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新卒の時に職場への近さのみで選んだ徒歩でも少し頑張れば帰れる距離の切り取られた狭い空どころか後ろのビルの壁しか見えないマンションの一室にある窓から光が差し込んでいる。
アラームがけたたましく鳴り響き、シャワーを浴びて仕事に行かなくてはと思うが疲れ果てていてなかなか身体が言うことを聞かない。
そんな身体を無理やり伸ばしスマホを手探りで探す。
確か寝る前に枕元のテーブルに置いたはずと腕を伸ばせば何やらくすぐったいような毛の感触に一気に頭が覚める。
思わず目を開ければ、隣ですぴすぴと寝息を立てて眠る狐耳の幼女が居て…
大人としてどうかと思ったが幻覚以外な訳がないと置いてきたはずの幼女が隣で寝ている事態に頭の処理が追い付いてこない。
頭の処理の低速化にこれは老化現象なのか?と疑うより、それよりもこんなことが社会的に知られたら、幼女を部屋に連れ込むなど誘拐犯か異常者だと近所の人にも思われ通報される未来しか浮かばず飛び起き、思わず口を押えてしまう。
翔太の動く気配に全く動じない狐耳の幼女からそろりそろりと距離を取り、まずは落ち着こうと冷蔵庫から水を…などと思っていれば、見慣れない、そう都市部で見かけたこともないような不思議な色味の小さな鳥が窓の前のベランダに降り立ってきた。
窓が閉まっているのにも関わらず、鳥の鳴き声が聞こえると狐耳の幼女がぴくっと動き目をこすりながら起き上がり、窓の方へ寄っていく。
「え、ちょっと待って。それ外来種かもしれないし、病気持ってるかもしれないから傍に行ったらだめだ」
自分でもいま気にする所はそこなのか?と思うが、そう口にする翔太の声など聞こえないかのように、幼女は窓を開け鳥に近づいていく。
焦って止めようと翔太が窓の方に向かうが時遅く、幼女は何やら模様の入ったビー玉のようにも見える透明な球を受け取っている。
「おつかいありがとう。母上様からかえ?ああ翔太朗とやっと話せたお祝いじゃな」
半分寝ぼけたようにそんなことを言いながら嬉しそうにそのビー玉を床に投げつける。
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「狐の次代と謳われし月の座に在る、白と金を戴く未だ幼き者よ」
そんな言葉と共に猛禽類としか言えない濃い青紫の鋭い目を持つ、黒髪をオールバックにした東アジアや中東風とも言える、どこの国のものとも時代劇の衣装とも違うが、しかし時代を感じさせる衣装を纏った壮年とも老齢とも判断がつかぬ男性の出現に思わず口が開いてしまう。
もうすべてが意味が分からないと、これはもしかしてラノベのような展開なのか?
全く持って激しく嬉しくない。
これから重大なミーティングがあるのにもう本当に勘弁して欲しいし、こういうのはもっと若い子や俺強えぇぇぇぇぇしたい奴の元へ行ってくれと訳の分からない思考に支配されかけては現実をと言い聞かせる自分のまとまりが完全になくなった思考を頭の隅に追いやりながら、どうにか着いて行こうとしている翔太のことなど見えてないかのように、表れた男性は話を続けていく。
「時は来た。そなたらが犯した罪を償い、贄にされし迷い人を元在る場所に戻せるよう尽力を尽くせ。
此度の事、天の三津国、空津国に根津国で合同で対処することになった。速やかに中津国と空津国の合間の円座に来るように。」
男が言い終わると姿は霧散して消え失せた。
呆然とするしかない翔太に対して、とことこと寄ってきた幼女は何事でもないように
「呼ばれたから行かねばならんのぉ。翔太朗はその格好で大丈夫かえ?円座は上の方だからここより寒い。人の身体ではその格好だと辛いと思うぞ?」
何を言われているのか理解をするより呑み込めないが、とりあえずこれはもう上層部が決めたことが勝手に降りてきて”NO”という選択肢がない状態に酷使していると本能的に危険を感じ、荷造りをしようとする翔太に対してあっけらかんと
「荷物なら全部持っていけるぞ?服はそこじゃな?早よ、着替えを取るのじゃ。他のものはしまっておくの。」
とクローゼットの中身を残し、すべてを腹帯の中から出した懐袋に吸い込んだ。
その光景を見てやはりこれは夢かもと。
二度寝したら、もう一度寝て目が覚めたらなかったことにならないかとも思うがベッドは既に吸い込まれた後であり、数時間前にも夢か幻覚だと思って帰ってきたのに、この幼女が部屋にいる時点で諦めた方が…
そう。
もうこれは本当に従うしかないのだろうと逃げられる気がしない翔太はクローゼットの中から登山用の服を取り、クローゼットの中にある大学時代に使ったアイテムを最低限身にまとっていく。
「準備はできたかえ?」
翔太が準備している間、狭いベランダに降り立った小鳥と遊んでいた狐の幼女に「ああ」と短く返事をする。
「では行くのじゃ!母上様にお会いするのも久しぶりなのじゃ。
早く罪を償って遊びに行くのが楽しみじゃな。今度こそ梅園や海に祭にも行くのじゃ」
浮足立つ幼女の放った”罪”という言葉に先ほどの男も罪と言っていなかったか?と現状認識が追い付いておらず、ここまで意味が分からない状態で考えながら走るとかいつぶりだよ。と困惑を隠せないままの翔太など気にせず幼女は小鳥に何やら話かければ小鳥が飛び立つ。
そのまま小鳥が窓に向かって飛びこんでいくと、昨日見た梟がビルにぶつかったと思った瞬間に起きた現象と酷使した現象が起きた。
窓の前にまるでスクリーンがあるように波紋が広がり、その波紋をよく見れば文字が書かれている。
そして気づけば、窓の先は裏のビルの壁ではなく、先に四阿がある景色が広がっていた。




