレム。


現代知識。


と、


長い時間をかけて増えてきた「なろう系」の様々な要素を振り返ってきました。


そして、


これだけ同じジャンルの作品を何本も読んでいると、


当然こうなります。


異世界転生?


はいはい。


神様に会う?


はいはい。


チート能力をもらう?


はいはい。


冒険者ギルド?


ありますよね。


鑑定?


持ってるんでしょ?


アイテムボックス?


便利ですよね。


……。


読者が、


物語の先を予想できるようになる。


今回は、


そんな、


作者も読者も「テンプレ」を知っていることが前提になった時代


について考えてみたいと思います。

そもそも「テンプレ」って何だろう


テンプレ。


テンプレート。


本来は、


決まった形式。


ひな型。


という意味です。


では、


「なろうテンプレ」と言った場合、


何を思い浮かべるでしょうか。


主人公が死ぬ。



神様に会う。



異世界へ転生。



チート能力をもらう。



森か草原に出る。



魔物を倒す。



街へ行く。



冒険者ギルドへ登録。



絡んでくる冒険者。



主人公が圧勝。



受付嬢。


「あなた、本当に新人なんですか?」


みたいな。


実際には、


そんな作品ばかりではありません。


でも、


これだけ書けば、


なろう系を何本も読んできた人なら、


なんとなく続きが想像できる。


これが、


テンプレが成立している状態なのだと思います。


2015年頃には、もう「テンプレ」がネタになっている


面白いことに、


かなり早い段階から、


作者側も読者側も、


「これはテンプレである」


という認識を持ち始めています。


例えば2015年開始の、


『異世界は幸せ(テンプレ)に満ち溢れている』


という作品があります。


もうタイトルに、


「テンプレ」


と書いてあります。


主人公が神様と出会い、


異世界へ行き、


そこで「テンプレ」的な出来事に次々遭遇していく。


つまりこの時点ですでに、


「異世界転生ではこういう展開があるよね」


という共通認識そのものを、


作品のネタとして使えるようになっていたわけです。


ここまで来ると、


ジャンルとしてはかなり成熟していると思います。


テンプレは、別に悪いものではない


「テンプレ」という言葉には、


時々、


悪い意味が付いて回ります。


またこれか。


似た話ばかり。


オリジナリティがない。


確かに、


そう感じることもあります。


でも、


私はテンプレそのものが悪いとは思いません。


むしろ、


テンプレがあることで、


説明をものすごく省略できます。


例えば、


「冒険者ギルド」


と書く。


それだけで、


依頼がある。


ランクがある。


魔物討伐がある。


素材を買い取ってくれる。


冒険者登録がある。


と、


読者が勝手に想像してくれる。


作者は、


全部を一から説明しなくてもいい。


これは、


以前書いた、


「共有文法」


そのものです。


テンプレは作者と読者のショートカット


例えば、


主人公が街へ着きます。


完全に独自の世界なら、


この街では仕事をどう探すのか。


身分証はどうするのか。


冒険者とは何なのか。


魔物を倒した場合、その素材はどこへ売るのか。


全部説明する必要があります。


でも、


「冒険者ギルドへ行った」


で、


大量の説明を飛ばせる。


つまりテンプレとは、


作者と読者の間にある、


巨大なショートカットキー


みたいなものなのかもしれません。


だから、


作者は、


本当に書きたい部分へ早く進める。


料理を書きたいなら料理。


農業を書きたいなら農業。


ダンジョン攻略を書きたいなら攻略。


ハーレムを書きたいならヒロイン。


便利です。


でも、読者は当然「次」を予想する


問題は、


読者もテンプレを知っていることです。


主人公が冒険者ギルドへ入った。


読者。


「ああ、絡まれるな」


ガラの悪い冒険者が近づいてきた。


読者。


「はいはい、噛ませ犬」


主人公が弱そうなスキルをもらった。


読者。


「どうせ実は最強なんでしょ?」


勇者パーティーから追放された。


読者。


「はいはい、主人公が抜けて崩壊ね」


悪役令嬢として断罪されそう。


読者。


「どうせ婚約破棄した王子の方が駄目なんでしょ?」


……。


こうなる。


読者側に、


大量の過去作品から得た経験値が蓄積されています。


読者もレベルアップしている


考えてみれば、


これも面白いことです。


作品の主人公だけではなく、


読者までレベルアップしている。


初めて異世界転生ものを読んだ人なら、


神様から能力をもらうだけでも、


「そんな設定があるのか」


と思う。


10作品読んだ人なら、


「なるほど、神様転生ね」


となる。


100作品読んだ人なら、


主人公が死んだ時点で、


「はいはい、次は白い空間で神様かな」


くらいまで予想する。


つまり、


同じ展開を見ても、


読書経験によって受け取り方が違ってくる。


これは長く続いたジャンルなら、


当然起こることだと思います。


では、作者はどうする?


