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駆け上がるように部屋に戻り、扉を閉めると思わず深いため息が出てそのまま膝をついてしまう。
感覚の差は神だけでなく、天音との間にもあるとわかっていても考え方だけでなく…
翔太にとっては命の危機を感じる水準のものさえも娯楽程度ものと感じる天音と一緒に行動することは翔太にとって今後重荷になる可能性をどうしても感じてしまい、少し一人になりたくて上に上がって来たが正解だったと思う。
あのまま下で茶を飲みながら、力を通す練習が再開すれば感覚が異なる会話が当たり前に続き、あまりの差に対する何とも言えない感情が顔に出ていた可能性がある。
どうにもならないことであっても、気持ちをある程度区切りをつけて流さないと引きづられて危ないと…
自分がいま若くない年齢なことに、蛇の主神が天音と年齢を離してくれたことに初めて感謝した。
これで同年代だったら比較してしまい、辛かったし危険だっただろうと…
年齢と性別が異なると言うのは自分の意識に天音と自分は同じ人であっても違うものと認識させるのに役立っていると思う。
情けない話だが、もし同性同年代であれば仕事の同期と同じように考え優劣を激しく感じたとも思う。そしてここまではっきりと差があると劣等感を持ち、天音との関係はあまり良いものになったとは思えない。
「自分の弱さや情けなさをこんなところで認識するとか嬉しくないことが続くな」
翔太は力なく立ち上がると洗面台に向かい顔を思い切り洗う。
言っても仕方がない。しかし不安や不満を抱かないものでもない感情とこれからどう付き合っていくのか…。
短くはなさそうなここでの生活を考えると自分の中で折り合いを作って行くしかないとわかってはいても、難しいと…
「神や妖は、こんな感情ないのかな…」
鏡に映った情けない自分に水を掛け、天井を仰いで気持ちを切り替えていく。
そう。仕事と一緒だ。そのうち慣れる。考えずに飲み込んで行けばそのうち当たり前になる。
社会人になり身に着けた能力を存分に発揮しようと心に決め、顔を拭き気持ちを引き締めて部屋を出る。
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下に戻れば茶と一緒に菓子を食べている天音と紅闇がいる。
千歳は先ほどと変わらず、テーブルに顔が付きそうなくらい近づけて何か書いている。
「翔太、大丈夫かい?気分や体調が悪いようなら時間を空けよう。」
「いえ、大丈夫です、少し昼食後で眠気も出て来ていたので頭をすっきりさせたかっただけです。」
翔太の言葉を少し疑ったのか、翔太を少し観察するように見ていたが翔太がそのままソファーに腰を下ろし、装飾具を手に取ったので止めず「具合が悪くなったらすぐに言うんだよ」とだけいい、翔太の分の茶を淹れてくれる。
天音は「これ新作なんです」とケーキを見せ嬉しそうにしている。
そう、彼女は安定運転だ。彼女に笑い頷き、気にせず行こう。と改めて自分に言い聞かせる。
紅闇に「練習を続けても?」と声を掛ければ頷かれたので、翔太は水晶に手を乗せていく。
先ほどと同じように身体から力が引っ張られるのを感じ、これが動かせないか、どうしたら動くのか考えてみる。
物理的に力を入れても動きそうもないので、深呼吸をしながら引っ張られている力に集中する。
盆が輝き出すと意識がそちらに奪われそうになるので、反射的に目を瞑る。
そしてそのまま引っ張られている力に意識を集中する。
そうすると、力が身体の奥から外に引っ張られている方角がある様に動いているのが分かる。
その奥の方に集中して行くとふと空白状態になる部分があることに気づく。
意識的にそこに集中すると、なんとなく押せばいいという感覚があり、言葉にするのが難しいがその空白部分を押し出すように意識すると、一気に身体から引っ張られていた力が止まる。
訝し気に目を開ければ、盆はまだ輝いているが力を引っ張っていない。よく見ると天音が言っていた外側の半貴石が輝いている。
ああ、この現象を言っていたのかと水晶から手を離す。
「翔太もすごいね。
天音が種明かしをしたとはいえ、力を通したのが初めてで初日でこれから自分で手を離せるとは思わなかったよ
ちょっと待ってね。力を抜くから」
また窪みに透明な球を入れ力を吸い出していく。
そして輝きが無くなった盆に感覚を忘れる前にと同じことを繰り返していく。
「力を移す球が無くなったから今日は終わりだ。感覚は掴めたかい?」
どれだけ繰り返したのだろう、紅闇のその言葉に翔太は意識を紅闇に移す。
ソファーには紅闇しか居らず、千歳と天音は消えている。
周りを見渡している翔太に
「2人ならまた厨房に行ったよ。
千歳が作って欲しい膳を書いて、天音が一緒に補足しに行った」
装飾具を外すように言い、彼は茶をまた淹れてくれる。
喉が渇いているのに気づき、礼を言ってそのまま一気に飲む。
「翔太。天音を人と考えるのは辞めた方がいいだろう。
君が言うよりもたぶん彼女は私たちに近い。
君が外している間や集中している間に話したが、あの子は奥…
そうだな、あまり外部と接したことがない千歳まではいかないが特殊な環境で育った子と感覚値が近い。」
お代わりを注ぎ、その茶碗を少し眺めた後、翔太に渡し紅闇は続ける。
「私から見て、君もここに捕らわれた人とかなり異なる部分はあると感じている。だが、君はまだ私たちより彼らに近いだろう。
天音はこの環境に居ればあっという間にこちらの感覚に染まるだろう。中津国に帰るのであれば途中で意識して止めて行かなくてはならないが、現状ここで止まるのは彼女にとって…
命の危機を産む可能性がある。
私の立場からすると、彼女が中津国で生きづらくなるよりもここで蛇の主神の神子と一緒に生き残って貰う方を優先せざるおえない。
だから君は今後天音を自分と同じ人だと考えるのは辞めなさい」




