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翔太がこちらに来て、いや中津国に居た時から考えても滅多にない自分の自由時間を大いに楽しみながら中庭を歩き回っていく。
どのくらい歩いただろう。
遠くに見えた5重の塔まで来て少し疲れたと、近くの東屋で休んでいると紅闇の式が飛んできた。
「翔太。
いくつか本を見繕ってソファーの傍の棚に置いた。
私はこれから千歳たちが戻るまで他のことをしているから君も少し息抜きをしてから戻っておいで。
狼の者が来るか、昼餉の時間になったらまた連絡するよ」
紅闇の気の使いように感謝し、気分転換も兼ねもう少し焦らずに景色を楽しみながら運動不足を解消しようと決め、息を吐き出し目の前に広がった景色に心を潤わす。
壮大な美しさとは人の疲れを癒すんだと思う。
ただ、朝のあの幻想的な景色を見た時と同じように人が人で居ることの難しさを感じる。
このような景色を日常的に見ていると考え方が変わって行くのかもしれないと思ってしまう。
…自分はいつまで変わらず、人らしく物事を考えられるのか。
昨日からうっすらと感じていたが、今朝天音と話しより強くなったその考えが頭を過る。
考えてもしょうがないと頭を振り、その考えを追い出しゆっくりと戻って茶を淹れて用意して貰った本を見ようと、少し疲れた身体を動かし景色を楽しみながら離れへと戻っていく。
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離れに戻ると1階には誰も居らず、食事をするテーブルの上にある窓から裏に池があるのか天井に水面を想わせる光と影のコントラストが映し出されていてとても美しい。
この離れはどこまでも静かな昔ながらの自然を生かした美を追求しているのだと思う。
そのまま本を読もうかと思ったが、気温も上がった中庭をかなり歩き回り汗ばんで居たので、一度部屋に戻り軽く汗を流す。
さっと着替え、下に降りて行く前に茶箪笥から茶と軽い菓子を貰う。
そのまま下に降り、ソファーに行き紅闇が本を置いたと言った棚を確認する。
そこには子ども向けにも見える天界などを含む地の球の構成や他国の者との付き合い方、力の種類によっての勉強の仕方などが書かれた教科書が置かれていた。
どれから読むか考え、まず他国の者との付き合い方を選んだ。
力に関しては明日以降、駐屯場で習えるとして、天界などを含む地の球の構成なども気になるが、第一に問題が発生する可能性が高い場所から潰すべきだろう。
駐屯場でも氷河たち以外にも誰かと関わる可能性や、どこかに寄った際に幽津国や混ざり者と言われる者たちと関わることもあるだろう。
先にそこを抑えておくだけでも問題や危険を減らせる気もすると手に取りソファーに腰掛ける。
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「翔太は何を読んでいるのかえ?」
その声と共に顔の目の前に千歳が飛び出してきた。
思わず驚いて後ろに身体を引きそうになったが、寸前で止める。
「千歳さん、いきなり目の前に来たらびっくりするよ。これは狐の国以外の国の者のことが書かれた本だよ」
聞かれたことを答えると、千歳がぴきっという音を出しそうな雰囲気で固まった。
そしてしっぽを不機嫌そうに、ぱしぱしと背中に打ち付けている。
不思議に思い横を見れば天音が口を押えて少し笑っているので、深刻な話ではないのだろう。
だが幼児の気持ちも女の子の気持ちにも疎い自分にはなぜ千歳が不機嫌になったのかわからず、助けを求めて天音に声を掛ける。
「天音ちゃん。笑ってないで教えてよ」
その一言で千歳のしっぽはぶわっと膨らんだかと思うと涙目になっている。
何がいけないのか焦っていれば、千歳が涙目で翔太の袖を掴み「なんで妾はさん付けで、天音はちゃん付けなのかえ?」と訴えてくる。
混乱しどうしようかと思っていれば、天音は耐えきれないという感じで声を出して笑い、千歳に睨まれている。
「千歳ちゃん。それじゃ翔太さんにはわからないですよ。
翔太朗君が千歳ちゃんをなんて呼んでいたかも翔太さんは知らないのだから、千歳ちゃんは翔太さんになんて呼んで欲しいか言わないと」
天音の指摘に、そういうことかと納得する。
いくら幼児でも神と聞いてしまえば敬称を付けるのは当たり前で、紅闇がさんでいいと言ったので一緒にしたがそれがダメだったということか。
千歳は天音の言い分に睨んでいるのを辞め、小首を傾げ考えたかと思うとぐりんと音が発生しそうな速度で翔太に向き直り
「千歳がいいのじゃ!千歳と呼ぶのじゃ」
翔太朗にそう呼ばれていたのだろう。しっぽを振りながら勢いよく翔太に詰め寄ってくる。
「わかった。千歳でいい?
ただ、狐の一族の方が居て人が呼びつけにするのを嫌がる者がいる時はさん付けで呼ぶよ?」
念のために紅闇から注意されている一派に遭遇した時のことを考えて言えば口を尖らせている。
そのまま駄々を捏ねるかと思ったが、少しの間口を尖らせていたが何か思い至ったのか「わかったのじゃ」といい、当たり前のように翔太の膝に登ってくる。
驚き天音をもう一度見れば、茶箪笥から菓子と茶を取り出し運んで来ている。
そして「千歳ちゃんはお菓子なにがいいですか?」と思いっきり翔太が椅子になっているのはスルーしている。
世の父親とはこんな風に当たり前に主張することなく、椅子にされるのかと、番というより娘という意識の方が年齢差的に強くなる…
…いや、年齢差的にどのぐらい離れているのだろう…
焦っていた頭が一気に冷静になっていく。
幼児に見えても数百年、下手したら千年とか生きてるんだよな…と思えばこの扱いでいいのかとも思うが、紅闇からも子守りのつもりで扱っていいと許可が出ているのだからそこに思いを馳せるのを辞めようと思う。
「その本、どんなことが書かれてるんですか?」