読者に先を読まれる。


これは、


作者からすると結構困ります。


ギルドで怖そうな男が出てきた。


読者。


「噛ませ犬だな」


そのまま主人公が倒す。


読者。


「知ってた」


これでは驚きがありません。


では、


どうするか。


外せばいい。


テンプレ反転型


例えば、


ギルドで、


いかにも絡んできそうな、


傷だらけの大男が主人公へ近づいてくる。


読者。


「はいはい、噛ませ犬」


大男。


「兄ちゃん、新人か? この街の北側は最近危ないから気をつけろよ」


普通に親切。


読者。


「そっちか!」


これだけで、


一つの笑いになります。


何が面白いのか。


大男が親切なことそのものではありません。


読者が、


「こいつは噛ませ犬だ」


と思っていることを、


作者が利用している。


つまり、


テンプレそのものが、


ミスリード装置


になっています。


「弱そうなスキル」は本当に弱い


同じように、


主人公が、


「雑草を少し元気にするスキル」


をもらった。


読者。


「どうせ後で世界樹を生やしたりするんだろ?」


作者。


本当に雑草を少し元気にするだけです。


読者。


「え?」


これも、


テンプレがあるから成立します。


もし、


「ハズレスキルが実は最強」


という作品が大量に存在していなければ、


本当にハズレスキルだったところで、


驚きません。


つまり、


テンプレ破りは、テンプレが成熟した後にしか成立しない。


のです。


さらに厄介なことが起こる


ところが、


テンプレ反転作品まで増えてくると、


読者はそこにも慣れます。


怖そうな冒険者が近づいてきた。


昔の読者。


「絡んでくるぞ」



慣れた読者。


「いや、最近はこういう奴ほど実はいい人なんだよな」


作者。


本当にいい人でした。


読者。


「知ってた」


……。


また読まれる。


テンプレ反転までテンプレになる


これ、


面白いですよね。


最初は、


テンプレ


だった。


次に、


テンプレを外す


作品が出る。


その外し方まで増えると、


今度は、


「どうせテンプレを外すんでしょ?」


と読者が予想する。


すると、


作者はさらに考えなければなりません。


テンプレ読み合い型


例えば、


ギルドで大男が主人公へ近づいてきた。


読者。


「昔なら噛ませ犬だけど、最近の流れだと親切なベテランだろ」


大男。


「新人か? この街では気をつけろよ」


読者。


「ほらね」


と思った次の瞬間、


大男が本当に主人公を襲う。


読者。


「結局噛ませ犬かよ!」


でも、


実は、


主人公の実力を試していただけ。


さらに、


主人公より普通に強い。


……。


ここまで来ると、


作者と読者の間で、


「お前、こうなると思っただろ?」


という読み合いが始まります。


私はこれを、


勝手に、


「テンプレ読み合い型」


と呼んでみたいと思います。


テンプレ踏襲型


読者が期待する展開を、


そのまま気持ちよく見せる。



テンプレ反転型


読者の予想を利用して、


逆をやる。



テンプレ読み合い型


読者が「逆をやるだろう」と予測することまで利用する。


こうして、


どんどんややこしくなる。


でも、


長年同じジャンルを読んでいる身としては、


この読み合いが結構楽しい。


マヨネーズにも歴史ができた


現代知識チートの代表例として、


よくネタにされるのが、


マヨネーズ


です。


異世界へ行く。


マヨネーズがない。


作る。


異世界人。


「なんだこれは! 美味い!」


大ヒット。


……。


一時期、


本当に何度見たか分からないくらい、


定番の流れになりました。


そして、


定番になれば、


当然、


そこをネタにする作品が出てきます。


主人公。


「よし、マヨネーズを作って一儲け……」


異世界人。


「マヨネーズなら普通に売ってるけど?」


主人公。


「え?」


先輩転生者がもうやってました


ここで出てくる、


非常に便利な存在。


先輩転生者。


主人公より前に、


別の日本人が異世界へ来ていた。


そして、


すでに、


マヨネーズを作った。


醤油を作った。


味噌を作った。


オセロを広めた。


トランプを広めた。


リバーシを広めた。


現代風の料理を作った。


主人公。


「全部やられてる……」


これだけで、


現代知識チートそのものをネタにできます。


これも、読者が知っているから笑える


考えてみれば、


不思議な話です。


マヨネーズを作ろうとして、


「もうあります」


と言われただけ。


なろう系を全く知らない人が読んでも、


そこまで面白くないかもしれません。


でも、


異世界でマヨネーズ無双を何度も見てきた読者なら、


「とうとう先に作られたか」


と笑える。


つまり、


作品単体ではなく、


過去に読んできた大量の作品まで含めて成立する笑い


なんですよね。


これは、


