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商店街を歩き、駐屯場に向かっているとちょうど店の前に杏が居る。
千歳が彼女に気づき手を振っていると、千歳に気づいた杏が同じように手を振ってくれている。
「今日は早いんですねー」
「そうなのじゃ」
「君も早いね。この辺のお客はもっと遅い時間が多いんじゃないのかい?」
「ええ、そうなんですけどうちの料理、人に人気があって仕事に行く前に買って行ってくれる人が多いんですよ。
それなので早い時間に空けてるんです」
そう笑いながら話す杏に紅闇が納得し頷いている。
「ああ、人が食べて問題がないものを出す店は限られてるだろうしね。」
「そうなんですよね。なのでよくご利用頂いてますよ。」
「ほかにも甘味処以外で人が行きやすい店があったりするのかい?」
「ん-この辺だとあまりないんですけど、あ、がっつり系で良かったらうちのおじいちゃんのお店に行ってみてください。
西の集落の時計台の傍に緑の暖簾がかかったお店で、揚げ物屋さんなんですけど、お肉は空津国から取り寄せてる人が食べても大丈夫な中津国生まれの豚をかけ合わせたものだから安心だと思いますよ」
杏のおじいさんということはこの子は人ではなく、混じり者…ということなのか、と見た目だけでは本当にわからないものだと思う
「そうなのかい。そのうち寄らせて貰うよ。
なかなか人が食べられるようなものを口にできることはないからね」
「あ、そっか。お兄さんたち狐さんの良いとこの方なんですよね。
西の集落はちょっと柄が悪いと言うか、下町とか下級層の雰囲気になるので無理はしないでくださいね」
「気遣いありがとう。色々食べられる機会だからね
そんな細かい事は気にしてられないよ」
「狐さんは律儀だし、大らかなんですね」
「いや、それぞれで異なると思うよ。ただ私が食道楽なだけだから」
紅闇はそう返し、杏に情報ありがとうと礼を言っている。
杏をじっと見ていた千歳は杏が千歳を見ると
「また食べに来るのじゃ。もんぶらんもいちごのぱふぇもちょこのぱふぇもおいしかったのじゃ」
と伝え、なぜか杏ではなく天音が頬を緩ませている。
杏も「ありがとうございます。待ってますね」と千歳に合わせしゃがんで答えている。
嬉しそうにしっぽを揺らし、紅闇に促され手を繋ぎ杏に手を振り歩き出した。
翔太と天音も杏に軽く会釈をして彼らに続く。
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「ああ、緊張します。」
駐屯所で氷河の付き添いの元、昨日の続きから似た道具に力を通す練習をしていた翔太と千歳や紅闇と一緒に紫暈のレクチャーの元、力を遮断する部屋の中で弱い力で道具で使う作品作りをしていた天音は午前の部が終わり集合したが昼食が終わった後、天音は1人絶賛落ち着かずにいる。
千歳が力を入れて書いたキャラ弁を見事に再現した狐の厨房の作品に紫暈も氷河も唖然として紅闇が笑い転げていた横で、いつもなら千歳と一緒になって浮かれているはずの天音が緊張で弁当が目に映っておらず最初拗ねた千歳だったが、紅闇が天音の目の前で手を振っても全く反応しない様子に驚き、先生と慕うようになった紫暈に力の使い過ぎなのではと天音のいつもの食い意地が張っていると言ってもおかしくない行動を暴露している。
その内容に翔太と紅闇だけでなく紫暈も笑いを耐え、氷河は天音を心配そうに眺めている。
見ていられなくなったのか氷河が天音の肩を叩き、食事を終わらせてしまうように言い、天音は焦って椀をひっくり返しそうになったりと大騒ぎをしながら昼食を終わらせれば現在の天音のできあがりである。
「天音ちゃん、落ち着こう。もうどうしようもない」
「そうだな。どうしようもないので諦めなさい。今回来るのは空の位の者なので向こうが名乗ったら頭を下げ、名を名乗ればいい」
「はいぃぃぃぃぃ」と小さな声を上げ、天音は応接間のソファーに腰を掛ける。
「天音、しっかりするのじゃ!蛇の者相手にそんなに緊張しなくてよいのじゃ!妾や兄様の方が高位なのだから大丈夫なのじゃ!」
そう励ます千歳に天音は涙目になりながら、「そうですよね、千歳ちゃんのが尊いですよね。本当にかわいいです」とこんな状況でもブレないところは天音らしい。
「千歳殿、そろそろ行きますぞ」
紫暈の声掛けに若干名残惜しそうにしながらも「がんばるのじゃぞ」と天音に最後に声を掛けて大人しく紫暈と手を繋ぎ移動していく。
「ああああああ」
「緊張するなという方が難しいと思うけど、今後の事を考えると彼とはちゃんと顔を会わせておいた方がいい。
蛇の上層部の中では混じり者に対してかなり温厚派だしね。
天音も将来、神子について根津国に行くつもりなのだろう?
であれば一人でも味方を増やしておいた方がいい。
彼はまだ若いが、上の者や一族でも信頼されている。君たちが向こうに行く頃には1つくらい位が上がっている可能性もある。
緊張する立場なのはわかっているだろうし、上位の2人ではなく彼を寄越す時点で君に気を使っているから、いきなり噛みついて来ることはないだろうよ」
紅闇のこの説明を何度聞いただろう。今日この昼の時間だけでどれだけ繰り返されたか。
それだけ聞いてもやはり天音には緊張する相手なのだろう。
「あのさ、ここだったら神子君と入れ替われないの?
入れ替われるんだったら、挨拶した後に変わります。でいいんじゃない?」
天音が壊れたロボットのような動作で翔太を見る。
そして望みがあるか確認するかのように紅闇と氷河に視線を送る。