ジャンル文化としてかなり成熟した状態なのではないでしょうか。


主人公自身が「なろう系」を知っている


さらに進むと、


主人公自身が、


異世界転生ものを知っている作品も増えます。


異世界へ飛ばされた。


主人公。


「これは……異世界転移ってやつか?」


ステータス。


「ステータスオープン!」


神様。


「能力を一つ――」


主人公。


「チートですね、分かります」


冒険者ギルド。


「やっぱりあった!」


こうなる。


昔の主人公は、


異世界へ行って、


一つずつ世界の仕組みを学んでいました。


でも、


ジャンルを知っている主人公なら、


異世界へ着いた瞬間からテンプレを利用できる。


これは、


読者の知識を、


そのまま主人公へ持たせた形とも言えます。


「ステータスオープン!」と叫んで何も起きない


そして当然、


これもネタになります。


異世界へ転移。


主人公。


「ステータスオープン!」


……。


何も起きない。


主人公。


「え?」


もう一度。


「ステータス!」


何も起きない。


「メニュー!」


何も起きない。


「鑑定!」


何も起きない。


この時点で、


読者は何がおかしいのか分かります。


異世界へ行ったからといって、ステータス画面があるとは限らない。


当たり前です。


でも、


あまりにもゲーム的異世界に慣れすぎた結果、


「異世界ならステータスがある」


と主人公も読者も思い込んでいる。


その思い込み自体が、


ギャグになる。


異世界転生に備え始める主人公


さらに極端になると、


主人公が、


「いつ異世界転生してもいいように、現代日本で準備している」


というネタまで成立します。


サバイバル知識を勉強する。


農業を覚える。


料理を覚える。


剣術を習う。


筋トレする。


歴史を勉強する。


薬草を勉強する。


異世界で使えそうな知識を暗記する。


……。


冷静に考えると、


かなりおかしい。


でも、


私たちは笑えます。


なぜなら、


「異世界転生した普通のサラリーマンが、なぜか何でも知っている」


という作品を、


すでに知っているからです。


それを逆算して、


「だったら転生する前から勉強しておけばいいじゃない」


という発想が成立する。


2025年には実際に、


『異世界転生に備えて43年──婚期も貯金も社会的信用も犠牲にしましたが、まだ魔法陣は現れません』


なんて作品まで登場しています。


タイトルだけで、


もう何を笑う作品なのか分かります。


ジャンルそのものがネタ帳になる


ここまで来ると、


異世界転生という設定そのものより、


異世界転生作品の歴史


がネタになります。


神様転生。


トラック。


ステータス。


鑑定。


アイテムボックス。


冒険者ギルド。


絡んでくる冒険者。


奴隷。


マヨネーズ。


オセロ。


追放。


ハズレスキル。


ざまぁ。


もう遅い。


悪役令嬢。


婚約破棄。


読者が知っている要素なら、


何でもネタにできる。


つまり、


テンプレが増えれば増えるほど、


テンプレを使った作品の可能性も増えていく。


という、


ちょっと不思議な状態になります。


「テンプレだからつまらない」とは限らない


ここで一度、


テンプレについて考えてみます。


テンプレを使う。


それ自体は、


作品の面白さとは別問題だと思います。


例えば、


刑事ドラマなら事件が起きる。


推理ものなら謎がある。


スポーツものなら試合がある。


恋愛ものなら出会いがある。


それぞれ、


ジャンルにはお約束があります。


なろう系でも同じ。


転生。


チート。


ギルド。


追放。


それ自体が悪いわけではない。


重要なのは、


そのテンプレを使って何を見せるか。


です。


王道通りに気持ちよく進めてもいい。


全部反転させてもいい。


読者の予想を利用してもいい。


むしろテンプレがあるから、外した時に面白い


落語でも、


漫才でも、


時代劇でも、


お約束を知っているから笑える、


ということがあります。


「ここでこれが来る」


と思っている。


本当に来る。


安心する。


あるいは、


来ると思っていたのに来ない。


驚く。


これと似ている気がします。


テンプレは、


作品を単純にするだけではなく、


作者と読者の間にある共通知識


でもある。


だからこそ、


その共通知識を利用した遊びが成立する。


初期と現在では、「異世界」の意味が全然違う


横道①で、


なろう以前の異世界ものについて書きました。


昔の異世界ものでは、


主人公も読者も、


その世界を知りません。


異世界は、


未知の世界


でした。


しかし今。


主人公。


「異世界へ来た!」


読者。


「ギルドあるかな」


「ステータスあるかな」


「チート何かな」


「奴隷制度あるかな」


「料理無双するかな」


「王女助けるかな」


主人公より、


読者の方が異世界に詳しい。


これ、


ものすごく面白い変化だと思います。


「未知の異世界」が「知っている異世界」になった


本来、


異世界とは、


知らない世界のはずです。


でも、


長い年月をかけて、


中世ヨーロッパ風。


冒険者ギルド。


魔物。


魔石。


ダンジョン。


レベル。


スキル。


ステータス。


という、


なんとなく共有された「異世界像」が作られていった。


だから、


読者は初めて訪れる世界なのに、


「知ってる知ってる」


となる。


タイトルにある、


「はいはい異世界転生ね」


という感覚は、


まさにここから来ているように思います。


そして、それはジャンルが成熟した証拠でもある


最初は、


異世界へ行くだけで新鮮だった。


次に、


何に転生するかが新しかった。


スライム。


蜘蛛。


ドラゴン。


剣。


次に、


どんなチートを持つか。


次に、


異世界で何をするか。


料理。


農業。


商売。


スローライフ。


次に、


どんなテンプレを組み合わせるか。


そして最後には、


テンプレであることそのものをネタにする。


こうして考えると、


これは衰退というより、


ジャンルの成熟


と見ることもできるのではないでしょうか。


作者と読者が同じ地図を持っている


昔の作者は、


読者へ地図を渡す必要がありました。


この世界にはこういう国があります。


こういう魔法があります。


こういう制度があります。


でも、


テンプレが成熟すると、


作者と読者が、


最初からある程度同じ地図を持っています。


作者。


「冒険者ギルド」


読者。


「はい」


作者。


「追放」


読者。


「はい」


作者。


「ハズレスキル」


読者。


「はいはい」


そして作者が、


その地図の途中で、


突然道を曲げる。


読者。


「そっち行くの!?」


このやり取りそのものが、


現在のWeb小説の面白さの一つなのかもしれません。


「はいはい異世界転生ね」と言えるようになるまで


この連載を書き始めた時、


副題として、


~「はいはい異世界転生ね」と言えるようになるまで~


と付けました。


最初は、


単純に、


長年読み続けて、


異世界転生が当たり前になった、


くらいの意味でした。


でも、


ここまで振り返ってきて、


少し意味が変わってきました。


「はいはい異世界転生ね」


と言えるということは、


単に飽きたということではない。


その言葉を聞いた瞬間に、


大量の設定。


展開。


お約束。


過去作品。


を頭の中で予想できるということです。


つまり、


読者の中に「なろう系」という巨大な共有文法が完成した。


ということなのかもしれません。


そして2020年代――新しいテンプレを作るより、混ぜる?


では、


共有文法がここまで増えた後、


Web小説はどうなるのでしょうか。


最近の作品を見ていると、


個人的に一つ感じることがあります。


現代ダンジョン。


VTuber。


グルメ。


推し活。


最強。


これを全部混ぜる。


追放令嬢。


クラフト。


キャンピングカー。


スローライフ。


グルメ。


これも混ぜる。


転生。


芸能。


掲示板。


男女比。


配信。


これも混ぜる。


つまり、


新しいテンプレを一つ発明するというより、すでに存在するテンプレ同士を組み合わせる作品が増えている。


そんな風に見えるのです。


次回は、


いよいよ現在へ。


「2020年代――テンプレは『発明』から『合体』へ」


という方向から、


今のWeb小説について考えてみたいと思います。

今回は、


この連載のタイトルにも入っている、


「はいはい異世界転生ね」


というところまで、


ようやくたどり着きました。


異世界転生。


チート。


ステータス。


冒険者ギルド。


追放。


ざまぁ。


マヨネーズ。


こうしたものを何度も読んできた結果、


読者自身がテンプレを覚える。


作者も、


読者がテンプレを知っていることを知っている。


そして、


その知識を利用して、


外したり、


裏切ったり、


逆に王道をやったりする。


こうして考えると、


「テンプレ」というのも、


なかなか面白いものだと思います。


皆さんにも、


「はいはい、この展開ね」


と思った瞬間や、


逆に、


「絶対こうなると思ったのに、そっちへ行くの!?」


と驚いた作品はあるでしょうか。


また、


異世界で、


「マヨネーズ作ろう!」


と思ったら、


すでに売っていた、


みたいなテンプレ潰しで印象に残っている作品があれば、


ぜひ教えてください。


次回はいよいよ、


かなり現在に近づきます。


**新しいテンプレが生まれ続けた2010年代から、


出来上がったテンプレを自由に組み合わせる2020年代へ。**


そんな変化について考えてみたいと思います。

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